01.サイカーバトル、開幕!
「はぁ…はぁ……急げ…!」
俺の名前は千里透真。18歳のイケメン男子だ。今日は大学の入学式があって、今まさに遅刻しかけているところだ。
この手の自己紹介では、普通の好青年という言葉を付けたくなるが、生憎俺は普通じゃない。普通じゃないポイントを挙げるとすると…まずは、天才ってことだな。
高校まではもちろん学年1位の成績。勉強も運動も大の得意な完璧超人。それがこの俺、千里透真さ。
そんな天才な俺がなんで遅刻しそうになっているかって? もちろん寝坊なんてしょーもないことはしない。むしろ、ちゃんと1時間も余裕を持って家を出たさ。
俺がなぜ遅刻しそうなのか……それには、ある深刻な理由がある。
ここは大都会・東京。それに対して俺は上京してきたばかりの田舎者。
そんな俺が駅という名の迷宮に閉じ込められるのに、そう長い時間はかからない。
なんとか線が多すぎるし、人も多すぎる。電車もいっぱい来るし、各駅停車とか急行とかマジで訳分からん。
正しい乗り場で、正しい行き先の電車に乗るのは無理ゲーすぎる。乗り間違えて、引き返して…としていたら、1時間は経ってしまった。
そんな俺も、ようやく大学の最寄り駅に降りて、大学目掛けて全力疾走中ってわけだ。
「もういいよ…今日、入学式なんでしょ?」
走りながら、ふとそんな声が聞こえた。足を止めて、そっちの方を見る。
道端の草むらを見つめる幼女がいた。さっきの声はあの幼女だな。そして幼女の視線の先には…何やらガサゴソしてる変質者がいた。
はっはーん、そういうことか。
俺は両目を閉じて1度深呼吸をする。そして、目を開いた。探し物は…あれか。
俺は変質者を横目に草むらに手を突っ込み、ぬいぐるみを拾い上げた。そして、変質者の背中を軽く叩く。
「ん? …あっそれ。」
変質者は情けない声でこちらを向いた。そして、俺の手元を見て声を漏らす。
「探し物はこれだろ? ほらよ。」
俺はなるべくクールに、スマートにぬいぐるみを手渡した。そしてその場を立ち去る。
「あっ、ありがとうございます!」
変質者が後ろでお礼を言う。俺は右手を上げて無言で返した。ちょっと流石にかっこよすぎたかもしれない。
そうそう、俺のもう1つの普通じゃないポイントを言い忘れていたな。
俺は、いわゆる透視が出来る。
物越しに探したいものの位置がわかったりする便利な能力だ。いつから使えるようになったかは分からないけど…気づいたらこんな能力を身につけていた。
あ、誓って言うけど、変な使い方はしていないからな? 俺は紳士だ。みんなが想像するようなあっち系のことや、カンニングとかの卑怯なことはしていない。
これはムフフな物語ではなく、俺が楽しく過ごす学園生活の物語だ。残念がる人もいるかもしれないけどな。
俺はかっこつけることができた嬉しさからスキップをして入学式へ向かうのだった。
◆◆◆
あー、退屈だった。学園長の話が長すぎて流石の俺でもあくびが出ちまった。
でも、面白い話も聞けたぜ? 今のこの封鎖された大都会についてのな。
なんで東京が封鎖されちまったのかは分からなかったけど、学園長曰くサイカーバトルには気をつけてとの事。
きっとこのサイカーバトルとやらが、東京の封鎖に関わっていることは間違いない。
あ、これも言い忘れてたっけ? 俺がわざわざ東京の大学に来たのには理由がある。
俺の持つ透視能力の起源を知るため…そして、親父の行方を追うためだ。
俺の親父は、15年前から行方不明らしい。そして親父が消えた直後に東京は封鎖された。
この天才にかかれば、封鎖された東京へ入ることもちょちょいのちょいさ。
とりあえず、サイカーバトルとやらについて知る必要があるな。どこかに都合のいい人はいないかな…
「あ、あの! こんにちは! 先程はぬいぐるみを取っていただきありがとうございました!」
後ろから、澄んだ女性の声が聞こえる。なんてベストタイミングだ。俺は後ろを向いた。
「おお……あっ、気にしないで!」
俺としたことが、つい見惚れてしまったその女性は、今朝のあの変質者だった。
…いや、変質者というのは撤回だな。今朝は急いでいたこともあり、彼女のことはよく見ていなかった。
だが今、改めて見ると…絶世の美少女だ。艶のある長く美しい白髪、雪のように白い肌に端正な顔立ち。
どこをどう切り取っても美少女にしかなり得ない。おいおい、誰が女優さんを呼んで来いと言った?
…ってか、俺あの子に対してめちゃめちゃかっこつけてたのか。恥ずかしさが天元突破しそうだ。
あと動揺しすぎて全然上手い返し出来なかったな、天才でイケメンな俺としたことが…
「本当にありがとうございました! 授業とかで会ったらぜひ仲良くして下さい!」
そう言ってお辞儀する彼女。そして、俺の横を通り過ぎていく…
「待って!」
やべ、咄嗟に声が出ちまった。彼女のことをもっと知りたかったから? いやいや違うよな、ただ東京のガイドをしてもらうだけ。
「さっきの入学式で気になったんだけど…サイカーバトルって何か知ってる?」
いきなりタメ口で大丈夫かな、いやでも初対面の時あんなにかっこつけちゃったから今更な…
そんなことを考えていると、彼女がくすりと笑った。
「サイカーバトルは、サイカー…超能力者たちの戦いですよ!」
驚いた。超能力者とは、まさに俺みたいな存在のことだよな? いきなり大当たりを引いたかもしれない。
「戦うくらい超能力者が沢山いるのか?」
俺の知る限り、地元には超能力者は俺くらいしかいなかった。東京では戦いが起きているということは、大勢いるのだろうか。
「そうですね…それについては見てもらった方が…」
彼女がそこまで言いかけた時、ドッカーンと音がした。
うるせぇ。誰かが爆竹でも鳴らしたのか? 東京ってそんなに治安悪いんだ、都会こっわ。
「始まりましたよ、サイカーバトル!」
彼女が笑顔でそう言った。この音がバトルの音なのか…
周囲を見てみると、みんな同じ方向に向かってる。サイカーバトルってのは観客がいるんだな。
「俺たちも見に行こう。」
そう言って俺も周囲の人々について行く。つい勢いで彼女も誘っちゃったけど大丈夫かな…
「はい。解説は任せてください!」
彼女はそう言って着いてきた。サイカーバトルのことになると急に元気になる。ファンなのだろうか?
そんなことを思いながら、バトルを見るために向かうのだった。
◆◆◆
ドカーンボカーンと音が響く。大学のグラウンドで、2人の人間が戦っていた。
多分、こいつらがサイカーってやつかな。
1人は黒髪が逆立っているワイルドな男。赤く燃える炎を体に纏っていて、目が赤い。めちゃくちゃかっこいい。
もう1人は、正直ちょっと頼りない感じの男だ。色白の肌に長い黒髪。筋肉もあまりなく、なよなよとした感じ。
2人に共通しているのは、左肩の下あたり…ちょうどはんこ注射の痕がある場所に、同じ腕輪をつけている事だ。
これがサイカーの証なのか?
「ブースターを寄越しな! お前にそいつは荷が重いぜ!」
ワイルド男がそう声をあげて炎の玉を投げつけている。炎を操る超能力なのだろうか。
「キャー! 義炎様ステキー!」
俺の近くで黄色い歓声がなる。あんなにかっこいいし、人気者なんだろうなぁ…
「お前らリヴァイバル派には渡せない、絶対に!」
なよなよ男がそう声を出し、右手を前から横に動かす。すると、炎の玉が横に逸れて地面へ直撃した。
念動力か何かかな? 見た目に反してかっこいいことをする。
「頑張れ! ガーディアン派!」
近くで応援する声が聞こえた。リヴァイバル派にガーディアン派……どうやら派閥があるらしい。観客たちはどちらかを応援している。
その時だった。突然、目の前が真っ白になる。
ズドーン
ようやく視界が戻ったと思ったら、めちゃめちゃにうるさい音と共に、もう1人男が現れた。雷を纏った金髪の男で、彼もまた腕輪をつけていた。
ワイルド男となよなよ男は吹っ飛ばされている。
「不意打ちとは卑怯な…」
なよなよ男が文句を言った。金髪男はそれに対してにやりと笑っている。
「卑怯も戦術のうちだぜベイベー! お前ら危険なサイカーは、とっとと国に従いな!」
金髪男は妙にノリノリなリズムでそう言った。実にウザい感じの男だ。
「吾妻雷太。お前みたいなのがステート派とは…この国はやっぱ腐ってんな。」
ワイルド男がそう言った。あの金髪は、吾妻雷太と言うのか。覚えておこう。
ステート派…彼らの発言から、国は絡んでいそうだな。東京封鎖にも関わっているのか?
「爆ー! 頑張ってー!」
その時、横にいた美少女がエールを送った。彼女もまた、サイカーを応援するファンのようだ。
「鑑見か。こんなやつすぐに返り討ちにするからそこで見てな。」
彼女の発言に対して、ワイルド男がそう返す。ファンとかじゃなくて、知り合いなのか?
あと、この美少女の名前は鑑見さんって言うんだ…脳内にメモしておこう。
「やられるのは、お・ま・え! そのブースターを寄越しなYO!」
金髪男…確か名前は…吾妻雷太。そいつが雷を拳に纏ってワイルド男へ接近した。
ワイルド男はそれに対して炎の玉を投げて迎え撃つ。だが、吾妻雷太はそれを躱して近づいた。
躱す度にポーズを決めるの、やっぱりこいつウザいな…でも、強いっぽい。
「へっ、貰ったぜ! あばよ!」
吾妻雷太がワイルド男に近づいて雷を纏った拳を放とうとする。ワイルド男は炎の玉を投げていたので、近距離は不利だろう。
「ふっ、甘い!」
雷の拳がワイルド男にぶつかる直前、ワイルド男は吾妻雷太の腹に右足で蹴りを入れた。
サイカーバトルって超能力の戦いのはずなのに、これじゃあ超能力関係ないじゃん…
「さっすが爆! やるねー!」
鑑見さんがそう嬉しそうに言った。このワイルド男、羨ましすぎる。
「超能力が全てではない。その事に気づけないのは、貴様が超能力に頼りすぎていたからだ!」
ワイルド男がそう言って、ジャンプした。そして空中でくるっと回って左足で回し蹴り。吾妻雷太が吹っ飛び、腕輪が外れて転がる。
かっこよすぎる。超能力がありながら、それに頼らないなんて。こいつを応援する人たちの気持ちが分かる。
これが、サイカーバトル……俺は今、とてもワクワクしている。




