第10話 砦の問題
ある日、ルイーゼは淑女教育としてお茶を入れる練習をしていた。
「だいぶ慣れてきましたね。奥様の飲み込みの早さには驚かされます」
「ありがとう。マリーの教え方が上手なおかげよ」
「せっかくですから、旦那様にお茶を飲んでもらってはいかがですか?」
「えっ、アーサー様に?」
「はい!今の腕前なら充分です!」
「マリーのお墨付きなら安心ね。それなら執務室に持っていくわ」
ルイーゼは微笑むと、ティーカップを載せたトレーを持って部屋を出た。
「アーサー様、失礼いたします」
アーサーの執務室に着いたルイーゼは、ドアをノックして声を掛けた。
しかし、返事はない。
「失礼いたします」
ルイーゼが恐る恐るドアを開けて部屋に入ると、誰もいなかった。
(…机に書類が置いたままだわ)
ルイーゼは応接机にトレーを置くと、机に近寄った。
書類は、国境沿いの砦に関するものだった。
彼女が書類を手に取ってじっと読んでいると、ドアが開く音がした。
ルイーゼが慌てて書類を戻して振り向くと、アーサーとセバスがいた。
「…ルイーゼ?ここで何をしている?」
「お、お茶を淹れたのでお持ちしました。勝手に入って申し訳ございません!」
「それは構わないが…書類を読んでいなかったか?書類を出したままにしておいた私が悪いし、読まれて困る内容でもないから問題ないが…ルイーゼはその書類を読めるのか?」
アーサーの指摘にルイーゼは言葉に詰まったが、正直に答えた。
「は、はい…」
アーサーとセバスは目を見開いて驚いた。
「基本的な読み書きしか習わなかったのではないのか?」
「それは事実です。ですが、別棟の地下には帝国の資料の保管庫があったので、暇潰しに読んでいました。別棟内でしたら自由に行き来でしましたので。最初は意味が分かりませんでしたが、何度も読み返すうちに理解できるようになりました」
「…暇潰しで」
「それで、僭越ながら気になったことが…」
アーサーは執務机に座ると、ルイーゼに向き直った。
「何だ、言ってみろ」
「兵士の人数に比べて、食料の消費量が多いようです。お心当たりはございますか?」
「ああ。兵士たちは大雑把なやつが多くてな。追加した食料を倉庫に入れるときに、古い食料を押し込んでしまうんだ。だから、気づいたときには食料が傷んでしまい、捨てることになってしまうんだ」
「それはもったいないですね…」
「そうなんだか、良い解決策が思い付かなくてな…」
「…よろしければ、私に食料や備品の在庫管理をさせていただけませんでしょうか?」
ルイーゼの申し出に、2人は再び驚いた。
「ルイーゼはそういうことが出来るのか?」
「やったことはありませんが、書類は見て覚えたので書き方は分かります。私もグレートブリテイン王国の役に立ちたいのです!お願いします!」
「分かった。淑女教育に支障のない範囲でやってみると良い」
「ありがとうございます!では、失礼いたします」
ルイーゼが退室した後、アーサーは独りごちた。
「私は、とんでもない女性を妻にしたらしい」




