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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
64/103

 旅立つ者達

出会いがあれば、別れあり。


次話からはどちらかと言えばデ〇〇?(笑)

そういえば、月の精霊は何かをストローに伝え掛けていたような?(難ヒント)

◤ストロー◢


「もういい加減に頭を上げろよな!そんな事されても困ると何度も言ってるだろう? 無論、ダムダの件といい、迷惑な魔術といい…未だに腹が立つことはあるがな」

「いいえ、今度ばかりはこのマリアードもそのお言葉には首を縦には振れません。ストロー様は甘過ぎます!この者は下手をすればこの村を破壊し、住民達を亡き者としようとしたのですよ? どうかここは、我らガイアの徒にお引渡し下さいませ…これ以上、ストロー様に迷惑を掛けぬよう我らの威信にかけてこの者を更生してみせましょう!」

「儂らはのう、まあ結局はダムダのお陰で助かったしの。…それにこの者が穴に飛び降りねば、我が家族が元の姿に戻ることも、儂が家族とこうしてまた出会い…リオン兄上達がこうして祝言を挙げることもできなんだ。ストローも司祭も…どうにか許してやってくれぬかのう」


 俺達は未だにカウンター前で土下座し続ける男を見やる。正確にはもうひとり、そいつの背中に引っ付いているがな。まるで二人場居りの土下座を見てるようだ。


「精霊様、どうか!ムラゴラドをお許し下さい!」

「…ロトスアン。もう良い、これ以上大生(だいせい)を庇うな」

「何を今更!小生はナーシエ様とドックレイ様と約束したんです!ロトスアンはムラゴラドと共に生きると…!あなたが戻られたその日に小生と一緒に死者の門の前で待っていた御家族とお会いしたじゃあないですか。ムラゴラドもナーシエ様達にメチャクチャ説教されてたじゃないですか!?」

「うっ…それは」

「もう何日も一緒に居て話合ったでしょう。これからは小生達はずっと一緒ですからね!」

「ロトスアン…」

「「………」」


 俺達は一体何を見せられているんだろうか。


 このふたりはここ数日2階の部屋に籠ってる間に師弟の関係からどうやら別の関係に発展したらしい。

 あと…だいぶ前にデスの奴も騒いでたが、使者の門ってあの世のことだろう? 多分、夢の話なんだろうがな。俺のベッドには完全回復の効果はあっても、あの世に行けちゃうサービスまではやってない。 …はず?


「はあ…もういいからとにかく二人とも立ってくれ」


 俺はカウンターからロビーへと出てきて半ば無理矢理にバカップルを引っ張り起こした。

 そこへ俺の肩に両手を置くウリイが現れた。直ぐ側にはワゴンを押すダムダも居た。


「ねえ、旦那様? 許してあげてよ。ボクにはロトスアンの気持ち、ちょっとだけわかるんだよ」

「俺ぃも、あの時は急なことでビックリしただけですぅ。…そう怒らないであげて下さぃ」

「ウリイ…ダムダちゃん…」


 二人の助力に目を潤ませるロトスアン。…部屋に様子を見させに行かせてる間にすっかり仲良くなってしまったようだな? 特にウリイは歳が近いせいなのかもしれない。


「わ~ったよ! もうこの件は無し!無かったことで水に流そう。それで良いだろう?」


 ダムダとウリイ、そしてロトスアンの顔がパアッと明るくなった。マリアードはまだ仏頂面だな。俺はやや呆けているムラゴラドを睨む。


「ムラゴラド…ロトスアンが言うには、あの世で自分の妻達に説教されて帰ってきたみたいじゃあねえか? 今迄にアンタがどんな事をしてきたか俺は知らんがな、その娘さんを悲しませるようじゃあ…どう頑張ってもアンタの家族が待ってる場所までは行けねえぜ?」

「…………」


 ムラゴラドが俺の言葉に目を見開き、苦渋の顔を浮かべて俯く。


「せいぜい…その娘さんを大事にしてやりな。さあ、んなとこに突っ立ってねえでテーブルに行きなよ。今日は長老の兄貴の祝いの日、めでたい日なんだ。アンタ達も好きに飲み食いしてきなよ」


 俺はムラゴラドの肩を軽くポンと叩くと歩き出す。


「悪いが、マリアードもそれで許してやってくれ。今日は祝いの日だろう?」

「……ストロー様がお許しになると、そこまで仰るならばこれ以上私が口を出すことなどありません。 ムラゴラド…ストロー様に感謝なさるのですね。聞けば、あなたの呪いを解いた一件でストロー様はドライアド様から疑念を向けられているとのこと…それでもあなたを庇うと、忠告しにやって来られた月の精霊ルナーに宣言されたそうですからね…。そうなった以上、その命…粗末にすることなど到底許されません。私からは以上です…」


 マリアードもその場から離れると、ムラゴラドが膝を付いた。涙目のロトスアンが震えるムラゴラドを抱きしめる姿が目に入る。


「さあ、どいたどいた!本日新たに夫婦となったハンペリオンとその妻キノエのお通りだ!テーブルの中央席を空けてくれよ? お~い。ウリイとダムダ~。追加で料理と酒よろしくなぁ~」

「「はぁ~い!」」


 そうだぜ。今日は祝いの日なんだよ。


 ◆


 次の日の早朝、まだ朝焼けが目に気持ち良い痛みを与えてくれる時間帯だ。

 俺はカウンターに居て、その前には二人の男女が手を繋いでいる。ムラゴラドとロトスアンだ。


「ストロー様…此度は世話になったぞよ」

「もう流石に死にたいなんて言わんだろうなぁ? ハハハ。また寄ってくれよ」

「この恩にかけて、必ず」

「勿論です! ウリイ、ダムダちゃん…また来るからね!」

「うん…!」


 ロトスアンが見送りのウリイと抱擁を交わす。思えば、ウリイがこれだけ部外者…元奴隷の仲間以外と仲良くしてるのは初めて見るかもしれんな。…ああ、やめときゃいいのに。案の定、哀れな赤髪の少女は抱き着いたダムダの胸によって残酷にも跳ね返されてしまったようだ。


「貰ったもんは全部返した…おっとホレ。これから当てのないない旅になるんだろう? 返すぜ」

「ああ、もうそんなものは要らんぞよ。そればかりは受け取ってくれまいか…」


 俺が取り出したのは金貨やら宝石やらがギッシリと詰まったマジックバックとやらだ。見た目がもうパンパンなのに、実際はもっと入ってるらしい。…正直言うとこの村に居る限り、金は殆ど使わないんだが。 あ、そうだ!


「わかった。じゃあ、マリアードにやる」


 俺はここぞとばかりにロビーの端からコチラを伺っていたマリアードの手元に向ってそれを投擲した。キャッチしたマリアードの掌からズシャリという重い音が宿に響く。


 中身を恐る恐る覗き込んだマリアードが珍しく顔を青くしている。


「……コ、コレは…! 私は戴けませぬっ!?」

「いやだって俺そんなに金貨要らんし。そだ、預かっといてくれよ? 必要になったらそこから好きに使っていいから」

「は、はあ…」

 

 何とか返事を返すマリアードの姿が何故かツボに入った。


「金子なら必要な分は小生がキチンと管理してますから安心してして下さい!」

「大生が受けた恩などを金子で代用できるとは思っておらぬぞよ。いつかまた別の形で報いると約束するぞよ! では、我らは転移の魔術でヨーグを降りることにするぞよ。…外の連中の別れの場に水を差したくはないのでな…」

「さようなら!小生も受けた御恩は忘れません!」


 笑顔で手を振るロトスアンと宿を訪れた時とはなにか表情が変わったムラゴラドが静かに頭を下げると、二人の姿がまるで蒸気が霧散するかのように俺達の目の前から消えてしまった。


「…魔術って便利だなぁ~。っと、後はチョットだけ外の様子を見てくるかな?」


 俺はカウンターを跨ぎ越すと、そっと宿屋の玄関を開いた。



 今日、俺の宿を去る者達がもう一組いた。

 正確には、この村から、か?


 朝靄がまだ残る広場には長老とその縁者達、そして人間の姿へと戻った元ブラックトロール達の姿があった。


「ラズゥとその身内の者よ。長い間、苦労を掛けてしまったな…」


 そこには旅支度を済ませたディコン、モーガン、ハンペリオン…そして新たにオーディン家に加わったキノエの姿がある。それを長老が先頭に立ち、やや寂し気な空気がただ流れていた。


 ラズゥと再会を果たしたディコン達はこの村を去るという。俺は既に昨夜の内に別れの挨拶は済ませてあるんでな。


 …いやぁ~最初は長老がごねるわごねるわ…大変だったよなあ。


「父上、母上…リオン兄上もやはり行かれてしまうのか」

「許せ、息子よ。我がオーディン家の使命は果たされた。女神マロニー様の言葉に従い、我らはこの世界の在り様を旅して知りたいのだ。また、お前を残してここを去るのは辛いが。ただ、昨晩も言ったように、我らは最初に召喚された地…お前も幼少の頃から知っているだろうが、ここから東方の砂漠を抜けた先にあるドラゴンスレイヤーの秘所にて先ずは数年を過ごそうかと思う。ここに厄介になろうとも一時は考えはしたが……純粋なドラゴンスレイヤーは、もはや残るは我らのみ。一族所縁の地をいつまでも放っておくわけにもいかぬのだ。解っておくれ…」


 長老は苦い顔で顔を伏せてしまった。そこへ涙眼のモーガンがそっと抱きしめる。


「ラズゥ…私はあなたの家族の子、チクアにもこうして出会う事が叶いました。長となったラズゥに私達の旅に着いてきて欲しいとは軽々しく言ってはならないことは承知しています。…ですが、もし叶うのならば愛する息子であるラズゥにも一緒に未知の世界へと旅立ちたいと私は思っています。…私はずっと待っていますよ、ラズゥ…!」


 名残惜しそうにモーガンは離れ、その肩をディコンに強く抱き絞められる。


「我が一族とその従者の血を引く、我が家族にして仲間。村の衆よ、どうか我が息子ラズゥをよろしく頼む…!」

「先ずはさらばだ!我が弟よ!いつかまた会える日を信じているぞ」

「わかっております。リオン兄上も御達者で…!」


 ディコン達は魔術の力で浮き上がり、手を振る。広場の面々が歓声を上げる中、最後に俺の方へ頭を下げた。そして、遠ざかっていく長老と互いに頷きあうと、遠い空へと飛んでいってしまった。


 ここ最近、賑やかだったのに…その反動なのか少し寂しいような気もした。


 長老の様子が気になって見てみる。


 

 そこに立っていたのはもう幼子のように泣きじゃくるオーディン家の末子である少年のラズゥは居なかった。


 手を振り続ける群衆の中に、ドラゴンスレイヤー最後の生き残りの重責と誇りを百五十年背負って生きてきた。このケフィアの村を統べる真の長、杖を突いて空の彼方を見やるラズゥ・オーディンの後ろ姿があった。



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