⑩仕舞の幕開け
(1)
天保十二年閏一月三十日。
第十一代将軍、そして大御所であった、徳川家斉が亡くなった。
享年六十九。
諡号は文恭院。
幕府の公式資料である徳川実記には、そう記録されている。
むろん、そのまま世間にも、公表されているのだが、
実は亡くなった、本当の命日は、閏一月七日である。
この間、相当な政治抗争があったのかも知れないが、命日の秘匿について、確かな事はわかっていない。
ただ、西の丸に勤める者、全てを、誤魔化す事は出来なかった。
後年、旗本婦人の日記から、世間に明らかになる。
それはともかく、
家斉は、あの平清盛・足利義満・豊臣秀吉・家康・秀忠につづく最後の武家・太政大臣である。
しかも、京都には一度も行った事の無い、唯一の太政大臣である。
そんな、家斉だったが、閏一月七日のその死去には、何故か、誰も立ち会って居なかった。
誰一人、気付かぬ内に、息を引き取っていたのである。
これは、別の意味で、唯一の太政大臣である。
当然ながら、幕府の侍医長は、責任を取らされ、処罰された。
将軍在位、五十年。大御所として三年を超え。
最長期間、日本の頂点に君臨し、文化文政など、町人・武家文化も、大きく飛躍した時代を作った。
いや、良くも悪くも、放置した男であったが、最後は至って、寂しいものであった。
墓所は寛永寺と、公式に決定されると、上層部は、関係部署に速報した。
当然、同心桜田浩太郎の耳にも、知らされる。
浩太郎は早速、屋敷に戻り、お華と省蔵親分を呼ぶ。
「兄上? とうとう?」
と言いながら、お華は居間に座った。
続くように、おさよの父、高積改の吉沢甚内と親分もやって来た。
甚内は穏やかな顔で、浩太郎の隣に座る。
親分は、一つ向こうの部屋で、佐助と一緒に並んで座る。
それを眺め、浩太郎が、
「今日俺は、本所、深川の、町役人やらを回らなくてはならない。お華と親分は、お父上のお指図に従い、打ち合わせ通り、商家などを回ってくれ。よろしく頼むぞ」
甚内も和やかに、
「本来の高積みの仕事ではないが、こうした時は、わしもやらねばならぬ。親分、お華、すまんがよろしく頼む」
途端に、慌てて親分が、
「すまんだなんて……」
手を振り、改めて、
「委細、承知しやした」
お華と親分は、頭を下げる。
そして浩太郎が、些か笑みを浮かべ、
「おいお華。わかっているだろうな。ちゃんと商家の旦那衆に、探りも入れとくんだぞ」
お華も、ニコリとして、
「わかってます。容易い事よ」
と、再び、甚内と浩太郎に頭を下げる。
端に座っていた、おさよが、
「お華ちゃん、親分。よろしくお願いしますね」
娘として、頭を下げる。
親分は恐縮し、深く頭を下げる。
お華は、
「姉上、ご心配なく。お父上のお手伝いなら、一切、文句など言いませんから」
浩太郎を横目に頭を下げる。甚内と浩太郎は苦笑いで、
「ったく! ま、いい。親分よろしくな」
省蔵も、頭を上げ、
「お任せ下さい」
と微笑む。
そして、甚内が、
「では、参ろうか」
の声で、一同立ち上がった。
(2)
上野の参道に通じる道のりに、到着した三人と、従者の正吉は、早速、担当の地域の見廻りを始めた。
もっとも、商家の者達は、大抵、承知しており、事は順調に進む。
親分とお華が言い回ると、皆笑顔で迎えてくれる。
甚内の従者、正吉はその様子を見て、
「まるで、爺さんと孫娘が回ってるみたいで、おかしいですね」
と笑って、甚内に言うと、甚内も笑顔で、
「全くじゃ、あれなら直ぐ終わるじゃろう」
しばらくやっていると、上野周辺まで近づいた。
そして、ある中程度の小物屋に入ると、お華は、宴席で知り合いの店主を見つけ、親分とは別に、框に座って話を始めた。
親分は、番頭と思われる男に、決まった説明をしているが、お華は、
「ねえ、ご亭主様? 最近ご無沙汰じゃないですか」
と、笑顔で声を掛ける。
そこは芸者の顔であった。
店主は、その顔を見て眉を上げ、
「あれ? よく見たら太夫じゃないか! なんでこんなことしてるんだい」
店主は、思わぬ突然の出会いに、驚きの様子だ。
「いやね、こうなっちゃうと芸者も止められちゃうでしょ? あたしも開店休業なんですよ。それなら、お上の為に働けとか、仲良くしてる親分に言われちゃってね……」
微笑んで、小声で囁く。
店主は笑って、
「芸者も大変だねぇ。畑違いな事させられて」
「ほら、なんか、お取り締まりも厳しくなるようだから、点数稼いでおけなんて、親分さんが言うもんだから、仕方無くね。それよりもさ、去年から、ご亭主もお見限りじゃない? 何か、あったの?」
これには店主も、困った笑顔で、盆の窪に手を遣り、
「参ったな、太夫には」
「まあ、ご亭主だけじゃないけどね。近頃、お座敷もめっきり減っちゃってね。心配してるのよ。やっぱりこの事が原因かね?」
店主は、苦笑いで頭を掻き、
「太夫。ここだけの話だよ」
小さな声で話す。
「うん、うん」
と、頷くお華に、
「この事は、あまり関係ないんだ。いつもの事でもあるし。実は近頃、勘定方の連中が、引っ切り無しに来てな」
お華は、驚いた顔で、
「え? 勘定方?」
店主も頷き、
「そうそう、支配勘定だとか色々な。組合との繋がりや、扱い高なんか細くさ。寄り合いなんかでも商店連中は、ビクビクしちゃって。何か大きな事があるんじゃないか、とね。とても、遊んでる場合じゃないんだよ」
「へ~そんな事になってんだ。あたしゃ、良くわかんないけど、それじゃ当分、無理みたいだね」
「そうだよ、あの、越後屋や白木屋だって、やっきになって、話を集めてる様だからさ」
これには、更に驚き、
「そんな大きなお店も? ご亭主の所は大丈夫なの?」
店主は笑って、首を振りながら、
「うちは、そんな店じゃないし。そこ迄じゃないけど。ただ今後、どんな事になるかわかんないな」
お華は、廻りを眺め、
「どうもありがとう。お互い、暫く我慢しましょ」
などと言って、店を後にする。
さて、一通り役目を終え、親分と別れた三人は、八丁堀に戻っていった。
そして、お華は八丁堀に残り、二人は奉行所に向かった。
「戻りましたよ。姉上」
と、声を掛け、居間であれこれ話していると、
浩太郎が、佐助と一緒に戻って来た。
「お華。しっかり、やって来ただろうな」
「当たり前よ、お父様だって、付いていたんだから」
「ま、そりゃそうだな」
と、着替えた浩太郎は、居間のいつもの位置に腰を下ろす。
正面に座るお華は、
「それでね、一通り、聞いてみたんだけどさ」
「おう。どうだった?」
お華は、首を傾げ、
「それがさ、みんな何かに、怯えちゃっててね」
「怯える? 何にだ」
「あのね、近頃、勘定方の動きが、凄いんだって」
「勘定! 勘定奉行様って事か」
「そう。なんかね、組合とのつながりや、取引高とか言ってたかな。やたら、聞き回ってるんだってさ」
これには、浩太郎も驚いた。
「組合か……」
「うん。越後屋みたいな、大きなお店も大騒ぎって感じみたい。そんな中、迂闊に、宴会なんか出来ないってよ」
「ほう~。こりゃ、意外な話だ。じゃ、ご葬儀なんか……」
「全く、関係ないみたいよ」
と苦笑い。
「こりゃ……」
浩太郎も首を捻り、苦笑いだ。
すると、そこに丁度、優斎もやって来た。
「すいません。呼んで頂いて」
と、お華の横に座る。
「いやいや、いいんだよ。それより、お華の話。もう聞いてるかい」
優斎は、穏やかな顔で頷き、
「先程、少し聞きましたよ。ただちょっと、疑問ですけどね」
「ほう、どういうことだい?」
すると優斎は、少し笑って、
「お上の批判って、怒りませんか?」
それには、浩太郎も、
「ふふ、ここだけの話って事にしとこ」
と苦笑い。
「いや、十組や大坂の二十四組は、物を抱え込んで値を高くするとか、新しい者を絶対入れないなどと、とかく世間で、批判されてますが、頼りにしてる、武家の家中も多いのです。下手な事すると、大変な事になります」
「ほう、例えば?」
「一番、大きいのは、紀州の御家中でしょうか」
浩太郎も、その名には、さすがに驚き、
「え? 紀州様かい?」
「ええ。紀州様は組合の船、菱垣廻船の保護をしてましてね、船に紀州様の旗をお預けになってます。勿論、自国の物産搬送の為です。我が伊達家も、それに恩恵を被っていたりしますが、慎重にやらないと、各方面から、文句を言って来るでしょう」
浩太郎は和やかに、
「なるほどね。こういうことは全く素人だから……。いや、伊達様勘定方の弟様がいると、わかりやすくて助かるよ」
二人は大笑いだ。
「私は、ちょっと囓った程度ですよ」
と、優斎は、少し照れながら笑う。
ところが、ちんぷんかんぷんのお華は、少し怒った顔で、
「あたしには、全く、わかんないんですけど」
と、文句を言う。
笑った優斎は、一転、少々難しげに、
「一番の問題は、組合なんかより改鋳ですけどね」
「おっと、最も危険な話だ。だが、それは俺にもわかる」
浩太郎は、笑いながら頷く。
優斎は、お華に、
「お華さん。貨幣改鋳の話。知ってます?」
「いえ、全然」
と強く首を振る。
「つまり、お金の質を変えるということです。これはお上が、度々やられてることなんですけど、一両、小判を溶かして、金の配分を変えて、二両にしてしまうって事です」
お華は、目を三角にして、
「それじゃ、いかさま、じゃない」
「それには、私は何とも言えません……」
と、優斎は浩太郎に笑いながら、
「ただ、これをやってしまうと、お上にお金が増えますが、実質、一両の価値が、半分になってしまいます。すると、これまで一両で買えた米が、同じ量でも、今度は、二両払わなくてはいけなくなります。ところが、働いている人の貰ってる給金は、急には上がらないから、大変な事になってしまう」
お華は頷きながら、
「確かに。全く、知りませんでした」
嬉しそうに、優斎に笑顔を向ける。
浩太郎も、深く頷き、
「そうなんだよな。こんなことしてたら、メチャクチャになるって、実は、遠山様も言ってたらしいんだ」
「ですから、今、組合なんか扱ってる場合かな、と思うんですよ」
「その通りだ」
すると、一口、お酒を飲んだ優斎は、浩太郎に尋ねる。
「どうなんです? もうご改革は発令されるんでしょうかね?」
「いや、正式には、まだだと思うんだが……」
その妙な様子に、お華が、
「どうしたの? 兄上」
すると浩太郎は、
「実はな、もう西の丸の身分の低い連中、つまり、俺らと同じ、御家人なんかは、ゴッソリ、お役御免になってるらしいんだ」
これには、二人も驚き、お華は、
「だって、まだ明日が、ご葬儀なのよ」
と、叫ぶ様に言うと、優斎も、
「もう、粛正が始まってるんですか……これは早い」
優斎も、唸る様に言う。
そこにおさよが、お酒などを運んできて、
「じゃあ、もう何があっても、おかしくないって事ですか」
浩太郎は、おさよに猪口を突き出し、
「まあ、そういうことさ」
言いながら、酒を流し込む。
そして、
「とにかく、お華。明日も引き続きじゃ。おさよの喪服借りて、葬列の警備を頼む」
「わかりました」
少々、厳しい顔で頷く。
「さすがに大御所のご葬儀だ。おそらく、見物人が多くなるだろう。大人はともかく、子供には気を付けろ。佐助も、明日はお前に付けるからよろしくたのむぞ」
(3)
さて翌日、おさよの白い喪服に身を包んだ、お華と、従者の佐助は、昨日歩いた道の、ある場所に佇んでいた。
「旦那様は、お奉行様に従って、歩いていらっしゃるそうです。私たちは、この辺で待機という事ですかね」
佐助が、お華に問いかける。
「いいんじゃない。親分は、もうちょっと、先って言ってたから。しかし、兄上の言う通り、すごい人ね」
「そうですね」
佐助も頷く。
言われていた通り、辺りは人で、埋め尽くされている。
店は勿論、すべて閉められているので、正に辺り一面、観客という有様だ。
さて、暫くすると、向こうの方から、一行がやってきた。
当然、葬儀だから声一つあげられない、壮大で、沈黙の行進である。
お華、佐助も、皆の前列に座り、平伏気味で、葬列を待つ。
その時だった。
お華の斜め後方で、突然、男の子の泣き声がした。
その泣き声に、その辺全員が振り向くと、その子供は、母親の手を振り切った。
そして、そのまま行列の向こう側へ、泣きながら行き始めた。
母親は、廻りに阻まれる形で、子供を追うことが出来ず、
「これ、これ」
と、真っ青な顔をして、小さく、しかし強く叫んでいる。
このままでは、「無礼者!」と親子共々、お咎めにあってしまう。
お華はその時、側に行って、止めようとしたが、間に合わないと判断し決断した。
いきなり、腕を下から上へ振り上げたのだ。
飛んだ簪は、丁度、その子の目の前を通り過ぎ、簪後ろの羽根が、子供の小さい鼻を微かに触れ、飛び去った。
その子は、目の前ギリギリの、突然の微かな衝撃に立ち止まる。
お華は中腰のまま、急いで子供に向かう。
途中、一瞬振り返り、無言で、佐助に簪の回収を頼む。
「ほら、ぼうや。あっち行くと、怖いおじさんに怒られるよ~」
優しく声をかけながら、子供を抱くように、再び平伏する。
佐助は、お華と子供の横を、鮮やかな速さで、中腰のまま、すり抜け、簪を直ぐに回収し、人混みに紛れた。
すると、そこに、葬列の先頭がやってきた。
お華は、深く、その子の頭を優しく下げさせ、自分も一緒に頭を下げている。
その時だった。
お華は、何やら、もの凄く、不快な感覚の視線を、浴びた様に感じた。
頭を上げるでも無く、その様子を窺うと、とてつもなく厳しい顔の侍が、馬上から見ていた。
お華は、視線を合わさず、再び頭を深く下げた。
「なんだ、あいつ?」
などと思いながら、気持ち悪げな感覚を、身体を振って、振り払おうとした。
それから、老中、棺、若年寄、各奉行などが、順に過ぎて行った。 ようやく、全ての一行が行き過ぎ、子供を笑顔で母親に返すと、佐助が寄ってきて、簪を返し、
「旦那様、気付きましたか?」
「全然気付かなかった。それどこじゃ、無かったでしょ」
お華は、軽く笑う。
佐助も笑顔で、
「まあ、そうでしょうね」
と言っている所に、ぬっと、笠を被った侍が近寄ってきた。
佐助は、そ知らぬ顔で、その場を少し離れる。
その侍達は、少し笠を上げ、お華に向かって、
「その方。御行列の最中、何かを投げたと訴えがあったが、誠か?」 お華は、途端に芸者の表情に変え、
「おや? 何の事にござりましょうか。私は何も投げてはおりませんが……」
和やかに惚けるが、その簪は頭上にある。
「御列に居られた方が、仰っているのだ。何かを投げて走り出したとな」
お華は、大袈裟に、
「あれ、ご覧になってたんですか? 子供がね。いきなり飛び出したんで止めようとしまして。ご葬儀に、ご迷惑を掛けるわけにはいきません。慌てて止めました。こう……」
などと、手を振って、再現をして見せる。
「こんな感じで止めたんですよ。間に合って、良うございました」
ニコニコと、頭を下げる。
こう言われてしまうと、それ以上、聞く事も無くなった様だ。
「それならば良い。ご苦労であった」
低い声で言い残し、二人は去っていった。
それを見て、ようやく佐助が側に寄り、
「何ですかね~あの連中」
お華は、少々、不機嫌そうに、
「さあね」
と言い放つ。
それから、二人は、親分などに声を掛け、八丁堀に戻って行った。
暫くすると、浩太郎も、屋敷に戻ってきて、佐助から様子を聞く。
「何だと? 問い質されただと?」
一緒に、並んで座るお華は、子供を救った折の事を説明した。
「ふ~ん。まあ、そういう事なら、俺でも同じ事をするかもな。しかし、特に列を乱した、って訳でもないんだろ」
すると佐助が、
「はい。お嬢様が、簪を投げたのは分かりやしたから、早く回収しとかなきゃと思いまして」
「それは、良くやった。で、そいつら誰なんだ。奉行所では無かったんだろ?」
するとお華が、おさよから茶を貰いつつ、
「あのね。それよりさ。子供を助けた後、馬に乗ってた、嫌~な目付きの男に睨まれちゃってさ~。あ~思い出すだけでも気持ち悪い」
などと言うので、皆笑ってしまった。
そして、お華が続けて、
「目は合わせなかったんだけど、肩の家紋は、神社の鳥居の紋だったよ」
「鳥居紋? 」
すると、浩太郎は手を叩き、
「そりゃ、まさに鳥居様じゃねえか?」
「鳥居?」
「そうだ。目付の鳥居様だ」
お華は、眉を寄せ、
「げ、やっぱり、お目付なの?」
浩太郎は、全てが分かり、
「それでわかった。後で聞きに来たのは、配下の徒目付か、小人目付だろう」
「あ!」
と、声を上げ、佐助も頷く。
そして、浩太郎は、笑みを浮かべ、
「内与力の加藤様に聞いた事あるよ。あの鳥居って目付、えらくしつっこくて大変なんだと。お奉行様がさ」
お華は、両手を頭にやり、
「ぎゃ~勘弁して~」
目を閉じて、叫ぶ。
それを、笑いながら見ている浩太郎はポツリ、
「しかし、目付にも気を付けなきゃいけねえか……」
と、難しい顔に変わって、お茶をすすった。
~つづく~
「私は、子を産む道具では無い!」
側室の女性が、人の尊厳を訴える台詞として、よく使われているが、
「私は、子を産ませる道具なのだ」
徳川家斉ならば、そう言ったかも知れない。
子沢山の将軍として、エロ将軍などと言われているが、実は、気の毒な男ではなかっただろうか。
一説には、幼い頃から、子をたくさん作り、一橋家系将軍家、安泰の戦略の為に、父、一橋治済が、専念する様、命じたとも言われる。
しかし、53人の子供の内、現代まで血筋を残したのは、
松平斉民・蜂須賀斉裕・溶姫の三名のみ。
更に、当時の平均寿命とされる、50歳まで生きたのが、8人。 内、将軍家慶を除けば、男はたった1人(松平斉民)でしかない。
この程度では、一橋家の養子戦略は、完全に失敗である。
何しろ、朝、
「若様(姫様)ご誕生です」
と、祝いの報告を受けるのだが、夜には、
「お子様お亡くなりになりました」
の訃報を受ける。
その数21度である。
いくら家の定めとは言え、寿命0歳が21名もいては、本人もさぞ、辛かっただろう。
今は、伝通院や、寛永寺に、その子達は眠っている。
ある時、家斉は、余りの事に、城中の医師を集め、
「今後、子供の養育は、町人どもと同じにしたらどうか」
と言ったとされる。
これは、さすがに総反対だったらしいが、
私には、立場を超え、彼の疲れ、悲しみが滲み出ている様にも思う。
そりゃ、オットセイも必要になるだろう……と。
そう、跡継ぎがいないと言う事は、将軍と言えども、
本人、そして周りの者にも、死を招く可能性があるからです。
今回もありがとうございました。




