「小説の書き方の教科書」を読んでみた
現在、私は完結済みの処女作を読み直し、絶賛改稿中である。
そして、死にそうである。
いや、正確には、過去の自分の文章に頭を抱えている。
「こんの下手くそおおおおお!!!」
何度、そう叫んだことだろう。
当時は一生懸命書いていた。
書いていたときは、それなりに「よし、書けた!」と思っていた。
ところが、時間を置いて読み返してみると。
出てくる。
出てくる。
直したいところが、まあ出てくる。
文章の繋がりがおかしい。
説明が多い。
描写が足りない。
場面が分かりにくい。
そして何より。
「お前ら、いつの間にそこへ移動した!?」
キャラクターがワープしている。
さっきまで部屋にいた人物が、何の前触れもなく廊下にいる。
誰かが椅子に座っていたはずなのに、次の瞬間には立っている。
問題は、これを見つけたところである。
「ここ、なんか変だな」
というのは分かる。
しかし。
「じゃあ、どう直す?」
となると、途端に分からなくなる。
こんの下手くそおおおお!!
……で?どこ直せばいいんだよコラァッ!!
そんな状態で、私は処女作の改稿を続けていた。
そんなある日。
夕飯の買い出しのため、近所の大きなショッピングセンターへやって来た。
豆腐ハンバーグの材料を買い、さて帰ろうかと思ったところで、いつものように併設された書店へふらりと立ち寄る。
特に目的はない。
新刊の表紙を眺めたり、平積みの本を冷やかしたり。
本屋というのは、用事がなくても入ってしまう場所なのだ。
そして私は、平積みにされていた一冊の本を見つけた。
額賀澪著、『一冊目に読みたい小説の書き方の教科書』
赤い帯には、こう書かれている。
―「描写」と「説明」の違いがわかりますか?―
うん。分からんね!
実に興味深い!
君、家の子になりたまえ。
その日の私は、豆腐ハンバーグの材料と一緒に、その本もレジへ持っていった。
「お買い上げありがとうございましたー」
店員さんの間延びした声を背中に受けながら、駆け足スキップで帰路につく。
こうして私は、小説の書き方を教えてくれる教科書を家に連れ帰ったのである。
なんという絶妙なタイミングで現れた本なのだろう。
これはもう、読むしかない。
本書では、プロットの作り方や視点の置き方、描写のテクニックなど、小説を書くための基本的なノウハウが図解を交えながら解説されている。
小説家が無意識にやっていることを言語化し、基本から学べるように構成された一冊だという。
なるほど。まさに今の私が欲しがっていたやつだ。
ただ、私が今回特に気になったのは、第2章から第3章あたり。
「文章がおかしい」
「ここ、なんか分かりにくい」
「説明しすぎている気がする」
そう思いながら、どこをどう直せばいいのか分からず、頭を抱えていた。
そこで出てきたのが、「描写」と「説明」の話だった。
本書では、
「説明」を「情報を客観的に伝えることを重視した文章」
「描写」を「情景や感情を読者にイメージさせることを重視した文章」としている。
なるほど。言葉だけなら、なんとなく分かる。
でも、実際に文章を書いていると、
「これは説明なのか?」
「いや、描写……?」
となる。
ここで本書がありがたい。
実際の文章を使った例題が出てくるので、ただ定義を読むよりも違いが掴みやすい。
そして、読んでいて私が改めて気になったのが、
「誰が、どこで、何をしているのか」
という、ごく基本的なことだった。
登場人物がどこにいるのか。
何をしているのか。
誰が誰に向かって話しているのか。
こうした情報が読者にきちんと渡っていなければ、頭の中で場面を組み立てるのは難しい。
そして、もう一つ大事なのが、その情報をどこで、どの順番で見せるか。
同じ情報でも、出す順番が変われば、読者が受け取る場面の印象も変わる。
……待て。
これって。
私の処女作でキャラクターがワープしていた原因の一つでは?
「さっきまで部屋にいたのに、なんで廊下にいるんだよ!」
と叫んでいた私に必要だったのは、文章を一文ずつ眺めることだけではなかったのかもしれない。
その場面で、読者は何を知っているのか。
誰が、どこにいて、何をしているのか。
その情報が、読者の頭の中でちゃんと繋がっているのか。
そう考えて読み直してみると、今までとは違うものが見えてくる。
「あ、ここだ」
「あー、ここで情報が足りなくなってる」
「だから次の段落で急にワープして見えるのか」
……面白い。
そして同時に、過去の自分の文章が、また一段と怖くなってきた。
どうやら私は、まだまだ処女作から逃げられそうにない。
というか、この本を読み終わった頃には、いったい何箇所直すことになるんだろう。
ちょっと考えたくない。
でも、知ってしまった以上、見えてしまったものは直したくなる。
こうして私は今日も、処女作の原稿を開くのである。
「よし。次はどこだ」
……頼むから、もうワープするなよ。
そして、この本を読んで一番大きかったのは、文章が突然上手くなったことではない。
相変わらず、自分の過去作品を読めば、
「こんの下手くそおおおお!!!」
と叫びたくなる。
ただ、以前とは少し違う。
前は、
「なんか変だ」
で止まっていた。
今は、
「ここがおかしい」
と、指を差せる。
情報が足りない。
ここで説明しすぎている。
この人物がどこにいるのか分からない。
ここまで読んだ時点で、読者には何が見えている?
そうやって、一つずつ考えられるようになった。
たぶん、これが今の私にとって一番大きい。
「小説が上手くなった」と言えるほどの実感は、まだない。
けれど、以前ならただ眺めていた文章を、少し違う角度から見られるようになった。
それだけでも、改稿中の私には十分ありがたい。
直す場所が分かれば、直せる。
分からなければ、また調べればいい。
そして書いて、読み返して、また直す。
そうやって少しずつ、自分の文章を見る目を増やしていけたらいい。
というわけで、『一冊目に読みたい小説の書き方の教科書』。
処女作の改稿で頭を抱えていた私にとっては、なんとも絶妙なタイミングで出会った一冊だった。
まずは、キャラクターをワープさせない。
そこから頑張ろう。
……いや、本当に。
頼むから普通に歩いて移動してくれ。
出典
『1冊目に読みたい小説の書き方の教科書』
著者:額賀澪
発行元:日本ビジネスプレス
出版社:ワニブックス
刊行日:2026年3月16日
ISBN:978-4847076367
https://nukaga-mio.work/text2




