離れたくないもの2
彼の家の前にある駐車場に車を停め、軽く伸びをしてから呼び鈴を押した。
中からバタバタと足音が近づいてくる。
相変わらず落ち着きがない。
バンッ、と勢いよく扉が開いた。
「おぅ、ようやく来たか。待ってたぞ」
元気すぎる声が響く。
「うるせぇ……朝早くから電話しやがって」
肩をすくめて文句を返すと、友人はまったく気にした様子もなく笑った。
「まぁ、中に入れよ」
そう言いながら、友人は大げさに手招きをしてくる。
「はいはい」
軽くため息をつきつつ靴を脱ぎ、部屋に上がる。
「いやいや、こないだ城前の公園でフリーマーケットやっててよ。珍しいから気に入って買った物があってな。面白くてさ」
そう言う彼の顔は、右の口角だけがちょっと上がっている。
いつもの“自慢したい時の顔”だ。
「全く……これでつまらんものなら晩飯でも奢ってもらうぞ?」
リビングのテーブルにつくと、友人は「まぁまぁ」と笑いながら向かいの椅子に腰を下ろした。
テーブルの上には、小さな木箱がひとつ置かれていた。
「これがな、その変わった骨董品でな」
友人はわざとらしく声を落としながら、ゆっくりと蓋を開ける。
中には、赤い宝石があしらわれた指輪がひとつ。
作りは古いが、前の持ち主が丁寧に扱っていたのだろう。
傷ひとつなく、光を受けて静かに輝いている。
珍しいと言えば珍しい。
だが、これだけのために朝から叩き起こされたと思うと、どうにも納得がいかない。
フンッと鼻を鳴らして友人を見ると、彼はニヤリと口角を上げた。
「手に取ってみてくれ」
そう言いながら、箱をこちらへ押し出してくる。
渋々指輪を手に取ると、指先にじんわりとした温かさが伝わってきた。
まるで、ついさっきまで誰かが嵌めていたかのような、人肌の温度だ。
思わず友人を見ると、彼は大きく頷いた。
「不思議なんだよ。買ってきた日からずっとこれなんだ。つけてもないのに、ずっと生温い。オモロいやろ?」
こちらの反応をうかがうように見つめてくるが、どこか呼吸が少し荒いようにも見える。
「珍しいな」
それだけ返して、指輪をそっと箱に戻す。
戻す瞬間、赤い宝石が光を受けてきらりと反射した。
まるでこちらの会話に相槌を打ったかのように見えた。




