婚礼祝いと土下座
酷いタイトルだ(笑)
ちうか某蒸気機関のセールでしこたまゲームを買って積んじゃった!
遊ばなきゃ!(※もう遊んでます)
「はあ…今日は忙しいなあ。まあ良いけどさ」
「旦那様!ボク追加のお酒と料理持ってくるね」
「俺ぃも!」
「おう。頼むわ」
長老と百年以上の間、死別していたと思われた家族…ドラゴンスレイヤーたるオーディン家。
末子たる長老ラズゥの父、大剣士ディコン。その妻でありラズゥの母親である魔術師モーガン。そしてラズゥの兄である魔法戦士ハンペリオン。
彼らは穴の底に逃げ込んだ邪竜マッドロードとの決戦で命を失ってなどいなかった。マッドロードを倒しはしたが、その身に浴びた毒気によって命を失い掛けていたところを最期に理性を取り戻した当のマッドロードが己の血を捧げてディコン達をブラックトロールの姿へと変えて生き延びさせたのだ。他のブラックトロール達もそうやってマッドロードによって命を救われた者ばかりで、誰もがマッドロードに恨みなどは持っておらず、マッドロードの死後もその亡骸を守る為に留まっていたのだという。
尚、ブラックトロール達は日光に長く当たってしまうと数年間は岩のように固まってしまうというのが真実で直接的な死とまでには至らぬようだ。
「「めでたい!めでたい!」」
「長老様の兄貴さんが嫁さんを貰ったし、住民も増えてこのケフィアもこれから賑やかになるなあ!」
「違いない!そうれ、飲めや歌えやだ!!」
本日は祝いの日というこで宿は飲み食い自由の無礼講。ストロー達が忙しいのもそのせいだが、提案したはストロー本人なのだから仕方も無い。
現在、宿にはケフィアの住民と麓のアンダーマインから登ってきた長老の血筋の者達。それに加えて、人間の姿に戻った元ブラックトロール達が20人ほどもいるから大変だ。正直この広さになっても収容し切れないほどの人数にまでなっており、広場にも人だかりが出来ている。だが、広場に溢れたのは宿の利用者という訳ではない。
むしろ、本日の主役は広場にいる二人だった。
◆
長老らが感動の再会を果たした矢先、その兄であるハンペリオンが膝を付いてストローに嘆願したのだ。
「精霊様に厚かましくもまだ願いたい事があるのです! 私達と同様にブラックトロールへと姿を変えた者達を人間の姿に戻していただけませんでしょうか!どうか、どうかお願い申し上げる!」
長老達の抱擁を眺めていたストローに必死に嘆願するハンペリオンに事情を聞けば、なんと穴の底に想い人を残しているというではないか。その女性の名はキノエというらしい。
「へえ。まあ俺の宿に泊まりにくることができればそれで構わないけど?」
特に考えも無く了承するストローにハンペリオン達が歓喜の声を上げる。早速、穴へ向かおうとするとハンペリオンをストローが呼び止める。
「おいおい、アンタ達だけで昇り降りしてたら大変だろう? お~い!誰かマリアードを呼んで来てくれないかぁ~?」
「……ストロー様。このマリアード、既に御身の側に馳せ参じております」
「おわっ!?」
ストローが広場の監視しているであろう覆面装束に声を掛けた途端に背後に当のマリアードと数名の覆面装束達が降ってきたので飛び上がった。
「驚かせんなよなあ~。ちょっと頼みたい事があるんだけどさあ…って泣いてない?」
「いいえ…」
見ればマリアードは極力平時を装ってはいるのだが、涙と鼻が垂れ流しになっていた。後ろの覆面装束達に至っては未だに嗚咽の声を漏らしている始末だった。
「そ、そうなのか? でさ、近くで見ていたんなら話は早いな。長老の身内からの願いなんだ。助けを借りたい」
「「ははあ!我らは御身の為に!」」
マリアード達が腕をクロスさせて印を結び、地に伏せる如き礼拝をストローに捧げる。そして、マリアード以外が鳥か虫のような影の如き速さで各地に散っていった。
「…私はこの村の司祭、マリアードです。ストロー様からの下命を賜り、貴方様への助力に喜んで努めましょう」
「ありがたい! しかし、ご存知ではあろうがこの穴は深い…。お気持ちは嬉しいが、大丈夫なのでしょうか?」
「無論です。我らガイアの徒の兄弟姉妹に精霊様のご期待に応えられない者などおりませんので」
そうキッパリと言い放つマリアードに流石のドラゴンスレイヤー達でも二の句が継げなかった。
「ところで、マッドロードの毒気はもう完全に失われいるのでしょうか?」
「そこは問題ない。悪神エイリスから解放された暁にその身から放つ瘴気は途絶えた。ただ、穴の底から全員が地上へと戻ることは…ないと思う」
代わりにディコンが答える。現在、完全に幼児退行してしまったのか、ラズゥにモーガンと共に抱き着かれてしまってはいたが。
「すまぬな。この子がこれでは余りにも不憫で…しばらくは私と妻はここを離れられそうにないのでな…」
「申し訳ありません…」
モーガンもラズゥの頭を優しく撫でながら頭を下げる。
「これも全てはストロー様の思し召し。礼には及びません。しかし…残る理由となると…やはり"破滅主義者"達を恐れてマッドロードを御守りする為ですか?」
「そうだ…あの悪神の手先共が未だ諦めているとは思えないからな」
「そうですね。ではやはり、私も共に穴の底に降りて完全とは言えずとも暗黒魔術への結界を張ることに致しましょう。同行させて頂く事をお許し願いたいのですが?」
「…感謝する!これでマッドロードの御霊も、そして恩を抱いて側に居ようとする者達も安堵することだろう」
ディコン達が安心したような笑顔を浮かべる。
先の破滅主義者とは手段を選ばない非道で残虐な暗黒魔術の結社である。そして、その最終目的は絶対的な力を得ることや、この世界の支配などではない。…このグレイグスカそのものを破滅させる事だ。何故、自身もまた消滅させる事となる世界の破壊を望むのか? その真意は未だ理解しかねる。しかし、あの大破壊を引き起こした悪神エイリスの手先となって今なお世界で暗躍していることは事実だった。また、この世界で長く生きる聡い者には、あの獣人の迫害でしかないアデク教もこの破滅主義者達が関与して興されたのではないかと推察しているだろう。
「それでは、参りましょうか?」
「マリアード殿、私は"蝶の如く"の魔術があるのだが…まさか、その身ひとつでこの穴の下るおつもりか?」
「問題ありません…が、ああ来たようですね」
そこへ広場へと続々と覆面装束達がロープを手に集まってきたではないか。
その人数は既に軽く30を超えている。各自が持ち寄ったロープを繋ぎ合わせて一本の長いものとした。そして、その端をブラザー・ダースの身体へと巻き付ける。その瞬間、ロープ全体が淡く光を帯びた。
「これは、我がガイアの徒…特に大地と密である者の技でございます。このロープに触れた者は一時的にガイア…つまり大地へと引き寄せられる力が遮られ、著しく重量が軽くなるのですよ。これを用いれば、地の底から地上へと大人数でも引き上げる事が容易になります。まあ、単身の昇り降りに関しては私には必要ありませんが…」
そう言ってマリアードが片手に持った金属製のワンドに魔力の光を灯すと、ストローに恭しく礼をしてから穴へと飛び降りた。
覆面以外のストロー達が慌てて穴を覗き込むと、穴の壁の側面をピョンピョンと蹴りながらマリアードが地下深く降りていく姿があった。
「……凄まじい身体能力だな。あれで常人の身なのであろうか? 我が一族に匹敵するかそれ以上だぞ」
ラズゥを抱えたディコンが恐ろしいものを見るような目で穴の底へと向かう光を目で追った。
「では、父上。母上。私もキノエ達を迎えに行って参ります…ラズゥをお願いします」
「また後でな」
ハンペリオンもまた自身の魔術、"蝶の如く"で空を舞い、穴の底へと降りていった。
それを追うようにして、自身の身体にグルリとロープを巻いた覆面装束達がストローに一礼しながら穴へと飛び込んでいったのだ。そこにはブラザー・ぶち達の姿もあった。
結果的にその日の夕暮れには怪力を誇るブラザー・ダースによって合計26名のブラックトロール達が一本釣りされた。同じく地上へと飛んで戻ってきたハンペリオンの背にはもう1体ブラックトロールの姿があった。
彼らは既に真実を知らされていた村の住民達から拍手で迎えられた。
「せ、精霊様…この度はなんとお礼を申し上げればよいのか…」
「お? 良いってことさ。なんせ俺も長老…ああそこのドラゴンスレイヤーの息子だけどな、世話になってるからさ。さあさあ俺の宿へようこそだ! ウリイ!ダムダ!お客さんをお部屋まで案内してくれ」
「喜んで!」
「さあ、コチラですぅ~」
速攻でブラックトロール達はストロー達によって抵抗する間もなくベッドインさせられたのだった。しかし、現在の宿のベッド数は23。ダブルの1部屋はムラゴラド達がまだ使っているのでベッドの数は21で6人ほど余ったのだが、既に穴の底で順番を決めていたらしく揉めることはなかった。
そして陽の射さない食堂に残ったブラックトロール6体はストロー達が相手をした。その中にはハンペリオンの想い人であるキノエの父親も居た。
「また地上で暮らせるとは夢のようです…それに娘にも人間の女として幸せにならせてやれるとは」
まるで冷えて固まった溶岩のような人型の生き物が涙を流すのはとてもシュールだった。ストローが聞けば、彼の娘と妻が今夜は2階のダブルに泊まっているという。
「人間に戻ったら、今後どうするね?」
「もう私達の村が滅んでから百年以上経っていますし。ここを第二の故郷としてこのケフィアの空いた土地を開墾させて貰い、そこで暮らしていこうかと思っています」
「そういや、最近は麓の連中もケフィアに住みたいって家とか畑とか作ってたもんなあ。ああ、それで長老の孫だっていうアンダーマインの村長が焦ってたんだっけか? ハハハ…」
因みにディコン達はこの場に居ない。すっかり参ってしまった長老を連れて長老の家に行って貰っている。
翌朝、人間の姿に戻った娘のキノエと妻を見て父親は泣いて喜び抱き合った。残りのブラックトロール達も泣いて家族や仲間と抱き合い、嬉しさを分かち合っていた。
ストローは「水を差すようで悪いが、日が高くなる前に今度はアンタ達の番だ」と言ってキノエの父親達を1階のベッドへと押し込んだ。途端に人間の姿を取り戻していく様を見て、元ブラックトロール達はストローに向って平伏する。
「やめてくれないか。おっと…ほら娘さん、アンタの王子様の御着きだぜ?」
「あっ…!」
ストローが腰に挿していた藁を咥えてニヤリと玄関の方へと顎でしゃくり上げる。
そこには涙を流すハンペリオンの姿があった。
言葉も無く駆けて、互いに抱き合う二人の姿にその場に居合わせた者は皆、拍手喝采で祝福したのだった。
マリアード達が地上へと戻ってきたのは次の日だった。
「只今戻りました、ストロー様。多少はてこずりましたが結界は無事に張り終えました。それと、穴の底にはまだ数人が引き続き残るようです…まあ、見捨てられた民にとっては自分達を拾い上げてくれたマッドロードはそれほど大恩ある存在なのでしょう」
「わかった。まあその思いは無下にはできんよなぁ。今回はありがとうなマリアード…そこでだ、俺もひとつ礼がしたいと思うんだ」
「恐れ多い!私達はそのような…」
「まあ、いいからいいから。それでさ、ついでにもうひとつ頼まれてくれるか?」
「ははあ!なんなりとこのマリアードめにお申し付け下さい!」
ストローは住民達に囲まれているハンペリオンとキノエを見やった。
◆
「まさか…頼んだ次の日に聖堂で挙式を上げてくれるとは思わなかったがな」
ストローはカウンターに肘を付きながら正面玄関から見える広場を見ていた。そこには幸せそうなハンペリオンと結び衣装に身を包んだキノエが居た。長いマリアードの説法が終わり、周囲にいる村の住民達やディコンやモーガン、キノエの両親がそれを祝福している。
「あの結び衣装はシェラカ…儂の妻そして、我が子孫の娘達が着たもんなんじゃよ」
「確か長老に仕えていた従者の娘さんだったか?」
「そうじゃ。…できればアイツにも我が兄達の晴れ姿を見せてやりたかったわい…」
カウンターにはジョッキを片手にほろ酔い状態のラズゥがもたれかかりながら中身をチビリチビリと飲んでは目を細めていた。
ラズゥの幼児退行は治るまで丸2日掛かったことをここに加筆しておく。
そこへ説法を終えて、分厚い聖典を手にしたマリアードがストローの下に来て一礼する。
「マリアードもお疲れさん!ダース達や麓のぶち達も今日くらいは遠慮せずに宿で飲み食いしていけばよかったのに…」
「お気持ちだけで私共は感涙の至りでございます。ところで…」
マリアードが柔和な笑みを一瞬で消し去り、冷徹な視線で足元を見やる。
「この者の処遇をどう致すのですか?」
「ほんにのう…」
「そこなぁ」
ストロー達はカウンターの前で未だに身動きせずに土下座し続ける者をみて困った表情を浮かべる。
そこに居たのは、あの大穴へと身投げするもまた地上へと生還を果たした…まさに不死身の魔術師。ムラゴラドの姿があったからだった。




