駅守
更新が止まっておりご迷惑をお掛けしています。
長期連載予定に伴い、過去の話を書き直してるので暫くお待ちください。二章以降のリライトして再掲載してます。引き続きよろしくお願いします。(基本毎日更新、たまに朝晩の二話あげる予定です。)
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——あり得ない。
爆発の瞬間、奴は確かにあそこにいた。鑑定を切ったのはほんの一瞬だけだ。それだけの間に、あの五十メートルの距離を詰めたっていうのか?
「っ!」
振り下ろされる手を、反射的に身体を捻って躱す。風を切る音が耳元で弾けると同時に、冷気が風になって肌を刺す。
冷たい。制服を着込んでいる様に見えても、やはりコイツはモンスターだ。幽鬼の黒い腕は触れていないはずなのに、肌が粟立った。
だが、違和感を感じたのはそこではない。
(遅い?いや、避けられない速さじゃない)
先程の距離を一瞬にして詰めた相手の速度ではなかった。ひなのも援護しようと立ち上がったが、まだ動ける状態ではなさそうだ。
(この程度なら、——やれるか?)
どちらにせよ、逃げる選択肢はなくなった。覚悟を決めて、ベルトに挟み込んであった最後の手札を切る。
・霊鉄杭 攻撃力+10 追加効果:魂魄固定 希少
さっき倒したレイスのドロップだ。ひなのと会った時、恵の所に行く前に拾っておいた。
魂魄固定というのはよく分からないが、名前からして幽霊には有効と見るべきだろう。
冷気を帯びた鉄製の杭を、治った右腕に持ち替え、踏み込みと同時にレイスに刺突する。
狙いは体の中央部のコアだ。
ガンッ!
しかし、これはあまりに見え見えの攻撃だった。すかさず右手の肘でガードされた。
…想定内だ。確認はできた。ギリギリの距離を保って反撃に転じられるよう、一歩だけ下がる。
(やはり、触われる…!)
引きつけて間合いを図りつつ、手応えを感じる。物理無効のレイスに触われるという事は、刺した霊魂を実体と捉える効果があるのだろう。
後、今の攻撃でもう一つ分かったことがある。
こいつの移動は身体能力じゃない。恐らく、瞬間移動の類だ。
瞬間移動のスキルは幾つか知っている。
強力な効果には制限がある場合が多い。距離か、溜めか、再使用までの間か。
そこをついてコアに打ち込む。俺の勝つ道はこれしかない。
プレッシャーに心臓が脈打つ。手に持った杭だけがやけに冷たい。だが、ここが正念場だ。
ダンッ!
一歩踏み込んで、さらに攻撃を試みる。
その時だった。
駅長レイスが大きく口を開けた。黒づくめでわかりづらいが、耳まで裂けているような大きな口だった。そしておもむろに右手を口の中に突っ込むと、口から取り出すように何かを引き抜いた。
あまりの悍ましさに踏みとどまる。全身から鳥肌が立つ。
そうして真っ黒なレイスが取り出したのは、本体の色とは似つかない、白い手旗だった。
(何だあれは?旗か?)
答えの出る間も無く、レイスは手旗を振った。
突如として、駅全体が震えるようにガタガタと音が鳴り響く。見渡すとベンチ、看板、自動販売機、ゴミ箱。ありとあらゆる駅のオブジェクトが揺れている。
そして、それらがもの凄い勢いでこちらに向かって飛んできた。
「うおっ!」
頭に飛んできた自販機を、慌てて屈んで身をかわす。念動力か?ワープだけじゃないのか、コイツ。
四方八方から飛んでくるゴミ箱や看板を、鉄杭で受け流しながら徐々に距離を詰める。
右手は治ったとはいえ、鑑定を酷使し過ぎた。神経からズキズキ痛む。恐らく後一回でまた暫くは使えなくなるだろう。身体の状況から見ても、この均衡はもう長く持ちそうにない。
反撃のチャンスを伺いながらレイスを見ると、手に持った旗をはためかせている。なるほど、あの白い手旗が念動力の源か。先ずはアレをどうにかしないと、近付くことすらままならない。
そう思った瞬間。
ゴッ。
「があっ!」
鈍い音とともに、視界が白く弾けた。死角から飛んできた掲示板の角が、俺の側頭部を強く殴打した。
——-あれ?
脳が揺れる。
視界の端に、更に飛んでくるベンチと自販機が映る。足に力が入らない。咄嗟に腕を交差した。
「弾けろ!」
だが、どちらも俺を傷つけることは出来なかった。圧のある火球が後方から現れて、オブジェクトを弾き飛ばした。揺れる視界が徐々にクリアになる。
「やられてんじゃないわよ!」
後方からひなのの声がした。どうやら、回復が間に合ったようだ。
ひなのが最短で伝える。
「伏せてなさい」
そう言うが早いが、空気の焦げる匂いと共にひなのの周囲に2,30個の火の玉が現れる。
火球。
一つ一つは西瓜程度の大きさだが、手数で勝負する時のひなのの十八番だ。
「—行け!」
ひなのの命令で周りの空気がやけ、火球の群体が勢いよく飛び出す。火花の尾ひれがついて、いくつもの閃光の矢のように見えた。
だが、レイスも負けてはいない。再度手旗を振るとレイスの前方に周囲のオブジェクトが集まった。そして、勢いよく次々とそれらを発射した。
放たれた攻撃と攻撃がぶつかり、両者の中央で爆音がこだまする。
手数の戦いを制したのはひなのだった。
全てのオブジェクトを打ち落とした上で、残りの火球がレイスの首を捉える。
やったか?
…そう思った直後、またレイスが消えた。ホームの壁に吸い込まれるように、すっと輪郭がぼやけて姿を消した。
火球はレイスをすり抜け、はるか後方の柱に当たって爆散した。
「くそっ!」
ひなのが悔しそうに叫ぶ。
先程の爆発も同じ手段で回避したに違いない。ただ、問題は移動の方法だ。何となくだが、違和感があった。
「あいつ何なのよ!チョコまか逃げやがって!」
ひなのが悪態をつく。
「神谷、さっさと立ちなさい!」
「あぁ…」
俺はよろよろと立ち上がって、ホームの柱に寄りかかった。割れるような頭痛だ。だが、そんな事もいってられない。脳みそをフル回転し、思考を回す事で痛みを抑えつける。
…今の攻防でいくつか見えたことがある。
あくまで憶測だが、分かった事は以下の通りだ。
「ひなの、そのまま聞いてくれ。今の戦いで分かった事を伝える」
周囲を警戒しながら再度、並び立つ。
「まず、奴は攻撃の時は実体になる。動きを見るに間違いない。つまりカウンターだ」
「次に、奴はひなのの魔法を恐れている。俺の杭は受けて魔法で消えるのは喰らうとマズいって事だ」
話しながら、思考を整理した。後はカウンターでひなのの魔法をぶつけられる状況を俺が作り出す。
その時、あるものが目に入る。
思考が一つの線になった。
「ひなの!」
「線路まで走るぞ!」
ひなのは一瞬、目を丸くしたが直ぐに切り替えると、走って線路の下に飛び降りた。後を追う。
示し合わす事もなく、お互いに背を向け合った。
お互い、既に息を切らしている。ここで決めないと本格的にマズい。
「策はあるんでしょうね」
声は平静だが、背中越しに圧が伝わってくる。
逃げ場はない、という顔だ。
「多分、あいつはホームの壁を移動してる」短く答える。
「ここで戦えば、さっきみたいな不意打ちはないはずだ」
背中合わせのまま、右手の杭を頭の後ろで振る。
「奴が降りてきたら、こいつで隙を作る」
「隙が出来たらなるべく早くのをぶつけてくれ」
その時。
ひなのの返事を待つ暇もなく、レイスが再び現れた。ホームに転がったままの自販機に片足を乗せて、こちらを見下ろしている。
(やはり)
仮説が確信に近づく。今は高低差を無視して3メートルほどの距離がある。不意をつくならもっと間合を詰めるべきだ。
さっきは俺が壁伝いにいたせいで虚を突かれた。第二ラウンドは出来るだけ壁から離れて、中央で戦う作戦だ。
だがレイスはこちらを見下ろしたまま、余裕の態度で再び大きく口を開けた。
(また念動力か?撃ち合いになれば、ひなのの方が分があるぞ)
また予想を裏切られた。口から取り出したのは先程とは違う赤い手旗だった。
赤?
そう思った瞬間、それは振られ、旗は音もなく形を変える。
血のように赤い刀身。禍々しい雰囲気の日本刀に変わった。
刀を見た瞬間、本能が警鐘を鳴らした。何なのか分からないが、あれは普通の刀じゃない。
鑑定——
迷っている暇はない。視界が歪み、刺すような痛みで目を開けていられなくなる。それでも振り切って、視界の端で刀を捉えた。
終停刀 攻撃力0 追加効果:即死 ユニーク
直感した。——あれに切られたらマズい。
「距離を取れ!あれに触ると死ぬ!」
ひなのに叫びながら、自分も必死で飛び退く。
視界を開こうと、無理やり薄目を開けるが涙が溢れて反射的に目を瞑ってしまう。もう意志の力ではどうにもならない。
辛うじて線路から飛び降りたレイスが、走って向かってくるのが見えた。
慌てて迎撃の姿勢を取る。だが視界が歪んでまともに受けられる気がしない。
「わああぁ!!」
暗闇の中で、もう闇雲に杭を振り回す事くらいしか出来ることがない。後ずさるとコッ、と足首に何かがつっかえた。
ドシャッ
「あ…」
気がつくと、俺は尻餅をついていた。線路だ。完全に裏目に出た。終わった。
次の瞬間、振り下ろされる刃の空を切る音が聞こえた。死神の鎌だ。恐怖が音に置いていかれて思考が止まる。あっけない。これが…死。
カッ
その瞬間、目の前が弾けた。閉ざされたまま光が差し込む。音が消えた。そしてまだ、生きている。
ドンッ!
遅れて衝撃が叩きつけた。踏ん張りが効かないまま後ろに転がる。線路にしこたま背中を打ちつけたが、お陰で意識が戻った。
ようやく薄目を開けると、目の前のレイスが吹っ飛んで横たわっている。
「本っ当、詰めが甘いわね!!」
爆発の主はひなのだった。間一髪、間に合ったらしい。一撃だが、ようやく有効打になったようだ。
「畳みかけろ!」
「ここがアンタの終点よ」
ひなのの杖から大きく炎が立ち上り、火柱が上がる。炎は火花を散らしながら収束して、杖の先端から3メートルほどのバーナーのような一刃の剣になった。
「消えなさい!」
ひなのが剣を振り下ろす。線路の下には壁もない。刃がレイスに当たり、焼き切れる。
勝ったぞ。
そう確信した瞬間。
レイスは線路の下に落ちていた看板の欠片に触れた。瞬間、欠片に吸い込まれるように消えて、炎刃が空を切った。
「は?」
ひなのが目を丸くする。
目を疑った。そして、同時に理解した。
俺の考えは間違っていた。
レイスが瞬間移動しているのはホームの壁じゃない。駅のオブジェクトだ。




