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エピローグ

 大晦日、みんなで森岡家にやってきた。

「本当に広いね……」

「どうぞ、遠慮しないで」

 涼恵の言葉とともに中に入ると、リビングに通された。

「こっちはおじいちゃん達の研究室だった場所だから、入らないでね。危険なものも多いから」

 涼恵がそう言って、恵漣とともにそばを作り始めた。その間、テレビでお笑い系の番組を見ていた。

「手伝わなくていい?」

「大丈夫ですよ。すぐ終わりますし」

 怜が声をかけると、涼恵は笑って答えた。

 そうして、そばを持っていく。時間は夜九時を回っていた。

「本当においしそうだな」

「涼恵と恵漣君のそばは本当においしいよ」

 麻実の言葉に雪那が答えた。

 皆でそばを食べ、みんなでゲームをし始める。そうしている間に十二時を回った。

「もう年を越したんだな」

「早かったね」

 皆で過ごすと、本当に早い。

「あけましておめでとう」

 誰が先に言ったのか忘れてしまったが、それにつられてみんな「あけましておめでとう」と新年のあいさつをした。


 昼過ぎ、着物に着替えて神社に向かう。

「きれいだね、涼恵」

「怜さんもかっこいいですよ」

 涼恵と怜が並んで、お賽銭の前に立つ。

((今年も一緒に居られますように……))

 何も言わなかったが、二人ともが同じことを願っていた、帰るときに「何を願ったの?」と怜に聞かれ「内緒です」と涼恵は微笑んだ。

 脅威が去った今、みんなの仲を切り裂くものはなかった。


 冬休みが終わり、学校に行く。

 いつもと変わらない日常。脅威なんて、最初から何もなかったように。

 怜が涼恵の方を見ていると、それに気づいた涼恵が小さく笑った。

 大丈夫。もう危険な目には合わせないよ。

 そう言ってくれているようだった。


 一瞬だけ、涼恵の瞳がライム色になった気がした。



 それから数年後、学園を卒業した二人はきょうだいや幼馴染達、そして元寮生達とともに研究者として祖父母の研究を引き継いだ。

 そんなある日のこと、兄に「たまには休んで、お二人で出かけてきたらどうでしょう?」と提案された。ちなみにみんな同じ場所に住んでいる。

「怜さんも、そろそろ……ね?」

「え、恵漣……!その、えっと……!」

「どうしました?怜さん。それに何のこと?兄さん」

 涼恵は首を傾げている。兄の左の薬指には指輪が光っていた。彼は友人で、涼恵と同い年の女性と結婚したのだ。その女性には元彼氏の幼い子供もいたが、それでも構わないと迎え入れた。

「……まぁ、そうだね……明日から二日間、二人で旅行に行こうか」

「私はいいですけど……」

 顔を真っ赤にしている怜に、恵漣は「ふふっ」と笑った。

「早く涼恵の子供が見たいですね」

「兄さんはお嫁さんいるでしょ……記也もだけど……」

 相変わらずな兄に、涼恵は苦笑いを浮かべた。


 次の日、二人で温泉旅行に向かう。

「たまにはゆっくりするのもいいね」

「そうですね。……まぁ、小説を書いているのにゆっくりしているというのもおかしな話ですけど」

 二人も相変わらず、小説を書いている。特に怜は作家として有名になっていた。

「本当に、あの頃が懐かしいね」

「えぇ。初めて会った時は兄さんの後ろに隠れていましたもんね」

 学生の時を思い出しながら、二人は笑う。不意に怜は「……涼恵」と呼んだ。

「はい」

「その……俺達、付き合って長いよね」

「えぇ、あれから四年ぐらいですかね?」

「そろそろ、身を固めてもいいと思うんだ」

 そう言って、怜は涼恵の手を包んだ。

「涼恵。俺と、結婚してください」

 プロポーズされ、涼恵は固まる。そして頬を染めて、

「……はい、喜んで」

 まるで花のように、笑った。



 ねぇ、風。

 また、私の子供として会おうね。

 うん、お母さん。

 ぼく、またお母さんの子供として過ごしたいニャ。


 どこかの記憶が、いずれ生まれてくる息子を笑顔で迎え入れた。

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