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役立たず鑑定士、追放されてレアドロップが逆転する  作者: モコナッツ
第三章 繋ぐ

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焔衝

駅長レイスの影が動いた。それと同時に、フードが微かにこちらを向く。


「…っ!」


俺は咄嗟にひなのを引き寄せて、ホームの壁にいっそう体を押し付けるようにうずくまった。


(ヤバい、気付かれたか…?)


だが、レイスは直ぐに反対側に向き直る。その姿を見て何となく理解した。こいつが見ているのはホームではなく線路だ。誰もいない駅で一人、列車が来るのを待っているのかもしれない。寒気がした。


だがそれと同時に、一縷の希望が見える。


「あいつ、こっちに気付いてないぞ」


俺は言った。


「何故か分からんが線路に夢中だ。幽鬼系は火に弱いから、一撃デカいのを当てれば可能性はある」


今やり過ごしてもこの先出会わないとは限らない。やはり、やれる事ならここで倒すのがベストだ。なぜかこの時はそう思ってしまった。


「…わかったわ」


ひなのが言った。


「…で、いつまで抱きついてんのよ」


気付くと咄嗟に引き寄せた手が、ひなのの背中を抱いたままになっていた。俺は慌てて手を離した。


気を取り直す。


「…とにかく。今のうちに一撃でやる。これが俺たちの唯一の勝利条件だ。外したら全力で逃げる。例え四層まで逃げても、アイツよりヤバい奴もそうそういないだろう」


ひなのがぎゅっと口を結んだ。どうやらやる気のようだ。


「距離があるが、いけそうか?」


ひなのに問う。これが最終確認だった。


「誰に言ってるのよ」


「早く、どこにいるか教えなさい」


俺は慎重に距離を測る。50メートル手前くらいか。十、十五、いや、看板は数が多すぎる。白線、ベンチ、乗車口…どれも伝えづらい。


その時だった。駅の番線表示と柱が目に入った。文字は相変わらず読めないが、他のものに比べてかなりわかりやすい目印だ。


「ひなの、ここから3番目の柱が分かるか?右角に番線表示があるところの柱だ」


胸の先で小さく指を指す。ひなのは頷いた。


「よし、じゃあ距離はあの番線表示の2メートルくらい手前だ。そして、奴の場所だが…白線の内側辺りだ。今は棒立ちだが、動き出しそうなら合図するから一旦待て」


これで俺の出来る事は全てやった。


後はひなのの成功を祈る事と、失敗した時に全力で逃げられるよう足をほぐしておくことくらいか。


「…神谷」


ふいにひなのが言った。


「ありがとね」


今まで聞いたことがない声色だった。ふっと微笑んだひなのを見て、胸の奥がチクリとした。


「やるわ」


ひなのは直ぐに指定された場所に向かって、集中して魔力を練り始めた。鑑定を使わなくても分かるくらい、周りの魔素密度が上がっている。極限まで魔力を高めた上で一撃で屠るつもりらしい。




ひなのはスキルは火産霊(ほむすび)


体内や周囲の魔素を取り込み、火属性の魔法として自在に扱う——シンプルだが、扱いを誤れば自分すら焼きかねない危険な力だ。


スキルの発現は通常十二歳前後とされているが、ひなのは十歳でそれを発現させた。


きっかけは、些細な喧嘩だったらしい。殴られ、逆上し、掴みかかったその瞬間——相手は発火した。一命は取り留めたが、周囲を巻き込む大惨事だったという。


突発的な発現事故として処理され、ひなのに責任は問われなかった。だが、それで終わる話でもない。転校を余儀なくされ、その後も制御の効かない力と向き合い続けることになった。


それでも、ひなのはそれをねじ伏せた。


生まれ持った才能に加え、血の滲むような努力を重ね、今では火力も魔力操作も学部内で指折りの実力者だ。


……だからこそ、なのかもしれない。


制御できない力と向き合い続けてきたひなのにとって、俺の在り方は気に入らないのだろう。


レアスキルを持っているというだけで同じパーティに席を置き、戦闘は他人任せ。鑑定とドロップ率だけで立っているような俺の存在は、あまりにも歪に映るはずだ。


相容れないところはある。


それでも——。


あの一件があった今でも、俺はひなののことを嫌いになれなかった。



ひなのが魔力を練り始めてから、凡そ30秒。

ブッ、とひなのの鑑定も途切れた。蓄積された魔力量が俺の鑑定限界を超えたのだ。


駅長レイスは微動だにせず、まだあそこに佇んでいる。今なら一撃であのバケモノを仕留め切れる。


「やれ」


「頑張れひなの」


思わず声に熱が籠る。恵の仇を、お前自身の手で晴らしてやれ。


そう思った瞬間。


ひなのがレイスのいる方に杖を向けて、言った。


「爆ぜろ。」


言い終わると同時に溜め込んだ魔力を解放され、50メートル先で大爆発が起こる。

夜のダンジョンが一瞬昼になったように明るくなり、衝撃と爆風で砕け散ったホームの屋根や看板、ベンチなどがあちこちに吹き飛んだ。


爆発の衝撃で俺のところまで突風が吹き付ける。風に舞った土ぼこりに思わず目を瞑り、手で顔を防いだ。

鼓膜が震え、地鳴りのような振動に身体が震えるを待つ事数十秒。


やがて衝撃が収まり、ゆっくりと目を開ける。

辺りは静寂と土煙だけが残っていた。


煙が晴れていく。


俺は再び鑑定を発動し、注意深く目を凝らした。


攻撃の場所はドンピシャだった。駅長レイスのいた場所は、爆発の衝撃で跡形もなく砕け散っている。ホームの大部分が抉れ、半円形のクレーターが先程の威力の大きさを物語っていた。


レイスの姿はどこにもない。念の為周辺も確認したが、影も形も見当たらなかった。


静寂が辺りを包みはじめる。


同時に、勝利への実感が遅れてやってきた。


ひなのの、いや。俺たちの勝ちだ。


「ひなの!やったぞ!」


振り返ってひなのを見ると、ひなのはまだ油断せずに杖を構えていたが、俺の言葉でようやく杖を下ろして、壁に寄りかかった。


「見た?ざっとこんなもんよ」


強がっているが、相当消耗したようだ。膝が笑っており、指先にも力が入らないらしい。そういうが早いが、その場でへたり込む。


「私たちの勝ちね」


だが、こちらを見上げた笑顔は力強く、眩しかった。


思わず、目を奪われる。今まで意識してなかったが、こいつ意外と美人だよな、と場違いなことを思ってしまう。



…こんな時に何考えてるんだ、俺は。


頭を軽くふり、思考を整える。一先ずの脅威は去ったが、ひなのを消耗させてしまった状態でまだ先は長い。


とりあえず少し休んでから、早く進まなければ。先程の駅長レイスのドロップに役立つものがあれば良いが。


——-鑑定。


ドロップを探そうと見渡す。その時、急に違和感を覚えた。


ドロップ品がどこにもない。


吹き飛ばされた可能性もあるが、ダンジョンの両端はホームの壁に阻まれ、今の俺は100メートル先まで見渡せる。


馬鹿な。


もしかして、まだ終わりじゃないのか?


そんな馬鹿な。気づいた途端、足元がぐらついた。壁に手をついて踏みとどまるが、その気付きが正しいことは自分の心臓の鼓動が証明していた。


終わってない。


まだアイツは生きている。


「ひなの」


声が震えていた。


「マズいぞ」


恐怖で喉が掠れる。


「神谷!」


瞬間、ひなのの叫ぶ声が聞こえた。


ハッとして振り返ろうとするが、その瞬間、俺は心臓が止まりそうになった。


俺の直ぐ隣で、フードを被った黒い影が佇んでいた。

ひなのは当初、よくいるクズキャラにする予定だったのですが、気づけばこんな性格になってしまいました。

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