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九十七話 歯車は着実に。

「ん。おー、歩」


天神が僕の姿を見ると手を振って軽薄にそう言った。右手には火が付いた状態のタバコが握られていた。


「・・・・」


少し煙たい空気に顔をきつくさせながら、無言で近づいていく。


「どーしたよ、歩。そんなに殺気なんて放ってよ」


殺気に気づいていないはずがない。そんな鈍感な奴ならば、こんな所に来ていない。それに、エドワードたちから接触するわけがない。

だから、こいつは僕の殺気に気づいたうえで、この態度を取っている。


「・・・・お前だろ、情報をフリッカー(アイツ)に売ったのは」


「・・・・さて、何のことやら・・・・」


天神は表情に何も感情は出すことはせずに、変わらず煙を吹かした。


「真面目に答えろよ、分かってんのか?」


より一層、僕の殺意が濃いものへと変貌した。返答次第ではすぐにこの場で襲い掛かろうとしているほどの敵意を隠すこともなく、惜しむ事もなく正面からぶつけていた。


「怖い、怖い。仲間に放つようなもんじゃねぇな。・・・・いや、普通は仲間に殺気なんて向けねぇか」


天神の通り、仲間に向けて良いようなものではなかった。けれど、フリッカーに情報を売って、あんなことをしたんだ。返答次第ではこいつはただの敵だ。


「・・・・」


「あー、分かったよ。ちゃんと話してやるから、その殺気を消してくれ。話しにくい」


天神は、やれやれといった風にして両手を上にあげると、肺に含んだ煙を吐いてそう口にした。


「・・・・」


火の勢いが緩くなった吸殻を取り出した携帯灰皿の中に捨てるのを無言で見つめていた。


「・・・・ふぅ、良いか? 俺たちは舐められてる、最近の無銘教のゴタゴタも含めてな」


綺麗な空気を肺の中に循環させて、天神が口を開いた。

確かに、日本は舐められていた。いや、舐められていると言うと語弊があるかもしれない、評価が下がっているといった方が正しいか。その理由は黒・金級の冒険者の数が少ないこと、そしてここ数年日本内で大きな功績が無いことによるものであった。ダンジョンや冒険者のランクがある以上、成果という目に見えるものは重要視されている。いくら黒級がいるとは言っても、成果が無ければ大きな意味は無い。


「・・・・で?」


だけど、そんなことと今回の事とは話は別だ。未だ、僕の天神への対応は変わらない。依然と大きな圧を保ったまま、問いただす。


「早い話、日本・・・・いや、お前の力を周知させる必要があった。これからを考えてな、上下関係なんてものは無いに越したことは無いが、あるのなら『()』に位置しないとならないからな」


「・・・・だから?」


「あー、悪かったとは思ってる。ただな、あれ以外にお前がキレる事が思いつかんかった。・・・・それに、あのお陰で色々と他の奴らを見て回れたしな」


「・・・・」


「レナたちには俺が謝っておく」


「当たり前だ」


「・・・・まだ納得いかねえか?」


「・・・・。いや、良いよ。・・・・まぁ、良いわけではないんだけど。お前が情報を売ったとは言え、フリッカーはもう叩き潰した。だったら、それで良い」


強制的に怒りを消すように、言い聞かせるようにそう言葉にした。天神がどう思っているのか、何を考えてるのか、その全ては分からないけれどしょうがない。

これからを考えても、これ以上に突っ込み続けて関係を悪化させるのは得策ではない。


「・・・・そーか。なら、ここからは話を変えるぞ」


天神はもう一本煙草を取り出すと、火を付けながらそう言った。


「何に」


煙を右手で払いながら、天神の顔を見た。


「言ったろ、色々探ったって。その情報だよ」


「なんかあったのか」


「いーや、特には」


天神は首をすぼめながら、そう言った。


「は? なら、僕は帰るぞ」


こいつ、おちょくってんのか? と思いながら、嫌そうな顔をして言った。

情報を伝えるのかと思ったら、何も無いだとかふざけてるだろ。


「・・・・ただな、目色が変わった奴はいた」


引き返そうとした僕を呼び止めるようにさっきの言葉に付け加えた。


「目?」


脚を止めて振り返ると、天神は少し笑っていた。


「そう、目。お前の能力を見て・・・・、いや違うな。何か他の事・・・・、詳細は分からねぇが()()で変わった」


『何か』、それに『目』というどちらも曖昧な事。だけれど、そんな些細な事でも今は重要であった。


「どういうふうに?」


「あれは、狙いを見つけた目だ。何つーのか・・・・、いやでも、確証は無い」


それ以上、深くは天神は言わなかった。

天神の確証のない先入観から来る疑心暗鬼を避けるためだろう。


「・・・・分かった。でも誰なんだよ、それは」


「お前も変な視線感じなかったか?」


「・・・・入った時から色んなところから視線があったから・・・・」


「・・・・そうか。これは絶対的な自信では無いけど、まず一つがエジプト」


「もう一つは?」


「アメリカだ」


煙草を一呼吸だけ吸って、煙を吐くとそう言った。


「! ・・・・エジプトとアメリカ・・・・」


アメリカは言わずもがな、黒級のミラー・スコッチさんがいる所。エジプトは金級四人が参加している精鋭の国。

どちらにせよ、軽視して良いようなものではなかった。


「あぁ・・・・。俺も最大限に気を回すが、お前も気は常に回してろよ」


流石の天神でも、そこだけは真面目だった。エジプトとアメリカ、そのどちらか、果ては二つとも。それらが敵に回ったらかなり厳しいものになる。


「・・・・うん、ありがとう」


「何の、これが俺の仕事だからな。ところで、騎士王への準備は大丈夫か?」


「え? あぁ、うん。未知の領域だから、断言は出来ないけど、大丈夫。力とそれに見合う自信はある」


「・・・・、そうか。いや、何。エドワード・・・・、いやアイリスやルーベルトが超心配しててなぁ」


レヴェルの奴らの顔を思い浮かべたのか天神は笑った。


「えー・・・・、あー。でも、あの人たちと訓練もしたしね」


エドワードが心配してるっていうのは嘘だろと思うけれど、まぁ有り得なくはないか。

あんな魔道具を持たせるくらいだし。


「・・・・そうだな。まぁ、明日からの調整で色々分かることもあるだろ。気は引き締めてな」


「うん、もちろん。そっちこそ、大丈夫かよ」


「ん? 当たり前だろ、俺は超絶に強いんだぜ? 黒級レベルは分からんけど、それ以外の奴らに負けるかよ」


過言・・・・とは言い切れない。現に、僕は天神に負けている。両者ともに素手での闘い、ほぼ能力のみの闘いで僕は天神に完敗していた。


「・・・・うん、それはそうか」


「だろ? なんせ、お前も俺に負けてるしな」


「・・・・そうだね」


「ってな訳で、俺の心配はいらねぇ。お前は自分自身の身、それとノアの事を少しだけ気遣ってやれ。それで十分だ。後はこの俺に任せとけ」


「うん・・・・、そうさせてもらうよ。ありがとう」


「あぁ、気にすんな」


そう言うと、僕は自分の部屋へと向かっていった。


「・・・・さぁーて。()()、しますか」


煙草を捨てて、一度背伸びをすると天神も歩いていった。


十一月 五日


「そんなもんか、歩」


「・・・・んな訳ないでしょ」


僕は今、ハインツさんと一対一で戦っていた。

理由は明白、来る黒級ダンジョンに向けての練習の一環であった。

最初、僕を含めた普通の冒険者たちは、ハインツさんなどの黒級もしくは黒級相当の実力を持った人と一対一で戦う。

その後、能力や実力に合わせて二対一で戦い、最後に各地のダンジョンを攻略してから黒級ダンジョンへと向かうという日程であった。


「そうか、どれだけ成長したかな・・・・?」


ハインツさんは既に現界された大剣を片手で掴みながら、僕と正対していた。


「顎抜かしても知りませんよ。封印:自動」


少しだけ笑うと、新しい技を最初からぶつけた。軌道をなぞって接近すると、ハインツさんの目の前で鬼月を振るった。


「! 軌道を予め決める・・・・か。面白いな」


けれど、当然のように躱された。僕の身の丈よりも大きい大剣を持っているのにも関わらず、何の雑作もなく避けるとかイカれてる。

初見の人からすれば、やってる事自体はほぼ瞬間移動みたいなものなのに。ちょっと、というか、かなり自信に傷が付いていた。


「封印:自動」


もう一度、今度はハインツさんの直ぐ手前までの軌道を設定すると、加速する流れに身を任せた。


「柳生新陰流 二式 神速」


瞬き一つほどの間に接近した僕は躊躇なく鬼月を振り抜いた。


「ラウンド:ツー アロンダイト」


「くっ・・・・」


大剣から長剣に持ち帰ると鬼月と甲高い音を鳴らしてぶつかり合った。

そのまま、ギリギリと鍔迫り合いになっていた。


「流石に、ですね」


力で負けるから、一刻も早く離れたいところだけれど、ハインツさんがそれを許さなかった。

どうやら、まだまだ届かないらしい。


「ああ・・・・、それ如きじゃな」


刀越しにハインツさんは口角を上げてそう言った。

このドヤ顔を何とかして崩してやりたいところだけど、このままだと僕に分が悪い。


「封印:自動」


鍔迫り合いの状態から、ハインツさんの真後ろへと身体の軌道を設定した。

直ぐに、ハインツさんの剣を滑らせて脇にずれると、真後ろへと二歩で移動した。


「懲りないやつだな!」


「柳生新陰流 二式 神速」


「芸が無い———?!」


真後ろに移動した僕へそう叫ぶと、振り返りと同時にアロンダイトと鬼月がぶつかった。


「ゼツ世界」


ぶつかった直後、鬼月の動きを加速させた。

出し惜しみはしない。エドワードに喰らわせたあの攻撃はエドワードが加減してくれていたから当たった、ならばハインツさんには最初から出していくべきだ。


「!! ラウンド:ゼロ プロテクト・アヴァロン」


ハインツさんは剣筋が異常になったのを悟ると、前に出しかけていた腕を引いて鞘に持ち替えた。

確かに一撃目、いや、過去に放った一撃目は当たった感じがしたのにも関わらず、純白の輝きを放つその盾によって、防御不能であるはずのゼツ世界が無効化されていた。


「エドワードにも通用した技だぞ・・・・?」


正直、完全に無効化されるとは思っていなかった。直撃はしないだろうとは思っていたけれど、まさか完全無効化とは。エドワードであれば一度時間を停止させてしまえば、二撃目以降は防がれることは無い。けれど、ハインツさんのこの防御に制限は無さそうだった。

連続で使えば、ワンチャン・・・・。とか思ってたけれど、全然無理だった。


「この感じ・・・・、時間に干渉してんのか」


鬼月を防いだ鞘を見つめて、ハインツさんがポツリと言った。


「! バレんのはっや・・・・」


初見で防いで、原理すら見抜くとか、本当にこの人はおかしい。

『最強』を与えられた冒険者は伊達じゃない。


「・・・・歩、よく聞け。それをあまり人前で使うな。と言うか、なるべくそれは使うな。

・・・・それは、人が使って良い限度の力じゃない」


「は? どういう事ですか?」


急に、ハインツさんがそう言った。次の行動に頭を巡らせていた僕は思わず、構えていた鬼月の刃先を地面へと降ろして、そんな気の抜けた言葉を返した。


「俺の知る限り、時間や過去に関与できる能力っていうのは殆ど見たことがない。・・・・というか、過去にまで手を出せる能力は俺は知らん。この、何億人と存在する地球で、だ。

・・・・『時間軸』というものに関与できる能力は人を辞めさせる、人の器じゃ耐えられん代物って事だと俺は考える」


ハインツさんはいつに無く、真面目にそう言った。


「・・・・」


まぁ、心当たりがないわけじゃない。そもそも、異能力の時点で何かしらの()()()()()はある。それに加えて、僕の能力はその中でも破格の能力。

それこそ人を辞める、それくらいの代償がなければ釣り合わない。


———・・・・・・・・。


「・・・・だから、良いか。他のはともかく、最後のあれだけはあまり使うな」


「・・・・分かりました」


「絶対使うな、とは言わん。お前がその線は見極めろ。もし、お前が・・・・」


その言葉には、いつものハインツさんらしからぬ圧があった。ハインツさんが言い切る前に僕は頷く。


「・・・・はい」


言い切ろうとした言葉。それは多分、僕が人を辞めた時、世界に仇なす可能性が出た際にハインツさんが殺すという事だろう。


「よし、ならもう一度だ。その技は抜きでクリーンヒットさせてみようか」


鞘から大剣に持ち替えると、ハインツさんはそう言って構えた。


「・・・・はい。ところで、コレ着けても良いですか?」


僕が指輪を回して異空間から取り出したのは、少し形状が変わった鬼の面だった。

以前、宮家さんに渡していたものが返ってきていたのだった。

まだ使ったことは無いけれど、どうやら腰を抜かすくらいにはビックリするらしい。どうせなら、ここでお披露目といこう。


「ん・・・・! 新しくなったのか、それ」


「はい」


「ははは、良いぞ。現時点での全力を見せてみろ」


ハインツさんは面白いものを見るような表情で、長剣を構えた。

ほんの少しだけ僕も笑うと、進化した鬼の面を着けるのだった。



「・・・・天神、男の中でも私は弱い男ほど吐き気を催す物は無いぞ」


ミラーさんが天神に向かってそう吐き捨てた。その顔には一切のデレなんてない、まさに氷のようなものだった。


「ふー・・・・、怖いね。だけど、強い女ほど落とすのが面白ぇのさ!」


天神 智基、能力は四神という名でイレギュラー。四神は、日本や中国に伝わる方角を守護する四体の神獣。天神はそれらの力を身体に憑依、纏わせることで戦うのだった。


「武装:白虎 白灼(はくしゃく)虎刃(こじん)


両手から発せられた白い炎が徐々に刀の形を取ると、白く鋭い太刀が生まれた。


「それだけか」


「いーや、まだだね。ちなみに、せっかちな女も好みだぜ。外装:玄武 玄牢武神(げんろうぶしん)


天神の全身を真っ黒な化け物が巻き付いた。右肩と腹部に亀の甲羅のような大きな装甲と、蛇のようなマダラ模様を持った鎧となって天神の身を包んだ。


「・・・・フロストノヴァ」


右脚でトンと床を軽く叩いた瞬間、天神へと強烈な冷気が襲った。

部屋全てを覆い尽くす氷が温度を急激に降下させながら、天神へと向かった。


「!! 先手必勝ってか!? けど、それじゃあ止めらんないねぇ!! 何故なら、俺の心臓ハートは常にヒートだからなぁ!」


太刀の白い焔が、場を一瞬で支配しかけた氷を融解させた。流石に、その場全てを溶かし切る事はできないけれど、自分の周りの氷は一つ残らず水へと変わった。


「白灼の権能は白い焔! それ即ち、敵対するものを浄化する純白の焔!!」


声に呼応するように、白い輝きがいっそうその強さを増した。


「そしてぇ、玄牢の権能は黒き盾! 武神の名を継いだ絶対物理防御!」


自信満々に、高らかに声を大にする。確かに、その自信を裏付けするように、天神の装備はどれも強力であった。それを言うのは、とても不本意だけれど。

それに、コイツは馬鹿すぎる。年上だけど、本当に馬鹿だ。


「ふん、自信は結構だが。勝ってからにしろ」


「!!」


ぶっちゃけ、遠距離から完封できるのなら、それに越した事はない。この人にとっては近づきたくも無いだろうし。

けれど、この人は判断は速い上に、勝つ上でならその男嫌いは考慮されない。

遠距離からの攻撃の意味が薄い事を知ると直ぐに、近距離戦へと切り替えた。


「まっじか・・・・!」


玄武は確かに、絶対的な防御を持つ。ただ、それはハインツさんのアヴァロンのように万能じゃ無い。絶対的な防御は玄武の甲羅の力が原動力、つまり物理には無類な強さを発揮するが、熱や氷などの物理以外の間接的なものに関してはその限りでは無かった。

ミラーさんは、天神にとって今一番されたく無い行動を即座に移したのだった。


「チッ・・・・、判断がお速いですなぁ!!」


「五月蝿いぞ、いや君の言葉で言うならば私が近づいてやったんだ。喜べよ」


「フッ・・・・、そうとも言えますね。よく俺の事を理解してくれているではないですか」


天神の白灼との氷の剣が合わさった。

キザとも取れるような口ぶりで、赤面するような言葉を羅列する。


「?! 浄化し(溶かせ)ない?!」


直後、余裕を持っていた天神の言葉の節に動揺が走った。

天神にとって奇妙な事が起こった。ついさっきまで全てを浄化(溶かす)していた天神の白き焔が氷を溶かす事が出来なかった。


「その炎は、君自身に敵対を示すものの浄化だろう? それは君自身に敵対心を持たなければ意味をなさないようだな」


四神は強力、そもそもイレギュラー。けれど、イレギュラーであろうと欠点が無い、という訳では無い。特に、天神はそれが顕著であった。

全ての四神の能力に対し能力の縫い目を沿うようにして弱点が明確に存在しているのであった。


「! 何故、それを!」


一瞬で能力の弱点を見破られた事を、驚愕な表情でそう叫んだ。


「・・・・」


ね、馬鹿でしょ?

自らの能力の開示は本当にアホすぎる。以前にリューがユゥと戦った時にも言っていたけれど、能力を自ら開示するのは危険以外の何物でもない。

今回のように能力の弱点を相手に知られる可能性や能力の上限を悟られる可能性がある以上、自ら能力を開示するのは禁忌と言っても良いほどのことであった。


「フッ、バレちゃあしょうがない! ならば、その上で戦うのみ!!」


けれど、僕はこの状態の天神に負けている。コイツが能力に関して自白してからの状態で僕は完敗しているのであった。


「!」


白灼虎刃、その能力は確かに天神自身に敵対心を持つもの全ての浄化。だけど、それは太刀の時の話。

形態が変わった時、その能力もまた少し変化するのであった。


「換装:白虎 白斂虎双(びゃくれんこそう)


白灼虎刃とは違い、リーチを短くする代わりに浄化の炎を収束させ、対象をより範囲的にする。

自分が敵と判断した対象に対して、斬撃と浄化を同時に行うことで二重のダメージを与えるというものであった。

白灼が絡め手を使うタイプなら、この姿は単純に攻撃に特化した形態であった。


「くっ・・・・!」


単純に、天神の方が膂力が上だった。ただ普通に撃ち合ってもギリギリな状態で、二倍の威力が襲って来る。ミラーさんは、折角有利に持ち込みかけた接近戦を手放すしかなかった。


「逃げないで下さいよ!」


有利な状況をみすみす逃すはずが無い。天神は距離を取ったミラーさんへと接近した。


「形勢逆転ですねぇっ!!」


「・・・・五月蝿い男だな」


煩わしそうに、ミラーさんは顔を顰めていた。

天神はよく、最初からその態度を貫き通されて動揺しないもんだ。


「・・・・アイス・エッジ」


接近させる事を拒むように、ミラーさんは腕を振るった。

腕を振ると、背後に急速に形作られた二対の長い氷剣が天神へと飛来した。


「うおっ!」


視界の切れ目から襲ってきた氷剣を片方は直撃しつつも片方は躱しきっていた。


「足りないか・・・・」


一応、片方は玄牢が無い顔面に直撃して、右側の歯が剥き出しになっていた。

だと言うのに、天神が倒れるというビジョンは一ミリとして浮かんでこなかった。


「転装:朱雀 朱纏雀華(しゅてんじゃっか)


黒い鎧が解かれ、その代わりに炎が身を包んだ。全身を薄い炎が覆い尽くすと、滴りかけた血も含めて天神の頬が回復した。

朱纏雀華、朱雀もとい不死鳥とも呼ばれる幻獣を鎧に化した状態。火が絶えない限り、使用者への不死と再生能力をもたらすものであった。

いくら身体が凍ろうとも突き進む。その姿はまさに、猪突猛進であった。

まぁ、朱雀という鳥を使ってんのに猪て、っていう感じだけれどね。


「フェニックス・・・・」


「ご名答! 朱纏は燃え盛る生命の炎!!」


急激に回復する炎を見れば、誰だってそれを想像するだろう。


「・・・・アイス・クウェイト」


ミラーさんは天神から距離を取りつつ、天神の周りを全て氷で覆い尽くした。


「そんなんじゃ、止まらないぜぇ?!」


「!」


直ぐに氷を砕きながら、天神が突進した。ミラーさんが距離を取る動きをしても、天神の足は全く止まらなかった。


「・・・・アイス・レーザー 五重(クインタプル)


天神の両足、両腕、そして顔面の五体全てに狙いを定めた氷のレーザーが同時に襲いかかった。

持っているのが白灼であれば全てを浄化することも可能、しかし今持っているのは白斂。換装するのにタイムラグがある以上、避けるしか選択肢は無いはずであった。

ただ、それは普通ならばの話。今、天神の身を纏っているのは朱雀。炎が尽きない限り使用者に再生能力と不死を与えるもの、そんな天神にとって、その攻撃は避けるまでも無かった。


「無駄」


顔面と両腕の部分だけ白斂で防ぐと、両脚への攻撃は無視した。

氷が突き刺さり、抉れたはずの両脚は直ぐに回復し、速度はそのままに突き進んでいた。


「アイス・チェイン」


攻撃で動きが止められないならば、強制的に動きを止めさせるしか無い。

ミラーさんは、焦ることも無く天神の四方から氷の鎖を生み出すと四肢を縛った。

本来ならば、鎖によって封じられた部分から凍っていく完全に動きを封じる為の技であった。


「無駄!」


けれど、天神は不敵に笑った。四肢を縛った鎖を力づくで強引に引き千切った。

鎖によって四肢が凍りつき始めている状態で強引に引き千切ろうとすれば、皮膚ごと剥がれ落ちる。それにも関わらず、天神は気にする事なかった。


「アイス・キャノン」


続け様にミラーさんは攻撃を放った。

あの尋常で無い回復力を見れば、あの鎖如きでは動きは止まらないのは既に理解していた。

だからこそ、鎖とほぼ同時に次の動きへ移行していた。

ミラーさんの伸ばした右腕の前に現れたバランスボールほどの巨大な氷塊を勢いよく放った。


「無駄だぁ!!」


鎖を千切ったことによって出来た、剥がれた皮膚が治ると同時に眼前に飛来した氷塊を双剣で叩き斬った。

そして、斬ると同時に前のめりになった身体を利用して、そのまま加速した。

とうとう、天神の射程内にミラーさんの身体が入ってしまった。


「貰った!」


「・・・・フロスト・ノヴァ」


けれど、笑ったのはミラーさんの方であった。

斬られる範囲内に入ってしまっているのにも関わらず、ミラーさんは笑ったのだった。

そして、最初に使った範囲攻撃を再び放ったのだった。


「無———、!?」


突如、天神の動きに不具合が起きた。さっきまで、ミラーさんが何をしようとも動じることなく突き進んでいた天神はその動きを急に停止させた。


「ッ・・・・は・・・・」


白斂が床に落ち、天神は自身の首を抑えた。息が出来ていないかのように、呼吸が疎になっていた。


「私の能力は、ゼロ・インパクト。絶対零度アブソリュート・ゼロを操る能力」


ミラーさんがそう言うと、天神の首から下が完全に凍りついた。白斂を下に落としてしまった以上、白灼に換装することもできない。完全に天神の負けであった。


「成る・・・・程・・・・、()()()


再び息を吸い込めるようになった天神は苦しそうにしながらも、納得したようにそう言った。


「そう、私はお前の肺を凍らせた。外側が凍らないなら内側から凍て尽くせばいい」


ミラー・スコッチ、彼女は『ゼロ』に関与する能力。それによって、全ての物体が動きを停止させる絶対零度を使用することで氷や対象を凍らせることを得意とするものであった。


「・・・・これじゃ、戦えないな」


もちろん、朱雀にも致命的な弱点はある。それは、内部の損傷には時間がかかってしまう事。そして傷は治ると言っても痛覚が遮断されるわけでは無いという事だった。

今回の様に、肺が凍らせるなど呼吸が出来なくなる様な事をされた時は回復はするとは言っても動きは止まってしまうのであった。


「案外、時間がかかったけどな」


「・・・・俺は合格かい?」


「・・・・。不合格では無い。何を気遣ったのか知らんが次は全力でやれ。以上」


白い息一つ出さずに、ミラーさんは手短にそう言った。


「・・・・ふふ。いい女ですね」


「黙れ」


部屋の出口へと歩きながら背中越しにそう応えた。


「・・・・あの、すいません。そろそろこれ元に戻してもらっていいですか」


天神は目線で凍った部分を指して、そう言った。

どうやら、その状態だと死にはしないけれど動くことが全くできないらしい。


「直に溶けるだろ、何分かは知らんが」


「え」


天神の顔から一瞬で血の気が引いた。ちょっと凍った程度なら、最悪皮膚を千切ってでも抜け出せる。けれど、今は全く身動きが取れないほどにガチガチに固められている。

そんな氷が溶ける時間は何分だとかという次元ではない。下手すれば何時間でも溶けきるか怪しいほどであった。


「じゃあな、私はまだ仕事がある。・・・・暖房は付けておいてやる」


「え、ちょっとま———!!」


ミラーさんはそう言い残すと、完全に凍てついて動くことの出来ない天神を置いて出て行った。



「君は戦う必要はないんだけれど、本当にやりたいの?」


インドネシアの代表である、『()()』クシャトリヤ・マタハリ。ノアは本来戦う必要はなく、僕たちが今やっていることに参加する必要は無かったけれど、自分自身の意思でこの人と戦おうとしていた。


「・・・・はい」


「うーん、まぁ・・・・良いか。じゃあ、掛かっておいで」


クシャトリヤさんは少し頭を掻くと、困ったような顔をしつつも了承していた。

けれど、その立ち姿はまともにやり合おうとは思っていないようであった。


「・・・・行きます」


「・・・・」


「加速」


ノアは踏み込むと同時に、その言葉を発した。まるで、僕が異能力を使った時のように一瞬でクシャトリヤさんの目の前まで接近した。


「うおっ・・・・」


戦えるどころか、そこまで動けると思っていなかったのか、急接近したノアに少し驚いていた。


「変形:大剣」


瞬間、手に持っていた小さいステッキのようなものがノアの身体よりも大きい大剣へとその姿を変えた。

重力に沿って落ちる大剣が逃げる事など眼中にないかのようなクシャトリヤさんへと直撃した。


「! ・・・・ほー、こりゃたまげた」


ノアの大剣に驚いたと言いながら、クシャトリヤさんは片手で刃を受け止めた。

いくら、ノアと技量も力も違うとはいえ、スピードに乗った状態の重量のある物を片手で受け止めるのは流石にやり過ぎだ。


「・・・・流石にそれは応えますね」


「いやいや、頑張った、頑張った。戦闘能力無しでここまで動けるなら」


笑顔な表情が逆に怖い。確かに表情は笑っている。でも、ハナから期待されていないかのような、そんな冷たい目だった。


「・・・・でも、やっぱり前には出なくて良いよ。むしろ・・・・」


「足手纏いで困る、ですよね」


言おうとした事をノア自身が言い切った。何も気にしていないというような素振りで客観的な事実を述べていた。


「・・・・うーん、いや、何と言うか」


「分かってます。けど、最低限は力を付けたいんですよ」


ノアはそれでも真剣だった。いや、常に真剣だけれど、それ以上に真剣な表情で強く訴えかけていた。


「・・・・」


「僕が弱いことなんて、百も承知です。必要とされてるのは回復だけだって」


「なら・・・・」


「でも、それでも『何も出来ない』は嫌なんです。少しでも、僕の存在を軽くしたいんです」


それはノアの本心。例え、黒級ダンジョンでなくとも非戦闘者の存在はそれだけで敗因の一つになりかねない。

仲間にそう思われなくても、本人にとってはそうじゃ無い。

ノアはどこまでも純粋に仲間が好きだった。だからこそ、闘う技術を身に付けるというのは大きな意味を持っていた。


「・・・・成る程、無粋だった。なら、もう一度掛かっておいで。今度は君が倒れるまでだ」


そこまですれば、想いは伝わる。クシャトリヤさんは、ノアの言葉に頷くと、右手に金色の籠手を付けた。


「はい」


「ああ、それと。俺は厳しいから覚悟してな」


「変形:刀」


大剣から持ちやすい武器に持ち帰ると、ノアはクシャトリヤさんに刃先を向けて構えた。


「それだけで良い? 一つきりで」


「一つでも手に余るので」


「そっか、良いよ。いつでもどこからでも」


今度のクシャトリヤさんには戦う気があった。先ほどとは違って、ノアに独特な構えをとっていた。


「加速」


「それじゃ、通用しない。最大速がそれなら、緩急を利用しな 」


「! はい」


「変形:弓」


弓に変形した直後に、五本同時に矢が引かれてクシャトリヤさんへと飛び掛かった。


「遠距離は近距離よりも意味無いよ」


クシャトリヤさんはそう言うと飛来した矢を全て素手で取り切った。

確かに、その言葉通り遠距離からの攻撃は近距離よりも意味は薄そうであった。


「変形:鎌」


弓から既に鎌に持ち替えていたノアは、それをクシャトリヤさんの後ろから首元へと投げた。

鎌の刃が弧を描きながら、クシャトリヤさんの首元へと迫った。


「遅———」


けれど、振り返り様に鎌を認識すると同時に右腕で迫る刃を殴りつけて軌道を逸らしてた。

まさに神業と言っても良いほどの回避。クシャトリヤさんはノア相手に、一分の隙を見せていなかった。


「加速!」


しかし、ノアの狙いは鎌を当てる事では無かった。目的は、クシャトリヤさんが鎌を弾いたその瞬間の隙だった。


「変形:大剣」


弾かれた鎌を加速して掴んで、即座に大剣に変化させると、クシャトリヤさんの右腕側から振り下ろした。

大剣を殴りつけた事で空いた右脇腹へ滑り込ませるかのようにして、クシャトリヤさんの懐に大剣を入れたノアの太刀筋は綺麗であった。


「・・・・二割解放」


突如、その身に金色のオーラを宿した状態に変化した。右脇腹に完全に直撃したはずの大剣は何故か途中で折れていた。


「ぐわっ・・・・!」


折れた大剣越しに伝わる振動で、思わずノアは大剣を手放してしまった。

手が痺れたのか、両腕が思うように動いていないようであった。


「よし、すこーし歯を食いしばれ」


爽やかな笑顔でノアにそう言い放った。

両腕から視界をクシャトリヤさんに戻すと、そこには半身になって左手を脇腹の位置に構えた姿があった。


「え・・・・、! ゴホッ・・・・!!」


アッパーをするかのような動きで、ノアの鳩尾に左拳が突き刺さった。

ノアの身体が前屈みのまま宙に浮かぶと、一瞬にしてノアの身体は限界を迎えた。

ノアは僅かな呻き声と共に、白眼を向いて床に落ちた。


「・・・・ま、こんなものかな。ノア・ライヘンドア君ね、・・・・まだ成長できそうだね」


クシャトリヤさんは籠手を外して、倒れたノアを担ぐと、そのまま休憩室へと歩いて行った。


同時刻、日本。


「・・・・やっぱり現地に行かないと分からないか・・・・」


宗一郎と、もう一人。寝る暇すらも惜しんで無銘教の拠点を調べ上げていた雅舟 荘司の姿があった。


「・・・・そうですね。ここまでやって、座標も分からないとなると、実際に行くしか打つ手は無さそうですね」


そう答える荘司の顔には、明らかな疲れの色が見えた。何台もの机の前にはエナジードリンクやコーヒーの残骸が佇んでいた。


「・・・・そうか」


「ただ、観測できない場所は絞れます。それでも数箇所ありますけれど」


二十一世紀、それもダンジョンによって高度に発展してもなお、超危険地帯であるアマゾンの全貌を捉えきれるわけではなかった。


「・・・・いや、それで十分だ。それぞれのルートだけ調べることは出来るか」


「それなら大丈夫です。あと数日だけお待ちを」


「あぁ、助かる」


「何の。僕はこれくらいしか出来ませんからね」


充血した目を擦りながら、荘司は苦笑いをした。


「・・・・後は、アイツらか」


宗一郎はそう静かにつぶやいた。頭で考えていたことが漏れ出てしまったかのように小さくつぶやいた。


「アイツら?」


突如、宗一郎の口から出た言葉に、荘司が反応した。


「・・・・いや、こちらの話だ。気にしなくて良い、情報の特定だけ頼むぞ」


何事もなかったかのようにして、話を強制的に区切ると宗一郎は荘司の椅子に背を向けた。


「はい」


そして、宗一郎はコンピューターに囲まれた暗い部屋を出ていった。


「来ていたのか」


階段で屋上まで来ると、宗一郎は椅子に座る人物へとそう言った。


「・・・・その情報、後で俺たちにも下さいよ?」


師匠の目の前には甚平の姿があった。屋上の椅子に背中まで預けて足を組みながら、柄にもなく缶コーヒーを飲んでいた。


「・・・・聞くのは何度目か分からないが、信用して良いんだな?」


「えぇ、歩に連絡しましょうか?」


飲み終わったのか缶コーヒーを椅子の上に置いて、携帯を見せびらかしながらそう言った。


「・・・・いや、悪かった。援軍として力を貸してくれてありがたい。差し出がましいが、頼む」


隠す素振りも無いその姿勢に、宗一郎も疑う事をやめた。甚平とは既に何度もあってはいるが、それでも尚、疑念は持ち続けていた。

宗一郎にとって確かに払拭しきれない疑念はある。けれど、信じる価値はある。その為に、疑念を捨てなければならない。

だからこそ、宗一郎は疑念の上に信頼を塗り重ねた。


「えぇ、もちろん。無銘教を潰すのは俺たちの宿願でもありますので」


最初に会った時に言った事を甚平はもう一度口に出した。

宗一郎の葛藤を理解したのか、甚平は念を押すようにしてそう言った。


「・・・・宿願、それは能力に関係する事か?」


宗一郎は刻藤 歩のような異能力を指してそう言った。


「! ・・・・そうですね、いずれ話しますよ。俺たち、・・・・歩を含めた者たちの事を」


「・・・・出来ればそれは弟子自身の口から聞きたいものだけどな」


「はは、それはそうですね」


「では、また。俺たちは一足先に準備しておきます」


そう言うと、甚平は姿を消した。


「・・・・レヴェルに無銘教。大変だな、歩」


遠く離れた地にいる弟子のことを考えながら、()()はそう呟くのだった。


欲の摩天楼


「・・・・わっちに頼み事?」


時代には分不相応なキセルを咥えながら真白がそう言った。


「そう、私の武器をあつらえて欲しい」


レナが暗い表情をしてそう言った。


「・・・・。理由は聞かへんだる、これは貸しやけどね」


真白は、深い話をしようとはしなかった。ただ一つ、キセルから唇を離して煙を吐き出した。


「・・・・それで良いよ、だから早急に用意して」


「まぁ、せっかちな事。そんなにラウストの研究所は大変やった?」


「・・・・」


「・・・・黙りこくってしもうて、全く」


「・・・・依頼が完遂出来なかったのは。・・・・認める」


レナは喉の直ぐそこまで出てきかけていた言葉を飲み込んで、そうポツリと言った。


「責めてるわけでは無いんやよ」


灰を灰皿の上に落としてからキセルを置いた。


「・・・・」


「・・・・武器の要望は?」


「籠手と短剣」


レナはそう言って、猛牙との戦いで破壊された短剣とヒビが入った籠手を真白の目の前の机に置いた。


「・・・・壊してしもうたの、それ。高かったんやけどねぇ・・・・」


武器が使い物にならなくなるほどに壊れているとは思っていなかったのか、少し驚いていた。


「・・・・」


「・・・・二日だけ、待ちなはれ。最高級のもの、用意したるさかい」


「・・・・ありがと」


「その代わり、今度またわっちのお願い聞いて貰うけどなぁ」


「・・・・分かってる、埋め合わせはする」


レナは最後まで正面から真白の顔を見る事はせずに出て行った。


「それなら、ええよ」


レナが出て行った部屋で、真白はそんなレナの姿にほんの少しだけ、表情を曇らせてそう言った。


「———これも、あんさんの言うた通りやんなぁ」


真白は虚空に向かってそう言う。


「・・・・・・・・」


誰もいないはずの部屋で、真白はそう言う。もし、誰かが見ていたのならさぞ気味悪がる事だろう。


「ほんまに、何者なん? あんさんは」


「・・・・今は、どうでも良い事だ。いずれ話す時に話すさ」


突如、虚空からレナに依頼をした時にもいた男がゆらりと現れた。

口を開いたその男の声は、どこか聞いたことのあるような声だったが、少し掠れている様だった。


「うーん、皆んなして強情な人ばっかやなぁ。まぁ、わっちに取ってはそれも一興やけどね」


「悪趣味」


「ふふ、なぁに? わっちに取っては他人の命も自分の命さえも娯楽の一部に過ぎんからねぇ」


「・・・・相容れないな」


少しだけ男から圧が漏れた。その言葉は男にとって不快だったのか、嫌そうな感情が言葉に詰まっていた。


「でも利用はできる、やろ? あんさんはわっちに面白いものを、わっちはあんさんにその対価を。まさに、わっちはあんさんにとって都合の良い女とちゃいますの?」


そんな圧に臆した様子もなく、真白はその男に近づいて、キセルの代わりに持った扇子で男を指しながらそう言う。


「・・・・食えない女だ」


顔は見えないが、嫌そうな顔をしているのが想像出来るようだった。


「褒め言葉として受け取っとくわぁ、おおきに」


真白は男の言葉にそう返した。


「あれ? もう行くん? お茶でも飲んできやんの?」


真白の性格からして、お茶の誘いなんて十中八九何かしらの他意があるだろう。


「・・・・悪いが、やる事がまだあるからな。時間は全く足りない」


男は身に纏ったローブを口元が覆うほど深く上げて、そう言った。

血走るほどでは無いが、男の眼にはどこか焦燥があった。


「ふーん、何をしてはるのか分からんけれど、また何かあったら言うてなぁ」


その眼には気づく事なく、真白はそう言った。

真白にとって、この男の存在は自分にとっての余興程度の存在なのだろう。


「・・・・そうだな」


そう言い残して男はフードも深く被ると、闇に消えていった。


お久しぶりです。

第四章、もう少ししたら本題に入っていきます。真白と一緒にいた男は誰なんでしょうね。

こぼれ話です、本編で付喪神の姿が見えないですが、歩はお守りを既に返しています。その話はどこかの幕間に書くと思います。

ちなみに、天神は煙草を吸ってますが、歩の前でカッコつけてるだけです。基本は吸いません。天神の玄牢ですが、本当なら頭の部分も武装します。今回はしてないですけれど。

どこかで書く、いや書かないかもしれませんが、ノアの装備の脚部分は膝ほどまであるブーツ型魔道具、武器は宮家に頼んで素材を揃え、自分で改造した変形武器になっています。書けなかった話ですが、ハインツのアヴァロンは万能では無いです。ある条件を満たすと無効化出来ます。

それでは、また次の話で。

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