24. 浮かれる2人
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ふうとグレイは息を吐くと、倒れ込むようにソファに座り込んだ。
「すまない。あのポーションで強制的に人間に戻ると、結構疲れるんだ」
「いえ……。あの、狼の姿になっても朝になったら戻るんですか?もし自然に戻れるなら、早く人間に戻ろうとしなくても、その日はお休みってことにしちゃえば……「ダメだ」」
私の言葉を遮るようにして、グレイがそっと首を振った。
「俺はただでさえ周りの足を引っ張ってしまっているからな。少しでも役に立たないと」
「足を、ですか?そうは思えませんが……」
私が不満そうに眉を顰めると、グレイはハッと自嘲するように笑った。
「引っ張っているんだ。例えば瘴気の出ている山の方の戦場。……あそこに俺は行けない。体内に忌まわしい魔物の血が流れているからな。俺が狂暴化して味方を襲い出す可能性だって十分にあるから、足を踏み込めない」
グレイが自分の首をガシガシと掻いた。
「瘴気が出る前はこんなことなかったのに……!皆が今も命懸けで戦ってるかもしれないってのに……俺は……」
しばらくグッと握り拳に力を入れていたグレイだったが、やがてハアとため息をつくと、私の方を見た。
「すまない。まあそういう訳でな。1人でのうのうと安全地帯にいる俺にできることをしなければ、俺は自分を許せない」
私はしばらく辛そうなのを必死に隠して笑っている、グレイの美しい顔を見つめ返していた。
「……もし、グレイが瘴気のあるところにも戦いに行けるなら、行きたいですか?」
「当然だ」
やはりグレイは騎士団長なのだな。
そう痛感する私の脳内には、グレイが瘴気のある場所に行っても大丈夫にできるかもしれない道具がひとつ思い浮かんでいた。
だが、それも実現できるか分からないし、できたとしても実験は必須だ。今下手に言うべきではないだろう。
私はぺこりと頭を下げ、グレイの部屋をあとにすることにした。
「今日はありがとうございました!またお邪魔させてください」
「ああ、こちらこそありがとう。またいつでも来てくれ」
――――――
翌朝、ニマニマした顔を隠そうともしないマリスが私の元へ近づいてきた。
「あら〜ティアさんおはよう〜。昨日私が頼んだ仕事大丈夫だった〜?」
私はギロリとマリスのことを睨むと、「大丈夫でしたが?」と言うに留めた。
しかしマリスは私の怒りを感じ取ったのだろう、「ねえねえどうだった?部屋の中に入った?」としつこく付き纏って聞いてきたので、「すみません、今からヴィクトルに用事があるので!」ときっぱり言い切ると、私は足早にその場をあとにした。
「なによ〜」と叫ぶマリスの声は後ろから聞こえてくるが、無視して真っ直ぐヴィクトルの部屋へと向かう。
コンコンとノックし、ドアを開けると、中にはヴィクトルと……グレイがいた。
「「あっ」」
私とグレイは同じタイミングで驚いてしまい、それを見たヴィクトルが「ん?」と私とグレイを見比べた。
「どうしたの?ティア」
「ヴィクトルに相談があってきました」
「グレイのポーションのこと?」
「そ……え?なんで……」
知ってるんですか?とヴィクトルの方を見ると、ヴィクトルはグレイの方を指差していた。
グレイは私から顔を逸らして見せないようにしていたが、その顔はなんだか赤い。
「今グレイからもポーションの担当者をマリスからティアにかえてほしいと話があってね」
ヴィクトルがにこりと微笑んだ。
「マリスはグレイのことが怖かったみたいだけど、ティアはグレイとの相性も良さそうだし、代えることに異論はないよ」
ヴィクトルは相変わらずごちゃごちゃ机の上から紙を数枚引き抜くと、私に手渡した。
「これが、グレイ用のポーション作り方。満月の日に作って持って行ってあげてね」
「迷惑をかけるが、よろしく頼む」
グレイが頭を下げた。
「いえいえ!私も……色々頂いてるので」
昨晩のモフモフを思い出し、赤面しながら私は胸の前で手を振った。
恐らく同じく昨晩のことを思い出しただろうグレイも、また僅かに赤くなっている。
そんな私たちを交互に見比べ、ヴィクトルが「……おやおやぁ?」と顎に手を置いた。
「ッ、父さん!まだ何もないから!もう行く!」
この空気に耐えきれなくなったのだろう、グレイが大きな声で言い残すと、スタスタとものすごいスピードで部屋を出て行った。
「あ……」
「ティア、聞いた?“まだ”だってよ」
ヴィクトルは私の腕を、こつんと肘でつついた。
「それにグレイが僕を父さんと呼ぶ時は油断してるとき……昨日なんかあった?」
「本当に何も……も〜やめてください」
ないですから、とは言えず、私は自分の頬を手で押さえた。
「ヴィクトルだって私がモフモフした動物好きなの知ってたじゃないですか!」
私がむくれると、ヴィクトルはポカンとした。
「あ、そっち……?え……?」
そして今度は頭上にいくつもの「?」マークを出し始めた。
「では私も失礼します。ポーションの件、ありがとうございました」
私はそう言い残し、自分もそそくさと部屋をあとにすることにした。




