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冒険にでれば03

 三日後、ゲンジ一行は幌馬車に乗って『神鏡の墳墓』に現れた。こちらはすでにおれとシャオ、ウィツィロの3人が準備万端で備えている。やはり、ウィツィロは愛猪のマンソンは留守番させることにしたらしい。


「今日はよろしく。こっちはおれと、カツラさん。ギター担当の清丸氏は知っているかな。あとはミチオと、ジエン」


 ゲンジ達5人はそろいの青いタバードに重装備といういで立ちだ。全員が『騎士』の職位クラスを取った上で、残り2つの職位を選択するというビルドになっている。

 禿かむろ髪の幼女の背後に、4人の壮年の騎士──ミチオは比較的若い様子だが──が控える光景は絵になっているともいえるし、現実なら警察に通報されかねない絵面ともいえる。


 リーダーであるゲンジは『騎士』、『君主』、『歌姫』で中衛からサポートする。

 カツラは『騎士』、『衛士』、『奏者』でゲンジと同じポジションだ。

 清丸は『騎士』、『薬師』、『弓兵』で中衛だが、やや戦闘寄りの位置につく。


 前衛になるのはミチオとジエンの2人だ。

 ミチオは『騎士』、『突撃兵』、『軽業師』となる。

 ジエンは『騎士』、『工兵』、『盾士』だ。


 ミチオは二刀を腰に差して、手甲や足回りを革製の装備で固めているところを見ると、近距離で素早く立ち回る軽戦士なのだろう。それに対してジエンは背に鉄扉を曲げたような大楯を背負っている。彼が最前衛で敵を足止めする役割か。


 彼らの様子を見てウィツィロは、おれの出番は無さそうだ、金一封でも包まねばいかんか、と冗談めかして言った。


 おれとシャオはハヤテに二人乗りし、ウィツィロは幌馬車に同乗させてもらった。こうして8人のパーティは北東の『赤犬鉱山』へと向かっていく。ウィツィロが根城にする『馬賊の砦』を抜け、さらに北東へ。


 鉱山の手前、2kmの地点に野営を張った。今はまだ夕刻に近い。侵入するなら人型モンスターの行動様式に沿って深夜がいいだろう。

 おれがそう提案すると、ゲンジ達は考えてもみなかった、と納得して、いそいそと野営の準備に取り掛かってくれた。

 おれはハヤテの手綱を外して放牧する。探索の間は野営の周囲で好きにさせてやることにした。


 ゲンジ達は意外にもかなり贅沢な品を持っていた。折り畳み式の天幕に、マッチまでそろえてある。どこで手に入れたのかと問えば、馴染みの手工業者に作ってもらったという。おれが鐙を作ってもらったのと同じようなものだろうか。


「姫に野宿をさせるわけにはいかん。せめてキャンプの体裁は整えなければ」


 カツラは真剣な面持ちで宣言する。他の3名の騎士たちも作業の手を止めて、同調するように頷いた。どうやら彼らは重症らしい。ロールプレイもここまでくれば立派なものだ。


「リアルでアイドルオタクやっている連中だ。おれを担ぐくらいは訳ないぜ。」


 ゲンジは呆れたように呟く。その様子は姫というより、やさぐれた若者なのだが、幼女の外観とのミスマッチが何とも言えないアンニュイな雰囲気を醸し出していた。


「姫、我らはいつか姫が真の姫道に覚醒なさる日をお待ち申し上げているのです」


 おっさん達は真剣──演技だとしたら臭すぎるほどに真剣だ。シャオはウィツィロと一緒に侵入の段取りをつけている。完全にこの狂人どもの相手をおれに押し付けている格好だ。


 とはいえ、事前の話し合いはスムーズにいった。盾役のジエンが最前衛、その脇を巨体のウィツィロが固める。二列目におれとミチオ、清丸が備えてメインの火力を担当する。最後列でゲンジとカツラが補助を行い、シャオは生命道士としてヒーラーの役割を担うことになった。


「だが、できる限り戦闘は避けたい。内部の様子もわかっていないからな。一先ずはおれが先行して偵察しながら進めていく。」


 交代で仮眠をとったあと、侵入の直前に食事を取る。胃もたれするようだが、フードバフの効果時間を最大限に活かすためだ。


 日付が変わり、午前一時──おれは単騎先行して偵察へと出向く。だが、鉱山の周囲の様子が以前とは違う。あまりにも静かすぎるのだ。何より『生命探知Ⅱ』を発動しても、光の反応が無い。

 茂みに伏せて待っている仲間の下へ戻り、状況を報告する。


「歩哨がいない。何か様子がおかしい」


 だが、様子がおかしいとはいえ、行かない手はない。侵入という目的を考えれば、これは好機だ。

 おれ達は鉱山の入り口へとたどり着く。そこには錆びた鉄柵が開けっ放しになっていた。月明かりが届くのは洞穴の入り口まで──それより先には見通すことのできない暗黒が口を開けていた。


「縄を」


 入り口の鉄柵に縄束を結ぶ。帰路に迷わぬため、そして暗闇で互いの位置を確認するための工夫だ。

 鉱山の内部は、大人が三人並べば一杯になる横幅の狭さだ。幸い高さそのものは2m以上あり、先頭を行くジエンとウィツィロでも突っかえることはなかった。

 湿り気を帯びた、澱んだ空気が、鉱山の奥から流れてくる。ウィツィロは腰をかがめて、地面すれすれに注意深く進んでいく。

 縄が二度引かれ、ウィツィロが何かを発見したことを知らせてくる。暗闇に慣れ始めた目で、ウィツィロが指さす先を見れば、細い糸が切れた跡がある。


「先客がいる」


 それは侵入者を検知するための、簡易な鳴子だった。糸の先には骨と金属片を結んだものが垂れ下がっている。糸を切れば音が鳴る警報装置だ。だがその罠はすでに解除された後だった。

 おれは生命探知を再び行使する。技能のレベルがⅠだった頃に比べて、再使用までのクールダウンタイムが短くなったらしい。

 おれの目には、暗闇の先──坑道の曲りくねった道の先に、複数の光点が映し出された。激しい動きを示す光は、今まさに交錯を繰り返していた。


「おれが先に行く」


 おれはゆっくりと曲がり角の向こうへと首を伸ばす。道の先には広い部屋があった。天井の高さは判然とせず、鍾乳洞らしい土柱が垂れ下がっている。そして、火花が散った。

 金属と金属がぶつかり合う高い音とともに、暗闇に橙の火花が飛び交う。だがそれはすぐに収まった。耳障りな潰れた叫びが響き、おれの視界から光の点が消えていく。やがてそれは、ただ一つになった。

 そして腹の底から漏れ出たような溜息を、その光の主は吐き出した。


「誰じゃい、そこにおるのは」


 太く練られた男の声である。おれは思わず息を飲む。なぜ気づかれた?いや、冷静に考えて何らかの探知技能(スキル)を使われたのか。相手はプレイヤーか?


「ひ、ふ、み……7人、いや8人──プレイヤーか?」


 おれはゆっくりと曲がり角の陰を脱していく。相手は松明に火を灯し、こちらを照らしてくる。その灯は相手の姿をまた照らし出していた。

 そこにいたのはハーフリングであるおれと同じくらいの背丈、だが胴回りは倍近く、腕の太さは倍以上の、筋肉の塊と呼ぶにふさわしい男だった。顔は鼻から下を巻き髭に覆われていて、面相は定かではない。角付きの兜に、顔の上半分を隠す面頬──そこから覗くまなこ炯炯けいけいとしている。


「そうだ。ポータルストーンを探索に来た」


 どうやら入り口の敵を排除し、先行して罠を破っていたのは、この男らしい。おれは仲間たちに、まだ出てくるなと縄の動きで示唆する。


「儂はカザド。金属カネを探しておる。害意は無い」


 カザドと名乗った短躯の男は、息絶えた山賊の胸を短剣で裂くと、躊躇うことなく手を差し入れて赤く輝く宝石を抜き出した。

 おれはこのときまで、人型のNPCの体に生命石が宿っていることを知らなかった。生命石ライフストーンを抜かれた山賊の遺体は光の粒子へと変換され霧散した。


「なんじゃい、人型モブを見るのは初めてかい」


 カザドはおれの様子を見て苦笑する。おれは首を振って、ただ人型から生命石を抜いたことが無かったのだ、と正直に答えた。カザドはなお苦笑を深めて、倒れた4つの遺体からも生命石を回収した。


「お仲間にも紹介してくれい。別にあんたらの邪魔をするつもりはない」


 全員が姿を現すと、カザドは松明の火をストレージから出したらしい木切れに燃え移らせ、それを岩の間に打ち込んだ。そうして松明をストレージに仕舞い込む。どうやら松明の有効時間を、できる限り維持するためのテクニックらしい。


「しばらく──儂はここで石を掘っておる。奥に進むなら好きにせい」


 おれは、そうさせてもらう、と答えを返した。おれ達はそれ以上、カザドに深く問うことはなく、奥へと進もうとする。だがシャオだけは足を止めて、カザドに声をかけた。


「なぜ奥へは行かないのですか? あなたの実力なら問題なさそうですのに」


 カザドは改めてシャオに目をやると、角付き兜と面頬を脱いで、恭しく膝をつく。まるで貴人に対するかのような芝居がかった仕草だ。その素顔は思ったよりも若々しい。赤茶けた肌に配された瞳には、活力が漲っている。片膝をついたカザドは不似合いながら、精一杯気障(きざ)に振る舞おうとしているらしかった。


「これほど麗しく気品あふれるご婦人とお会いできたのは、アグニの祝福の賜物。私のような粗忽者でよろしければお答えいたしましょう」


 すでに奥へと足を踏み出しかけていた騎士団の面々は、その光景を眺めて、白々しいだの、いや我らが姫より麗しい者はいないだのと愚痴をこぼす。おれは何事も起こらなければいいが、ときびすを返して広間へと戻った。


 それらの雑音に構うことなく、カザドは『赤犬鉱山』の由来を語る。

 曰く──この鉱山は二層に分かれている。上層には山賊が棲みついていて、散発的に襲ってくる。その手勢を仮にまとめている者もいるだろう。だが、本当に恐ろしいのは下層に潜む怪物なのだ、と。


「DOPEにおいてフィールドダンジョンのほとんどはランダム性の強い自動生成です。その中でも階層が複数あるものは特別。最下層には決まって、ボスにあたるモンスターが設置される傾向が高いのです」


 そのようなフィールドダンジョンの内でも『赤犬鉱山』は格別に悪い。上層と下層が完全に分離しておらず、ボスらしい巨大な赤犬が奥を徘徊しているらしい。カザドはその存在を確かめて、引き返してきたのだ。


「ではカザド。なぜ貴方はそんな危険な場所で鉱石掘りを?」


 シャオの真っ当な問いに、カザドは事もなげに答える。


「なに、私は旅の鍛冶師です。今は地図の踏破率を稼ぐために旅をしているに過ぎません。奥に手を出すつもりはありませんので。しばらくしたら、すぐに立ち去ります」


 シャオは丁重に礼を述べ、カザドはまた恭しく応じて名残を惜しんだ。その別れ際、カザドが何がしかをシャオの耳元で囁いたようにおれには見えた。


 仲間はすでに坑道の先を調べ始めている。おれとシャオもそれを追う。振り返れば木切れの燃える灯を背景に、カザドが見送る影が見えた。


 慎重に道を進んでいく。先頭を行くのはジエンとウィツィロ。そしてその後ろにミチオと清丸、少し離れた位置にはカツラがいる。探索用の縄を握りながら、おれとシャオは最後尾にいた。そんなおれたちに、ゲンジが近寄ってきて囁く。


「今、あのおっさんが言ったのはどういう意味だ?」


「わからない」


 ゲンジの問いに、シャオは本当にわからないのだ、と重ねて答える。ゲンジは『歌姫』の職位から『聴覚強化Ⅰ』の技能を得ている。そのためにカザドの囁き声が届いたのだろう。おれは話の流れが読めずに、カザドがシャオに伝えた内容について問うた。


「騎士に背を向けるな、と。特に前衛の二人には気を付けろ──そう言われた」


 シャオは声を低めてそう呟いた。ゲンジは確認だけ済ませると、前を行く者達に疑われぬように戻っていく。改めてカザドに問い直す暇は無さそうだ。それとも今日は出直すか?どうにも綾がついている。兎も角も、おれとシャオは互いの背を守り合うことを確認する。

 改めて目を向ければ、先ほどまで広く頼りがいがあると映っていたジエンの背が、なんとも圧迫感のある壁のように映る。それに続くミチオの姿もどこか狡猾に感じられた。

 ウィツィロにこのことを伝えるべきだろうか。おれの逡巡を察して、シャオは軽く首を振って否定する。無駄に疑心を広めるべきではない、彼女はそう言っているようだった。


 この先に何が待っているのだろうか──おれは何が起こってもよいようにと、心持ちを新たにした。だが、その時だった。

 カラカラカラカラ──乾いた音が洞穴に反響する。おれは咄嗟に気づく。鳴子だ。誰かが罠を踏んだのだ。一度暗闇に慣れていた目は、広間で光を見たために、細い糸を見落としてしまったに違いない。


「来るぞ!構えるんだ!火を焚け!」


 おれはストレージから松明を取り出す。すでに火は灯してある状態だ。こちらの位置が把握されてしまった以上は、暗闇の中で戦うのは相手を利するばかりだ。だがその一手が遅い。

 隊列の正面で金属がぶつかり合う音がした。ジエンは大楯を構えている。ウィツィロは音に向かって槍を突きだしていた。


 松明の灯が鉱山の闇を照らし出す。狭い坑道に、人の息遣いがさざ波めいて走っていく。前衛の肩越しに3人の山賊が見える。すでに先手として飛び込んできた男の腹には、ウィツィロの槍が突き刺さっていた。

 ゲンジが叫ぶ。


「足音だ、奥から更に増援が来るぞ。数は──多い!」


 よく通る声だ。ゲンジを中心に騎士が隊列を組み直す。ジエンの脇をカツラが手盾で固め、後ろに敵がすり抜ける余地を無くしていた。


「前は押さえる!おれに当てるのだけは勘弁してくれよ!」


 言うが早いか、ジエンは腹に槍の刺さった男を蹴り飛ばし、次の敵に大楯を向けて突進していく。

 DOPEではフレンドリーファイアが常時ONだ。見境なく武器を振れば味方を傷つけるし、無理に魔法を放てば巻き込みかねない。中衛より後ろには、前衛を傷つけない繊細さが求められる。


 ジエンに続いてウィツィロとミチオが突撃していく。大楯の突進に巻き込まれた敵は、そのまま押し込まれ、鉱山のむき出しの岩肌との間に挟まれる。すかさずウィツィロが槍を突き込むが、止めを刺すには至っていない。もがく敵をジエンは大楯で押し潰しながら、抜き出したメイスで頭を殴りつける。


 ジエンがメイスを振りかぶる。その脇が開いた位置に向けて、3人目の山賊が攻撃を仕掛けていた。真っすぐな軌道を描き、錆びた剣がジエンの側面を襲う。だが、その更に側面からミチオが妨害インターセプトを仕掛けて、その動きを遮った。

 対峙する山賊とミチオ、その背後で振り下ろされるメイス。鈍い音とともに、金属鎚が頭蓋骨に食い込んだ。

 仲間に止めを刺され、激昂する山賊が動き出すよりも早く──その足に矢が食い込んでいた。清丸の短弓が、一矢、二矢、三矢目が外れて鉱山の壁に跳ね返って乾いた音を立てる。ミチオは隙を見逃さず、体勢を崩し、位置の下がった男の顎を蹴り飛ばすと、がら空きの腹を二本の短刀でめった刺しにした。


 その間、カツラは油断なくゲンジの前を守っていた。ゲンジは増援の足音を捉えることに集中している。

 シャオは欠伸をひとつ──おれは、手に持った松明を闇に投げ込んだ。


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