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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
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 月の約束

今週はもう1話書いたら、そろそろアイロス編の準備や設定集の更新をしようかと考えています。


特に設定集は筆者の為に(笑)

◤月の精霊、ルナー◢


 ルナーは月の精霊。

 具体的には月の他に大地・風・水・樹・(みお)・炎の7精霊で唯一の属性を持たない精霊。


 あ、まだ居た。

 (いかずち)だっけ? 知識と衰退を司る女神ウーンド様がまだ保有している精霊の枠は。


 炎のサラマンドラがノーム様を裏切ったあの愚か者達を罰するために地上に顕現してからもう千年以上は経ってるけど…未だに雷のがこの地上に降りてくる気配はない。

 まあ、無理もないか。まあ数万年前に聞かされた程度だけど…最強の精霊。それが雷だとウーンド様が仰ってたなぁ~。ルナー達、雷以外の7精霊は元々このグレイグスカの地上を管理していた雄神であるヨルムガン様の御力を分配して創られた存在なんだ。そして、ルナー以外は自身の属性を管理・支配して地上のコントロールに従事している。まあ、割と各々で好き勝手やってる節もあるけどね。

 闇の地母神ガイアが大地そのものだから…正直言って、大地の精霊であるノーム様は何の仕事もない。ことはないと思うけどね? だけど…やっぱり何もしてないかも。

 風の精霊シルフはこの世界の大気を。

 水の精霊ウンディーネは海の全てを。

 樹の精霊ドライアドは地上の自然の生態そのものを。

 澪の精霊スケリッジは氷雪地帯を…そう言えばスケリッジは地上で始めて海を制した人間の女王の魂が核につかわれているんだっけ。

 炎の精霊サラマンドラは厳密に言うとノーム様と同じで属性の仕事はない。女神の名の下に動く裁定者だ。罪を裁き、害ある者を滅ぼす。


 そしてルナー…月の精霊であるルナーの仕事は月の管理だ。月が空に昇ることで地上は夜になり、生物は安息を得ることができる。

 月はあらゆる世界に同じく存在し、必要な太陽(ルークス)とは違って、世界が出来上がった後に創られた地上とは絶対不干渉の衛星だ。存在しているが、存在していない。

 もともとはガイアの後見人である古き神々達の神座だった場所なんだ。

 全ての女神が生まれ揃ったのを見届けた神々はまた別の世界へと旅立っていかれたらしい。

 …その代わりに月の管理を任されたのがルナーだ。この岩だらけの殺風景な星にルナーだけだ。

 夜の地上を監視しているのも単なる暇潰し。偶に地上に大きな動きがあった時に各精霊の下に行って少し話をするくらいだから…ちょっと暇なんだ。

 地上人…人間も獣人も亜人も、別に嫌いでも何でもない。獣人の女や種族によってはルナーを特別視してる者達もいるけど…誰もルナーの声を聞けないし、ルナーの姿も見えない。

 そして、ルナーも月に縛り付けられている限り、今後も精霊すら含む地上のあらゆるものと触れることは叶わないんだ。



 …そんなルナーだったけどここ最近は寂しい思いはしてないんだよ。その理由は…。


「はえぇ~…この世界の月はおっきいなあ。それに綺麗だぁ!」


 夜空に月があるのは当たり前。それが地上の常識で誰もルナーを見ることなんて無い。

 それなのにその男…あろうことか最後の精霊である雷の精霊は地上に降りてから毎晩と言ってよいほどルナーを見て目を輝かせていた。


 おかしな奴だ…月をただ見て何が面白いの?


 でも、嬉しかった。まるで、初めてルナーを見てくれているようだったから。あくまで監視、不必要な接触を避ける事を事前にウーンド様から言付かっていた。ただ、ルナーを創造した女神であるジア様は『面白い男が来たマムシ』と笑っていた。



 それから毎晩、雷の精霊…シュトロームを見ていた。

 彼の周りにはいつも誰かが居て。飲んで笑って…楽しそうだった。


 そんな彼の周りにはどんどん人が集まってくるのが分かる。そして彼に集まるのは地上人だけではない、精霊としての力。愛情と信仰心だ。どちらも畏怖などの負の感情からは生まれ得ない。特に愛の力は等しい付き合いなどは到底無理である精霊や神々が最も得難き魂の力…。現在よりもより多くの力を彼は得るだろう。もうその道筋が…未来が見える。


 そんなある日、暦が枯れ節に入った中頃だろうか。

 彼のいる村から少し離れた森の闇から凄まじい憤りを感じたのは。

 精霊の負の波動…これは、良くないな。まあ、こんな波動を発するのは数百年前から嫉妬深い海のウンディーネか彼女くらいしかいないか。



『随分とご機嫌斜めじゃないか。 …どうしたの? ドライアド』

『………フン。夜は貴様の独壇場であろうよ? 白々しいわ、もう知っておるだろう。あのノーム様の頭上にある山の上の村に現在、何が居付いておるのか…』


 森の大樹に同化していたドライアドは相変わらず無表情だったが、機嫌が悪いのだけは直ぐにわかった。彼女はずっと太古の時代から争い続け、咎の無い獣や森を巻き込み続けている地上人が大嫌いだったから。ただここ数年は…あの自身の眷属の邪竜、悪神エイリスの仕業だけど…あの件依頼は比較的静かに過ごしていたはずだったのに。彼が何かしたのかな? そんな素振りは特に…。

 

『雷のめ…葉や根が吸った噂からは、人間や獣人を甘やかしてばかりで気に食わぬ。よりによって、我が罰した愚か者から勝手に世界樹の苗木(・・)を取り除きよって…!』


 普段は樹皮のように無表情なドライアドが珍しく眉間に皺を寄せている。

 世界樹の苗木…宿り木か。ドライアド…確かもう地上人には失望したって言ってたけど。宿り木の巫女でも現れたのかな? それとも欲の深い人間にでも与えたのか…。


『仕方ない…ルナーが一言注意してくるよ。もしかしたら澪のと同じで…人間に近しい存在から創造された精霊なのかもしれないしね』

『頼む。とは言っても無駄とは思うがな…我はもうここから離れることにする』


 コチラを一度を見る事も無くドライアドは姿を消してしまった。


 彼も厄介な奴に目を付けられてしまったなあ…相性、すっごい悪そうだもんなぁ~。



 ◆◆◆◆


「俺がドライアドに? なんでだよ?」

『…多分、君には心当たりがあるんじゃないのかい?』


 ほんの少し思案を見せるストローだったが、


「…なるほどな。例の状態異常はやはりドライアドの仕業だったのか。つーか文句があるなら直接本人が来いよ!ルナー、そうドライアドに伝えてくれ。…というか俺の宿の客には相手が精霊だろうと手を出させないぞ…?」

『…………』


 その瞬間、ストローから青白い光が鞭のように奔り、強い磁気を帯びた広場の小石が空中に数舜だが浮かんだ。


『ハア。ドライアドはもうどっか別の森に行ってしまったよ…。というか精霊最強である君と戦いたがるのは…まあ風のくらいかな。ルナーはゴメンだよ? まあ、ルナーは戦えないけど絶対に負ける事もないからそも勝負にならないけどね♪』

「ん、そうなのか。じゃあ、ルナーは今夜はわざわざそれを俺に伝えに?」


 ストローは素の表情に戻ると頭を掻く。それを見てルナーはクスリと笑う。


『面白いなあ。やっぱり君は♪ どうしてそこまで精霊でありながら人間のように振る舞えるんだい? ああ、君は精霊のまあ暗黙ルールって教えて貰っているかい』

「ルール? 知らんな」


 ルナーは「やっぱりね」と両手を上げて頭を振る。


「俺だって精霊だって知ったのはここ最近の事なんだぜ? それに関してはウーンド様に文句言ってくれよ。まあ、マロニー様からそれでゲンコツ喰らってたけどな? アハハハ」

『プッ!? ふ、不敬だよ君ぃ? でも、それなら仕方ないな…ここはこの夜の守護者、ルナーがちゃんと教えてあげようか♪』


 ルナーは胸を張って口上めいた言葉を口にした。いつの間にか彼女は夜の守護者の地位に就いたらしい。


 一つ、精霊は女神の命に背いてはならない。


 二つ、精霊は地上の戦に力を貸してはならない。


 三つ、精霊は精霊と私的な理由で争ってはならない。


「…それだけ?」

『まあ、別に明言されてる訳じゃあないけどね。ただ、コレを守る気が無い精霊がいたら、ルナー達は即座に敵対して排除に動こうとすると思うよ?』

「女神の命って俺は好きに生きて良いって言われてるしなあ? 戦ねえ…まあ関わらんだろうし。まあ、精霊も皆で仲良くやっていけばいいんだろ? 三つ目の決まりでドライアドは俺を直接どうこうできないはずだしな」

『…まあ。樹のには君が地上人と仲良くしてるのは気に食わないみたいだけど』

「そんなドライアドの奴の勝手さ。宿とここの村の連中の付き合いは俺の勝手だ。まあいいさ、取り敢えず最初に会えた精霊がルナーみたい中立的な立場の奴で良かったよ」


 ストローが手を差し出すが、それを触れないでいるルナーに気が付いて手を引っ込める。


『ルナーは君が羨ましいよ。精霊なのに唯一孤独な存在でない君が。君を愛する者が居る君が…この世界は月を…ルナーを見てくれる事はないから』

「月を見ない? 風習とかで皆で月を眺めて酒飲んだりとかしないの?」


 ルナーはキョトンとして首を横に振る。


「ふーんそうなのか。助言をくれたルナーになんかしてやりたんだが…今日って何日?」

『え。枯れ節の15日…だけど?』

「なんか特別な日だったりする?」

「特に何もないよ…」


 ストローは何度か頷く。そしてニヤリと笑ってルナーを見た。


「よし!じゃあ記念すべき今日という日を、枯れ節の15日をルナー!お前の日にするぞ!」


 その夜、ストローは二人を宿に連れて戻った後、ルナーと月が山から離れるまで語らったという。


 別れ際に、次にまたこの日に会う約束を交わして。



 ◆◆◆◆



 ストローとルナーが出会ってから十数年後のとある田舎町の中。


「おお~今日はルナー様が綺麗に見えらあ」

「んだな。ヨーグの山によお映えてるわい。コレならこの安いエールも美味くなるものよ!」

「そだそだ!ルナー様に感謝すっぺよ!」


 枯れ節の15日。冬が間近に迫り、肌寒い夜ではあったがどこでも今日は皆が外に出て夜空に浮かぶ月を眺めながら料理を食べ、酒を飲んで騒いでいた。そう、この日だけは誰しもが月を見ていた。もう、月は孤独な存在ではなかった。


 この行事はかの精霊都市ケフィアの発祥とされ、後にルナーの祭日と呼ばれ世界中に定着することになる。


 さらに数百年後、大精霊ストローとして伝説の存在となった頃になると、とあるハーフエルフの詩人の小夜の歌が有名となる。


 "かのヨーグの頂に月が最も近づく夜の帳。ああ、精霊よ。ルナーの想い人よそこに在れ…"


 その一説がルナーの祭日に男女が逢引きする様を歌っているのだという。


 かの大精霊もルナーの祭日には支族の下から離れ、ひとりその夜だけは旧交ある者と会いに決まって出掛けるのだという話だ。



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