十八話 武器と別れと出発
六月 十一日
僕は朝、スッキリと起きる事ができた。部屋の時計を見ると、まだ六時であった。顔を洗いに一階へ降りて行った。一階からはジャブジャブという水の音がした。洗面所ではレナが既に顔を洗っている最中であった。僕が来たことに気づき、レナが顔を拭いて振り返った。
「おはよう〜。起きるの早いね」
「おはよう。今日はスッキリ起きれたからね」
そう言ってから、僕も顔を洗った。僕が顔を洗い終わると、キッチンでレナが朝ご飯を作ろうとしていた。レナは昨日朝ご飯を作ってくれたので、今日は僕が朝ご飯を作ろうと思っていた。
「今日は僕が朝ごはん作るよ」
「大丈夫だよ。別に苦じゃないし」
「いや、でも昨日作ってくれたから‥‥」
「じゃあ一緒に作ろう?」
「そうだね。うん、そうしよう!」
そう言って僕達は一緒に朝ご飯を作った。自慢するわけじゃないが、僕は家事が人並み以上にできる。両親は昔に死んでしまっているし、姉さんがいた時も、二人で家事を分担していた。その時、僕は料理担当だった。だから、そこそこの腕前は持っていた。僕が料理をするのを手慣れていることに気づいたレナが言ってきた。
「あれ? もしかして歩君、料理上手い?」
「割と小さい時から料理はしてたから、割と得意かな」
「せっかく、私の見せ場だと思ってたのになぁ〜〜」
「でも、レナの料理凄い美味しかったよ」
「え? そう言ってくれると嬉しいね〜」
そう言ってレナが照れていた。そんな事を話しながら、僕達は料理をして、五十分後に朝ご飯が出来た。二人でそれをのんびりと食べた。食べ終わると、時計は七時二十分であった。それから、僕達は今日の予定について話していた。
「ヘファイストスへ武器を取りに行って、一回家に戻ってきてから、出発でいいかな?」
ちなみに、ヘファイストスは朝八時からやっている。何でも、冒険者が朝早くからでも、ダンジョンへ行けるように、店も早い時間から営業開始しているそうだ。
「うん、それで良いよ〜。ところでさ、私もヘファイストスへ行っても良いかな?」
「レナも何か武器が欲しいの? あっ、そっか妹がヘファイストスにいるんだったけか」
「そうそう。みのりに話したい事があるからね」
「分かった。じゃあ、二人でヘファイストスへ行った後、荷物を持って、出発しよう」
「うん!」
そして、僕はダンジョンに行くための装備と黒い仮面を着けて、刀の代金を持って準備をした。レナは昨日とは違って、化粧をせずに、ダンジョン用の服に着替えた。だから、二人ともそこまで時間はかからなかった。現在の時刻は七時四十分だった。ここからヘファイストスまでは歩いて、三十分かからないくらいの距離であった。家を出て、僕はレナと色々な事を話しながら、ヘファイストスへ向かった。そういえば、ここ最近ずっと、レティアから話しかけてくる事が無いなとふと思った。
———ヘファイストス前
話していると、あっという間にヘファイストスへと着いた。休日の朝の為か人は少なかったため、ここにくるまでに僕は変に目立つ事は無かった。僕達は、ヘファイストスのドアを開けた。この前のように、ドアに付いている鈴が鳴った。
「いらっしゃいませー! あっ、この前の!! ん?? 隣にいるのはまさか、お姉ちゃん??!! えっ? えっ? 何でお姉ちゃんが?!」
レナを見たみのりがとても驚いた顔をして、バタバタしながら、僕達の方へ来た。
「やっほ〜、みのり。元気にしてた?」
「元気にしてた? じゃないよ!! 連絡も寄越さないで!! ここ一ヶ月くらいずっと音信不通で、すごく心配したのに!!」
みのりはこの前僕に対して使っていた敬語をせず、少し目元に涙を浮かべていてそう言った。僕が『えぇー』という表情でレナへ視線を送った。レナはみのりのそんな姿を見てあたふたとしていた。
「いや、みのりを泣かせるつもりはなかったんだよ!! すこーし連絡するのを忘れてただけで」
「本当に信じられない!! いつもいつも、心配する方の気持ちにもなってよ!!」
姉妹(主にみのりが)口論をして、店内が騒がしくなると、店の奥から、マスターである舞さんが出てきた。
「おーい、姉妹喧嘩は店の外でやってくれ。それより、ゼロ君。武器を取りに来たんだろう?」
そう舞さんが言うと、レナとみのりは店の外へ出て行った。
「じゃあちょっと、みのりと話してくるから。ゼロ君もゆっくりで良いからね」
レナが店を出る前に僕にそう言った。僕はレナに頷くと、ドアの鈴の音がして、外に出て行った。
「よし、うるさいのも消えたし、武器を見せよう。こっちにおいで」
舞さんが僕を手招きしてそう言った。そう言われて、舞さんがいた所まで行くと、舞さんが一つの木箱を取り出した。
「さあ、これが君の依頼した刀だ」
そう言って、舞さんが木箱から取り出した刀は妖しく光り、けれど見るもの全てを魅了するような誰が見ても美しいと思える一振りであった。刀身には波紋が綺麗に入っており、峰の部分は黒と表現するのが適切でないほどに黒く、全てを飲み込むかのようであった。そして刀の存在感はまるで、刀自身が一つの生物であるかのようなオーラを纏っていた。僕はその刀を見て、生唾をごくりと飲み込んだ。
——ほう、これは素晴らしいな
「!! ゴッホ、ゲホッ!、」
急に話しかけてきたレティアに驚き、咳が出た。
「どうした? 大丈夫か」
「すいません。大丈夫です」
——何をそんなに驚く、そんな事じゃないだろうに
(「最近全然話しかけてこないから、急にきて、ちょっとびっくりしただけですよ。でも、何で最近話しかけてこなかったんですか?」)
——ああ、色々あってな。でももう終わったから大丈夫だ。それとも何だ?私が話しかけなかったから、寂しかったのか?
(「そんなわけないじゃないですか!」)
——ハハ、冗談だよ。それはさておき、この刀は本当に素晴らしいものだな。刀の材料となった素材が完璧に活かされてる。まるで刀が生きているかのようだな
(「レティアから見てもやっぱり良いものですか?」)
——ああ。私は刀を使わないが、この刀を欲しいと思うぐらいには良いな
(「そんなにですか?!)
レティアと心の中で話していると、舞さんが語りかけてきた。
「どうだい? 気に入ったか?」
「はい!! それはもう!」
「それなら腕に寄りをかけて製作した甲斐があった。じゃあゼロ君、この刀に名前を付けてやってくれ。武器も人と同じで、名前を付けられて初めて、固有の物となる。名前は全てにおいて、存在の証明になるからな」
「そうですね‥‥」
僕は少し考えた後、名前を考えついた。
「決めました。この刀の名前は、鬼月です。まぁ、黒いオーガから連想して、安直っぽいですけど」
「いや、いい名だ。ではこの刀を君に渡そう」
そう言って、舞さんは仲間の刀を鞘に閉じて、僕へ渡した。刀を持つと、より一層、鬼月のオーラが僕の手を通して全身に伝わってきた。そして鬼月を腰に差し代金を舞さんへ渡した。
「それじゃあ行ってきます。本当にありがとうございました」
「ああ、気をつけてな。また、何かあったら来い。いつでも待ってるぞ」
「はい!!」
そう言って、振り返って、店のドアへ向かうと、舞さんが僕に言ってきた。
「ゼロ君! これは餞別だ。持っていけ!」
舞さんが僕に何かを投げた。それはお守りだった。どこにでもあるようなそれでいて、何か安心するような物だった。
「これは?」
「見ての通り、お守りだよ。安全を祈るためのな。頑張れよゼロ君!」
そう言って、舞さんは僕に手を振ってきた。僕はレナさんにお辞儀をした。
「行ってきます!!」
「ああ、いってらっしゃい」
そうして、僕はヘファイストスを出た。外では既に仲直りをしたであろう姉妹がいた。
「ゼロ君、話は終わった?」
「うん」
「私もちょうど今終わった所だよ」
「仲直りはできたの?」
「それはもうね。これからは私もちゃんと連絡するよ」
「そうだね。それが良いよ。じゃあ、もう行く?」
「うん。みのりにも少し、ここを離れる事を伝えたしね、もう大丈夫だよ」
「じゃあ行こうか。また来るよ。みのりさん」
「はい、不出来な姉ですがよろしくお願いします。気をつけて下さいね」
「うん。ありがとう」
「それと、お姉ちゃんも気をつけて」
「うん!じゃあ行ってくるね〜」
みのりはそう言ってから、僕達へ手を振った。僕達はそんなみのりを背に、ヘファイストスを離れた。そして、一度自宅に荷物を取りに帰った後、電車を使って、僕達は新宿へと行った。
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とうとう、第一章終了ですね。二章以降は長くなるのでお楽しみに!
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