第1話 冷遇皇女ルイーゼ
プロイセン帝国とグレートブリテイン王国。
隣り合う2つの国は、良好な関係を保っていた。
しかし5年前、ある出来事をきっかけに、大規模な戦争に発展した。
プロイセン帝国に不利な戦況を見て、グレートブリテイン王国はある条件付きで講和を申し入れた。
プロイセン帝国、皇宮。
「…もう一度言ってもらえますか?」
やって来た衛兵が告げた言葉に、プロイセン帝国第一皇女ルイーゼは耳を疑った。
交替でやって来る侍女と、1日に2度、固いパンと冷めたスープの食事が運ばれてくる以外に、誰かがルイーゼを訪ねてくることはない。
ルイーゼはプロイセン帝国の第一皇女だが、父である皇帝陛下が行儀見習いとして皇宮で働いていた子爵令嬢の母に手をつけてできた子だ。
母は出産で亡くなり、ルイーゼは皇女として認められた。
しかし、皇后の不興を避けるためか、不義の子として別棟に放置され、最低限の衣食住だけ与えられているものの、冷遇されている。
以来18年間、父が会いに来たことも、呼び出されたこともなかった。
衛兵は、そんな父が自分を呼んでいると言ったのだ。ルイーゼが聞き直したのも無理はない
彼はあくまでも事務的に答える。
「皇帝陛下がお呼びです」
「…分かりました。すぐに伺います」
謁見の間に通されると、既に皇帝である父が待っていた。
「お久しぶりです、お父様」
久しぶりに顔を合わせた父は、相変わらずルイーゼに対して冷たい視線を向けていた。
「ああ。息災で何よりだ。突然だが、お前の結婚が決まった。相手は、グレートブリテイン王国の公爵、アーサー殿だ」
ルイーゼは、再び耳を疑った。
「…グレートブリテイン王国ですか?」
「そうだ。我がプロイセン帝国がグレートブリテイン王国と戦をしているのは知っているだろう。だが、戦況は我が帝国に不利だ。そこで、王国が申し入れてきた講和条約を結ぶことになった。その証として、プロイセン帝国の皇女であるお前がグレートブリテイン王国に嫁ぐのだ。アーサー殿は国王の弟の息子、つまり甥にあたる。くれぐれも失礼のないように。結婚式は1カ月後。プロイセン帝国の皇女として己の役目を果たせ」
「…はい」
必要事項だけ告げた父は、ルイーゼの返事を聞くとすぐに退室した。
(お父様にとって、私は、最後まで都合の良い駒でしかなかった…)
王族や高位貴族にとって、政略結婚は当たり前だ。分かってはいても、ルイーゼの胸にそんな思いが広がった。
それからというもの、ルイーゼの日常は一変した。
内容を暗記するほど繰り返し読んだ本の代わりに、グレートブリテイン王国の歴史や礼儀作法に関する書物が与えられ、家庭教師が付けられた。
外の世界を知らないルイーゼには、全てが新鮮だった。
「アーサー公爵閣下は、どのような方なのですか?」
ある日、ルイーゼは家庭教師に尋ねた。
「彼は、グレートブリテイン国王の甥にあたる人物です。文武両道で、先の戦争では我が帝国を苦しめました。しかし、ある戦い以降はパッタリと姿を見せず、講和条約の締結式にも出席しなかったそうです」
ルイーゼが不安な表情を浮かべたのを見て、彼女は淡々と続けた。
「ですが、この結婚を申し入れたのはグレートブリテイン王国側だとのことです。亡くなられていることはないでしょう」
「…そうですか。ありがとうございます」
ほっとしたルイーゼは、再び書物に目を落とした。




