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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
50/103

 不死身の大魔術師

とりあえず活動報告にも書いたのですが、

今年いっぱいはこのタイトル一本の更新で頑張って逝きたいと思います!


目指せ!本編100話突破!!(完全な白眼でアへ顔)



 針子のビイがストローの宿を訪れてから3日後の朝の事である。



「……! 師匠…隠れ身と人避けの魔術がかき消されました!? と言っても、まだ常人には有効なレベルを維持できてはいますが…」

「フン…無理もないぞよ。…見よ。この膨大なスピリット溜まりならば、隠蔽系の魔術が打ち消されてしまうのだろうのう。…ククク!どうやらこの山の上にある村にあの精霊(・・)が宿を開いたなどという噂を聞いた時は、どこぞの(うつ)け者がそんな下らぬ法螺(ホラ)を吹聴して回ったのだと、流石のルディアの叡知の(いただき)、大魔術師たる大生(だいせい)も業腹であったが、どうやら本当であったようだぞよ」


 (えんじ)色のローブを纏った人物が二人、朝の霧が立ち込めるヨーグの麓にある村、アンダーマインに足を踏み入れた。

 困惑する目の覚めるような赤髪の少女と、その隣には自身を大魔術師であり大生などと称する銀の長髪の青年の姿があった。青年は実に自信に溢れた瞳とは対照的に容姿は若いのだがくたびれた表情をしているのが特徴的だった。そして、青年は何かペンダントのようなものが放つ虹の色彩を眺めて表情を歪める。それを隣の少女が心配そうに伺っていた。


 二人は目的地であるケフィアへの山道を目指し、村の門番の間をすり抜けて村へと足を踏み入れた…その時だった。


「…西方の名のある魔術師殿とお見受けするが、この先には如何様(いかよう)で参られた?」


 二人の前に3者。退路を塞ぐようにもう2者、覆面装束の者達が陰から這い出る様に立ち塞がったのだ。


「ええ!? ブ、ブラザー・ぶち様!? どうなさっtって誰だアンタらは! いつの間に村の中に入り込んだんだ!?」


 寝ぼけていた村の門番の男達が驚いて飛び上がり、認識できるようになった二人に向って木を削っただけの刺股を向ける。


「どうやら完全に隠蔽が解けてしまったようです…」

「ガイアの徒か…いつの時代でも面倒な相手だぞよ。しかも、お主は獣人よな? 端から隠術を用いても無駄であったか。この道中、お主のように幾度か鼻か六感で所々で気付かれたぞよ」


 鼻を鳴らす青年の前に立ち塞がるこの神殿戦士達の中でリーダー格であるブラザー・ぶちは装束の裾からシュルリと長い尾を出す。それはどこかヒョウのような毛模様で覆われていた。

 最も古い歴史を持った精霊信仰者(ガイアスター)には人間以外の種族獣人や亜人、またはその混血も多く存在する。このブラザー・ぶちもそのひとりである。


「ガイアの徒として、この先にあるケフィアは遥か昔から我らの安寧の地であり、そこに住まう人々に平和を約束しせし場所…要件によっては貴殿らを通すことはできないと言わせて頂く」

「大生とてガイアの徒と事を構えることほど愚かではないぞよ。……そも、お主らが大生の命を奪えるものならば、その限りではないのだがな…」

「ムラゴラド師匠……」


 その言葉を耳にした神殿戦士達は弾けたように飛び退いて距離を取った。


「ムラゴラドだと!? あの西方の大魔術師かっ!?」

「クカカカッ。先程から大生はちゃあんとそう名乗っておるぞよ…」


 ムラゴラド。それは北ルディア全土に名を轟かせる伝説の魔術師。

 曰く、太陽を生む稀代の魔術師。彼の魔術は夜を昼にするとまで言われる。

 曰く、誰にも防ぎ切れぬとまで言われた最強の広範囲殲滅魔術を駆使し、西方で無数の戦果を上げて王都ヴァンナの礎を興す切っ掛けを作った魔の王。

 曰く、その肉体は完全なる不老不死。初代ヴァンナの王に代々仕えたと言われ、齢500を超すとされる怪人。

 曰く……、


「…知っているぞ!お前は数百年前に出会ったドライアド様を恨み、その命を未だに狙っているのだと言うではないか!? この精霊殺し(・・・・)め!!」


 ひとりの神殿戦士がムラゴラドと呼ばれた青年を指差して糾弾する。


 ムラゴラドは初めて余裕のある表情を消し去り、その瞳に憤怒を灯した。その刹那、凄まじい殺気が周囲に満ちる。思わずブラザー・ぶちですら足が竦みそうになるほどであった。


「……たかが数十年しか生きるだけで済む(・・)虫けら風情が生意気なことを言うではないぞ! それにのう、精霊殺しとは人聞きが悪い。確かに…この大生、この身を呪ったあの精霊を誅してくれようと、ただひたすらに研鑽を重ね続けてきたぞよ。…だがそれは未だに叶っておらぬし、正しくは"精霊をも殺せる大魔術師"が正しい言葉よな…。 あっ。ああ~、大生…少ぉしばかり機嫌が悪くなったぞよぉ~?」

「…師匠?」


 悠然とブラザー・ぶち達に歩みを進めたムラゴラドの片手に、突如として眩い光を放つ輝球が現れたのだ。


「正気か! まさかここであの大量虐殺の破壊魔術を使う気だというのか!?」

「ブラザー・ぶち!早く彼奴を止めねば無辜の民まで巻き添えになってしまいます!!」

「ならん!あの光の球は奴自身にしか消せんし、地面に落とすだけで我らは叩き割った硝子細工(ギヤマン)の如く粉微塵になってしまうぞ! …それに奴は完全な不死身だ!! あの偽りの()の玉が完全な状態で昇り、そして落下したとしても奴は火傷どころか傷一つも負わぬっ!! 距離を取るのだ!」


 ブラザー・ぶちが他の神殿戦士達を諫めるも、その間にもムラゴラドの手の中にある光は大きくなっていく。


「…ほう? 大生の最強魔術であるコレに随分と詳しい男ぞよ…ふむ、獣人のう。まあ良い、少し前に使った戦で生き延びた者がいたのであろうな。…コレ、弟子よ。この哀れなガイアの徒をお主の魔術で守って(・・・)やるがよいぞよ?」

「はぁ。師匠も人使いが荒いですよね? でも暴れられて、師匠がウッカリとアレ落っことしたら小生も漏れなく蒸発しちゃいますし…」

「…お主、ちゃんと師を敬うが良いわ!」


 そう言って赤髪の少女が両手を広げて何かを念じると、魔力が肉体を巡る影響なのか赤い髪がより赤く輝いて揺らいだ。それとほぼ同時にブラザー・ぶちと他の神殿戦士達の身動きが何故か止まる。


「ぐっ! 動けぬ!? なんだコレは…!」

「抵抗はムダです。小生の魔術に通常、対抗(レジスト)は効きませんから。それと…余談ですが、変な形で固まっちゃうと後が辛いですよ? 少なくとも小生の得意とするその魔術は明日の昼までは解けませんから」


 信じられない事に、ブラザー・ぶち達はそれからものの数秒で金属の塊となり、ただの彫刻となってしまったのだ。それを見届けたムラゴラドが鼻を鳴らして拳を握ると、光は嘘のように消え去った。


「ブラザー・ぶち様!? アンタ達一体何をしたんだ!」


 村の門番達を無視して歩を進めるムラゴラド達の姿が歪んで消えていく。恐らくは再度、隠蔽の魔術を使用したのであろう。

 しかし、ピタリと足を止めたムラゴラドがチラリと背面越しに村の門番に振り向いた。


「…師匠」

「良い。…村の者よ、コレは忠告ぞよ。良いか? これより何人たりとも数日の間、山に近づく事を禁じる。他所に助けを求めに向っても間に合わぬぞよ。諦めい。 ………それと、この山の頂から二つ目(・・・)の太陽が昇ったのなら…出来るだけ遠くに逃げる様に皆に伝えるが良いぞよ。ではな…」



 そう村の門番に言い残すと、完全にムラゴラド達の姿が掻き消えてしまったのだった。



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