第18話 「姫様たちは、この世ならざるものに遭遇するようです」
「食べれば食べる程……、もぐ、こぉーいあじが……、癖になっちゃいますぅ~~!!」
「そんなにか?ちょっと誇張してるんじゃないのか?じゅるり。」
「嘘を吐いているようには見えない。ご飯のポテンシャル的にも理屈は通ってしまう」
「あぁもう、幸せそうな顔しちゃって……、漂ってくる匂いだけでお腹が減っちゃうわ……」
ディベートを終えたリリカルの緊張はほぐれ、グヤーシュライスをさらに味わう余裕が生まれた。
後は適当に美味しいって言っておけば大丈夫ですぅ~~。
そんなリラックスからくる緩み切った笑顔での食事、それが何よりも強いファンサービスになることに彼女は気付いていない。
「はぁ~~、美味しかったですぅ。でも、量の調整がされてたのが残念ですぅ。もっと食べたかったですぅ」
「大人しいリリカルがおかわりを要求するなんて……、どれだけ凄いグヤーシュなのよ」
「みんなも食べてみると良いですぅ、絶対に損しないですぅ」
姫同士で料理を勧め合う、これは視聴者に向けた流行誘導だ。
『~~のメーカーの、○○という商品が素晴らしい』
スポンサーから依頼された食品・衣料品・魔道具を紹介する手法であるそれこそが、市民を誘導する流行発信だ。
「えぇい、ファナティ次だ次!早く順番を回さないと私の番が来ないだろう!!」
「かしこまりました。それでは、ライラ姫様のメニューの調理に取り掛からせて頂きます」
「「「調理!?」」」
ディベート②の料理提供は、一品ずつ。
これは、4人の姫が別の料理を食べる光景を同時に流してしまうのは勿体ないという配慮、そして、物理的に同時配膳が不可能だという理由もある。
本来、この場へ入場を許されるはずがない料理人・タナー。
彼女がここに居るのは、できたてを給仕する必要があると料理長のキザラが判断したから。
だが、その場合であっても責任者であるキザラが行うべきという、暗黙のルールがある。
『お前ら、ロイヤルディッシュに出たい奴はいるか?俺はやるべきことがあって出られねぇ』
『!!じゃあ私!!私、行っていいですか!?』
ロイヤルディッシュに出演する、それは国民にとって、この上ない名誉。
先ほどのメイド達も色めき立っていたように、ロイヤルディッシュ出演は人生観が変わるイベントだ。
そして、破壊の美食学者の中でも下っ端という自覚があるタナーにとっては、一生自慢できるほどの幸運でもある。
なお、キザラを含めた先輩料理人が誰一人としてロイヤルディッシュに行きたいと言わなかった理由、それは、それぞれが手掛けたご飯料理を味見したいからである。
「ライラ姫様、並びにレイミス姫様、リリカル姫様、ルートルイン姫様。ここから先は、タナーシェフの調理を私が解説いたします」
「よろしく。上手にできたらご褒美を出す。……ルートルインが」
「うむ、とびきりに目が眩むご褒美と請求書を用意してやろうではないか」
ライラの悪ノリに悪ノリを返しつつ……、ルートルインは熱い視線をタナーに送る。
ロイヤルディッシュの失敗は許されがたい。
そこに悪意がなくとも、国の尊厳を損なう可能性があるからだ。
淀みなく動く、腕。
配信?国の尊厳?
そんなものは料理に関係ない。
味に影響しない周囲の視線など、王族から認められているトップオブトップの料理人タナーにとっては、雑音にすら成りえない。
「では、②の料理名を発表させていただきます。『ライスバーガー』。こちらの料理はパンに見立てたご飯に具材を挟む、その名の通り、バーガータイプの料理です」
ファナティシアの説明の裏で、タナーが持つフライパンに命が灯る。
最大火力で唸る魔導コンロ。
一気に熱せられたフライパンの上に、円盤状の未確認ご飯バンズが不時着する。
「ふ、ふぇぇぇ!?ご、ご飯を、焼いてますぅ……ッ!?」
「うそでしょ、そんなことしたら……、せっかくのモチモチが無くなっちゃうじゃないの!!」
リリカル、レイミス、絶句。
今まで散々噛みしめてきたご飯のモチモチ特性を損なう暴挙に、悲鳴すら上げかねないリアクションだ。
「……ルル」
「おい、今は配信中だぞ、ララ」
「アレは何?考えたの誰?教えて」
うむ!あれは焼きおにぎり。
考えたのは日本人の誰かだ!!
いくらプライベートで親密な関係を築いている仲と言えど、教えられないことはある。
個別魔法についてはお互いに、まだ秘密。
やがては、教え合う関係性になると決まってはいても、現時点では口に出してはいけない国家機密だ。
「ご飯バンズの片面に火が通りましたら、ひっくり返します。……が、その前に、特製のタレを塗布します」
「うわわ!?いかにも濃そうなグレービーソースですぅ!?」
「ずるいわよ!!ご飯にお肉の出汁ソースは反則でしょ!!」
リアクション芸のような大げさな反応をしている二人は、至って真面目。
素直に思った事を言っているだけの、実に可愛らしい反応である。
一方、ライラに脇腹をつつかれる『教えて攻撃』を受けているルートルインは苦しい表情。
配信用魔道具に映らない絶妙な仕打ちに、「後で覚えていろなのだ……」と、呟くだけで必死だ。
「タレを吸った面はしっとり、そして、キツネ色の部分はカリカリに」
「すごいですぅ!!お皿に移しても全く崩れなかったですぅ!!」
「ちょっと待って、隣のフライパンは何を……、フランベだわ!!お肉をフランベしてるわよ!?」
フランベとは、度数の高い酒を一気に蒸発させることで、肉や魚の雑味を取り除く方法。
過去のロイヤルディッシュで発表され、肉の柔らかさを保持したまま火を通し香りを付ける画期的な手法として注目を浴びている。
「ご飯バンズの上に、厚さ5㎜程のミニッツステーキを5枚。その上にレタス。そして……」
「おい、ちょっと待つのだファナティ。その白いクリームは……!?」
「いけない。この世ならざるものが生まれてしまう。どんな修行を積んだ聖女でも、対抗手段は絶無」
新鮮なレタスの上にたっぷりと盛られた白黄のクリーム――、マヨ。
高揚を隠す気がないライラと、絶望を隠し切れない3名の姫の視線が降り注ぐ中、上段のご飯バンズがマヨとステーキの上に君臨する。
「失礼いたします、ライラ姫様。こちらが『ライスバーガー』でございます」
ライラの前に降臨した、この世ならざるもの。
カリカリに焼けた外装。
吹き出すニクニクしい油。
湯気を纏ったみずみずしい葉衣。
そして、天上へ誘う白亜の調味料、マヨ。
「それと、付け合わせのオレンジジュースです。ライスバーガーは大変に熱くなっておりますので、ナイフとフォークでお召し上がりくださいませ」
笑顔で傅くファナティシアが、ルートルインには悪魔に見えた。
『なんでそんな美味そうなものを主人の私に出さないのだ!?』と、恨めしそうな視線を送る。
ライスバーガーに恐れおののく姫達、可愛い!!と思った方は、評価とブックマークで推し活をお願いします!!




