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役立たず鑑定士、追放されてレアドロップが逆転する  作者: モコナッツ
第三章 繋ぐ

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駅守

更新が止まっておりご迷惑をお掛けしています。

長期連載予定に伴い、過去の話を書き直してるので暫くお待ちください。二章以降のリライトして再掲載してます。引き続きよろしくお願いします。(基本毎日更新、たまに朝晩の二話あげる予定です。)

https://ncode.syosetu.com/n9890lz/

——あり得ない。


爆発の瞬間、奴は確かにあそこにいた。鑑定を切ったのはほんの一瞬だけだ。それだけの間に、あの五十メートルの距離を詰めたっていうのか?


「っ!」


振り下ろされる手を、反射的に身体を捻って躱す。風を切る音が耳元で弾けると同時に、冷気が風になって肌を刺す。


冷たい。制服を着込んでいる様に見えても、やはりコイツはモンスターだ。幽鬼の黒い腕は触れていないはずなのに、肌が粟立った。


だが、違和感を感じたのはそこではない。


(遅い?いや、避けられない速さじゃない)


先程の距離を一瞬にして詰めた相手の速度ではなかった。ひなのも援護しようと立ち上がったが、まだ動ける状態ではなさそうだ。


(この程度なら、——やれるか?)


どちらにせよ、逃げる選択肢はなくなった。覚悟を決めて、ベルトに挟み込んであった最後の手札を切る。



霊鉄杭(れいてつくい) 攻撃力+10 追加効果:魂魄固定 希少



さっき倒したレイスのドロップだ。ひなのと会った時、恵の所に行く前に拾っておいた。


魂魄固定というのはよく分からないが、名前からして幽霊には有効と見るべきだろう。


冷気を帯びた鉄製の杭を、治った右腕に持ち替え、踏み込みと同時にレイスに刺突する。


狙いは体の中央部のコアだ。


ガンッ!


しかし、これはあまりに見え見えの攻撃だった。すかさず右手の肘でガードされた。


…想定内だ。確認はできた。ギリギリの距離を保って反撃に転じられるよう、一歩だけ下がる。


(やはり、触われる…!)


引きつけて間合いを図りつつ、手応えを感じる。物理無効のレイスに触われるという事は、刺した霊魂を実体と捉える効果があるのだろう。


後、今の攻撃でもう一つ分かったことがある。


こいつの移動は身体能力じゃない。恐らく、瞬間移動(ワープ)の類だ。


瞬間移動のスキルは幾つか知っている。

強力な効果には制限がある場合が多い。距離か、溜めか、再使用(リキャスト)までの間か。


そこをついてコアに打ち込む。俺の勝つ道はこれしかない。


プレッシャーに心臓が脈打つ。手に持った杭だけがやけに冷たい。だが、ここが正念場だ。


ダンッ!


一歩踏み込んで、さらに攻撃を試みる。


その時だった。


駅長レイスが大きく口を開けた。黒づくめでわかりづらいが、耳まで裂けているような大きな口だった。そしておもむろに右手を口の中に突っ込むと、口から取り出すように何かを引き抜いた。


あまりの悍ましさに踏みとどまる。全身から鳥肌が立つ。


そうして真っ黒なレイスが取り出したのは、本体の色とは似つかない、白い手旗だった。


(何だあれは?旗か?)


答えの出る間も無く、レイスは手旗を振った。


突如として、駅全体が震えるようにガタガタと音が鳴り響く。見渡すとベンチ、看板、自動販売機、ゴミ箱。ありとあらゆる駅のオブジェクトが揺れている。


そして、それらがもの凄い勢いでこちらに向かって飛んできた。


「うおっ!」


頭に飛んできた自販機を、慌てて屈んで身をかわす。念動力(テレキネシス)か?ワープだけじゃないのか、コイツ。


四方八方から飛んでくるゴミ箱や看板を、鉄杭で受け流しながら徐々に距離を詰める。


右手は治ったとはいえ、鑑定を酷使し過ぎた。神経からズキズキ痛む。恐らく後一回でまた暫くは使えなくなるだろう。身体の状況から見ても、この均衡はもう長く持ちそうにない。


反撃のチャンスを伺いながらレイスを見ると、手に持った旗をはためかせている。なるほど、あの白い手旗が念動力の源か。先ずはアレをどうにかしないと、近付くことすらままならない。


そう思った瞬間。


ゴッ。


「があっ!」


鈍い音とともに、視界が白く弾けた。死角から飛んできた掲示板の角が、俺の側頭部を強く殴打した。


——-あれ?


脳が揺れる。


視界の端に、更に飛んでくるベンチと自販機が映る。足に力が入らない。咄嗟に腕を交差した。


「弾けろ!」


だが、どちらも俺を傷つけることは出来なかった。圧のある火球が後方から現れて、オブジェクトを弾き飛ばした。揺れる視界が徐々にクリアになる。


「やられてんじゃないわよ!」


後方からひなのの声がした。どうやら、回復が間に合ったようだ。


ひなのが最短で伝える。


「伏せてなさい」


そう言うが早いが、空気の焦げる匂いと共にひなのの周囲に2,30個の火の玉が現れる。


火球。


一つ一つは西瓜程度の大きさだが、手数で勝負する時のひなのの十八番だ。


「—行け!」


ひなのの命令で周りの空気がやけ、火球の群体が勢いよく飛び出す。火花の尾ひれがついて、いくつもの閃光の矢のように見えた。


だが、レイスも負けてはいない。再度手旗を振るとレイスの前方に周囲のオブジェクトが集まった。そして、勢いよく次々とそれらを発射した。


放たれた攻撃と攻撃がぶつかり、両者の中央で爆音がこだまする。


手数の戦いを制したのはひなのだった。


全てのオブジェクトを打ち落とした上で、残りの火球がレイスの首を捉える。


やったか?


…そう思った直後、またレイスが消えた。ホームの壁に吸い込まれるように、すっと輪郭がぼやけて姿を消した。


火球はレイスをすり抜け、はるか後方の柱に当たって爆散した。


「くそっ!」


ひなのが悔しそうに叫ぶ。


先程の爆発も同じ手段で回避したに違いない。ただ、問題は移動の方法だ。何となくだが、違和感があった。


「あいつ何なのよ!チョコまか逃げやがって!」


ひなのが悪態をつく。


「神谷、さっさと立ちなさい!」


「あぁ…」


俺はよろよろと立ち上がって、ホームの柱に寄りかかった。割れるような頭痛だ。だが、そんな事もいってられない。脳みそをフル回転し、思考を回す事で痛みを抑えつける。


…今の攻防でいくつか見えたことがある。


あくまで憶測だが、分かった事は以下の通りだ。


「ひなの、そのまま聞いてくれ。今の戦いで分かった事を伝える」


周囲を警戒しながら再度、並び立つ。


「まず、奴は攻撃の時は実体になる。動きを見るに間違いない。つまりカウンターだ」


「次に、奴はひなのの魔法を恐れている。俺の杭は受けて魔法で消えるのは喰らうとマズいって事だ」


話しながら、思考を整理した。後はカウンターでひなのの魔法をぶつけられる状況を俺が作り出す。


その時、あるものが目に入る。


思考が一つの線になった。


「ひなの!」


「線路まで走るぞ!」


ひなのは一瞬、目を丸くしたが直ぐに切り替えると、走って線路の下に飛び降りた。後を追う。


示し合わす事もなく、お互いに背を向け合った。

お互い、既に息を切らしている。ここで決めないと本格的にマズい。


「策はあるんでしょうね」


声は平静だが、背中越しに圧が伝わってくる。

逃げ場はない、という顔だ。


「多分、あいつはホームの壁を移動してる」短く答える。


「ここで戦えば、さっきみたいな不意打ちはないはずだ」


背中合わせのまま、右手の杭を頭の後ろで振る。


「奴が降りてきたら、こいつで隙を作る」


「隙が出来たらなるべく早くのをぶつけてくれ」


その時。


ひなのの返事を待つ暇もなく、レイスが再び現れた。ホームに転がったままの自販機に片足を乗せて、こちらを見下ろしている。


(やはり)


仮説が確信に近づく。今は高低差を無視して3メートルほどの距離がある。不意をつくならもっと間合を詰めるべきだ。


さっきは俺が壁伝いにいたせいで虚を突かれた。第二ラウンドは出来るだけ壁から離れて、中央で戦う作戦だ。


だがレイスはこちらを見下ろしたまま、余裕の態度で再び大きく口を開けた。


(また念動力か?撃ち合いになれば、ひなのの方が分があるぞ)


また予想を裏切られた。口から取り出したのは先程とは違う赤い手旗だった。


赤?


そう思った瞬間、それは振られ、旗は音もなく形を変える。


血のように赤い刀身。禍々しい雰囲気の日本刀に変わった。


刀を見た瞬間、本能が警鐘を鳴らした。何なのか分からないが、あれは普通の刀じゃない。


鑑定——


迷っている暇はない。視界が歪み、刺すような痛みで目を開けていられなくなる。それでも振り切って、視界の端で刀を捉えた。


終停刀 攻撃力0 追加効果:即死 ユニーク


直感した。——あれに切られたらマズい。


「距離を取れ!あれに触ると死ぬ!」


ひなのに叫びながら、自分も必死で飛び退く。

視界を開こうと、無理やり薄目を開けるが涙が溢れて反射的に目を瞑ってしまう。もう意志の力ではどうにもならない。


辛うじて線路から飛び降りたレイスが、走って向かってくるのが見えた。


慌てて迎撃の姿勢を取る。だが視界が歪んでまともに受けられる気がしない。


「わああぁ!!」


暗闇の中で、もう闇雲に杭を振り回す事くらいしか出来ることがない。後ずさるとコッ、と足首に何かがつっかえた。


ドシャッ


「あ…」


気がつくと、俺は尻餅をついていた。線路だ。完全に裏目に出た。終わった。


次の瞬間、振り下ろされる刃の空を切る音が聞こえた。死神の鎌だ。恐怖が音に置いていかれて思考が止まる。あっけない。これが…死。


カッ


その瞬間、目の前が弾けた。閉ざされたまま光が差し込む。音が消えた。そしてまだ、生きている。


ドンッ!


遅れて衝撃が叩きつけた。踏ん張りが効かないまま後ろに転がる。線路にしこたま背中を打ちつけたが、お陰で意識が戻った。


ようやく薄目を開けると、目の前のレイスが吹っ飛んで横たわっている。


「本っ当、詰めが甘いわね!!」


爆発の主はひなのだった。間一髪、間に合ったらしい。一撃だが、ようやく有効打になったようだ。


「畳みかけろ!」


「ここがアンタの終点よ」


ひなのの杖から大きく炎が立ち上り、火柱が上がる。炎は火花を散らしながら収束して、杖の先端から3メートルほどのバーナーのような一刃の剣になった。


「消えなさい!」


ひなのが剣を振り下ろす。線路の下には壁もない。刃がレイスに当たり、焼き切れる。


勝ったぞ。


そう確信した瞬間。


レイスは線路の下に落ちていた看板の欠片に触れた。瞬間、欠片に吸い込まれるように消えて、炎刃が空を切った。


「は?」


ひなのが目を丸くする。


目を疑った。そして、同時に理解した。

俺の考えは間違っていた。


レイスが瞬間移動(ワープ)しているのはホームの壁じゃない。駅のオブジェクトだ。

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