団長の正体Ⅱ
私は母が眠るのを見届けてから、父と団長さん達に提供する料理の下準備をするために厨房にいた。
「お父さんは団長さん達がどういう人達か知ってるの?」
父は野菜の皮むきを中断して口を開いた。
「逆に知らないのか?うちに来る連中がよく話してるだろう」
父は心底驚いたようである。
「お客さんのお話に聞き耳を立てたら悪いと思って、意識しないように意識してたから...」
「うちの娘は良い子に育った、のか?」
父はハァと一息ついて続けた。
「お前もギルドは知ってるよな?――」
流石に知っている。ギルドは通称『何でも屋』と呼ばれおり、報酬さえ払えば大抵のことはやってくれる組織のことだ。ただ、利用するのは裕福な人達が多いのため、平民の私達には縁遠いものである。
「――あいつらは王都筆頭ギルド『双銀』の団員だよ」
これには驚いた。『双銀』という名称はよく耳にする言葉だったから。
曰く、彼らはどんなに金を積んでも動かない。ただ、彼らの矜持に従うのなら串焼き一本でも依頼を受けてくれる誇り高い集団。
曰く、彼らを敵に回してはいけない。回したが最後、骨一つ残らない。
曰く、彼らは美男美女の集団である。目の保養は程々に。
どこまで本当か分からないが、様々な憶測が飛び交う程に民衆から人気がある。
「ってことは団長さんって...」
「その『双銀』の団長さ。俺も今まで半信半疑だったがな――」
団長さんは想像以上に凄い人のようだ。
「――やはり、見る目が変わったか?」
確かに凄い人だとは思う。『ケプラ草』みたいな貴重なものでさえ難なく手に入れてしまうくらいだ。でも...
「確かに団長さん達が本当はすごい人たちだって知って驚いてる。でも、私の知っている普段の団長さんやメルさんが突然変わるわけじゃないから大丈夫」
父はその言葉を聞いて納得したのか笑顔になった。
「がはははっ、流石俺とユウの娘だっ!」
私も父の笑い声につられて笑ってしまった。