エピローグ
「おまえ、ころしゅ」
「ああ、おはようさん」
東の雷鳴が聞こえる時刻の直前、目が覚めた俺はガキが振り下ろしてきたナイフを手首を押さえて受け止めている。
ガキの手首には包帯が巻かれており、いつもより力がない。それを押さえる俺の手も、病み上がりのせいで力がない。
お互いにすぐに疲れて、あっという間に寝起きの恒例行事が終わる。力尽きたガキがドサリと俺に覆いかぶさるように身体を預けてくる。
なぜ致命傷を負ったはずの俺が生きているのか、種明かしをすれば、ガキの血のおかげだ。
あの手長にやられた俺に、ガキは自分の手首を切り裂いて自分の血を振りかけてきた。
どういう理屈かは知らないが、それを受けた俺の傷はあっという間にふさがり、あの世の一歩手前から引き戻されたってわけだ。
その後は手首を切り裂いたガキに急いで止血を施し、村へと戻った。俺もふらふらだったから、数日世話になって体を休め、それから定宿へ帰ってきたってわけだ。
このガキが、あの小鬼の巣で生かされていた理由がやっとわかった。こいつは生きる傷薬として使われてたんだ。全身生傷だらけだったのはそういうことだ。
どうしてこいつが俺を助けたのかはいまいちわからないが……こいつはもう俺の命の恩人だ。捨てられない理由が別にできちまった。
なぜだか、笑えてくる。機嫌がよい、と感じている。おれにかぶさったままのガキの頭を撫でてやる。
「おい、子連れの。見舞いに来てやったぞ」
部屋の外から古馴染みの声が聞こえ、無遠慮に扉が開かれる。慌ててガキをどかそうとするが間に合わない。
「何の用だ。別に呼んじゃいねえぞ」
「見舞いに来るのに許可を取るやつなんざいねえよ」
古馴染みは寝台の脇の机にそこらの屋台で買ったんだろう安物の菓子を並べる。
「それよりも、ちったぁ吹っ切れたんじゃねえか?」
古馴染みが俺の顔をじっと見ながらまたいつもの台詞を吐いていくる。
「それは俺の自由だっつってるだろ」
俺の腹の上では、ガキがいつの間にか寝息を立てている。
「だが、ちったぁそうなのかもな」
ガキの頭をがさりと撫でて、俺も二度寝を決め込むことにした。
了
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