1話 勇者の死
最っっ高にかっこいい死に方をしたかった。
自分より遥かに強い相手と戦い勝利を収め、誰かを守って死ぬ。そんな死に方が理想的だった。
死とは、生物が最期に放つ最も偉大な輝きだ。
どのように生きたのかではなく、どのように生き死んだのか。それこそが人生だ。
だから僕は、常に魔物と戦い続けてきた。
魔物の前にはいつも誰かの悲鳴がある。
魔物と戦って、勝って、また次の悲鳴に駆けつけて、戦って勝って……それだけを繰り返して。僕を死なせてくれるような相手を追い求めて。
そうして僕は、いつの間にか――
「エル・E・エールよ、よくぞ魔王を倒してくれた。そなたこそが真の勇者だ」
――気が付けば、魔王を倒してしまっていた――
呑喰の魔王アルドメギスさえ、僕にとっての〝遥かに強い相手〟にはなりえなかったのだ。
「ありがとうございます、陛下」
国王の御前で跪き、僕は形式ばった挨拶をする。
いつもは国王か貴族か、使用人しか入れないはずの玉座の間は、誕生した勇者を讃えるため一般人でごった返していた。
(……これから先どうしよう)
魔王を倒し、世界に平和をもたらした……達成感はある。人々から賞賛を受け、素直に嬉しいとも思う。
だけど僕の胸の中は、ぽっかりと穴が空いてしまっていた。
(これから先、僕を死なせてくれる相手なんて、もう……)
魔王を倒してしまった今、僕はもう、最っっ高にかっこいい死に方なんてできない。
世界は平和になってしまったのだ。僕が一番求めていた理想は、もう叶わないのだ。
振り返れば、万雷の拍手が僕を迎える。人々は思い思いに賛辞の言葉を述べていた。
だけど彼らが〝何を〟言っているのか、僕は聞き取ることができなかった。
――魔王が死んで、六十年が経過した。
僕は八十五歳になっていた。魔王を倒した褒美に与えられた屋敷の中で、一人静かに死に向かっていた。
(ああ、僕の人生はこれで終わるのか……)
平和な日々は、ついぞ乾いた心を満たしてくれることはなかった。
初めて流した涙は冷えゆく体よりも冷たい。
(もし……もしも僕に、来世があるのなら)
僕は、信じてもいない神に願う。
次こそは――来世こそは、
「最っっ高にかっこよく死ぬ。そんな理想的な人生を送れますように」
斯くして、勇者エル・E・エールの人生は一度幕を下ろしたのだった。




