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役立たず鑑定士、追放されてレアドロップが逆転する  作者: モコナッツ
第二章 始める

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13/40

知人

「では、いくつか注意事項を説明いたします」


受付員の指が、画面を滑る。


「まず、ダンジョン探索における危険性についての同意。死亡、重傷、後遺障害のリスクを含みますが、こちらに同意いただけますか」


「はい」


端末に映し出された同意書にサインをする。


……軽いな。


指でなぞるだけで、“死んでも文句言いません”って約束が成立するらしい。


便利な世の中だ。


「後は救助や治療の際には多額のお金が掛かることもありますので、ダンジョン用の保険加入をお勧めしております。希望される場合は、完了後に13番の窓口までお越しください」


保険で13番か。ここの責任者は笑いの分かる奴らしい。


「次に、ドロップ品の権利についてです。ダンジョン内で取得した物には全て報告義務があり、ギルド、もしくはそれに準じる業者を通さない売買は原則禁止されております。違反が確認された場合、資格停止処分となります」


「個人で使用する分や、一部、買取資格取扱者や素材の持ち込みなどでオーダー出来る業者もございますが、その場合にも届出は必要になりますのでご注意ください」


「了解です」


要するに、“勝手に儲けるな”って話だ。

分かりやすくて助かる。


「また、スキルに関する情報は原則として本人の管理下に置かれますが、重大インシデント発生時には開示義務が生じる場合があります」


「ご記入いただいても、スキルの詳細が外部に漏れる事はありません。他の探索者とのマッチングや、ギルドからの依頼の際に強みになりますので、開示が問題ないスキルは申告いただいた方が良いと思います」


一瞬だけ、言葉が引っかかった。


「鑑定スキルがある場合、書いた方がいいですか?」


受付員は小さく頷いた。


「鑑定は採取などでかなり役立つスキルですので、合同依頼の際には重宝されると思います。また開示いただくとギルド査定にも評価が付きます」


なるほど。


……まあ、全部書くほど正直者でもない。


自分の手札をわざわざ見せびらかすのは、趣味じゃない。

宝くじ当たりました、って町内放送で流すようなもんだ。


俺は端末に「鑑定」とだけ入力する。

“逆転”の方は、当然書かない。


ちら、と凛と目を合わせる。


一瞬だけ間があって、凛は小さく頷いた。それで十分だ。


受付員は書類に目を通すと、トントンと端を揃えた。


「確認いたしました。不備はございません」


機械みたいに正確な動きだった。


「それでは登録が終わりましたらお呼びいたします。あちらのお席でお待ちください」


「はい」


軽く返事をして、席へ向かうと背後で、電子音が鳴った。


まるで、順番に人間が処理されていくみたいな音だ。


……まあ、間違ってはいないか。


_________________________



登録の受付から待つ事数十分。予想はしていたが、やはり土曜日の夕方ともなるとかなり混み合う時間らしい。


新規の登録ともなると、なおさらか。時計とカウンターを交互に見た後、自分の整理券と照らし合わせてため息を吐く。これは凛とのディナーはまたの機会になりそうだ。


「付き合わせて悪いな。あれだったら先に帰っても良いぞ。パーティの登録は来週でも出来るんだから」


凛は首を横に振った。


「いえ、こういうのは初めが肝心なんです。それに…日が空いて、神谷さんの気が変わっても困りますからね。さっき受付の人から説明を受けてた時、ちょっとだけ迷ってましたし」


…見抜かれてたか。やっぱり、よく見てるな。


「別に迷ってたわけじゃない。自分がいかに恵まれた環境でやれてたか、ってのに今更ながら気づいただけだ」


「…言っておきますが、今更やめる、っていうのはナシですからね。今日中に絶対、ぜーったいに、私とパーティ登録してもらいますから」


俺は苦笑した。言うまでもない。


「分かってるって。独占欲強いな」


「別に…スキルの相性の話です」


凛がそっぽを向いた。まぁ…それでも良い。要はお互いが必要とし合える関係、って事だ。悪くない。



そう思っていると、ふいにカウンターとは違う方向から黄色い声が飛んできた。


「あそこにいるの黒瀬じゃない?」


凛が顔を上げる。つられて俺も声の方を見た。


三人組の男女だった。見たところ、俺と同じか、少し上くらいだろうか。明るい栗色の髪をした女がこちらを指さしている。


「ホントだ、凛ちゃんだ」

「おーい」


二階の無機質な空気には場違いの、無遠慮な声。一階の喧騒を置き忘れてきた雰囲気に、少しだけ心がざわつく。


「…どうも」


三人組が近寄ってくるが、凛は席を立たずに返事をした。声が少しだけ硬い。


知り合いだろうか。俺は一瞥だけして、成り行きを見守った。


「何黒瀬、また新しい人見つけたの?良かったじゃん」


「凛ちゃん、最近ぜんぜん返事返してくれないじゃん」

「そうそう。心配してたんだよ、俺ら」


金髪と黒髪の男がヘラヘラと続けた。どいつもこいつも、風船みたいだ。こんな場所じゃなきゃナンパと間違えるところだ。


「…すみません。連れと一緒なので」


短く答えた。相手にする気はないらしい。


「つれないわー、ショック」

「この後暇?お兄さんも誘ってみんなでカラオケ行こうよ」


凛は答えず、代わりにペコ、と頭を下げてまたスマホに目を落とした。

話は、それで終わりのようだった。


だがその態度が、栗毛女の気に触ったらしい。


「…何?うっそ、アンタまだ根に持ってるの?」


ピク、と凛が動いた。

表情は崩さなかった。だがスマホを持つ手が、小さく握りしめられた。


「アレは事故でしょ。ていうかスキル隠してたアンタの自業自得よね」


その一言で、凛とこいつらの関係を察した。


思わず顔を上げる。栗毛と目が合った。栗毛は厚い化粧を俺に近付けると、媚びるような顔で告げた。


「お兄さんも気をつけた方がいいよ、コイツ、疫病神だから」


「…。」


凛が俯いて、静かにスマホに目を落とした。


おいおい、辛辣ゥー、と金髪がおどける。黒髪は、凛ちゃん、気にしなくて良いからまた遊ぼうね、と声を掛けた。なぜか、声が遠くに聞こえた気がした。


「…はは、本当そうだな」


思わず、乾いた笑いが出た。

一瞬、場の空気が止まる。


三人の視線が俺に集まる。凛も俺を見た。


「あ?何笑ってんだこいつ」


黒髪が睨んだ。俺は真っ直ぐに見返した。


「いや別に。随分な目利きだと思ってな」


「お陰でこっちは凛と組めるんだ。マジで有難いよ。それじゃ、またな」


一瞬の沈黙の後。


三人組が顔を見合わせた。時間は掛かったが、足りない()()()でもちゃんと理解出来たらしい。


「何こいつ、超キモいんだけど」


「変わり者同士、お似合いじゃん」


一通り、俺に罵声を浴びせてそのままヘラヘラ去っていった。三人組の背中を俺と凛は黙って見送った。

…ああいう奴はどこにでも居るんだな。アレよりは、ひなのの方がまだマシだ。いや…そうでもないか。



「神谷さん…」


凛が力なくこちらを見た。

俺は凛を見て、笑って言った。


「お互い、仲間に苦労したみたいだな」


「…『元』仲間です」


少しだけ視線を落としたが、俺を見てからクスリと笑った。


ピンポーン


その時、アナウンスが鳴る。呼ばれた番号に俺たちは立ち上がった。

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