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仕事を探そう04

 おれとシャオ、そしてウィツィロの三人はパーティを組んだ。そしてお互いのホームポイントにとって重要な資源地である森林を独占するために、囲い込みを実行することにした。


 だが明日の日本でのサービスインはどれほどの人数が新たにログインしてくるのか見当もつかない。例え丸腰の新人を相手にするとしても、戦い続ける内に何らかのボロが出てしまうことをおれは懸念していた。


「誰が──戦うと?」


 おれの疑問に対してシャオはくつくつと笑う。


「ねえ、正臣。思い出して?私たちがチュートリアルの最中に抱いた感想と、実際に行った一連の行動を。」


 行動──おれ達は何も持たない状態で、鬱蒼とした森林に投げ出され、大猪に追われて逃げ回り、飲み水と食料を確保して、なんとか森を脱してポータルに辿り着いた。


「簡単なことよ。実に簡単。私たちは決して誰からも恨みを買ったりしないわ。長期的に見てこの拠点の利便性を向上させることは重要だけれども、他のプレイヤーから目をつけられる方がもっと問題よ。」


 ウィツィロはそれが分かっていない。だからNPCを連れて来て集落ごっこに興じているのだと、シャオは辛辣な人物評を述べた。無論のこと──本人には聞こえないように。


 アルクヘイムから戻って来ると、シャオは使役する三体のフレッシュゴーレムの作業を中断させ、スタート地点に送り込んだ。そしてウィツィロに対して、作業のために集落から人員を供出することを求めた。



 §



 二人が明日に向けて準備をする間、おれは二つ目の職位クラスを取得していた。実際に事が起こるそのときまで、おれに手伝えそうな場面は無かったからだ。レベル5までに必要な累計|LC《LifeCurrency》は1500点──最初の技能スキルを習得するだけなら、負担は軽い。


『騎乗兵』の職位。そのレベル5で手に入った技能は、そのまま『騎乗』だった。古来の武芸者なら乗馬は弓取りの嗜みとして当然修めているべき技術だったかもしれないが、現在柳生の道場では乗馬の技を伝えてはいなかった。


 だがこのままでは、乗るべき対象がいない。おれは【技能習得条件一覧】を確認する。ウィツィロと互いに交換した情報の中に、その技能はあった。


『馴致Ⅰ』──対象となる生物に5分以上触れ続ける。


『調教師』であるウィツィロなら、必ず取得していたであろう技能だ。だが可能なのか?おれは、しなやかな体躯の鹿頭の生物を脳裏に描く。

 そして改めて『神鏡の墳墓』の丘陵から、若緑の草原に目を凝らす。至る所に、疾走闊歩するそれがいた。


 ──【生物名:ディエルエクゥース 危険度☆】


 魔導書に問えば、名を教えてくれた。ディエルエクゥースは群れで生活する草食動物で、穏やかな気性から騎乗生物にも適しているという。ただ人に馴れるまでには個体差があり、向こうっ気の強い個体であれば騎乗者を選ぶそうだ。


 生命探知を発揮して、草原を眺め続ける。幾つものディエルエクゥースの群れがある。互いに縄張りを牽制しあっているのか、一定の距離を保っている。その中に、ぽつりとこぼれた星のような個体を見つけた。

 一際強く、生命探知に反応して輝きながら、群れから離れて疾走する個体。


 おれは思わず走りだしていた。丘を駆けおり、真っすぐに。


 そいつはすぐにおれの存在に気付いた。だが悠然とこちらを見たまま動かない。他のディエルエクゥースはおれが近づくそぶりを見せただけで、頭を振って群れで逃げ出す。

 それに対して、そいつはおれに「近づいて来い」とでも言うようだった。


 だが、おれが5メートルの位置にまで近づくと、そのディエルエクゥースはまた距離を遠ざけた。獣の毛並み、その下から漂う脂の香り──獣臭と草の匂い。風の凪いだ草原に漂う、その場に時間を留めたかのような空間が、おれと孤高のディエルエクゥースの間に横たわっていた。

 近づけば、遠ざかる。三度繰り返した後、おれは周囲に己を融け込ませた。


 技能──サイレントキリング。

 無論、この場合おれに攻撃の意思は無い。普段以上、己の内側をくうにして、おれはゆっくりと歩を進める。ディエルエクゥースは目の前にいるおれを見失ったかのように呆然としている。

 三歩の位置に至り、互いの視線がぶつかった。野生の鋭敏な感覚が、おれを捉えたことを察すると、おれは勢いよく跳躍して相手の首に組み付いた。


 ディエルエクゥースはがむしゃらに走りだす。その走りは、周囲の個体とはまるで違った。上下に跳ねるようでありながら、あらゆる群れを置き去りにして、凪いでいた風がそのディエルエクゥースの後に付き従って巻き起こる。

 おれは組みついた腕を必死で絞めた。だが、ハーフリングの軽量な矮躯をものともせず、獣は宙を踏むように疾走する。それはまるで草原と風に祝福された存在であるようだった。あまりにもはや過ぎるために、こいつは孤高にあったのだ。


 どれほどの時が経ったか、おれは夢中でしがみつきながら、それでも決して目を閉じることはなかった。それほどに加速していく世界は衝撃的だった。

 やがて──ディエルエクゥースは足並みを緩やかにした。それまでの動きが馬術で言うところの襲歩であったとしたら、確実にリズムを刻む今の動きは常歩なみあしだろう。おれは首に巻いた腕に力を込め、胴に対して足をかけると不恰好によじ登った。

 魔導書グリモアがアラートを鳴らす。


 ──【ディエルエクゥースの馴致に成功しました。】

 ──【新たに命名しますか? Yes/No】


 魔導書からの問いかけに、おれは迷うことなく首肯する。


「名前──そうだな。疾風。ハヤテというのはどうだ。安直すぎるか?」


 ──【識別名『ハヤテ』を確認しました。】


 鹿頭を一振りすると、ハヤテは一声(いなな)いた。それは馬とも鹿とも違う、鳶の鳴き声を太くしたような──草笛のような響きだった。

 草原にハヤテの鳴き声が、さざ波のように伝わっていくと、それに対して方々から無数の鳴き声が幾度も幾度も返ってきた。孤高のディエルエクゥースは、決して孤独ではなかったのだ。


 おれはハヤテの腹を蹴ると、再び風を巻いて疾走し始めた。



 §



 数時間──ほんの数時間のことだ。森林の一角は切り崩され、幾つもの切り株が取り残されている。伐採された原木は片側に寄せられて、この後の工作に用いられるのを待っていた。


 スタート地点は鬱蒼とした森林から、見晴らしの良い広場へと様変わりしていた。そして今も伐採は続いている。フレッシュゴーレムと集落の住人たちが切り開いているのは、西側へ向けての道である。


 シャオは作業の進捗が順調であることを確認して、つまらなさそうに呟いた。


「囲い込みねえ──うーん。こう、もう一味欲しいかな。」


 彼女が幾度も見返しているのは職位一覧の冊子だ。候補に残っているものだけをスクラップしたために、最初のものに比べればかなり薄くなっている。

 そして、シャオは悩みながらも決意して──保持していたLCを職位に配点した。


 ──【職位『魔法書司』を取得しました。】

 ──【職位『生命道士』を取得しました。】


「まあ、ちょっとくらい役得がないとねえ。」


 うそぶくシャオは、美しい相貌に、年相応の悪戯っぽさを浮かべてみせた。


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