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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
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65/103

 ありがとう

◤ストロー◢


「あのぉ、旦那様…?」

「チョット出てもいいですかぁ?」

「お。またか? 別にいいぞ。メレン達も付き合って貰って悪いな。二人を頼むよ」

「いいってことさね旦那!じゃあ、宿の別嬪さんを二人借りてくよ」

「またニャ~」


 今日もウリイとダムダが女衆と一緒に宿の外へと出て行っちまった。

 

 …最近、多いな?

 まあ。ウリイ達だっていわゆる村の住民である彼女達との女の付き合いってのががあるんだろう。そこに関しては俺が特に嘴を突っ込むような真似はしない。誰だって息抜きは必要だしな。

 話は変わるが…ケフィアの村も今年最後の終節に入り、いつ雪が降ってもおかしくない程に冷え込んで来ている。この世界には祭日のような催し物はこの終節の30日が明けたいわゆる正月…もとい始節の1日に"女神への祈りの日"というものがあるだけらしい。ちなみにだが、驚くべき事にこの世界の住民に誕生日という概念は無い。その始節の1日と共に1つ歳をとるという考え方だった。まあ、俺の記憶にある数え年みたいなもんだろうか? でも誕生日プレゼントとかないのは寂しいよな…まあそんな文化だって生活の余裕ありきの考えなんだろうなぁ~。う~ん…。


 いかんいかん、完全に話が逸れた。そんな事で、このケフィアでもその祭日に向けて準備が進んでいるようで村人達もそこそこに忙しそうにしている。ありがたい事に俺の宿の存在が大きなやる気の発生源となっているという。まあ、祭日は皆で食べ放題の飲み放題ってことにしたからなぁ。っても基本の平日運転でも食事に関しては、俺は制限なんて何も設けちゃあいないんだがな? それなりに住民達は自粛しているらしい。何でもやはり明確な金銭のやり取り無しでは引け目があるという話だ。こうやってウリイ達や他の獣人達も世話になってるし、別に遠慮なんぞせんでも良いんだが? 全く持ってここの住民達は朴訥っていうか悪い気の欠片もない人間ばかりだ。勿論、良い意味でだ。


 話を戻すか。ウリイとダムダの様子が最近少しおかしい気がする。

 雰囲気が変わったというか…その一緒の部屋で過ごす時も変化があった。この前なんてウリイの奴が俺に襲いかかることなく休憩時間(Pゾーンでは約1日以上)が終わったこともあった。

 …異常だ。言いたくはなかったが、ちょっと色事には暴走しがちな…いやほぼバーサーカーなアイツが変にモジモジしてるだけで終わったなどと。

 まあウリイがやたら露骨なだけで、ダムダは上手く隠しているがやはり違和感を感じるんだよなぁ~。一応、探りを入れてみちゃあいるんだが…はぐらかされているんだよな。

 多分、あの夜の広場で月の精霊ルナーと出くわしたあたりからだろうか?


 …もしかして嫌われたか? いや、俺も薄々は気付いてるんだ…。


 ズバリ!結婚式だ。

 正直悪かったと思ってはいるんだぞ? ビイから結び衣装が仕上がったって話は聞いてたしさあ。…だのに成り行きとはいえ、長老の兄貴であるハンペリオンとキノエの挙式を先に優先させてしまったんだよなあ~。

 あ~…良し! 今日、二人が戻ってきたら全力で謝ろう。そいで、式を挙げられるかどうかマリアードに速攻で相談しよう。アイツにも苦労掛けてるよなあ…先日の挙式だってそうだし、今は年明けの祭日に向けての準備とかで忙しいかもしれん。


「……ってこんな時に限って、今日はマリアード達は来てないし」


 俺はいつものマリアード達の専用席である食堂隅のミニテーブルを見るが今日は朝から空席となっていた。代わりに一昨日からロビーにあるソファーの一角がとある人物達で占拠されていた。


「なあ、御爺様…考えなおして下さいよ? いきなりさあ、ケフィアの長を譲るって言われても無理ですよ? むしろ私が隠居したいくらいだよ?」

「と、父さん!? 俺は年末に向けてのエール造りで忙しいし、そもアンダーマインの長になるのだって無理だよ!」

「なんじゃあ、冷たい孫と孫の息子だのう。…ならば、ミーソスはこのケフィアで隠居。ここの長をウイナン、麓の長はチクアにでもやらせれば良いじゃろ?」

「「ええ!?」」

「チクアも年が明けたらもう(とお)じゃろ? 余裕じゃ、余裕」

「…まあ、御爺様がそう仰るんなら仕方も無いか。頼むぞ!ウイナン!チクア!」

「父さん無理に決まってんだろ!? ブンコにバレたら殺されちまうよ!」

「ジジ様も無茶言うよな~。どうせならこの宿屋のあるケフィアがいいな!」

「お。やってみる? 流石は我がオーディン家の血を引く者だな、気骨があるわい」


 そこに居座っているのは長老ラズゥとその身内達だ。

 麓のアンダーマインの長で長老の孫、ミーソス。正直言って長老と同い年くらいの老体にしか見えないぞ。

 その息子で件のあのあまり美味くないエール醸造場の元締めであるウイナン。ちなみに恐妻家で、ブンコという美人の奥さんがいる。…多分、ここ一帯の一般村人では最強でないかと思われる。

 そしてウイナンの息子でオーディン家の末裔である少年チクア。


 まあ理由は長老がこのケフィア村の長を辞したいと言い出したからだった。

 理由は…まあ、旅立っていった家族の事だろうな。こればっかりは所詮部外者でしかない俺が踏み込むことじゃあないな。まあ、また折を見て差し入れでもしてやろうか。


 にしてもあの二人…まだ帰ってこねえのかなあ。



 ◆◆◆◆



 場所は変わってここはケフィアの村中央に位置する聖堂。本日、朝から宿に居なかったマリアード達もここに詰めていた。


「では、失礼しますね…」


 マリアードは衣服をたくし上げたダムダの胸…そして腹部に慎重に手を這わせ、意識を集中している。それを心配そうに伺うウリイと付き添ってきた村の女衆。


「…………」


 やがてマリアードがダムダから離れる。その額からは余程の集中力を費やしたのか汗が伝っている。そこへマリアードの上着を抱えたシスター・ベスが近付く。


 マリアードが湯皿に張った水で両手を清めて拭い、上着を受け取るとやっと大きく息を吐いた。

 そして、心配そうな表情を浮かべたダムダとその背後に寄り添ったウリイの顔を交互に見やる。


「…お二人とも、おめでとうございます。 …間違いなく、ご懐妊されていますよ」


 その言葉を聞いてその場に居合せた者達は鐘を鳴らしたかのような歓声を上げた。周囲から嵐のような祝福の言葉を浴びせかけられた二人も暫くは呆けたような表情を互いに浮かべていたが、堰を切ったように号泣しだした。


「さあ、先ずお二人には何よりも優先してお伝えすべき方がいるのでは? メレンさん。それとリンとクリーも宿まで彼女達をお願いします。…大事な御身体なのですからね」

「もちろんさあ!司祭様。ホラホラ、二人ともいつまでもベソかいてないで宿に戻るよお!へへへ…不敬だろうがね、旦那がどんな顔するか楽しみだねぇ」

「すごいニャ~!ウリ姉もダム姉もこれで母ちゃんになるんだリャ!」

「グスッ…おめでとう二人とも。さ、宿に戻ろ?」


 マリアード達に向って何度も頭を下げてから、二人は女衆に支えられるようにして聖堂から去って行った。



 ◆



 二人が宿へと去って行くのを見届けた後だった。

 

 ドスン!とマリアードが盛大に聖堂の硬い床に尻もちをついた。


「マリアード様!?」

「……心配は…不要ですよ、シスター・ベス」


 マリアードの背中は大量の汗でびしょ濡れになっていた。マリアードは極力自身に掛かる負荷を勘付かせないように尽力していたのだ。


「ハハハ…私も、まだまだ修行がたりませんね。 ムラゴラドの件があってから、あの二人から相談を受けてはいましたが…本当に精霊との子を授かるとは…!」


 マリアードの手がブルブルと震えている。


「大丈夫ですか…」

「気を抜けば私の中に膨大な量のスピリットが逆流するところでした…危なかった。あの二人は支族化した姿でもその身に纏うスピリットは微小でしたが、胎内に存在しているあのスピリットは…我らが初めて邂逅した時の精霊のそれでした。この世界が始まって以来、初の"半神"が生まれるのでしょう…!」


 "半神"とは、本来下級神と同等の存在である精霊…つまり神との間に生まれた生命体の総称である。だが、地上と最も密接にある精霊が伴侶を得、支族化した例はストロー以前にもあった。しかし、未だに精霊が支族との間に子を設けたことはない。つまり、このグレイグスカにとって未だかつてなかった存在が生まれのだ。


「…私も二人を追ってストロー様の下へ向かわねばなりません。シスター・ベス、これは世界の一大事となる事となるでしょう。あなたは急いでガイアの徒の集会所に向かい大地の大司祭様にこの奇跡を必ずや伝えて下さい。頼みましたよ…我らは常に精霊と共に…!」

「我らは常に精霊と共に!」


 覆面頭巾の目元から大粒の涙を零しながらシスター・ベスは印を結んだあとで腕をクロスさせ深く頭を下げる。そして聖堂から風の様に姿を消した。


 マリアードは上着を羽織ると聖堂の外へと出た。優しく雪が積もり掛けようとしている遠方のヨーグの山々は今日もまた美しく輝いていた。



 ◆◆◆◆

◤ストロー◢


「お。帰ってきたか……どうした?」


 ウリイとダムダが女衆と一緒に帰ってきた。が、やはり何だか様子がおかしいぞ?

 それに何だか知らんが周りの女衆がさっきからニヤニヤしている。やはり女衆に俺への不満を愚痴ってたのだろう…奥で謝って話そうかと思ったが、仕方ない…もうここで謝っちまおうか。


 顔を赤くしてモジモジしてる二人が肘で小突かれて俺のへと出て来た。…よし!


「…二人ともゴメッ」

「ボク達…赤ちゃんができたんだ!!」



「あ?」


 開いた口が塞がらない。とはこのことなんだろう。

 一瞬でおべっかモドキの結び衣装可愛いとか、考えていた言い訳が頭からすっ飛んだ。


 というか…ボク()

 俺は多分、油が切れたポンコツロボットような動きで首をダムダに向ける。


「…俺ぃも、はい…授かりぃ、ました」


 俺はロボットダンスしながらダムダのお腹を指差す。


 涙ぐんだ瞳のダムダがコクリと頷いた。


「ストロー様、細君両名とものご懐妊、おめでとうございます」


 いつの間にか玄関に立っていたマリアードが宿の中へと入ってきていた。


「おおっ!? ストローとの子ができたとな!めでたいっこりゃあめでたいわい!!」


 ガバリと立ち上がった長老が手を叩き出したのを始まりに、宿の居る者が席を立って笑顔で拍手をしだした。


 マリアードも、女衆も、チクアと長老の身内も、獣人達も、昼を食べに来ていた新たな住民となった元ブラックトロール達も、今日この宿をたまたま訪れていた冒険者も俺達を祝福してくれた。


 何か俺の胸に始めてドロリととても暖かいものが流れ込んできているように感じた。言葉にできないような多幸感に溺れそうになる。


 俺は暫くろくな反応もできず、何もできずに喘いでいたが、目の前の心配そうな表情のウリイとダムダの姿が目に入った。



 俺は気の利いたセリフすら何も考えられなかった…考えらえなかったが、その本心からの言葉だけは何とか絞り出せた。



「ありがとう」



 俺の頬に涙が伝った。



 二人は俺の言葉を聞いた途端、目から滝のような涙が溢れだした。


 

 俺達三人は無数の拍手を浴びながら身を寄せて手を握りあって泣く事しかできなかった。



 その日、俺とウリイとダムダは…精霊とその支族という関係だけではなく、本当の家族になった。



第一部完!!(言ってみたかっただけw)

普通に続きます。

でも第二部は少し区切ろうかと考えています。

いい加減、アイロス編を書きたいので(疑心暗鬼)

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