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「やっほー来たよー」
「こんばんは。外、寒かったですか?」
「ううん、まだまだ大丈夫だよ」
来てしまった及川夏海。
来たら来たらで対応に困るのが私だ。
「やあ」
「……どうも」
「おいおい、テンションが低いゾー?」
あのときの私みたいに頭を撫でて、微笑を浮かべている彼女。
「それではこれでもう帰りますね」
「え、なんでさ、まだいてよ杏奈」
「いえ、必要ないみたいですから」
「待ってよっ、だから駄目なんだって!」
おぉ、私が出した条件がいい感じの流れを引き出している。
そうだ、そうやって杏奈先輩に夢中になればいい。で、時々誰かを交えつつ相手をしてくれればいいんだ。モヤモヤはきっと友達ですらいられなくなるかもしれないという不安からきていたんだろうと考えている。
「杏奈っ、残っててよ」
「どうしてですか? 私が残る意味は?」
「私が杏奈にいてほしいからだよ」
「ふぅん、それならいいですけど」
きたっ! そしてそれで納得するということは大きな進歩。なんだよ、私のやったことがいい方向に繋がってるんじゃん。
「結望、私は決めたよ。ちゃんと本気で杏奈に集中するって」
「うん、良かった」
「でもそれとこれとは話が別、ふたりきりになれないとかそういうのは駄目」
「まあ杏奈先輩に本気で向き合うなら別にいいよ」
「結望と友達のまま杏奈を振り向かせたいんだ」
「うん」
良かった……けど、それって私のことなんにも考えてくれてないよね。調子に乗って偉そうに言った私をまだ友達としてカウントするのはなんでだろう。私みたいに仲良くしても無意味だって言えばいいのに。
「話は終わりっ、それじゃあ帰ろう!」
「ふふ、そうですね」
「あ、私は牛乳飲んでいくからいいや」
なんか一気に冷めていく感じ。杏奈先輩も夏海も恋菜も、遠くにいるかのような気がする。私だけが遥か後方で、そして3人に認知されることなく望遠鏡で眺めているような、関われてすらいないような状況。
「え、だってひとりじゃ怖いでしょ?」
「ううん、全然大丈夫。それより杏奈先輩を送ってあげなよ」
「それならそうするけどさ」
「気をつけて帰ってくださいね」
「うん、ありがと」
ふたりは出ていき、私は他のお客さんがいないのをいいことにソファへと寝転んだ。10分、30分、60分、段々と閉店時間が近づいたのか、
「あれ、あんたまだいたの? 杏奈先輩と夏海先輩は?」
彼女が現れたので流れを説明。
「ふぅん、そっか、夏海先輩が今度こそ本気になるって言ったのね」
「うん。恋菜はどうするの?」
「どうするのって、見ているだけしかできないでしょ」
「ごめん……」
「別に。それより早く帰りなさい、もう閉じるわよ」
出ていく前にコーヒー牛乳を買おうとしたら代わりに払ってくれた。
「ま、元気出しなさいよ。友達ではいてくれるんでしょ?」
「ありがと。それが逆効果っていうかさ……苦しくなるだけじゃんそんなの」
「やっぱりあんた夏海先輩のこと好きだったのね」
「違うよ……ただどれだけ仲良くしても、踏み込もうと思ったところで一方通行にしかならないんだなって思ってさ」
まるで昔と同じ。あの学校は女の子が多いからチャンスがあると思ったんだけどな。あのふたりなんか特に魅力的だったのに、現実とは非情である。
だってそもそもスタート地点にすら立てず、競う前に望んだ相手は他の誰かと幸せになってしまうのだから。
「あんたとあたしは負け組か。だけどあれよ? 妥協するつもりはないから期待しないでね」
「恋菜は頑張ってみたらいいじゃん。私と違って可能性あるよ」
「はっ、あるわけないでしょ、あのふたりの間にどうやって入れって言うのよ。次に同じようなことを言ったらぶっ飛ばすわよ」
「……これ、ありがとね。もう帰るよ」
「ふんっ、ウジウジしてんじゃないわよ、バカ結望っ」
外に出たらちょっと肌寒かった。
ところで、ウジウジしてたかな? そういうのじゃないんだけどな私。
本当のことを言っただけだ。現実逃避して嘘ついてどうするのって話。
ま、これで頻度も減るだろうしモヤモヤはあんまり感じなくて済むか。
2週間が経過した。
いよいよ本格的な秋の始まりだ。
読書を積極的にするタイプではないので、お小遣いを使って買い食いをする。家に帰ったらお母さんが作ってくれたご飯を食べる。食後は購入してきたデザートを食べるなどをして食欲の秋を体現していた。おかげで太った、残念。
「結望、今日この後って暇?」
「は? 暇じゃないですけど」
リア充と関わっている時間はないんだ。今日も帰りにシュークリームを買うという予定がある。「ぶーぶー最近付き合い悪いじゃんかよー」と不服そうだが、貴様は杏奈先輩とだけ関わっていればいい。
「もういい、付いていくから」
「やめてください、そういうの迷惑なんですよね」
「え……」
「はぁ……もういいからどっか行ってください、さようなら」
よく分からない、ちょっと前までの自分が。
最初からそんな可能性なんて微塵もなかったのになにを期待していた。来てくれるからって気に入ってくれるなんて思っていたのか? 馬鹿すぎるな過去の私は。
「こっちのシュークリームも美味しそうだな」
本格的な物から安いけどボリュームがある物までよりどりみどり。
「……ねえ、そこまで冷たくしなくてもいいじゃん。だってさ、私は結望の望み通りに動いたんだよ?」
だが、この人が来たせいで水が差された。付いてくるなって、迷惑だってはっきり言ったのに! これから至福の時間を過ごすために必要なアイテムを買うところだったのに!
「だって必要ないじゃないですか、私は桃瀬先輩ではないんですから」
それでも気にせず会計を済まして店を出る。しかし彼女は諦めない、その意地の強さを杏奈先輩に見せてやれって話ではあるが。
「……それじゃあさ、もうその髪切ってよ。杏奈の真似をする子は結構いるけどさ、真似されるのうざいんだよね」
「いいですよ別に。私も真似したわけじゃないのに真似をしてるとか判定されるのうざいんで」
強がりでもなんでもなくちょうど切ろうとしていたところだ。帰ったらお母さんにバッサリと切ってもらう。
「あとさ、杏奈の友達登録やめてよ」
「分かりました」
「友達も、やめてよ」
「はいはい。それではさようなら」
これで恋菜はともかく以前のように戻れる。……内側にある寂しい気持ちや夏海にうざいとか言われた悲しさとかも捨てられればいいんだけど。
「もう2度と杏奈に近づかないでよね」
「なら先輩はちゃんと頑張ってくださいね」
「言われなくてもそうするよ」
自業自得なのは分かっているが……。
「はぁ……ここは相談屋じゃないのよ? 300円を払えばお客さんとはみなしてあげるけど」
「はい」
「……あんたのそれは自業自得でしょ、あんたがそうなるように仕向けてきたんじゃない」
ぐうの音も出ない正論。ここに来たのは責めてもらうためだから食いつくようなことはしなかった。
「普通有りえないわよね、いくら杏奈先輩に集中させたいからって仲良くすることは無意味、なんて言うのは」
もっと、もっと言ってくれれば色々な感情をどこかで吐き捨てることができる。いまのままじゃ駄目なんだ、あの人達に甘ようとして致命的なダメージを負いかねないから。
「それで冷たくされたら泣きつくの? しかもあたしに? あたしは便利屋かってのっ」
泣く? なんで? なんのために?
「……あたしだって悔しいんだから……」
「あ、そうだ、髪の毛切ってくれない? もうここら辺から全部いらないからさ」
そんな感傷的な雰囲気はいらない。ただ彼女には怒ってもらって、そして髪の毛を切ってくれればいいんだ。
「は……? あんたなんで急に……」
「真似されるのはうざいんだって。合意していれば他人が切っても問題ないよね? ハサミとかあるでしょ? 適当でいいから」
「……本気? そこまで伸ばすのにどれくらい大変なのかあんたが1番分かっているでしょ?」
「適当に伸ばしていただけだってば。無理ならハサミ貸してくれれば自分で切るからさ」
そうか、気が引けるよね普通は。私もなにを言ってたんだろ。
「……いいのね?」
「別に無理ならいいよ?」
「ちょっと待ってなさい」
彼女はすぐにハサミを持って戻ってきた。
「どこら辺だっけ?」
「肩より短くかな」
「……分かった、後で文句を言うのはやめなさいよ?」
「大丈夫」
ジャキッ、ジャキッという音が響く。それに段々と頭が軽くなっていくようなそんな感じ。
「こ、ここ、こんなんでいいの?」
「いいって。そもそも駄目って言ったところで戻らないし。ふぅ、これで楽になるね、洗うのとか出た後とか」
「失恋ね、あたし達」
「一緒にしないでよ。私はあのふたりのどっちも好きだったわけじゃないよ。ありがとね、これ、1000円しかないけどお礼」
「別にいいわよ」
「いや、受け取って。だって髪を片付ける代金も含まれているからさ。じゃあね」
お母さん驚くかな? それに夏海が見たらどんな反応をするんだろう。
とにかく約束は守ったよ、夏海。




