37-孔明の罠
「だから破廉恥は止せって言うとるのじゃ、シュセン!!」
お色気ムンムンなシュセンちゃんに当てられて惚けてた僕は、横でキャンキャンと吠えるラキちゃんの御蔭でどうにか理性を取り戻し、心のオッキした部分を諫める事が出来ました。
《御主人様の芸人魂は理解致しますが、品性の欠ける表現はお控えください。エルに悪い影響が出てからでは遅いですよ》
芸人魂って何?!うっ、確かにあの純粋なエルの前で発したら真似されかねないよね・・・気を付けます。
「なんやラキちゃん。嫉妬してはるん?くふふっ、イバラキもそないな年になったんやね」
艶めかし雰囲気を常に醸し出すシュセンちゃんですが、ふとラキちゃんに向ける眼差しが慈しみのあるものに変わり、どれだけラキちゃんの事を想っているのかを窺え知ることが出来ました。
そんなシュセンちゃんの様子にその眼差しを向けられた本人も気づいたのか、少し恥ずかしそうにしながらも先のシュセンちゃんの言葉を否定するように、
「そ、そんな事あるわけなかろう!それにそやつは仔竜じゃぞ?何故、吾がそんなものに懸想を抱かねばならぬのじゃ?!」
「なんやちゃうの?ほれにそないな風に言わんでも良いのにな・・・アキクン、ラキちゃんがそう言いはるんやけど、どう思ぅん?」
と僕に投げかけるシュセンちゃんの様子が、どこか意地悪そうな気配を感じさせたのでこれは是非にと僕も乗っかる事にしました。
「そうなの、ラキちゃん?・・・そうだよね。どうせ僕は仔竜だし、ラキちゃんみたいな可愛い子には不釣り合いだよね。ごめんね、出来るだけラキちゃんの視界には入らない様にするね」
しょんぼりと悲壮感たっぷりに落ち込んだ風にして、ラキちゃんの視界に入らない様に僕はシュセンちゃんの陰に隠れました。
すると、それを見たラキちゃんが慌て始め、
「な、なんでそうなるのじゃ?!べ、別にお主が目に入るのが気に食わんと言ってる訳じゃ無いのじゃ!ただ少しシュセンと距離が近いと言うか、吾もお主とスキンシップを取りたいと言うか・・・か、可愛いのか吾・・・」
そうあわわと狼狽えながらも照れたりと忙しそうに百面相するラキちゃんの姿が可笑しくって、我慢出来ないままに僕はつい笑いを零してしまいました。
「ぷっ、ふふっラキちゃん可愛いですね」
「くふふっ、そやろ?イバラキをおちょくるんわ、うちの日々の癒しなんよ。もうほんまかいらしくてなぁ。そないなラキちゃんやけど、うちと一緒に仲良うしてな?」
僕が笑いを堪えながらもこくりと返事をすると、蕩ける様な笑みをシュセンちゃんから頂けました。
「な!シュセン謀りよったな?!ってかお主までよくも!マジでいい加減にするんじゃぞ!?吾を舐めるとどうかなるか・・・ッ!!」
流石は鬼族だけあって肌を粟立てるような覇気をラキちゃんから感じますが、可愛らしいヒヨコ柄の浴衣姿と先程までの遣り取りが全てを台無しにしていました。
ですので直ぐに慣れてしまった僕は、少し粟立った肌を撫でる事で落ち着かせ、そんなラキちゃんを一先ず放置する事にし、シュセンちゃんと話を進める事に。
「それでだけど、シュセンちゃんちょっと良い?」
「な!無視じゃと?!」
「なんやアキクン?うちで良かったらなんでも聞いたるさかい」
「ぇ、ホント?そう言ってくれると嬉しいんだけど、このダンジョンから脱出するにはどうしたら良いのかな?やっぱりこの先のボス部屋に挑戦しないとダメ?」
もしかしたらシュセンちゃんが便宜を図って貰えないかと甘えてみる僕は、甘え上手で居たいです。
「そないやったらうちが転移魔法で送ったろうか?ダンジョンの入り口にある柱んとこになるんやけど、そいで良いなら送るさかいに」
「ぇっ!本当に?!ヤッタ!是非にお願いします!!わぁ~ぃこれで無事に帰れるぞい!」
と思ってたより早く終わった残業から解放される気分で、喜び勇んでこの気持ちを分かち合うと、エルを持ち上げて抱き抱えながらクルクルとその場で踊るように回ってみました。
「ますたぁー嬉しそう!ボクも嬉しい!!わぁ~ぃ」
《良かったですね、御主人様》
「ぐぬぅ!吾を無視して喜び居ってからに!!」
そう憤っているラキちゃんがそろそろ激おこからムカ着火しそうだったので、そのままの流れで誤魔化したろうと、ラキちゃんの手をも取って喜びを分かち合いました。
「ほら!ラキちゃんも一緒に!!わぁ~ぃわぁ~ぃ帰れるぞい!!」
「ぬぅお、なんじゃ馴れ馴れしくしよってからに・・・ま、まぁ仕方ないのぅ。少しは付き合ってやるのじゃ」
そう言いながらも少し楽しそうに、僕と手を取って軽いフォークダンスみたいにして、踊りに付き合ってくれました。
「くふふっ、ほんに楽しそうにしはって・・・うちも混ぜてぇな」
突如始まったダンスお披露目会を少しの時間楽しみつつ、ダンジョンからの脱出前祝いをするのでした。
「それで本当にこのドロップ品の山、全部貰っちゃって良いの?」
「かまわへん、かまわへん。そない遠慮しぃひんで持っていっておくれやす。ほいでこれに入れて持っていけばよろしおすなぁ」
「ふん!シュセンがそう言うからには仕方が無いのじゃ。吾もそれを許してやるから遠慮なく持っていくのじゃぞ!」
そう二人に言われてしまったら、ここは遠慮ない処か欲望のままに全て持っていきますとも。
うふふっ、リーファ待ってろよ!ちゃんと札束往復ビンタしてやるんだから!?
どうにかすべてのドロップ品を四次元バッグと新たにシュセンちゃんから貰った、大粒な宝石が嵌め込まれた腕輪に収納することが出来ました。
それにしてもこの腕輪、四次元バッグの比にならない程の収納率なんだけど・・・しかもまだまだ入りそう。
「この腕輪本当に貰っちゃって良いの?これ凄いアイテムなんじゃない?」
あまりの性能の凄さに少し気後れした僕は、シュセンちゃんから最初受け取った際に発していた言葉を再度口にしたのですが、
「だからかまわへんて。ここのダンジョンを攻略した子らに渡してるもんやしな」
「ぇ?!僕たち別にこのダンジョンを攻略したわけじゃないんだけど、受け取ったらマズイんじゃ!?」
「ふん、何を今さら言うとるんじゃ。この階層に居る吾の配下を一瞬で全て屠ったのじゃから、どうせこの先のボス部屋なぞ即攻略じゃろうに。気にせんでシュセンからの厚意を有難く受け取って置くんじゃな!」
腕を組みながら偉そうに語るも愛らしいラキちゃんにほっこりさせられながら、その腕輪を有難く頂戴する事にしました。
「ありがとう、シュセンちゃん。それにラキちゃんも」
「くふふっ、ほんま律儀やな。ほんにあの子らの子供なんやろか、ちと疑問に思うて来たんやけど」
「ぐわはははっ!確かにな!キョオコの子とは思えん素直さなのじゃ・・・まぁでもこやつの先の行いを見るに、似てる部分は多いと思うのじゃがな」
ひくっと顔を歪ませて先のこちょば拳を思い出しのか、急に不機嫌そうになるラキちゃん。そうか母さんも似たような事をしたのか・・・じゃやっぱりあれは仕方ないよね?ぅんぅん仕方の無い犠牲だったのでした。
「何故そこで納得した様な雰囲気になるのか問い詰めたいのじゃが?!」
うおっとこれ以上は藪蛇になりそうだから、突っ込まないで置こう。
「それじゃ、ダンジョンを脱出するための転移魔法をお願いします」
「なんや急かすなぁ。もうちょいここに居ても良いんやないの?」
寂しそうな顔をしてそう言うシュセンちゃんとは対照的に、ラキちゃんの方は、
「シュセンよ、何も引き留める必要は無いじゃろうに。早う出たいと言うんじゃ、とっとと転移魔法を発動してやるのじゃ」
とっとと行けとばかりに、しっしと手を此方に振るラキちゃん。
そんな態度に少し寂しく感じた僕でしたが、もしやとテンプレツンデレさんを思い出して、少し意地悪をしてみました。
「・・・ぅん、早く出て行くね。ラキちゃんに嫌な思いをさせる僕は早々に出て行くから安心してね」
そう言いながらしょんぼりと落ち込んで見せる僕、策士なう。
その策にまんまと嵌ったラキちゃんはと言うと、
「な!だ、だからそんなつもりじゃ無いと言うに?!お主がまだここに居たいと言うのならいつまでも居ても良いのじゃぞ?むしろここに住むか?シュセンよ、確か我らが住む階層にはまだ空いている部屋があったじゃろ?ちと吾が今から行って片してくるからそこで待っておるのじゃ!!」
浴衣の袖を捲し上げながらそう意気込んで何処かへと立ち去ろうとするラキちゃん。
そんな思ってた以上の反応をされて、流石にここに住むわけにも行かない僕は、慌てながらラキちゃんの制止に掛かります。
「ちょ!待って!?その気持ちで十分だから!!それに外で待っている人が居るから、大変嬉しい提案だけど、受ける事は出来ないんだ」
「むぅ。それならそうと早く言わんか!まったくこれじゃから・・・でもそうか、待っておる奴が居るんか・・・」
次はラキちゃんがしょんぼりと落ち込んでるのを見せられて、流石にこれはやってしまいましたとあわわと慌てる僕、道化なう。
《仕方ないですね。今後は、御主人様の策士として私が担当致しますので、何かありましたら私に御頼り下さい》
ぅ、お願いするよ・・・。
《・・・ふふっ外堀は埋まりつつ・・・》
ぇっ?いま何か言った?
《気のせいですよ、御主人様》
「あかんなぁ、ラキちゃんを落ち込ませてからに・・・そや、ほんなら今晩泊まっていきなんし。もう外は暗うなってはるはずやからな。ここから出るんわ、明日の朝でもええやろ?」
そう朗らかに提案をしてくるシュセンちゃんの様子は、この流れを読んでいた風に感じるのは気のせいでしょうか?
ぐっ、これが本物の策士か・・・孔明になるための道は険しいですぞ、ナビ。
「ぅっ、ではその提案に甘えさせて貰おうかな。一晩お世話になります」
「くふっ、そう言う事やラキちゃん。今から行って寝床やら準備してき。あとでうちがこの子ら連れ行くからなぁ」
「わかったのじゃ、シュセン!よぉしぃ、吾自らおもてなしとは何かを見せてやるのじゃ!!」
覚悟するのじゃぞぉ!!とその捨て台詞を残して、最初に出会った時と同じように空間を歪ませてその中に入って行きました。
「くふっ、張り切ってはるねぇ。アキクン、楽しみにしててなぁ?」
という事で、いつの間にやらお泊り決定であります。
どうしてこうなったのか僕にも分かりませんが、折角ですし楽しみたいですね!
「お泊りだって、エル」
「そうだね、ますたぁー!ボク、初めての事ばかりで楽しい!!やっぱりますたぁーに付いて行ってよかった!!」
嬉しそうに僕の腕の中でぷるぷると震えつつ、僕の胸にその身を擦り付けるエルは凄く可愛かたんです。
《御主人様と初めての同衾・・・滾ります!!》
約一名、不純ゆえ、退場もあり得る?!
《御主人様のいけずぅ!!》
そんな妙齢な女性の艶声を聞き流しながら、おもてなしの準備を待つのでした。




