44-本能は子孫繁栄のために
「ハァ、まったくアンタは、いつも通りよね」
残念な子を見るような眼差しを送りつつ、テーブルを挟んで、僕たちとは反対側へと腰を据えるリーファ。
そんな眼で見られたら反骨心が芽生えるってもんですが、如何せんこの状況では反論の仕様も無いと言うものです。
「それでだけど、どうやってあのダンジョンから抜け出せたのよ?まぁそのスライムが居る事を考えると、Sクラス指定の巣窟は問題無かったんでしょうけど。それでも、ダンジョンを攻略したにしては、幾らなんでも帰ってくるのが早くないかしら?」
そう疑問を口にしつつ、尋問するかのように僕に鋭い目線を送る、詰問系幼女様。
これは下手な事を言えば、根掘り葉掘り問いだされるのでしょうが、シュセンちゃんたちの事は何と無く、言わない方が良い気がするんだよね。
まぁ取り合えず、当たり障りなく答えてみるとしよう。
「ぇっと、その事についてだけど・・・って、エル、話しにくいから、そろそろ放してくれないかな?」
よく考えたら、僕は未だにエルに拘束されていて、揺り籠に揺れる赤ん坊よろしく、寝転がって居るのでした。
流石にこれでは、テーブルを挟んだ先に居るリーファと話すには、ちょっと話し難いというものです。
「ぇーまだ全然物足りないもん!ますたぁーともっとくっ付いて居たいの!!ぁ、そうだ!これなら良いでしょ?!」
そう言ってモゾモゾと動き出したかと思ったら、リーファとちゃんと対面出来る様に、寝転んだ姿から、普通に座っている様な形に起こしてくれました。
《揺り籠からチャイルドシートに変更ですね。これで突然な衝撃から身を守れますよ、御主人様。小さいお子さんを車内に乗せる時は、チャイルドシートを必ず着用させましょう》
交通安全課からのお知らせでした、みたいなフリは要りません!!
どんだけ僕を赤ん坊扱いしたいのさ?!
《母性本能を擽る御主人様が悪いのです。・・・ハァハァ、そのお姿グッと来ます!!》
ねぇ、それって本当に母性本能なの?!何か凄く邪な気配がするんだけど!?母性本能って、母親が子に向ける、そんな美しくも清らかな神聖なものだと思います!!
《甘いです、御主人様。母性本能も所詮は一つの性癖なのです・・・ですから、女性はみなエロいんですよ!!》
な、なんだと・・・ッ?!そ、そんな馬鹿な・・・じゃ、よくTVのインタビューで、若い女性の皆さんがイケメン俳優とかアイドルとかについて語る時、「Sちゃん本当に可愛いよねぇー母性本能擽られちゃう!きゃっ☆」みたいな感想ってもしかして・・・
《その通りです!公衆の面前で、発情宣言した、ただの牝なのですよ?!》
マジでぇええええ?!!
と驚愕の新事実に慄いていると、
「おいたわダ・・・」
「ちょ、待ってリーファ?!なんで今、そのフレーズを言おうとしたの?!」
「私を無視して何やら良からぬ事を考えてるからよ!それとアンタ、誰と話してるの?何だか、アンタ一人で考えてる感じがしないのよね」
怖ッ!どんだけだよ、この読心教祖幼女様?!ナビの事まで勘付くなんて・・・って、読心出来るのなら、分かって当然なのかな?
《ふむ、確かに変ですね。前にも言いましたが、シュセン様との一件で、読心の手合いは対策を行っているのです。もしや従魔契約によって、御主人様との魂のパスが強固なのかも知れません》
そ、そうなの?んーじゃリーファには、読心術の対策は出来ないのか・・・無念。
《御主人様、ご安心下さい。事細かな内容までは、理解されていないようですし、今からプロテクトを強化してみますので、ある程度は秘匿可能かと思います。但し、リーファ嬢に関しての事柄に関しては、秘匿する事は難しいかと思いますのでご留意下さい》
ぉー流石は、ナビ!じゃ、これからリーファに関しては気を付けるとして、他は安心して考えられるね。
それなら、別にナビの事についても触れなくても良いかな?よし!面倒な説明も何だし、ここは誤魔化そう?!
「実は・・・僕は、二重人格なんだ?!」
「おいたわダ・・・」
「ちょぉおおお?!待って!本当に待ってください!!それに今、従魔調教スキルを発動したら、エルにまで衝撃が行っちゃって、大変な(絶頂的な)事になるからヤメテあげて?!」
「むっ、確かにそうね・・・その子は、稼ぎ頭として見所もあるから、嫌われたくないわ」
「そ、そうでしょ?!よ、良かったねぇーエル?」
「ん?ボクは、構わないよ?ますたぁーの衝撃は、全部ボクが受け止めてあげる?!そしたら、そしたら・・・気持ちよさそう!!」
ッ、あの純粋無垢なエルは、もう居ないんだね・・・いや、まだ諦めちゃダメだ!
ここは再教育して、快楽に依存しない良い子に育てるんだ!お父さん頑張る!!
《遅かれ早かれだったかと思いますが・・・では、私もその教育に携わらせて頂きますので、一緒に頑張りましょう、パパ》
いまゾクって来たよ!ゾクって?!愛人で居るんじゃなかったの?!愛人は愛人でどうかと思うけどさ。
《愛人が常に愛人で居ると思っているのは男の幻想です。正妻の座を狙うのは当然の権利です!!》
何だろうか、ナビと話してたら、女性の知りたくない一面を見せつけられてる気がするのは、気のせいかな?!
《気のせいです》
即答?!
「アンタまた私の事無視してるでしょ?いい加減にしないと私にも考えるがあるわ」
そう言って、指先をパチパチとさせる、爆雷幼女様・・・あわわっ一体何をされるの、僕?!
「ちょ、分かったからさ、一度落ち着こう?ほら、何か飲み物でも頼んでさ・・・ってそうだ!シュワビル飲もう!シュワビル!!」
ヘイ!お姉さん、此方のテーブルにシュワビルぷりぃーずとウエイトレスのお姉さんを呼んで、シュワビルを注文しました。
お代の方は、僕は未だにこの世界の貨幣を所持していないので、ここはリーファに支払って貰いました。
ダンジョンでの稼ぎがあったからか、何も文句を言われずに払ってくれましたよ。
「乾杯しよ!乾杯!!ダンジョンから無事に脱出出来たお祝いにさ!」
「ん、仕方ないわね・・・」
渋々って感じですが、リーファが持っていたコップを僕のコップにコツンと軽くぶつけてくれました。
ちなみにですが、僕はエルに拘束されているため、ウエイトレスのお姉さんから直接コップを頂戴致しました。
その際、お姉さんの眼差しが、どこか愛らしいものに向ける眼だったのが気がかりですが・・・もしや母性本能と言う劣情を抱いちゃったのです?
ナビの御蔭で、僕に向ける女性の皆さんの視線が、心地よくなってきました。それだけは感謝しても良いかな?えへへっ。
《御主人様って本当にチョロインですよね。その偏屈な認識を増やす事で、私しか御主人様を愛せない状況に持っていければ・・・うふふふふふふふふっ》
何も聞かなかった事にしよう。それとナビの話は、信じない様にしようと思いました。ぁ、でも母性本能の話は、本当だよね?
「ぷはっ。ん、なかなかよね、シュワビル。美味しいわ・・・それで、アンタどうやってダンジョン攻略したのよ?」
さてここからが正念場ですよ・・・はてさてどうやって誤魔化すか。。。




