第30話 掴み取る「未来」
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やはり、優勝はリーンハート嬢だった。
正直ぶっちぎりだった。
最後にステージに候補者全員が揃って自分への投票を呼び掛ける時も、リーンハート嬢への声援は圧倒的だった。
そして多くの参加者たちはリーンハート嬢への投票を行ったのだ。
その数おおよそ3/2を確保する勢いだった。
「みんな投票ありがとー! 『第1回公都歌い手を決める最終公開オーディションを応援しよう』栄えある優勝者は・・・リーンハート・フォン・エーデルバーグ伯爵令嬢に決定しましたー!」
「「「わああーーー!!」」」
大勢のファンが新たな歌い手の誕生に感動し、歓喜した。
「リーンちゃーん!」
「リーン!リーン!」
「リーンハートサイコー!!」
司会のリリナがリーンハートを舞台中央に連れて来る。
「優勝したリーンハート嬢にはオースティン商会会頭でありますゼブル・オースティンより、リーンハート嬢専用の小型魔道拡声器をプレゼント致します!」
「「「わああーーー!!」」」
「さあ、受け取ってください」
「う、う・・・ありがとうございます・・・」
涙を流しながら小型魔道拡声器を受け取るリーンハート。
「彼女にはこれから歌い手としての準備を進めてもらいます。約1か月後にはこの舞台に再び帰って来て、皆様に素晴らしい歌声を届けてくれることでしょう。お帰りの際にリーンハート嬢の初コンサートの入場券を販売いたします。コンサートはこの舞台に近い前席チケットと、中段から後方席の普通席チケットがあります。ご希望のチケットを選んで購入してくださいね!」
「「「うおおーーー!!」」」
「俺は買うぜー!」
「俺も買うぞ!」
「俺は前席で応援だ!」
観客がリーンハート嬢の初コンサートへの入場券を買おうと盛り上がっている。
「席には限りがありますので、チケットが売り切れた場合にはコンサートを見て頂くことは出来ませんのでご了承くださいねー!」
ゼブルの説明に観客から悲鳴にもにた絶叫が上がる。
「リーンハート嬢の初コンサートを見れないなんてことがあっていいわけがねえ!」
「絶対見るぞ!」
「チケットは今日買うしかねぇ!」
もちろんゼブルの説明や、観客を煽りまくる言い回しも全て新太の指示によるものだ。
特に一か月後のリーンハート嬢の初コンサートチケットはプレミア化するつもりで煽りを入れている。何といっても前席の中でも一番前の列だけ金貨1枚のVIPチケットなのだ。その他の前席チケットが銀貨2枚、普通チケットが銅貨5枚の設定なので、最前列チケットはまさしくプラチナチケットになるだろうと予測している。
「そして、準優勝にエントリーナンバー1番のマリさん! 3位にエントリーナンバー22番のマチルダさん! このお二人にはリーンハート嬢の後ろで踊ったりコーラスしたりするサポートパフォーマーとして採用致します。この二人も応援よろしくお願いします!」
「ええっ!?」
「ホントですか!?」
マリとマチルダが驚きを隠せず声を上げる。
「頑張れよー!」
「応援するよー!」
観客からの暖かい声援にマリもマチルダも歓喜の涙を流す。
「さ、リーンハートさん。優勝者として、これから歌い手として歌を歌って行く事への抱負をお願いします」
リリナに小型魔道拡声器を渡され、リーンハートが舞台中央に立つ。
「皆さん、応援本当にありがとうございました。わたくしを選んでくださってとても嬉しいですわ。出来る限り、このわたくしの歌声を届けさせて頂いて、皆様に元気を与えられたらと思っています。これからも応援のほどよろしくお願い致しますわ」
そうして大きく手を振るリーンハート。
ひと際大きく歓声が上がった。
・・・・・・
リーンハートは自宅の部屋の自分の別途に突っ伏して泣いていた。
呪いに犯された体。
いつまで生きられるかわからない状態。
日に日に発作が起こる間隔が短くなっていく。
父も母もあらゆる手を尽くして呪いの解除のための方法を探してくれた。
だが、教会の大神官の解呪でも呪いが解けることは無かった。
(あんなに大勢の人に喜んでもらえた・・・)
リーンハートは呪いのため、体力が少なく、発作も起こるため、あまり人前に出ない生活を送っていた。そのため、あれほどの人に接することも無かったため、熱い応援に感動していた。
(もっと、もっと歌を歌っていきたい・・・)
いつまでもいつまでも歌を歌い続けたい。
応援してくれる人に歌を届けたい。
だが、それはやはり難しい。
「ぐっ!? ううっ・・・」
ベッドから飛び起き、胸を押さえて苦しむリーンハート。
「誰か・・・誰かわたくしを助けて・・・」
自然と涙が流れる。
「助けてくれるなら、わたくしは・・・」
苦しみながら、窓の外、夜の空を見上げた。
その目には優しく光る月の光だけが映っていた。
「苦しいか?」
急に声が耳に届く。窓は開いていない。だが、部屋に男が立っていた。
その男は頭に角が生えており、漆黒の翼を背負っていた。
明らかに人間族ではない。
「・・・・・!」
リーンハートはあまりの事に声を出すことが出来なかった。
「その呪い、解けるとしたらどうする?」
角が生え、翼を背負う男が問う。
男は、所謂魔族と呼ばれる種族ではないか。
だが、目が慣れて来ると、その男の顔に見覚えがあった。
その男はオースティン商会の会頭ゼブル殿の懐刀とも呼ばれていた男だった。
「この呪いを解いてわたくしに新たなる生を与えてくださるのであれば、わたくしの全てを差し上げますわ」
胸を押さえながらベッドから降りて立ち上がるリーンハート。
「そうか・・・それでは、着ている物を全て脱ぎたまえ」
抑揚のない声で淡々と伝える男。
リーンハートは少し驚いた表情を浮かべる。その次の瞬間には少し頬を赤く染める。
「・・・わかりましたわ・・・」
そう言って身に着けている衣服を全てその場で脱ぎ捨てるリーンハート。
さらけ出されたその素肌は淡い月の光に照らされて透き通るほどに美しかった。
「こちらに来たまえ」
そう言って男は両手を広げる。
それはその男の胸の中にまで近寄ると言う事。
だが、なぜかリーンハートはその男を疑うという選択肢を持たなかった。
一糸も纏わぬ姿で男の腕の中まで歩み寄る。
男の右手が近づいたリーンハートの左肩に伸びる。
一瞬ピクリと反応するリーンハート。だが逃げるような真似は不要と男の瞳を見つめる。
「<創造魔法>・・・<解析>」
(やはり・・・『呪いの核』だな。心臓の一部に寄生するように呪いを発動する呪具。心臓の一部となって動き続け、呪いの発動が強くなると発作のような症状を起こす。呪詛対象者の魔力を吸い取って稼働する呪具であり、心臓の一部に寄生するため取り除くことが困難を極める。神聖マジックの解呪では対処できないのは、呪詛対象者の心臓に寄生するため、一度呪いの力を解除できても呪具を取り出せないため、呪詛対象者の魔力で再び呪具が発動してしまい、呪いが再発動するからだ)
<解析>により男はリーンハートの身を犯す呪いの正体を看破した。
「君の心臓には『呪いの核』と呼ばれる呪具が埋まっている。これは君の心臓に寄生して君の魔力を糧に呪いを発動しているものだ。だから神聖魔術の<解呪>などで一度呪いの力を開放しても呪具が取り出せないので本人の魔力で再起動してしまうのだ」
「そんな・・・」
「だから、君の心臓を取り出す。呪具ごと」
「それは・・・私は死んでしまうのでは・・・」
若干不安な表情をするリーンハート。
「もちろんそのまま取り出したのでは死んでしまうだろうね。でも新たな生を与える事が出来たなら、君の全てが手に入るんだ。死なせるわけにはいかないね」
ウィンクしながら左手でリーンハートの肩を抱く新太。
「<創造魔法>・・・<麻酔>」
「あうっ・・・」
リーンハートに全身麻酔の魔法をかける。意識はそのままだが、痛覚のみ麻酔で遮断する。
「リーンハート。もう一度だけ聞く。俺に全てを任せるか?」
「・・・はい、貴方に全てを託します。でも、一つだけお願いが」
頬を少し赤く染めて新太を見上げるリーンハート。
「貴方様のお名前をお教えくださいませ」
リーンハートの問いにそう言えば名乗っていなかったと苦笑する新太。
「俺は新太。戸隠新太だ。新太が名前で、戸隠が家名になるのかな」
「新太様・・・」
口の中で新太の名を何度も呟き反芻するリーンハート。
「さあ、リーンハート。新たな生を受け取るがいい」
「はいっ!」
そう言うと新太は右手をリーンハートの左胸よりの部分に突き刺した。
「はうっ!?」
痛みは感じないはずだが、リーンハートは体に右手を差し込まれる違和感に眉を顰める。
そして新太は心臓を掴み取り体外に引っ張り出した。ブチブチと血管を千切り血が噴き出る。目の前で自分の心臓を掴み出されて、信じられないという表情を浮かべるリーンハート。
「<創造魔法>・・・<再生>」
新太の魔法により急激に心臓や血管が再生されていくリーンハート。
肉体が再生されていく感覚に再び眉を顰める。
だがそれも一瞬で終わる。
リーンハートは自分の胸を見てみるが、新太に右手を突き刺された跡も全く残っていない。
自分の手を左胸に当ててみる。確実な心音が手に伝わる。
ふと見れば足元には自分の心臓がある。何やら赤く脈打つ宝玉みたいな物が心臓に埋まっていた。
「こ、これが・・・」
「そう、これが君を苦しめていた呪いの元凶だ。君の心臓に寄生する形を取っていたので、取り外せなかった。俺以外はな」
「・・・まさに、奇跡の御業でございました。このリーンハート・フォン・エーデルバーグ、わたくしの全てを新太様に捧げる所存。幾久しくよろしくお願い申し上げます」
一糸纏わぬ姿のまま、膝を付き忠誠を誓うかの如く言葉を紡ぐリーンハート。
新太はばさりとマントを翻し、背を向ける。
「その呪具はお前の心臓からもう魔力を吸収できず、呪いの発動が停止した。触っても問題ない。再度呪いを発動させるためには術式発動が必要になる類のものだ。だから安心して父親にでも渡してやるがいい。最もお前の古い心臓に埋まっているからな、保管するならちゃんと処理をしてもらうように伝えておくようにな」
「・・・ありがとうございます、新太様・・・。新たな生を授けてくださいまして・・・」
リーンハートの声は震えていた。辛く苦しい呪いから解放された喜びを噛み締めて涙を流しているのだろう。
「もうお前は何物にも縛られない。自分の夢に向かって突き進むがいい」
新太は窓を開けるとその漆黒の翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がって消えた。
「新太様・・・」
とりあえずベッドのシーツを体に巻き付けたリーンハートは窓際まで歩いて来ると、新太が飛び去った空をいつまでも見つめていた。
柔らかな月の光がいつまでもリーンハートを優しく照らしていた。
今後とも「まおテン」応援よろしくお願いします!
(自分で愛称呼んでます(苦笑))
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