喫茶店をやっているという嫁(仮)の家に転がり込む
(これ出会って1日目なんだよなー)
「ふぁーいらっしゃーい。どうぞーゆっくりしてってー」
「あ、おかあさん彼は客じゃないわよ。旦那よ」
「旦那でもありません。一緒にパーティを組ませて頂く事になったフェニア・ジミニです」
ギルドに半ば無理矢理パーティを組まされた後に、家をどうしているか聞かれて宿で1人暮らしをしていると言ったら、連れて来られたのは喫茶店をしているというアシリアの実家であった。
おっとりとした気の抜ける声で出迎えてくれたのは彼女の実母である「イシュア・ミリス」であった。あらあらと興味深そうに俺を見る。
「どうもどうも初めまして母のイシュアですー。いやー嬉しいなー娘が人を連れて来るなんて」
「よろしくお願いします。ところで人を連れて来るが嬉しいって……」
「いつも帰って来る度にギルドの人に怒られたーとか泣き言ばっかりだからねー」
「アシリアお前……」
チラリと横目に見るとあははと苦笑いしていた。前科があんだけあれば無理もないと思っているとイシュアから言葉が続く。
「久々に上機嫌な娘を見れて嬉しいわ。こんな子だけど顔はいいから今後も付き合ってあげてね」
「は……はぁ」
俺は男性なのにそれでいいのか。どんだけハブられてるんだアシリア。強化魔法と言う名の即死魔法使えば当然か。
「いやーホントこのまま冒険者続けて婚期逃しそうで心配だったのよー」
「え?アシリアお前何歳なの?」
「ん?22だけど?」
すんなり答える。この世界では20歳で旦那がいるのも特に珍しくないのである。なにせ魔物が普通に居る世界なのだ。子孫を残すのも勿論だが守ってくれる男性が居るだけで娘の家族も安心出来るというモノであるらしい。強い冒険者なら尚更。いや俺クソザコですよ?
「22でその服って……挑発的じゃありませんこと?」
「これ動きやすい服なのよ。魔法で胸も固定されて重さも感じないですし」
「さいですかー」
特に恥じらう事も無くドヤ顔である。かわいい。
「このまま立ち話も何だし部屋に入りましょ?宿に置いてた荷物も移してもいいよね?」
「あらあらここに泊まるの?いえ住むのね。部屋も空いてるし構わないわよー」
どうやら母娘共に逃す気はゼロの様だ。顔はいいのにホントどんだけ人気無いんだアシリア。
「フェニアくんのご両親に許可は取ってあるのかしら?」
「あ、両親は既にいないです」
「あらあらごめんなさいね。大変だったでしょう」
「いえ遺産もありましたし。ですがいつ尽きるか分からないので……」
「じゃあ尚の事ウチに住みなさいな。子供の1人暮らしなんて大人としてほっとけないもの」
頭を優しく撫でられる。ここまで言われて遠慮する方が逆に失礼だろう。
「じゃあお願いします」
「……ッシ!」
アシリアがガッツポーズをしている。イシュアも今夜はお赤飯かしらーと言っている。
「あのっちなみにここの店主……父方は?急に大丈夫ですか?」
「あの人なら大丈夫よー。私と同じ側だから」
父親も婚期の心配をしているらしい。アシリアぇ……。
「帰ってきたら紹介するわよ。さーさー我が家に入った入った」
そうだけ言ってアシリアと共に喫茶店の奥に押し込まれる。アシリアに家の中を案内されて空き部屋の1つに荷を下ろす。とは言え宿を転々と出来る程度の荷物である。解くのにも手間はかからない。
「引っ越し終わり」
「お疲れ様。今日はありがとう。私の無茶に付き合って貰って」
魔導書と筋トレ道具が一緒に置いてある女っ気の無いアシリアの部屋で出されたお茶を飲んでゆっくりする。
「本当に久しぶりなんですよ。私の強化で無事な人」
「いやアレ実際は無事じゃないんだってば」
そう言ってスキルの欄を見せる。
「えーと肉片1つ残ってれば即復元するスキル……しかも一緒に纏っていた服も!?なにこれ私も欲しい」
「ステータス最低クラスになるぞ」
「じゃあいらない」
「おい」
ステータスでアシリアのやつを思い出す。
「アシリアはなんでSTRよりMINが高いんだよ。殴れば倒せるんだろ」
「私の限界値があそこだったのよ。どんなに鍛えても上がらなかったし」
冒険者といえど誰でも彼でも英雄級になれるワケではない。個人個人に能力値の限界がある。アシリアの場合STRが200で上限だったのだ。
「てか何でMINというより強化魔法あそこまで極めてるんだよ」
「強化魔法で上げればSTR上限なんて突破できるじゃない?自分には使えなくなったけど」
「そうだろうな」
この世界における強化魔法……特に力に関する強化魔法は使われない訳では無いが少し不憫である。何が不憫かって人間が耐えられる限界値が滅茶苦茶低いのだ。だってDEFの分しか耐えられないんだもの。
STRが100の人が居てDEFが50であったとしよう。これで強化魔法掛けて耐えられるのが50……つまり1.5倍しか耐えられないのだ。これ以上の強化は良くて筋肉痛、最悪が死である。マスタークラスだろうとそれは変わらない。
この細かい調整の方が重要なのにアシリアは倍率ばかり上げていったのだ。しかも細かい調整に必要なINTが最低クラスなのだ。
アシリアの最低倍率の20倍なんてモノは人に使う物ではない。
「なんでMINばっかりそんな上がってるんですかね?」
「人に使えない以上モンスターにでも使わないとレベルアップなんて出来ないでしょ?」
「おう」
「でそのモンスターが強化掛かりにくいじゃない?」
「おう」
「強化掛けるために必然的にMIN上げる必要があるじゃない?」
「普通モンスターに強化なんて掛けないけどな」
「それで掛かる相手に強化の倍率上げると弾けるじゃない?」
「おう」
「倒した扱いになるじゃない?」
「おう」
「ステータスが上がるわ」
「……おう」
「途中で上がらなくなるからより強いモンスターに掛けていくじゃない?」
「その理屈はおかしい」
嬉々とした目で言うアシリア。こんな脳筋聞いた事無いぞ。なんだ強化魔法で魔物倒すって。いや言葉だけならおかしい事は無い。使い方が致命的に間違ってるだけだ。
「なんで限界値がそっちに全振りなんだよ……」
アシリアが強化魔法を使い始めたのが17歳だと言う。生涯を掛けて到達すると言われているマスタークラスを5年で到達した天才であり天災であり努力の方向音痴であった。
だが扱いは見習いである。やらかしすぎてたしギルドからも人からも認められて無いからね!是非もないネ!
「それでアシリアさん?今後細かい調整をする事は?」
「フェニアが耐えられるならする必要無いでしょ?」
駄目だこの子。早く何とかしないと。がっ……!ダメっ……!遅すぎたんだ。
その後はお互いの過去の話をしたりして彼女の父親が帰って来るのを待つのであった……なお途中で。
「子供は何人欲しいかしら?」
「やめろォ!」