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49-痴女≒レディ

「だ、誰がアホよ?!アホって言った子が、アホなんじゃないかしら?!」


 ッ、何てこと・・・急な事だったから、つい程度の低い言葉で返してしまったわ。

 レディとしては、もっと気の利いた言葉で華やかさを追求するべきだと思うの・・・もっと頑張らなきゃいけないわね。


「戯けた事を言っとるのが、悪いのじゃろが!それに何故にそんな顔が出来るのじゃ?彼奴あやつが・・・アキクンが攫われたと云うに、訳の分からん事を考えた顔をしよって!なれそれでも人の子か?鬼のわれでも流石にどうかと思うのじゃ?!」


「わ、訳の分からないって何よ?!ふん、まだお子様な貴方には分からないのでしょうけど、高尚で豊かな思案をしているところなのよ?それに何故貴方がアイツの事を・・・って、貴方鬼族なの?」


 いきなり現れて私に突っかかって来たのは、鬼族の子みたいね。何故それに気づいたかと言えば、額の方に鬼族の特徴の一対の角が生えてるわ。

 それと背格好を見るに私とそう大して年齢も変わらないんじゃないかしら?いえ、違うわね。この突っかかり様は、どう考えても私より年下・・・精々エリスと同じぐらいだと思うわ。

 そう私が当たりを付けていると、待っていましたとばかりに、最近よく見るようになった舞台役者の様な振る舞いで、語り始める鬼っ子・・・流行ってるのこれ?


「そうなじゃ!われこそ、この世に災禍を齎す斯くも恐ろしげな鬼の王イバラキとは、われのこと・・・『ポカン』・・・アイタ!痛いのじゃ、シュセン?!」


「なんや、長ったらし口上並べてからに。そないな事するために、来たわけちゃうよ?ほれにしても、なんやアキクンの身に何か遭ったのかと思うて来てみたら、少し遅かったみたいやね?」


 何やらもう一人鬼族が居たみたいね。こっちの方は、片方の角が半ばから折れちゃってるけど、只者じゃ無いわね・・・だって、


「あ、貴方、服はきちんと着るべきだと思うわ!何故、前をそんなにはだけているのよ?!そ、それに下着を見せつけるなんて、レディの前に女性としてもどうかと思うわ?!」


 そうなのよ!この鬼族・・・いえ痴女鬼ね、痴女鬼!この痴女鬼ったら、着物を肩に掛けただけで前を大きく開けさせて、惜しみなく肌を露出させてるのよ?!しかも下に下着しか着けて無いってどういう事よ?!へ、変態よ!変態!!

 こんな女性初めてだわ・・・でも、そんな姿格好なのに恥ずかしげも無く、寧ろ堂々とした佇まいはどこか気品があって、私が目指すレディとしての完成形を見ている様な・・・ぇっ?これが本物レディだと言うのかしら!?いやいやいや、それはありえないわよ?!で、でも、見れば見るほど引き付けられるような魅惑のある・・・


「ん?ぁ、しもうたわ。ついつい魅了チャーム発動してはったわ。ダンジョン内やと常時発動しぃひんと、いらんちょっかい受けよるからなぁ。ごめんなぁ、そこなお嬢ちゃん」


「うぇ、あ?・・・ハッ?!何で私、服を脱ごうとしてるのかしら?!」


「・・・ッ、なんで貴方達がここに居るのかな?そっちのイバラキちゃんの方は、よく見かけるし別に良いんだけどさ。貴方が表に出てくるのは、流石にギルド職員として見過ごせないのだけども?」


 むむっ、私とした事が、痴女鬼の色気に当てられてしまったみたいだわ。

 それはそうと、リサの様子がどこか鬼気迫る感じがするのは気のせいかしら?


「なんや、そないに警戒しはってからに。別に捕って喰おうやなんて、物騒な事しにきたんとちゃうよ?さっきも言うたけど、嬢ちゃん達も知ってはる子・・・アキクンが、何や良からぬ事にうてる気配がしよったから、顔見に来ただけやよ?」


「ッ、なんで貴方があの子の事を知ってるのよ?!」


「ありゃ?なんよ、アキクン。うちらの事伝えひんかったみたいやねぇ。気ぃ遣うってくれたんやろか?くふっ、ほんまかいらしい子やって」


「だ、だから何で貴方が、そのアキクンを知って居るの?!まさか!あの子達が無事にダンジョン攻略出来たのは・・・ッ?!」


 何やらリサは、鬼族の二人と面識があるみたいね。

 それにしても、どんなならず者にも優しく朗らかに対応するリサを今迄見て来たけど、こんな風に冷たく他人に接するのは初めて見たわね。

 それだけ、この痴女鬼がヤバい奴って事かしら?確かにヤバいわよね、一体どうしたらその際どい恰好に出来るのよ。

 下着と思ってたのも、よく見たら結構な意匠が凝られてて、一つの衣装として身に着けてるみたいなのよね。

 って言っても、局部を隠す部分が狭いから、どっからどう見ても下着にしか見えないんだけども・・・斬新すぎるにも程があるんじゃないかしら?!


「くふっ、折角アキクンが気ぃ利かせてくれたみたいやから、うちから答えるのは無粋やねぇ。そない事よりも、アキクン追いかけんで良いの?」


「ッ、やっぱり貴方が手引きを・・・どんな思惑であの子達を助けてくれたのかは分からないけど、それで無事に帰って来れたのだから、今回は不問とします。ですが、もし何か良からぬ事を考えて居るのなら・・・」


「アキクンは、アイドルを目指すからそのままで良いわ!それと、アキクンがお世話になったみたいね?アイツの主として、感謝を述べさせて貰うわ。ありがとう」


 リサが、あの痴女鬼と牽制しあってるみたいだけど、ここはきちんと問われた事を答えるのが筋と言うものよ。

 それに何やらこの痴女鬼が、アキクンを助けてくれたみたいだし、アイツの主人としてきちんと礼を言わなければ、示しがつかないわよね。

 レディとして、当然の礼節だと思うの!むふっ。

 

「くふっ、なんやこの嬢ちゃんが、アキクンの主人やの?この子もかいらしいわぁ。ほれに礼儀も知っとるしな・・・そこの嬢ちゃんも見習うべきやないの?」


「ッ、それは・・・」


 むふふっ。この痴女鬼分かってるじゃないの?!流石よね。私が少し魅了されたとは言え、レディとしての気品の良さを感じさせただけはあるわ。


「ぅんぅんそうよね!礼を尽くすのはレディとして当然な事だわ?!っと、まだ名乗って居なかったわね。私は、リーファ・フォン・アインシュタットよ。よろしくなのだわ」


 しゃらんと煌びやかな擬音が響くような、そんな自己紹介をする私、凄くレディしてると思うの!!


「くふっ、ほんま礼儀正しいんやねぇ。アキクンもそうやったけど、最近の子はこんなんやろか?時代が変わったんやろなぁ・・・っと、そや自己紹介やったね?うちは、シュセン言うんよ。こっちこそよろしゅぅ頼みます」


 やっぱりこの痴女鬼只者じゃ無いわ。立ち振る舞いもだけど、所作の一つ一つが洗礼されていて、同性の私が見てもドキッとするぐらいに魅力的なんだもの。

 むむっ、悔しいけど、やっぱり私が求めるレディとしての完成形がここにある気がするわ。

 でも、それでも、その痴女スタイルを真似するのは流石に恥ずかしくて出来ないわよ。

 ハッ!もしや、その恥ずかしい姿をする事で、他人の目線を常に意識し、レディとしての心構えを備える事が出来るのでは?!そ、それなら・・・


「ちょ、リーファ、何でまた脱ぎ始めてるの?!」


「私は、常に挑戦者でありたいの!?」


「訳が分からない事言って無いで、止めなさい!」


 ぐぬぅ、リサに羽交い絞めにされてしまったわ?!

 レディを極める為には、身を削る事も時には必要だと言うのに・・・これだからリサは、レディとして半人前なのよ!?


「ぬっ、此奴こやつ大丈夫か?彼奴(アキクン)女子おなごにするとかほざきよるし、頭可笑しいんと違うか?」


「くふっ、そこのリーファって子は、見所があるよって。女は、他を魅了してなんぼやさかい。ラキちゃんも見習った方が良いんとちゃう?」


「な!シュセンのその格好は、只の趣味じゃろが?!そ、それに、何もせんでもわれの魅力に気付く奴が居れば良いのじゃ!・・・彼奴アキクンみたいにな」


「胡坐をかくんも程々にしぃひんと、掻っ攫われてまうよ?そのままでうちに勝てるんかなぁ~ラキちゃん?」


「な!?」


 外見から推測するに姉妹では無いと思うけど、でも本物の姉妹以上に仲睦まじい姿からは、リサが警戒するような危険な人物とは思えないわね。

 そんな私の気持ちと同じようにリサも感じたのか、まだ少し警戒しているみたいだけど、さっきよりは険しい表情が緩んでいる気がするわ。


「くふっ、ほんまイバラキをおちょくるのはおもろいなぁ。して、それよか、ほんまにアキクン追いかけんで良いん?うちはこれでも心配しぃやから、このまま追いかけようかと思うとるんやけど」


「シュセンには、まったくもうなのじゃ?!いつか、われがギャフンと言わせたるからな!!っと、そうじゃった。ふん、此奴こやつらは、ほっといて吾らだけで向かうのじゃ。彼奴アキクン女子おなごにするとか頭湧いとる奴なぞ、構う必要はあるまい?・・・ん?そう言えば、彼奴のあるじとか何とか言っとったな・・・って事はじゃ、従魔契約なぞしとるのか?」


 ホント何なのよ、この鬼っ子は?!いちいち癇に障るモノ言いはするわ、私と同じぐらい・・・1cm・・・いえ、3cmは背が小さい癖に(角はノーカン常識よね)、偉そうにして!・・・ハッ!?ダメよ、私!こんな幼い子相手に何をムキになってるのかしら・・・ふぅ、私はレディ、私はレディ・・・よし!


「そ、そうよ。私がアイツ・・・アキクンの御主人様よ。何か文句でもあるのかしら?それに関係のないお子様は、あまりよそ様の従魔に、ちょっかいを掛けるべきじゃ無いと思うのだけども?」


 ふっ、レディとしてお子様を嗜めるなんて造作も無い事かしら?


「・・・何を勘違いしとるのか分からぬが、われは、なれより何倍も年上じゃぞ?じゃから、お子様扱いして貰っては困るのじゃ!」


 ふんすって鼻息を荒げるこの鬼っ子が、私の何倍も年上?ぇ、何この子、オツムが残念な子なのかしら?


「リーファ、その子が言ってる事は本当だよ。鬼族はね、ヒューマンより成長が遅いから、見た目より何倍も年を取って居たりするんだ。あと見た目もある程度変える事が出来るらしいから、見た目だけで判断しちゃダメだよ。だから、もう一人の鬼の方は、私達より何十倍も年を取ってるはず」


 そう言って、痴女鬼を睨むリサだけど、本当にどうしたのかしら?相当この痴女鬼と因縁があるみたいね。

 まぁ私には関係無いのだし、レディとして、人の判断は自分の目でと決めているから、少し気にする程度にしましょう。

 それにしても、もう一人の痴女鬼は分からないでも無いと言うか、あの雰囲気からは納得出来るのだけど、この明らかに見た目通りの言動の鬼っ子もそうなの?

 世の中って、理不尽よね。ってそう言えば、神の座に近づいた種族は、年も取り難くなるって聞い事があるわね。

 ん、見た目通りに判断しちゃダメって事は、この世界では当たり前の事だったわ。

 これでまた一つ賢くなった私は、レディへとさらに近づけたかしら?むふふっ。


「なんじゃ此奴こやつ、また急に笑い出したんじゃが・・・やっぱりどうかしてるのじゃ?!こないな危ない奴に、彼奴アキクンを預けるのはどうかと思うのじゃ。じゃから、わ、われ彼奴アキクンの面倒を見てやるから、従魔契約を破棄するんじゃ!」


「な!急に何言ってるのよ?!あんな金の生る木・・・いえ、私の大切なパートナーを奪おうだなんて!そんな事許されるものじゃ無いわ!!」


 こっちが下手に出たら、何を勘違いしたのか、人様の従魔を奪おうだなんて?!

 やっぱり見た目通りのお子ちゃまだわね。私の何倍も年を取って居ようが、こんな我侭な子を年上としてみる事なんて出来ないわ!


なれ、いま彼奴アキクンの事を金の生る木と言おうとしたじゃろ?!やっぱり此奴こやつに預けたら、彼奴アキクンが悲惨なのじゃ?!ぬぅ、そうじゃ、なれは金が欲しいのじゃろ?なら、われ彼奴アキクンを買うてや・・・『ポカン』・・・アイタ!・・・シュセンよ、われの頭を容易く叩くのは、止めて欲しいのじゃが?!」

 

「イバラキ、アカンよ?人を物みたいに買うたるとか言いよったら。幾ら想い人の為やとしても、そないな事をしたらアカン。それにうちらは鬼やよ?鬼らしくここは、奪い取る方が意気やと思うんやけど、どない?」


「にゃにゃ!べ、別に彼奴アキクンの事を想うとらんわ!!ただ心配しとるじぇけで・・・んむぅ、確かにの。流石はシュセンじゃな、われもそれが性に合うのじゃ!よし!久方ぶりに盗賊稼業でも性を出すのじゃ!ぐわははははははっ!!」


「ぇっ?」


「や、やはり貴方は・・・ッ?!」


「と言うわけやから、うちらが先にアキクンを助けてもうたら、アキクンはうちらが貰うさかい・・・嫌やって言いよるんなら・・・一緒に行こか?」


「ッ、・・・そう言う事ね。ハァ~・・・リーファ、この人なら、きっとアキクンの場所も分かるはずだから一緒に迎えに行ったら?じゃないと本当にこの人にアキクン取られるよ?従魔契約ぐらいなら、破棄する方法知ってるだろうしね。私は少し疲れたから、あとで向かうことにするよ。だから見つけたら連絡頂戴。ギルドカードに短文なら連絡が送れるようになってるから、あとで確認してね。ハァ~メルは暴走するわ、鬼族は現れるわ・・・これ報告書書かないといけないのかな?・・・ん、見なかった事にしよう」


 そう一通り、リサが私に語ったと思ったら、いつの間にか騒ぎを聞きつけて周りを囲っていた冒険者たちを解散を促すようにして、私達から離れて行っちゃったわ。

 ってそんな事より、従魔契約って破棄出来るの?!そんなの困るわよ!まだアイツにはもっと稼いで貰わないといけないのだから!?


「わ、分かったわ!私も一緒に行ってあげる。それと、アキクンは私の従魔なんだから、手を出さないで頂戴!!」


「知らぬのじゃ!われは、鬼じゃなからな。奪って喰らうのがさがと言うものよ!久しぶりに血が滾るのぉ・・・ぐわははははは!!」


「くふっ、ほんまかいらしい子達やわぁ。ほな、アキクンとこに向かおうか?」


 ぐぬぅ。この鬼っ子ったら何なのかしら?!絶対にアキクンは、手放さないんだからね・・・ッ!!?

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