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宿屋をやりたかったが、精霊になってた。  作者: 佐の輔
本編 第一部~精霊の宿
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 大魔術師の弟子

◤弟子のロトスアン◢


 こんにちわ。小生の名前はロトスアンと言います。

 自分で言うのも何ですが、この赤く輝く髪がチャームポイントの17歳の美少女魔術師です!

 …と言ってもこの赤い髪が結構厄介でしてね? あまり容姿を褒めて貰えた事がありませんが。

 

 突然ですが、小生は西方が誇る伝説の大魔術師様の弟子なのです!

 …と言ってもやってる事は未だに身の回りの世話をする雑用でしかないのですが。

 ま、まあ…ムラゴラド師匠、ああその大魔術師様の名前です。その弟子になったのは、数百年の歴史の中で小生が初ということなので…多少は胸を張っても良いかと自負しております。


 そんな小生を拾い上げてここまで育ててくれた大魔術師ムラゴラドは、小生にとっては偉大な魔術の師である前に、育ての父であり、祖父であり、兄であり、そして……。


 で、話は変わりますが現在。小生は師であるムラゴラドと共に西方の王都ヴァンナより絶賛出奔中なのです!


 …………。


 はぁ。どうしてこうなった?


 我が師はその極度の人間不信というか偏屈で、基本は戦などで要請を受けない限り御屋敷から遠くへと出る事は滅多にない御方なのです。物凄い引き篭もりなのです。小生が弟子としてムラゴラド様に拾われて12年ばかり経ちましたが、たまに気を紛らわせる為に小生を連れて城下の安酒場などに出掛けるくらいでした。

 ですが、その日は不運でした。あの5百年以上生きていると言われる大魔術師がこんな青年のような容姿とは誰も思わないので割と外で好き勝手していた師なのですが、あの夜…。


「なあ、魔術師のあんちゃんは知ってるか?」

「ん? 何をだ。若造めが…」


 酒場の隅っこで隠れる様に蜜酒をチビチビ飲んでいた小生達でしたが、ブドウ色の髪の冒険者に気安く話掛けられた小生の隣に座っていた師の機嫌が急激に悪くなりました。


 こう言っては何ですが、どう見てもその冒険者さん方が年上に見えますよ?


「いや悪ぃ!見掛けない顔だったんでつい、な? なに、この前依頼の帰りに寄ったヨーグの山の峰にある村になあ。そこの大穴の側に新しく宿が出来たんだが、そこの宣伝を頼まれちまってなあ~」

「…ヨーグ? あの山の麓ではなく頂き近くとなると…まさか、あのケフィアの寒村にか? 馬鹿な事を言うではないぞよ。あそこは邪竜の大穴近くに百と五十年前ばかりに出来た村とすら呼べるようなものではなかったはずぞよ? あのノームの地を行き来する者達ですら立ち寄るのは1割…いや、五分にも満たぬであろうな」

「………なんだ。行った事があるのか? 随分と詳しいじゃあねえか」

「フン…!」


 …確か師は自身を不老不死にした原因(・・)である精霊…たしかドライアド様、だったかな? その精霊を探す為に北ルディア中を旅していたと他の魔術師から聞いたことがある。


「なら、話は早いぜ。今度あの峰を通る時はあの村の宿に是非寄って行ってくれよ! もう、すげえ良いとこなんだぜ!!」

「煩いのぉ…あんな場所で宿などと。大生は村が出来てからは、あの地へとは言ってはおらなんだが…まともな宿ができるとは到底思えぬぞよ。まさか、岩肌にゴザでも敷いて空を眺めながら、水で薄めた安酒で眠らされる訳ではなかろうのう?」

「ガハハハッ!!あの村はあれでも百年以上前からあるらしいぜえ。面白れえあんちゃんだなあ!その見てくれで百年以上生きてる訳でもあるまいしよォ!」


 冒険者が豪快に笑いながら師の肩をバシバシと叩きました。ヤバイ…師匠、頼みますからこんな狭い場所でアレをぶっ放そうとしないで下さいよぉ…!


「……ちょっと絡み過ぎ」

「ぐえっ!?」


 その時、その冒険者さんが横腹を小柄な女性に肘で突かれました。痛そう。


「ゴメン。私の馬鹿が迷惑掛けた」

「い、いえ。どうかお気にされずに…師しょ、この人もあまり人付き合いとか得意じゃないんで…」


 小生のナイスフォローに不満があったのか、師は少しムクレっ面になりました…変なところで可愛いな、この人。


「イテテ…このチビ!何しやがる!! っと、悪かったな? 逢引き中に急に話し掛けちまってよお?」


 逢引き…!? どうやら、この冒険者さんは良い冒険者さんのようですね。


「でもよお…ここだけの話だが、ケフィアの村に出来たあの宿屋。普通じゃあねえんだわ。飯も酒も絶品だし、寝台も王族顔負けの代物だったぜ!騙してなんかいないぜ? なんせ傷どころか呪いまで実際に…うごぉ!?」

「喋り過ぎ…サンド達との約束」


 良い冒険者さんが隣の女性に巨大な鉄球で殴られました。普通なら死んでしまってもおかしくない打撃に見えましたが…あ。何とか平気そうです。凄いですね!我が師の次くらいに丈夫な方なんじゃあないでしょうか?


「邪魔した」


 女性が冒険者さんの襟首を捕まえてズルズルと酒場の外へと引きずって行ってしまいました。西方の冒険者では珍しいくらい、とても陽気な方達でしたね。


「…………」


 …師がまだジィっと冒険者さん達が去った方を睨んでいます。まさか肩を叩かれたり、容姿を疑われた事を未だに気にしているのでしょうか? まったく、師は思った以上に心が狭い。


「…ここ百年。少しも揺らぎもしなかった疑似精霊石が揺らいでおる」


 我が師が懐からいつの間にか取り出したくすんだ水晶?のようなものが、小生には若干ですが七色に光って見えました。小生がそれをより近くで見ようとすると師が急に立ち上がったので、驚いた小生は長椅子から転げ落ちてしまいました。パンツ見えちゃう!?


「何をしておるか、ロトスアン。直ぐに屋敷に戻って旅路の支度をするぞよ!」

「はい?」



 これが2週間近くの前のことなんです。…その夜が明ける前には、既に王都より出立していましたよ。

 本来、そんな事は王族の許しも得ずには成せない所業なのですが…そこからは小生の隠れ身と人避けの魔術を使ってここまで逃げ延びてきたのです。小生…攻撃魔術はからっきしなのですが、補助系には割と強いんですよ。エヘヘ…。道中で西方を最大の拠点とするアデクの連中に見つかって捕まったら、西方に連れ戻されるに決まってますしね。まあ、実際は最強の魔術と不死身を誇る我が師を力で止められる者がいるかどうかは甚だ疑問ではありますが。



 そして、旅路の末に…今日この日に目的地であるケフィアの村へとたどり着いたのです。


「んん~! 空気が澄んでいて美味しいですね師匠! 山の上ですが、良いところじゃあありません?」

「フン…あの邪竜を仕留めた竜殺しの一族だか何だか知らんが、あの呪われた陰気な大穴の側で居を構えるとはな。酔狂な連中ぞよ…」


 そう言って村の中をつまらなそうに見渡しながらまた、例の石を覗いています。


 …まるで虹そのものがあの小さな水晶に閉じ込めらえているに乱雑に光を放っていました。

 怖い…何か触れてはいけない力と言えば良いのか。それが小生の正直な気持ちでした。


 しかし、2度あることが3度あるならば、この場合は後もう1回は起こってしまうということなのでしょうか?


 村の中を進もうとすると、やはり先程の黒い覆面装束と同じ者達が小生達の前に立ち塞がりました。巨体を持つ人間か、もしくは獣人または亜人の男と思われる者と体付きから人間の女性と思われる者…どちらもかなりの手練れですね。麓に居た方とはレベルが違う。

 しかし、極めつけは…その中央に居る神官服を着た男。桁が違う…もしかしたら師に迫るほどの怪物かもしれないと思わせるプレッシャーを放っています。小生なら時間すら稼げずに瞬殺されてしまうと即座に理解できてしまうほどに…ヤバイです。漏らしそうです。


「私はこのケフィアの司祭でマリアードと申します。…西方の大魔術師、ムラゴラド様とお見受け致します」

「ほほう…!若造のくせになかなかの面構えをしているぞよ。お主ほどの使い手ならば4百年前の大生とならば程よい勝負が出来たかもしらんぞよ……のう? 今代の"魔術師潰し(メイジマッシャー)"よ…」

「私如きをご存知とは…恐れ入ります。ですが、丁重にお断りしさせて頂きますよ。そも、不死身である貴方とではどのような者が相手をしても勝負にはならぬでしょう…」

「まっ、魔術師潰し…!?」


 小生は思わず小さな悲鳴を上げてしまいました。"魔術師潰し"…別名、メイジマッシャー。それはとある者の代名詞です。西方は恐らく北ルディアでは最も魔術の発展が進んでいる地域でしょう。ですが、その絶対的な力を有する魔術師達が恐れるものが精霊信仰者(ガイアスター)の魔術師潰しです。これは一方的に西方やアデクに(くみ)する者達がそう呼称する存在で、その時代で最も魔術師を倒した者を指し示すものです。ガイアの徒の歴史は古く、その戦闘技術も他とは一線を画すと言われています。つまり、小生ら魔術師の天敵なのです…。


「フン。つまらない男だぞよ。まあ良い、別に目的はお主らなどではない」

「…記録には、貴方はかつて我らガイアの徒が集う神殿を襲撃したとか。貴方に不死身の呪いを掛けたという樹の精霊であるドライアド様や他の精霊の所在を聞き出そうとしたと。その戦いで我らの先達は当時の拠り所であった神殿を失ったとありますが……事実なのですか?」

「…………」


 あ。事実だコレ…何やらかしてるんですか師匠!? この魔術馬鹿っ!


「もう3百年以上も昔の事を言われても困るぞよ? …当時は大生も冷静ではなかったのだ。恨みはあろうが、その時代の代表者達には既に謝罪もしておるから今は許せ。再建できるほどの金子もちゃんと渡したぞよ。 それになあ…此度は、観光で訪れたのだ。冒険者達から聞いたぞよ? この陰気な村にとても良い宿屋が出来たのだろう? 案内してはくれないか」

「「…………」」


 マリアード司祭達は暫く沈黙を貫いていたが、諦めたのか口を開いた。


「先ずは、約束して頂きたいのです。確かに…貴方が長年探し出そうとした精霊…ストロー様、真名はシュトローム様ですが、件の宿の主としてこの地に留まっておられます。ですが!彼の精霊はつい先日、最後にこの地にへと降ろされた雷の精霊でいらっしゃる!貴方の事やまして他の精霊についても何も知らぬ御方だ! …決して愚かな真似をしないと、女神の名において誓って頂きたいのです」

「雷の精霊だと? 精霊は、大地、水、風、樹、月、零の6精霊。それと遥か太古に神に反意を起こした南方のバベルを誅した炎の精霊の7精霊ではなかったのか? まあそれは良い。言ったであろうぞよ? 此処には観光、その宿屋とやらを堪能する為にやって来ただけだとな……なに、そのこの世のものとも思えぬほどの美酒を味わえたのならば、直ぐにでも弟子と共に大生の屋敷へと引き返すぞよ。…そうであろう? ロトスアン」

「……はい。我が師よ」

「その言葉、確かに聞き届けましたよ…」



 一触即発の場面を何とか乗り越えた小生達はどうにかその宿屋へと向かうことが許されました。



 ◆◆◆◆

◤ストロー◢


「今日はマリアードの奴…まだ顔を出してないなあ。どうしたんだろ?」


 カウンターから覗く食堂の隅に位置するミニテーブルにマリアード達の姿が見えない。いつもなら既に来てコーヒーを出している時間帯なんだがなあ?


(カランカランカラン♪カラン…♪)


 そう思った矢先に玄関のベルが鳴り、戸が開かれる。この半端な時間となると村の外からの客だろうか? 俺は少しワクワクしながらカウンターを出ると絨毯の敷かれたロビーへと出た。


「建物の中は外よりもすっごい立派…ってうわあ!? 師匠!見て下さいよ!この絨毯!! こんな立派なヤツなんて御屋敷にも王城でも見た事ないですよ…。なんで山の上にこんな高級宿が…?」


 赤い髪の少女が叫んで少しやかましいが、正直言ってこの反応は嬉しかったりする。因みに、それ日替わりで柄を変えてるから、今日泊まってくれれば明日もきっと驚いてくれるだろうな。


「面妖な…。だが、魔力は感じぬから幻影の類ではないぞよ?」


 もう一人は揃いの色のローブを着た銀色のロン毛の青年だった。ははん…さてはカップルだな? もしかすると、この世界にも蜜月旅行(ハネムーン)のような習慣があるのかもしれないな。

 だが、俺の宿はその辺も抜かりない!なにせ2階の個室は完全防音!さらに耐衝撃、耐熱、毒も麻痺も呪いも完璧なんだ!! オマケにベッドメイキングや掃除の必要もないから後で気まずい事になる事も無い…やるのは忘れ物チェックくらいなんだよなあ。

 あっ。そういやあ、俺も一応…ウリイとダムダと身を固めた事になったんだし。アイツらも旅行とか村の外に行きたいとか思ってるのかなあ? 今度話してみるか。


「いらっしゃ…」


 バンッ!! シュウウウウゥゥ…!


 急に何かが弾けて周囲は身を竦める。どうやら青年の胸にあった首飾りか何かがはじけ飛んだようだな。あぶね~。なんでそんな物騒なモンを身に着けてんだ? 他所では流行ってるのかねえ?


 俺が、大丈夫か?と声を掛けようとする前にその青年が俺に掴み掛かってきたので俺も驚いた。


「ええ!? 何っ!?」

「貴様がぁ!!貴様が精霊かああああああ!!?!」


 その青年はただただ絶叫のような怒りを上げて俺の襟首を絞め上げる。というか細身の癖にとんでもない力だぞ!? 恐らく本気を出したダムダくらいの力がある。


「あの糞ッたれの根っ子女を呼べええぇ!! そして()の呪いを解きやがれええぇ!!」



 俺は混乱して何がなんだかわからん。何をコイツは言ってるんだ? 根っ子女って誰だよ。


「ああ!? この馬鹿師匠!! 問題は起こさないって約束したでしょうがっ!!」



 ロビーにあの赤い髪の少女の悲鳴が響くのだった。



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