登録
探索者ギルドの中は、思った以上に賑やかだった。
受付カウンターの前には列が出来ている。
探索者。装備商人。素材を抱えた運搬業者。
様々な人が行き交っていた。
「結構混んでるな」
「夕方はこういうものです」
凛は慣れた様子で列に並ぶ。
やがて順番が回ってきた。
「いらっしゃいませ」
受付の女性が柔らかく微笑む。
二十代後半くらいだろうか。
落ち着いた雰囲気の、優しそうなお姉さんだった。
「探索者登録ですね?」
「はい」
凛が答える。
綺麗な人だな。
思わず姿勢を正す。
凛が何かを言いたそうにジトッとこちらを見た。
「初めての登録になりますか?」
「そうですね」
受付嬢は書類を取り出す。
「ではまず、探索者としての活動実績を確認させてください」
「一年以上の活動証明が必要になります」
「神谷さん」
凛が俺を見る。
「はいはい」
俺はバッグからカードを取り出す。
「大学の探索許可証です」
受付嬢がそれを確認する。
「あ、探索学部の方なんですね」
「はい」
「なるほど、実習履歴もしっかりありますね」
受付嬢が頷いた。
そして凛の方を見る。
「では、黒瀬さんは?」
凛はスマホを取り出す。
「配信サイトの実績です」
画面を見せる。
受付嬢の表情が一瞬止まった。
「……え?」
画面を見直す。
「二年間……ソロ探索?」
「はい」
凛は腕を組んだ。そして小さく胸を張る。
ドヤ顔だった。
受付嬢は少し驚いた顔をする。
「十八歳でソロ探索二年……すごいですね」
「ありがとうございます」
凛のドヤ顔がさらに深くなる。
……こいつ、分かりやすいな。
受付嬢は微笑みながら説明を続けた。
「では簡単にギルドの仕組みを説明しますね」
「探索者ランクは、戦闘力だけでは決まりません」
指を立てる。
「損耗率。そしてギルドへの貢献度」
「この二つが大きく影響します」
凛が小さく頷いた。
「ですよね」
またドヤ顔。…本当に分かりやすいな。
「では登録料になります」
受付嬢が言った。
「二十万円です」
「……」
俺は目を丸くした。
凛が小声で言う。
「手持ちあります?」
「ない」
「私もお金はないです」
「でも素材での支払いでも大丈夫ですよ」
「換金処理もここで出来ますので」
「そうなのか」
俺は凛の袋にしまっていた先程のドロップ品を思い出す。
「じゃあ、斧でもいいですか?」
ゴン。
凛の肘が脇腹に入った。
「痛っ!」
思わず声が出る。
「神谷さん…」
「はい」
「配信」
「……あ」
そうだった。スキルの事があるので目立つのは避けようと先程決めたばかりだった。
凛はため息をついた。
そしてポーチから小さな結晶を取り出す。
「これでお願いします」
受付嬢がそれを見る。
「……あら?」
結晶を手に取る。
「これ…ミスリルスライムのコア…ですか?」
受付嬢の目が丸くなる。
「珍しいですね」
「市場価格は……」
端末を確認する。
少し眉を上げた。
「最近素材不足で高騰してるんですが」
「今だと120万円以上になりますね」
「……え?」
凛が固まった。
「え?」
もう一回言った。
受付嬢は苦笑する。
「最近ミスリルが不足してまして」
「ただ適正価格でも90万円はします」
凛は呆然としている。
さっきまでのドヤ顔は消えていた。
……なるほど。
俺は凛を見る。
(クールなタイプかと思ってたけど)
(意外と天然なのか?)
「では換金処理と登録を進めますね」
受付嬢が言った。
「少しお待ちください」
俺たちは待合スペースの椅子に座る。
そのときだった。
「ねえ聞いた?」
「え?」
後ろのテーブルから声が聞こえた。
若い女の子たちだ。
「さっき配信で」
「ミノタウロス倒した人いたらしいよ」
「え、マジ?」
「しかも女の子」
「ええ!?」
凛がぴくっと反応した。
俺は何も言わない。
女の子たちは続ける。
「すごい美人だった」
「え、誰それ」
「分かんない」
「でもめちゃくちゃ強かった」
凛が小さく咳払いした。
「……」
そして小さく言う。
「偶然ですね」
「そうだな」
俺は笑った。
どうやらあの配信は思ったより広がっているらしい。
凛は少しだけ視線を逸らした。
耳が、ほんの少し赤かった。




