51-業を背負いし者達の狂宴
窓からの射光のみを灯りとした館内は、場の異質な雰囲気も相まって少し薄暗く、まるで今から行われる営みをベールで包み込むかの様に隠し、神秘さを演出するかのようだった。
もちろんそんな淫靡で蠱惑的な営みが行われている訳がなく、それが真実である事は、今もなお救いを求める声が悲痛な叫びとして響き渡る事で分かると云うものだ。
ただまぁその淫靡な営みを望む者が居ない訳でないが、その想いが叶う事は無いだろう・・・規制って大切なモノなのです。
そんな今まさに刑の執行から逃れようとする、無辜なる者の悲痛な叫びを聞き入れ救わんとする勇みある者が、この牢獄たる場所唯一の脱出口となる正面玄関の扉を開け放ち、現れたのだった・・・。
「待たせたかしら!!真打ち登場なのだわ!!」
闇を打ち払うかの様に今まさに開け放たられた扉から救いの光が齎され、その逆光を浴びて現れたのは、勝気そうな眼が何処か無理をしている様で、それに合わせた表情と仕草もどことなく芝居がかり、紅いドレスとその特徴的な縦巻きロールを翻した・・・幼女さんが現れました。
「ぇっ、誰!!?」
突如現れた、救いの勇者然とした幼女さんに何処か見覚えがありましたが、急な状況の変化と叶うとは思って無かった救いの光を目にして、戸惑ってしまった僕は思い出せずに居ました。
「あれぇ?囚われて居るのわぁ、あの子なのぉ?確かぁ、リーファの従魔ってぇ仔竜じゃ無かったかしらぁ?ヒルデ、ここでぇ間違い無いのよねぇ?」
んぅ?と可愛らしく小首を傾げ、舌足らずな声で誰かにそう問う幼女さん。やっぱり何処かで見覚えがあるんだけど、誰だっけ?
「間違いありませんよ、エリスお嬢様。そこにいらっしゃる少年が、件のリーファ嬢の従魔となります。今は人化の術を使われているのでしょう」
「ぇっ!本当!?す、凄いわ!!人にまで化けられるなんて・・・ぅうっ、リーファのインチキ!!」
急にぷんすかぷんと、あの舌足らずな物言いとは違う癇癪を示した所を見ると、今の声が本来の喋り方なのかも知れないね。
それに、新たに現れたコンシェルジェ風メガネっ娘と勇者然とした縦巻きロールの遣り取りに記憶を刺激され、その二人の正体にやっと思い至る事が出来ました。
「ぁ、リーファの知り合いのエリスちゃんにヒルデさんじゃないですか!?」
「お久しぶりです。アキクン様で宜しかったですね?エリスお嬢様と二人、助けに参りました」
「わぁ!覚えててくれたんだ!!ぁ、ぇっと・・・そ、そうなのですわぁ!このぉエリスが、貴方を助けに来たのぉですぅわぁ!!」
「無理してのリーファ様直伝のレディ口調・・・萌えます?!」
相変わらずな二人を見て現状も忘れて苦笑いを浮かべる僕ですが、どうしてこの二人が僕を助けに来てくれたのか、それに何故この状況を知って居るのかが気になり、自身の立場も忘れ問い質して居ました。
「た、助けに来てくれてありがとうございます!ですが、何故お二人が僕が囚われの身であるのを知って居るのですか?」
「んとね、ヒルデが教えてくれたの!ぁ、間違えた・・・ヒルデがぁ教えてぇくれたのかしらぁ?」
「ハァハァ、時折見せる素の喋り方のギャップで萌えキュンですよ、エリスお嬢様。っと、そうですね。私からご説明致しましょう」
ヒルデさんの説明によると、いつもの様にエリスちゃんに指示された事を建前に、リーファとエリスちゃんの遣り取りで発生するエリスちゃんの萌えキュンな姿を拝むべく、リーファを観察し報告するためにストーキングして居たら、僕が暴走したメルさんに囚われて何処かに転移したのを確認し、これはいつもにも増して面白可笑しくエリスちゃんを楽しめるぞいと踏んだヒルデさんが、早速エリスちゃんに事のあらましを伝えたみたい。
それで、その情報を聞いたエリスちゃんが、
「そうなの!リーファより先にアキクンを助ければ、リーファが私を褒めてくれると思ったの!!そしたらお礼にいっぱい遊んで貰うんだ・・・かしらぁ!」
「そして私は、状況判断によりこの場所が怪しいと的確に判断したと言う事です。エリスお嬢様の痴態を見る為なら、どんな事も不可能では無いと自負しておりますので、これぐらい造作も無い事ですよ。はっはっは」
「そ、そうですか・・・」
ぶれないヒルデさんマジ万能従者?!あれだね、自身の欲望に通じる事があると本来の力以上に発揮するという火事場の馬鹿力的なモノかも知れない。
そんな何処か当事者を無視した流れを必死に作って、どうにか今置かれている自身の現状から目を背けようとしていた僕ですが、それも束の間の出来事だったみたいです。
「・・・ヒルデ、邪魔する気かしら?」
底冷えする様な恐ろしい声が響き、先程までの気の緩んだ雰囲気が一変して、暗く陰湿な牢獄へと戻されてしまいました。
しかし、メルさんの理知的な物言いから察するに、突然の闖入者によって少しは理性を取り戻せたみたいです。
これならもしかしたら理性に訴えかけて、上手く交渉できるかも知れません。
ここは、ヒルデさん達の応酬に期待して見守るべし!?ヘタレとかは今回はノーカンだと思う(レイプ目)。
「そうなりますね。エリスお嬢様は、そちらの彼を助けたいみたいですし、私はそれに従うまでです」
「・・・そう。それは、残念ね。貴方には私と同じ匂いがしたのだけども」
「それは光栄ですね、ショタ狂い様」
やっぱり、ヒルデさんもメルさんの正体を知って居たのか。どんだけ有名なんだメルさん・・・そんなんでよく魔導具店の店主が出来たものだと思うけど、この世界の倫理観ってちょっとどころかかなり頭可笑しいから、不思議じゃ無いのかもと思い始めてる僕は、精神汚染まっしぐらです。
「あれ?メルさんじゃない?!ぇっ、何でメルさんが此処に居るの?」
今頃気付いたのか、純粋な眼でメルさんに疑問を投げかける縦巻きロール幼女ことエリスちゃんだけど、メルさんの正体については知らないのかな?
まぁでも流石にこんな幼い子にまで知れ渡ってたら、普通に町の中で生活出来ないよね・・・出来ないよね?
「・・・エリスちゃん、こんにちは」
「メルさん、こんにちわかしらぁ!それでぇ、何でぇここにぃメルさんが居るのかしらぁ?」
「今回の主犯は、ショタ狂いことメル様ですよ、エリスお嬢様」
「へ?・・・ぇっと・・・どういう事なの?」
困惑のあまり素の喋り方に戻る純粋なエリスちゃんには、敬愛するリーファのお姉さん的存在のメルさんが、まさか誘拐拉致事件を起こした張本人だとは考えられないみたいです。
そんな幼くも純粋なエリスちゃんの想いを打ち砕くかのように、現に誘拐犯であるところのメルさんが冷たくあしらいました。
「エリスちゃん、邪魔しないでくれるかしら?いまね、アキクンと楽しい事をしようとしてるのよ?だから・・・ネ?」
「ぇ?メルさん・・・ヒィ?!」
幼い子にも容赦なくあの強烈な獣欲フェイスでエリスちゃんを見据えるメルさんから、悍ましい気配が漂い始め、一触即発の空気が齎されました。
「ッ、エリスお嬢様、ここは私にお任せ下さい」
「で、でも、メルさん・・・なのよね?いつもの優しいメルさんじゃ無くて怖いけど・・・そ、それにアキクンと遊びたいだけみたいだし、私達の勘違いって事は・・・」
「そうなの、私はただアキクンと遊びたいだけ・・・ねぇ、ア・キ・ク・ン♪」
きっと遠目から見たら蕩ける様な笑顔なんだろうけど、近距離でメルさんの顔を伺える僕からしたらそんな生易しい物ではありません。
にこりと弧を描く眼の奥は獣欲に濁り切ったものですし、微笑む口元からは微量な涎を垂らして、鼻息荒く僕を舐め回しながら遊楽を誘う姿からは、決して純粋なエリスちゃんが思い描く遊戯で無い事は分かるというものです。
「ぁ、やっぱりそうなんだね。じゃヒルデの勘違いなんだ、良かったぁ」
やはりエリスちゃんにはこの状況がよく分かって居ない様で、一安心した様に破顔しています。
このままでは、ここから脱出できる千載一遇のチャンスを逃してしまうと焦った僕は、説明をしようと口を開きかけますが、下手に説得に時間を掛けてしまうとメルさんが何をするか分からない事に気付き、端的かつ緊急を要する事を伝える言葉を選ぶことにします。
それはもちろん・・・
「エリスちゃん、助けて?!助けてくださぁあああああああい!!?」
恥も外聞も知ったこっちゃ無いです。
幼女に助けを請うとか正直どうかと思われるかも知れませんが、隣には従者のヒルデさんも居ますし決して情けない事では・・・ぁ、ダメだ泣けて来た。
「ぇ?アキクンが泣いてるわ・・・ど、どうしよう、ヒルデ?!」
縛られ泣き叫ぶ僕と獣欲に破顔するメルさんを交互に見ながら涙目になるエリスちゃん。
「ウホッ。涙目になっての慌てっぷり、可愛いであります!・・・ッ、エリスお嬢様危ない!!?」
下卑た笑みを浮かべエリスちゃんの狼狽ぷりを楽しんでいたヒルデさんですが、急に警告をする様に叫んだかと思ったら、エリスちゃんの腕を取りそのまま背を庇うようにして抱きしめました。
「バインド!!」
主人を身を挺して守り、従者の鑑のようなヒルデさんの行いも虚しく、メルさんお得意の拘束魔法で二人は囚われてしまいました。
しかし、ここで一つ疑念が残ります。
先程、ヒルデさんがエリスちゃんの背を庇い身を挺したと言いましたが、そもそもバインドはヒルデさんだけに向けられたものでした。
ですので、そのまま行けばヒルデさんの身だけが拘束されたはずなのですが、そこをヒルデさんがエリスちゃんの腕を取り、自身に身を寄せるようにして抱きしめたものですから、二人とも拘束されてしまったのです。
それと先程の表現を訂正しないといけません。
ヒルデさんがエリスちゃんの背を庇うようにと言いましたが、そもそもバインドを受ける際、正面を向いて拘束されているため、背を庇う意味がありません。
ただ単にヒルデさんがエリスちゃんを背後から抱きしめただけとなって、寧ろエリスちゃんを盾にするような格好になり、どう考えてもエリスちゃんを守ったとは言い切れません。
「ぁ、あのーヒルデさん?」
客観的に一連の流れを分析した僕は凄く嫌な結論に至って、その問題のヒルデさんに声を掛けたのですが。
「むほぉーふんがふんが・・・ぁあ何て良い匂いなのでしょうか?!それにこのやわっこい感触!?ハァハァエリスお嬢様・・・ハァハァ」
エリスちゃんの頭に顔を突っ込み一心不乱に匂いを嗅ぎながら、そのエリスちゃんの体を弄るようにゴソゴソとし始める、そんなヒルデさんの姿がありました。
「ちょ、ちょっとぉヒルデ何をしているのぉかしらぁ?って、待って!何でお尻を触るの?!キャ!ちょっとヒルデ聞いてるの?!ぁ、そ、そこはダメぇえええええ?!」
だ、ダメだこりゃ。
「ふふっ、流石はヒルデ・・・いえ、こう言うべきかしら、性壁を砕く聖母」
「ふっ、メル様・・・いえ、ショタ狂い様こそ素晴らしいバインドでした。此方の意図を汲み、抜け出せない程度の締め付けで、エリスお嬢様を一方的に楽しめる余地を残すとは・・・感服致しました」
「身体だけでは無く、その心さえも縛り付ける・・・これこそが真のバインドよ」
「マーベラス!!私も未だ未熟の身、いつかその境地に到りたいものです」
そう語り合い意気投合した二人の変態は、共に愛する者達へと自らの欲望を満たすべくその食指を伸ばさんとし、お互いに健闘を祈りながら自らの戦場へと歩むのであった・・・。
そんな変態共の邂逅なんて知るかぁあああ?!
うわぁあああん!本格的にこれヤバいんじゃないでしょうか?!
希望が齎された中でのこの仕打ち・・・ぁ、もう心が死にそう・・・だ、誰か、本当に助けて・・・。
もう幾ばくも無く、無辜なる者の心と清らかな体が汚されようとしたまさにその時、今度こそとばかりに、開け放たれた扉から窮地を救わんとす勇ましい者の声が轟いた。
「待たせたのニャ!アキクン!!もうウチが来たからには安心して良いにゃよ!!?」
そうして、また新たに逆光を浴びて現れたのは・・・
「もう良いよ!どうせまた変態だよちくしょぉおおおお!!?」
「ニャニャ?!!それは幾らなんでも酷いにゃ、アキクン!!?」
また新たに現れた人物とは一体・・・See you NEXT PAGE!!




