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断罪の咎人トーマ  作者: 橋比呂コー
Mission1 通り魔を退治せよ
9/30

2-5 事情

 その気になれば天災を起こせる力を秘めているとはいえ、ただの一撃で人間をノックアウトしたというのは易々と受け入れられるものではなかった。しばらくは自らの両手から目を放すことができずにいた。


「あの、助けてくれたので礼を言っておくのです」

 トーマが我に返ったのは、襲撃されていた少女マーヤから声をかけられた時であった。

「そうそうお前さん、あの盗賊みたいなのに襲われていたようだけど、怪我はなかったか」

「問題ないのです。でも、せっかく手に入れたお金が取り返されてしまったのです」

「お金も大事だが、それよりも自分の体の方が大切だろう」

 傍目からすると、エネルギー弾を受けた箇所が打撲痕のようになっていた。治療してやりたいが、あいにく応急処置用の道具など持ち合わせていない。


「なあお前さん」

「マーヤにはお前さんではなく、マーヤという名があるのです」

「そうか。俺はトーマっていうんだが、今は自己紹介はどうでもいい。この先に町はないか。病院でもあればそこで傷を診てもらえるだろう」

「それは無理な相談なのです」

「いきなり無理ってことはないだろ。まさか、町がとんでもなく遠いとか言うんじゃないよな」

「それもあるのです。でも、病院はお金が必要なのです。マーヤは一文無しなのです。だから、さっきようやくお金を手に入れたのです」

「お金を手に入れたって、あの盗賊からか」

 訝しむ目線を送ると、マーヤは力強く首肯した。


 まさか、あの盗賊たちに雇われでもしていたのだろうか。それなら、逃げ帰るときにマーヤのことを気遣う素振りがあってもおかしくないはずだ。なのに、一瞥だにせず尻尾を巻いていったのだ。

 もしかすると。一瞬嫌な考えがよぎったトーマであったが、まさかと思い直し自己否定した。それでも気にかかり、念のため尋ねてみることにした。

「つかぬ事を聞くが、どうやってそのお金を手に入れたんだ」

「たまたまあの男たちの傍を通りかかったら、お金が入った袋を見つけたのです。だから拝借したのです」

「完全に泥棒だろ、それは」

 盗賊から泥棒を働くとは大胆にも程がある。いなされて肩を引くつかせたマーヤであったが、負けじと反論した。


「悪いこととは分かっているのです。でも、生きるために仕方ない選択肢だったのです」

「生きるためって、お前何かやらかしたのか」

 その質問には答えることはなかった。口を真一文字に結び、頑なに沈黙を守っている。

 好奇心から追及したくなったトーマだったが、ふと自らの立場を思い直す。


 トーマがこの場にいるのはあまりにも後ろめたい出来事があった末でのことだ。できればこのことは公にしたくはない。

 同様に、マーヤもまた後ろめたい事情があると考えるのが妥当だ。窃盗をしないと生きていけない。それが嘘か真かは確定できないが、並ならぬバックボーンがあることは違いない。


 俯くマーヤの頭にやさしく手を置くと、トーマは話を切り出す。

「言いたくなければ無理に話すこともないさ。医者にどうにかしてもらう線は諦めるとして、そうだな、魔法でどうにかなったりしないか。傷を治す魔法ぐらいあるだろ」

 そう言いながら、トーマは頭の中でイメージを膨らませた。この少女の傷が治っていく。そんな光景ならば想像できたのだが、肝心の呪文が一切浮かびあがってこない。いくらイメージがあっても、それを具現化できないのでは意味がない。

 水の魔法を発動した時は同じ手順でうまくいったので、方法論としては間違っていないはずだ。それなのに、一向に回復魔法を発動させることができない。カムゥが嘘を教えたとも考えにくいし、何かしら条件でもあるのか。


 悪戦苦闘していたトーマだが、ふとマーヤの様子がおかしいことに気が付いた。なぜだか全身を震わせている。顔もこわばっており、自然と後ずさりしている。

「魔法でどうにかしようって、あいつらと同じなのです」

「おい、あいつらってどういうことだ」

「教える義理はないのです」

 トーマの手を振り切り、一目散に茂みへと走り去ろうとする。追いかけようと前かがみになるトーマであったが、その姿勢のまま静止する羽目になった。


 なにせ、マーヤが茂みへと突入しようとした矢先、あるものにぶつかり、反動で尻もちをついたのだ。

「もう、危ないじゃない。お嬢ちゃん、急に走ってきちゃ危ないわよ」

 そのすぐ後に若い女性の声がした。そして茂みを掻き分けて姿を現したのは、トーマよりも若干年下の女であった。プレートアーマーにミニスカート、腰にはロングソードで皮のブーツ。ここが異世界ではなく、元々トーマが生活していたリライズという世界なら「その手のイベントで勇者のコスプレをしている痛い女」であった。しかし、ここが異世界である以上、本気で勇者をしている少女という可能性が高い。

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