潜入者
デカい方の人物の風貌だが、口髭と顎髭を短く生やした、見るからに豪傑といった感じの男性だった。髪は頭頂部だけを残し横は刈りあげた感じで、肌は赤黒く筋肉が艶めいて見える。上着から露出している腕は、巨木の枝のように太い。年齢は三十歳から四十歳の間ぐらいに見える。
優男の方の風貌はと言えば、金髪を肩から下に少しだけ伸ばした髪型をしている。上着はフンワリとした生地のシャツで、見るからにキザったらしい感じの印象を受ける人物だった(顔はかなりイケメン)。何故か手に花を一輪携えている。
そんな見るからに変わった様相の二人組だったが、この酒場にはカルダモン以外の国から来た者も多く、民族も多種多様で(人間以外の者もいる)、そこまで目立つような存在でもなくなっている。だが、話すが内容がアレなので、なるべく他の席からは離れたテーブルを取っていた。
店の隅の四角いテーブル席に、彼等と一緒に座った。まずは彼等の方から自己紹介をしてくれた。
「……お初にお目にかかる。拙者の名前は『ビストロガノフ』。サクラコ殿の部下でございます。そして、此奴の名前が『シャブリアン』。同じくサクラコ殿の部下であります」
巨漢の男性の方がそう紹介をしてくれた。私達も自分等の名前を告げた。
「……たいたい話は、すでにサクラコ殿より連絡されております。勇者殿が遅れて参られるという事も、ヨハンから聞き及びました。拙者らは半年前からこのカルダモンに赴き、聖杯について色々と調べておりました。聖杯をカルダモンの『司祭』が手に入れた事は、ここに住んでいる者ならば衆知の事実な様子です。だが、残念ながら聖杯がカルダモンの政治的中枢である、『聖宮』のどこに置かれてあるかなどについては、さっぱりとわかりませんでした。実は拙者らも、こういう仕事は不得手でしてな……」
巨漢がそう言った。確かに見てくれからして、潜入して調査するなどの仕事については、苦手そうにしか見えない。ならば何故、この2人が調査員として選ばれたのだろう?サクラコの部下には、潜入調査できるような者がいなかったのだろうか?
「……私はアナタと違い、聖宮内部の情報を得ましたよ」
「聖宮に務めている女官を誑し込んで得た情報じゃろうに」
巨漢の隣の『シャブリアン』と、さっき紹介された者が巨漢にそう言い返されていた。
「……聖宮の奥深くまではわかりませんが、女官が行ける範囲のものであれば、かなり詳細な間取りがわかりますよ」
シャブリアンが言った。
「……これから一週間後にカルダモンにおいて、聖杯のお披露目の為の祭典を行うらしいう布告が、この国の中央部より出されました。その為にカルダモンには、異国から色々な者が集まって来ているらしいです。それならばその際に聖杯の警備にも隙ができるかもしれません」
それからまたしばらく、ビストロガノフ達と打ち合わせをしていた。今だに聖杯奪取の計画が練り上がっていないので、これからも密に連絡を取り合って計画を進めていかなければならない。




