表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界論破! ~魔法も奇跡も認めませんっ~  作者: 南野 雪花
第9章 ~真意と打算と~
84/102

4


 崩壊してゆく不死の王。

 断末魔すら残すことなく。

 斬りあげた北斗が身体を半回転させて剣の勢いを殺す。

 同時に着地するナナ。

 交わされる笑み。

 左の手のひらを、ばしんとぶつける。

 絶妙のコンビネーションによって、ついに不死の王を滅ぼした。

「なんとか倒したな」

 薄く笑ったセラフィンが、蹴り飛ばされた不死の王の杖に視線を投げた。

 握りしめていた右手は土塊(つちくれ)と化し、わだかまっている。

「アルベルト・ロスカンドロス、か」

 近づく。

「触っちゃダメだよ。セラさん。どんな呪いがかかっているか、知れたもんじゃないからね」

 警告するティアロット。

 齢五百年を数えるエルフに対して余計なことを、と思わなくもないが、ちょっとした油断から再逆転、というのは叙事詩(サーガ)でも現実生活でも掃いて捨てるほどある話だ。

「判っている。心配性だな。ティアロットは」

「知人だったんでしょ? そりゃ心配くらいするよ」

 肩をすくめてみせる。

 彼女や北斗、ナナにとっては単なる敵だ。

 しかし、セラフィンには古い知己である。

 虚心でいられるはずもない。

「とはいえ、そのへんに放置しとくってのもまずいんじゃないのー?」

 へたり込んでいるティアロットに肩を貸して立たせ、ナナが問いかける。

「そりゃそうだけど、そのへんの処置は後回しで良いんじゃないかと思うよ。他にもやることがあるだろ。総督さん」

 呆れたような顔で北斗を見たりして。

「む? まだなんかあんのかよ」

「戦勝宣言。総督さんの声をみんな待ってるんじゃないのかい?」

「あ」

 その通りである。

 不死の王が滅びたことで、おそらくアンデッドモンスターたちも消滅したことだろう。

 勝利はおのずと味方に伝わっているだろうが、だからといって戦勝の宣言をしなくて良いという話にはならない。

 間抜けな総督である。

 ぽりぽりと頭を掻きながら、イアリングに触れる。

「北斗より全軍および本営。不死の王を撃破した。繰り返す。不死の王を撃破した! 俺らの勝ちだ!! 以上(オーバー)!!」

 一拍の時差を置いて、風話装置から耳が痛くなるほどの大歓声がとどろいた。




 ナウス城。

 戦勝報告を受けたアルテミシアとアリーシアが、無言のまま右手をぶつけた。

 ぱんと小気味のいい音が響く。

「やりましたわね。シアちゃん」

「当然の帰結よ。シアちゃん」

 (うそぶ)きつつも、救世の女王(セイビアクイーン)の顔には安堵の表情が浮かんでいた。

 必勝を期して編成した軍であるが、誰しも勝つつもりで策を立てるもの。

 勝ちと負けが存在するのは、半数がどこかで計算違いをしてしまうからである。

「戦勝のボーナスをはずまないといけませんわね」

「それもあるけど、戦死者遺族への補償が先よ。さすがにゼロで勝てるわけがないもの」

「そうですわね」

 頷く聖賢の姫君(セージプリンセス)

 その瞳に悲しみは浮かんでいない。

 戦う以上、犠牲が出るのは当然だという割り切りもある。

 彼女自身が、兄や重臣たちを殺して男爵位についたという事情もある。

 聖賢などとおだてられているが、血塗られた道を歩んでいることは百も承知だ。

 いまさら驚きも嘆きもしない。

 やがて、損害報告の第一報がもたらされ、ふたりの君主は両軍の死者が四百名程度だったと知る。

 青の軍もアトルワ軍も、二百ずつを失ったような格好だ。

 絶対数においては同じだが、比率としては大きく異なる。

 ルーンは常備軍として四万もの兵力を抱えているのだ。同じ二百でも、アトルワ全軍五千のうちの二百とは比べものにならない。

「再建の苦労が思いやられますわ……」

 人間は器械の部品ではないので、失ってしまうとその穴は簡単には埋められない。後進を育成するのだって、時間と金がかかる。

 けっこう頭の痛い問題なのである。

「うちから少し出す? 人とお金」

 絶妙なタイミングで救いの手を差しのべてくれる女王陛下。

 ぜひ、と、飛びつきたいのをぐっとアリーシアがこらえた。

 本当にこの人は、困っているときに何気なく助けてくれる。

 優しげに。

 しかしそこにあるのは善意ではない。百パーセント、掛け値なしに打算なのである。

 親切そうな、友達を思っているような表情と口調にほだされたら、どんな借りを作ってしまうか、知れたものではない。

「大丈夫ですわ。この程度のことで大ルーンの手を煩わせるわけにはいきませんもの。保障も補充も、アトルワで行えます」

「遠慮しなくていいのに」

 婉然と微笑むアルテミシアであった。

 あるいはそれは、女神というより千年の時を生きた(フクロウ)のような危険さである。




「結局、なんで不死の王はいまさらになって現れたんだろうな」

 北斗が不意に口にした。

 一応の後処理を終え、ナウスへの帰途である。

 激戦から、一昼夜が経過していた。

 きょとんとするのはナナだ。

 相棒(パートナー)の質問の意図が、よく判らなかった。

 判ったのは軍師の方である。

「ルーンへの恨みつらみで行動していたなら、どうして三百年も待ってから侵攻したのか、という趣旨の問いかい? 総督さん」

「んーまあ、そういうことになんのかな?」

 歩きながら首をかしげる。

 ダメ男である。

 何が知りたいのか判らないのに訊くなという話だ。

 ティアロットは怒らなかった。

 総督が首をかしげるのは、ある意味で当然だったから。

 不死の王の侵攻には、おかしな点がいくつも存在する。

 北斗が言ったように、いまさらになってというのももちろんあるが、それ以外にも腑に落ちない点は多い。

 たとえば、どうしてコーヴを目指して(・・・・)いたのか、とか。

「魔導を極めた大魔法使いだよ。ルーンを滅ぼしたいなら、わざわざ辺境からゆっくり攻め上がってくる必要なんかないさ。こっそりとコーヴに忍び込んで、それから大暴れすればいい」

 歌うように告げるティアロット。

 あまねく人間に等しく死を、なんて(うた)っていたが、あんなものは嘘だ。

 これまで不死の王が出現したときも、すべて辺境地域で、コーヴを目指して侵攻している。

「あたしはいままでそれを偶然だと思ってたんだ。阿呆の智恵は後から出るってやつだね。まさに」

 そんな偶然なんかない。

 ルーンの辺境は、隣国の辺境とイコールだ。

 コーヴを目指す確率と、隣国の王都を目指す確率は同じはずである。

 一度目はまあ偶然で片づけることが可能だろう。だが二度目は? 三度目は?

 大ルーンの王都、魔術協会世界本部(世界塔)の所在地、そのような単語は不死の王にとって無意味だし、そもそもそこに用があるなら、前述の通り辺境から軍を率いて攻め上る必要はない。

 二重三重に意味不明なのである。

「理由みたいなものがみえたのは、セラさんの話を聴いてからだよ」

「私の?」

「うん。追放大魔法使い(ウィザード)アルベルト・ロスカンドロス。彼はルーンを憎んでいたのかな?」

「だろうな。理想の結実しなかった国。尊敬する師の理想を裏切り、踏みにじった国だ」

 セラフィンが歎息する。

 三百年憎み続けたとすれば、その執念たるやいかほどのものか。

 知己なればこそ、陰鬱たる気持ちになってしまう。

 考えてはいけないことだが、アルベルトを救う方法はなかったのか、と考えてしまうのだ。

「違うと思うよ。だったらこんなに時間をかけたりしない」

 前だけを向いて、魔女の唇が言葉を紡ぎ出してゆく。

 白く染まったままの髪が、さらさらと風にそよいだ。

「彼はね、ルーンを滅ぼしたかったんじゃない。ルーンの脅威であり続けたかったんだよ」

 そう考えれば筋が通る。

 中途半端な進軍ルートも、不定期に現れる不死の王も。

「国でも組織でもいいけどさ。集団が団結するには必要なものがあるんだ」

「……敵。昔、オリーが言っていたことがある。倒し得ない敵があるから、人は心をひとつに戦えると」

 ぽつりぽつりと、セラフィンが言った。

「建国王がいったのか。だったらもっと判りやすいね。彼は、師の言葉に忠実だったってことさ」

 ルーンの民を団結させるため、彼らを腐らせないため、最大の敵であり続ける。

 事実として、多くの問題を抱えつつも、ルーン王国は三百年の長きに渡って佇立し続けてきた。

「アルベルト。君は馬鹿だな。あんな姿になってまで」

 深緑の風使い(シュトルムウインド)の呟いた言葉は、誰かの耳を射程に捉えるには小さすぎたし、頬を伝った雫は前だけを向いて歩く仲間たちには見えなかった。

 少なくとも、生ある者には。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ