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59-犠牲の下に成り立つ幸福

「はん!そないな態度で誰が許すと思うん?ほんに許して欲しぃ言うんなら、腕の一本でも貰っとこうか?」


 猟奇的なことを言い始めた痴女鬼さんの怒りは本物みたいです。このままだとスプラッターな映像を見る羽目になりそうですね。

 身体の一部を寄越せだとかもう完全にやぁーさんのそれですよ。これまた凄く似合いそうなのが憎いよね!って誤魔化して意識を外に向けたいのですが・・・この強制的に回想シーン見せられるのって一種の拷問だよね?


「ちょ、それは流石に酷くない?だからごめんってば!私もさ、そこの仔竜ちゃんに興味があるのよ。だからあんた達が私よりもだいぶ親しいみたいでさ、ついつい嫉妬しちゃったってわけ。仔竜ちゃんに想いを寄せる仲間ってやつでさ、ここはどうか温情をくれないかな?もちろんタダじゃないよ?私んとこに招待して歓迎するからさ、だからお願い!このとぉーり!ね?」


「くふっ、そないなことでうちが絆されると思うたら・・・」


 やはりその程度で絆される痴女鬼さんでは無いようで、今にも飛び掛からんばかりに臨戦態勢で身構えています。

 その痴女鬼さんの態度に焦りを感じ始めたのか、必死に懇願してさらに貢物のレートを吊り上げてきました。


「そこをどうかお願い!それにお酒も用意するよ?世界各地の美酒を取り寄せてるからさ、その種類だけでも楽しめると思うんだ。ぁ、そう言えば確か君は博打好きだったよね?私んとこはカジノもあるからさ、一ヶ月ぐらい遊べる額なら提供するからどう?」


「思うたら・・・ってなんやって?世界各地の美酒に・・・カジノやなんて・・・半年なら考えても良いんやけど?」


 先程まで悪鬼の如く口から謎の白煙が昇るほどに怒りを露わにし、暴走初号機も斯くやと云った痴女鬼さんでしたが、美酒賭博と如何にも鬼が好みそうな人としてはダメな部類の欲求を刺激されたようで、延長を望むまでには少し冷静になったみたいです。

 どうにか血みどろ解体ショーを回避できて良かったです。使徒を取り込んだからって、必ずしも適合するとは限らないんだからね?


「ぇ、流石にそれはちょっと・・・だぁーわかりました!でもある程度の額までとして残りは他の娯楽施設を楽しめる無料パス渡すからさ、それで勘弁願いたい!」


 どうにか袖の下が上手く運びそうな感じでしたが、その一連のやり取りを見守っていた他のメンバーもその賄賂の中身に大変お気に召したのか、催促の嵐が吹き荒れました。


「ぁ、吾も欲しいぞ、それ!確かお主が治めてる土地は娯楽で有名じゃったな?酒とか賭博とかはあまり興味無いが、娯楽施設は気になるの。吾もそれを所望するのじゃ!」


「にゃあ、レジャーランドでアキクンとデート・・・良いのにゃ!ウチも無料パス欲しいにゃ!?」


「ぇ、なんであんた達の分も出さないといけないの・・・」


「そやなぁ。ここに居よる全員分出す言うんなら、今回のことは水に流そうやないの?」


「ぇ、ええええ?!・・・ッ、分かりました、わぁーかりましたよ!だぁーもうこれ完全に赤字じゃんよ?!ハァ~なんで私あんなことしたんだろう・・・あの子が私を女の子扱いしたのが悪いのよ。ホント罪作りな子なんだから」


 周りが歓声に沸く中、フードを目深に被ったその人物はがっくりと肩を落として何やらぶつくさと愚痴を零していましたが、何かを思い出したのか苦笑いを浮かべつつも何処となく嬉しそうでした。


「ふむ。何やらまとまったみたいね?それじゃ私は忙しいのでこの辺で・・・」


 またしてもそんな事を呟いて、こっそりとその場から逃げ出そうとする唯我独尊派幼女様ことリーファさんを引き留めるべく、大損散財系フードさんから声が掛かりました。


「待ちなさい、そこのお嬢ちゃん。話は聞いていたわよ。そこの仔竜ちゃんをアイドルにしたいって話だけど・・・私と組まない?」


「ぇっ?どうして私が貴方と組まないといけないのかしら?それに貴方は誰なのよ?!他のメンバーは知ってるみたいだけど、よくわからない奴と手を組むなんてまっぴらだわ」


「おっとこれは失礼。まだ名前を名乗っていなかったね?私の名は・・・」


 疑心に満ちた声音の幼女様からの問いに応えるべく、名乗りを上げようと目深に被ったフードを持ち上げ顔を露わにするフードさん。

 そしてその露わになった顔はと言うと、整った輪郭と鼻筋にぶるんとした唇、北欧の戦女神を彷彿とさせる勝気そうな瞳は金色に煌めき、その眉と長髪も同じように金色に彩られた、若く美しい女性でした。

 年の頃は二十代前後かと思いますが、この世界では割と年齢と見た目が合わない事が多いので違っているかも知れません。


「あ、貴方は・・・」


 その姿に見覚えがあったのか、あんぐりと口を開いた幼女様の間抜け顔は是非とも額縁に飾りたいほどです。


「私の名は・・・ギルシュッメアよ。よろしくね、リーファちゃん♪」


 何と!北欧戦女神系フードお姉さんの正体は、前にリーファからこの世界の神々の話に出てきた、はた迷惑筆頭株の神ギルシュッメアその人でした。

 あれ?でも聞いてた人柄って言うか神柄とは少し印象が違う気がする。ぁ、でも毒舌と言うかいい加減で強引な話し方は、財産強奪の逸話と合ってるのかも。


「ぎ、ギルシュッメアって・・・あのギルシュッメア様?!それになんで私の名前を知っているの!?」


「そう、その成金強欲神で有名なあのギルシュッメア様とは、私の事よ♪それと何故リーファちゃんの事を知っているかと言うとね、貴方のお父様の・・・」


「ぁ、それは良いです。私関係無いので」


「ぇ?あらそう?・・・ぁ、やっぱりあの事でまだ根に持ってるのかしら?でもね、あれは貴方のお父様が・・・」


「いえ、ですから私はもう関係無いので気にしないで下さい。それでギルシュッメア様、私と組むと言うのはどういう事でしょうか?」


 我関せず系幼女様の様子を見るに何やら父親と因縁がありそうですね。

 それにまだ幼い年頃で、親元から離れてメルさんと一緒に住んでいることを考えると、両親とはあまり上手くいって無いのかも知れません。

 まぁどんな事情があるかわかりませんが、今は語られることは無いのでありました。


「あらあらだいぶ根深いわね・・・まぁいいでしょ。それと私のことはメアで良いわよ?ギルシュッメアなんて仰々しくて長ったらしいわよね。あと口調もいつも通りで良いわよ?今から手を組む間柄になるのだし」


「はん。何の話をしよるんかわからんへんけど、前の口調に戻っとるやないの、メア?」


 確かに先程まで痴女鬼さんと会話してた時と比べ、お淑やかでどこか艶のある話し方に変わってますね。

 あれ?そう言えばこの声音何処かで聞き覚えがあるのですが・・・んー気のせいかな。こんな美人さんなら忘れるわけないですし。

 オトコノコの美人ファイリング術は、異性をドン引きさせるには十分なんだぜ?


「もう!今交渉中なんだから少し黙って貰ってて良いかな?こう云った事は最初が肝心なんだからね!まぁでもリーファちゃんにいつも通りってお願いしてるのに私がこれじゃいけないか。それに今はこの口調の方が慣れちゃって楽だしねぇー。ん、ってことだからよろしくリーファちゃん」


「わ、わかったわ、メア。それで手を組むってどういう事かしら?」


「そうそうそれなんだけどさ、私がスポンサーになってあげようかと思ってね。私んとこの娯楽施設を提供するからさ、そこで仔竜ちゃんをデビューしてみないかな?って」


「ぇっ?!私んとこってまさか・・・ギルシュッメア様が統治しているあのラスベガラですか!?」


「そうそうそのラスベガラ。それとメアね、メア。あと驚くのは良いけど敬語も勘弁ね?」


「いやでも、急にラスベガラだなんて・・・それに娯楽施設の提供って事は大舞台のステージってことよね?!彼の国のあとにラスベガラって考えては居たけど、正直最初は路上ライブからと思ってたのに・・・まさに棚から牡丹餅!瓢箪から駒よ!!これなら直ぐにでも大スター間違いなしだわ?!そうしたらまーじんががっぽり入ってきて夢の豪遊三昧が・・・うひっ、うふひっひひひひひやぁはははははは」


 突如ふっと湧いた幸運に興奮を隠し切れないのか、皮算用の果てに夢見る生活を夢想し始めトリップする、純情じゃない系あぶない幼女様が気持ちの悪い笑い声をあげました・・・この幼女さん、欲に忠実過ぎやしませんか?


「ちょ、ちょっとどうしたの突然?!ね、ねぇ大丈夫?」


「ぇえ、もちろん大丈夫なのだわ!!是非とも今すぐに組みましょう!よろしくお願いします、メア様!?」


「ぁ、ぅんよろしく・・・って様も要らないんだけど?」


「いえいえすぽんさぁ様なのですから、これぐらいは御許し下さい・・・それでは早速彼の国でコイツ・・・アキクンを女の子にして来ますので、お待ち下さいませ。それでは行って参ります!」


「ちょっと待って!やる気が出てくれたのは嬉しいんだけどさ、その事についてちょっと話って言うか、スポンサーとして提案があるんだけど良いかな?」


「なんでしょう?すぽんさぁ様のご意見でしたら是非ともお聞きするのだわ」


「それは良かった。それでさ、その仔竜ちゃん・・・アキクンだけど、女の子にするのは止めてもらえるかな?」


「ぇっ?!で、でも、アイドルは女の子じゃないとダメなのでは?」


「まぁ基本そうなんだろうけどさ。それじゃ面白味も無いし真新しさも無いから、話題に欠けるんだよね」


「そ、そうなの?ではどうしたら良いの・・・でしょうか?」


「あははっ、ホント無理しないで良いからさ。気軽に接してくれた方が私としても嬉しいからお願いね?それでだけど・・・男の娘アイドルで行こうと思うんだけど、どう?」


「オトコノコアイドル・・・ですか?」


「そうそう、おとこのむすめでおとこ。アキクンの人化の姿は女の子みたいで可愛いし、ルックスも問題無いと思うんだよね。それに、ショタ受けも良いみたいだし、需要は十分ありそうじゃない?私金儲けに関しては鼻がめっちゃ利くから、絶対成功すること請け合いだよ?!」


「むほぉ!アキクンが男の娘アイドルですって!?大賛成よ、リーファ!私、アキクンのパトロンになるわ?!」


 今まで他のメンバーに散々な扱いを受けて落ち込むようにして項垂れ膝を付いていたショタ狂い(スモールビッチ)さんでしたが、男の娘アイドルの話を耳にしたとたん獣欲に濡れた眼を再発させ、世迷言を言い始めました。この変態の存在そのものがもう許容出来ないのですが。


「ちょっと変態は黙ってて貰えるかしら?今大事な商談なのだわ」


「リーファまでヒドイ!!?」


 変態な身内のあしらい方を覚え始めた幼女様ですが、是非もありません。


「そう言う事だから、彼の国でアキクンを女の子にするのは止めてね?・・・それにそれじゃ私が美味しく頂けないしね」


 すぽんさぁ様が最後に何やら口を零していた気がしますが、今後齎される富と名声に頭がいっぱいとなった幼女様には聞こえなかったみたいです。

 契約書を熟読せず被害を受けるのは決して契約した当人だけでは無い事をまず身内は覚悟するべきです。切りたいその縁。


「わかったのだわ!すぽんさぁ様のご提案に乗らせて頂くかしら!?」


「じゃ、決まりね!それじゃ今からみんなでラスベガラに向かいましょうか?」


 それぞれの思惑を乗せた歓声が上がり、こうして一同はラスベガラへと向かう事になったのでした。

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