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箱根の山は高く険しく美しく ~箱根駅伝を目指していた男~  作者: 鹿園鹿


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第1区 俺には何もない

 俺の名前は清木海斗(しきかいと)。関東大学に通い絶賛就活中の大学四年生。


 今現在、俺は就活に苦戦している。特に面接が課題だ。

 

「あなたの強みは何ですか?」

 

 就活を経験してきた方ならわかるであろう。これは就活においてほとんどの企業で聞かれる対策必須な質問である。俺は毎回この質問をされると顔をしかめてしまう。一瞬言葉に詰まってしまう。

 しかし実は少し前までは俺は自分の強みに自信を持っていた。なぜなら俺は就活で大きな強みになるといわれているいわゆる体育会系の人間だった。そう、()()()のだ。



 俺はかつて箱根駅伝を目指して駅伝部に所属していた。高校時代にある程度の記録を残し、関東大学から推薦の話をもらい箱根駅伝を目指して進学を決めた。


「学生時代は箱根駅伝を目指して頑張ってきました!」

 

 このセリフを何回言ったことだろう。箱根駅伝を目指し、死に物狂いで走ってきた。陸上以外の全てを捨てた。それだけ陸上にこだわり努力をしてきた。


 就活でもその話はしていた。実際箱根駅伝を目指して頑張ってきたのはホントだ。努力して困難に立ち向かってきたのもホントだ。俺が学生時代に頑張ってきたことは陸上だ。何も間違っていない。嘘はいっていない。俺はほんっとうに頑張った。


 だが、

「私の強みは粘り強さと目標のために努力できる力です!」

「箱根駅伝を目指して競技に取り組む中で苦しいこともたくさんありましたが、どんな時も諦めず前を向き頑張ってきました。」


 こう言うつもりであった。エントリーシートを書いた段階ではまだ部活に所属していたため面接官は俺が退部していることを知らない。つまり嘘を言ってもばれないのだ。諦めず頑張ってきました。そう言えばいいはずなんだ。


 でも、言えなかった。どうしても途中で辞めたという現実が重くのしかかってくる。


 

 俺は、箱根駅伝を諦めたのだ。


 

 その事実は、消えない。俺は嘘はつけなかった。




‐‐‐‐




 俺は大学のキャリアセンターに向かった。あまり乗り気ではなかったが仕方ない。俺と同じ境遇を経験したことがある人はわかるだろうか?部活を辞めたあと大学に行って陸上部の人にあったら、監督がいたら、俺のことを知っている先生に遭遇したら、外に出歩くことすら億劫だ。


 だが、このまま強みがわからない状態で就活に立ち向かってもうまくいかないことはわかっていた。部活をやめてから何をやるにもやる気がわいてこない。無理やりでも就活に向き合わないと俺はこの先落ちぶれ続けてしまう。どれだけ俺が苦しんでいても時間は待ってくれないのだ。



「清木さんじゃないですか。今日はどういった相談ですか?」


 若い女性の職員さんが対応してくれた。大学内で陸上部はかなり有名だ。俺が陸上部に所属していた選手だということも知っているようだ。そんな人に陸上を辞めたということを話すのもかなり気が引けるが仕方ない。


「実は先日陸上部を辞めまして、それも関係して自身の強みがわからなくなってしまって・・・面接でもうまく話せなくなってしまったんです。」


 気まずい空気が流れないよう必死で笑顔をつくろうとするが、苦笑いにしかならない。


「そうだったんですか・・色々大変でしたね。まずはお疲れ様でした。」


 良い人だ。だが、その言葉に対して俺の胸はもやもやしてしまう。それだけ今の俺の精神はまいってしまっているのだ。会話がきつい。気を使わせてしまって申し訳ない。


「それで、清木さんの強みに関してですが」


 そうだ、本題は俺の強みに関してだ。


「今まで競技に取り組んで、あれだけの練習に耐えてきた経験は間違いなく大きな強みだと思いますよ。」


「確かに自分もそう思っていました。自分でも自分は頑張れる人間だと信じていました。でも、逃げてしまった。諦めてしまった。僕は今まで何人もの選手が部活を辞めていくのを見てきました。そのたびに心のどこかであの人は諦めたんだと思っていました。そして今自分がその立場になった。」

「俺はもう自分をつらい時に逃げてしまう弱いやつだと思っています。」


 もう苦笑いをする余裕もない。心がどんどん下向いていく。自分の弱いところだけが頭に上がってくる。



「清木君、部活を辞めたからってあなたが今まで頑張ってきたことがゼロになったわけではない。」


 今までよりも強くなった口調に俺は顔をあげ職員さんの目を見る。


「清木君は今まで陸上を通じて様々な経験をしてきたはずです。その中に必ずあなたの強みはある。」


 職員さんの口調がさらに強くなる。俺の頭に、胸に一言一言が刺さる。


「少なくとも私は清木君が部活を辞めたからといってあなたが今まで陸上を頑張ってきたことを尊敬するし、あなたをすごい人だと思っている。」

「あなたが今までしてきた経験、その中で感じたこと、成長したこと、私にはわからない。でも、あなたなら見つけられる。あなたが歩んできた道の中に答えはある。」


 真っ黒なモヤが渦巻いているようだった俺の胸が徐々に明るくなる感覚だった。目頭が、胸が熱くなる。

 俺は絞り出すように声を出す。


「ありがとうございます..俺、やってみます。」 

 

 そうだ。うん。やってみよう。もう一度、振り返ってみよう。俺の陸上人生を。


 あるはずだ。俺にも。なにかしら。




 

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