06 私の気持ち
「西宮……お前……っ」
「喋らないで」
短く切り捨てた西宮が顔をずいっと東堂へ近づける。
唇が触れ合う距離にまで迫った両者の顔を、互いがじっと見つめたまま。
そして軽く触れ合った。
「んぅ……っ////」
物心ついた幼子たちがする子供のキス。それでも東堂にとっては得も言われぬ快楽でしかない。
想い人とのキス。それは東堂を熱くさせた。
ーーしかし、彼女の芯まで熱くしたかと問えばそうではなかった。
東堂は突然、西宮を突き放した。
「バッ……ヵ! 話聞いてたのかよ!? アホ! おたんこなす!!!////」
肩で息をする東堂。スンと平静を保ったままの西宮。
「あなたは私が好き。そうでしょう?」
「そ、それは認める! 認めるっつーの! でも! お前の気持ちはどうなんだって話! 今大事なのはそこ!////」
「私の……?」
「お前は私のこと嫌いだろ!? どうせ飯のためだけにシようって、ただそれしか考えてないんだろうが! アタシはそこが嫌なんだっての!!!」
「…………」
西宮は長い黒髪をさらりと撫でる。
「そうね、今のはご飯のためのキスだったかも」
「……だろ……?」
「えぇ」
「……ったく……////」
「なら今度は違うキスをすればいい。違うかしら」
「……へ?」
西宮はにじりと東堂に詰め寄る。
彼女の両頬に手を置き、顔の前へと固定する。
「私もあなたが好き」
「…………っ」
じっと見つめたまま、不意に愛を囁く。東堂は心臓がばくんと高鳴るのを感じた。
「あなたの校則に違反する服装や髪の色、言動は思うところがあるけれど、でも、あなたの優しさはここでの生活の中で垣間見れたと思う」
吐息が唇にかかる。
鼻と鼻が触れ合った。
「あなたは不器用なりに優しいのね。そういうところ思い返してたら、ちょっと惹かれちゃったかも」
「……に、西宮……」
「まずはお友達から、のキス」
そう言って西宮は彼女に口づけをした。
レズセ部屋の重いドアが開く。
外には白衣を着た女性がひとり立っていた。
「コングラッチュレーション! 被験体のおふたり、お疲れ様〜!」
「???」
東堂と西宮は揃って首を傾げた。
「いや〜すまないね突然拉致ってこんな部屋に閉じ込めて。でも謝礼は出るから安心して?」
「お、お前かアタシらを妙な部屋に閉じ込めたのは……!」
「ノー!ノー! 正確に言えば君等を拉致ったのはMEの助手! でも貴重なデータが取れたよ〜MEは大満足!」
「くっ……アタシらのヤるとこ見て何が貴重なデータだ……!////」
怒りに震える東堂をよそに、西宮が淡々と疑問を投げかける。
「貴重なデータとは?」
「フッフッフ、よくぞ聞いてくれました。それはずばり、百合における恋愛にのみ発生する摩訶不思議で愛に満ちたエネルギー……その名もユリネルギーの実証でーす!」
「ハァ……?」
「おおっと馬鹿にしちゃいけないよ? 女の子に恋する女の子は文字通り、魔法使いにもなれちゃうんだから☆」
「……興味深いですねそれ」
「バッカバカしい! いくぞ西宮!」
「あっ……」
ひとり盛り上がる研究員らしき女性をおいて東堂は歩き出す。
西宮の手を取ってーー。
続編があるかもしれません。