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狼騎士団長をモフりたい!〜モフモフ大好きなのに動物がいない異世界に召喚されました〜  作者: 咲田陽


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25. 2回目のグレイ訪問1


 こうして私とグレイの間に秘密ができた。


 突然グレイのポーションを作る役をお役ごめんになったマリスは、一体どういうことかと、しばらくこちらの様子をウロウロ偵察しに来ていた。しかしヴィクトルの「僕が決めたんだよ、マリス忙しそうだったし」という鶴の一声で、魔法にかかったみたいに納得して帰っていった。

 最後の勝ち誇った表情から察するに、ヴィクトルも、マリスの私いじめに加担してくれたのだとでも思ったのだろう。

 ヴィクトルはと言えば、その様子を見て「今までごめんね、大丈夫だった?」と聞いてきた。

 あれ?これはマリスの気持ちに気づいたのか?と思ったが、タイミング的にグレイからマリスについての何かしらを聞いたのだろう。

 馬に蹴られて死にたくはないので、詳しく聞くことはしなかった。まあこの世界の場合は、馬じゃなくてマリスに蹴られて死ぬ、が正しいかもしれないが。


 満月の夜から数日後。マリスの追跡もなくなり、私の仕事も終わったあと、ふと窓から外を見たら、もうとっぷり夜だった。

 今日の欠けている月を見上げる。グレイには申し訳ないが、私は早く次の満月が来て欲しかった。


 目を閉じて、グレイの美しい毛並みを思い出す。今まで触ったどの生き物よりもサラサラなのに、同時にふわふわともしていた。全モフリストの垂涎の的になりかねない一級品だ。


 また触りたいな……。そう思い目を開けると、出来立てほやほやの金色に煌めくポーションの入った瓶がずらり並んでいるのが目にはいる。私は肩を落とした。

 

 これも明日朝イチで持っていかなきゃな、結構重いんだよなー。

 そう思いながら伸びをする。と、突然私の脳内にいいアイディアが閃いた。


 これを今日中に騎士団へ持って行ってしまえば、明日楽になるのではないだろうか?


 また脳内には別のイメージも再生されていた。それはいつでも好きに部屋に来ていい、と言うグレイの姿……。


 決めるが早いか、私はポーションの瓶を半分、バスケットに包み入れると、自分の机をあとにした。


 ――――――


 長い廊下を足早に進む。

 目指す場所は奥に位置するグレイの部屋だ。

 グレイの部屋がある廊下に隣接する複数の部屋は、誰も使いたがらないのだろう。どれも暗く、ただグレイの部屋の明かりのみが、最奥のドアの下の隙間から、薄く漏れ出ている。

 その明かりの前に立つ。

 本当に、満月でもないのに来てしまった。

 しっかりした作りのグレイの部屋のドアを見ていると、今更ながら心臓が大量の血液を循環させ始めた。

 バクバク鳴る心臓に、周りの音が聞こえなくなり、少しふらついてしまう。

 今なら、気の迷いだったと引き返せる。今なら、まだ……


「……入らないのか?」

 私の目の前のドアがゆっくり開けられて、中から穏やかなオレンジ色の明かりに照らされている部屋の主が顔を覗かせた。


「数日経っても来なかったから……次会えるのは次の満月になるかと思い始めてたよ」

 グレイは相変わらず美しい顔の唇を僅かにとんがらせた。拗ねた幼児のような表情も、この人がやれば一種の芸術作品のようのなるのだな、と思いながら「ごめんなさい」と謝る。

 こんな短期間の間に2回目訪問をしたらがっついてると思われてしまうと思って躊躇していたのだが、杞憂だったみたいだ。


「ポーションを持って来てくれたのか?」

「はい。明日いっぺんに持ってくると腕が疲れちゃうから、小分けにして持ってこようと思って」

 私から受け取ったバスケットの中身を確認しながらグレイは自分の作ったの上にそのバスケットを置いた。


「……じゃ、このお礼をしないとだな」

「え!」

部屋に足を踏み入れた時から、ソワソワしていた私の心臓がドクリと跳ねた。


「お、お礼って……」

「これ」

 グレイは自分の頭についている狼の耳を指差した。


「触りたいんだろう」

 ピクリとグレイの狼耳が私の方に向けられる。こんなにあっさりと溜められてきた私の欲が発散されていってしまっていいのだろうか?


「さ、触りたい、です」

 私はまるで目の前に花を差し出されたハチのように、ふらふらと吸い寄せられるようにグレイの近くへ歩みよった。

 しかしグレイは190cm超えの大男。

 身長158cmある私でも近づけば近づくほど、狼耳は見えづらい角度に入って行ってしまう。


「ああ〜」

 耳にばかり目をやって、どうやったら見やすいか、自分の目を細めたり、頭を動かしたりして、いい角度を見つけようとする。

 私は右に左にと動いていたが、ちょこまかしたのを鬱陶しいとで思ったのだろうか?

 フッとグレイが顔をこちらの視線の動きに合わせてきて、私とばちりと目が合った。


「ッ」

 こちらを見下ろす、グレイの黄色い目の強さに一瞬どきりとする。しかし次にはその眉が、片方クッとノの字に曲げられた。途端に可愛らしい雰囲気をグレイが纏う。

 美人はどんな表情画になるのでずるい。


「ティアは全然、俺の顔は見ないよね」

「え?」

「……他の人はじろじろ見てくるのに」

「その気持ちは分かります、グレイは美人さんなので」

「……そうか」

 

 グレイは言いながらソファに腰掛けた。

 その顔は満足そうな表情になるのを、必死に耐えているような……やや引き攣った顔をしている。再び唇をとんがらせているので、案外グレイの癖なのかもしれない。


 グレイは自分の髪をちょこちょこ整えると、僅かに下を向いた。狼耳が、ぴょこりと私の前に差し出される。


「はい。好きなだけどうぞ」

「い、いいんですか……!?」

「この前あれだけ好きに触ってたくせに今更それ言うのか?」

 それはそう。それはそうなのだが、前回とは決定的に違う点がある。

 それはグレイが人型かそうじゃないかだ!


 改めて、私の前に顔を無防備に突き出し、目を閉じているグレイの整った顔を見る。

 至近距離で見るその肌には、少しの肌荒れもなく、生まれたてかと思いほどキメが細かい。目や鼻、口など1つ1つの綺麗なパーツが完璧な位置で顔に並べられている。外見だけは、この世界に神様がいるのなら、1番の力作として寵愛されているに違いない。……その出生は、辛い道を歩ませる茨の道を歩まされた訳だが……。


 私はそっと、グレイの耳に手を伸ばした。

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