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幼女、亜人を警戒する

 夕飯を食べながらカマラ捜索の為の意見を交わす事にしたのだが、私はそれよりも先程の住民の会話が気になっていた。


「亜人の子供かぁ」

「気になりますか?」


 多少…いや、もの凄く気になる。急に耳にする様になった亜人という言葉。何かカマラも亜人絡みじゃないかと疑ってしまうのだが


「亜人の子供ってコボルトと思う?」

「可能性は高いかと。コボルトは亜人の中では弱い部類に入りますので…ワーウルフの子供を拐うには高いリスクが有りますが、コボルトならば報復に来ても騎士団なら比較的楽に撃退出来るでしょう」

「なるほどね…」


 いくら王族の為だからって、亜人の子供を拐っても面倒な事にしかならないと思うが…姫様とやらが我が侭娘で無理を言った可能性もある


「亜人なんて狩りの対象とでも思ってるんじゃない?」

「…一部、そういった人間がいるのも事実です」

「悪魔にもひどい事する人達いますもんね!」


 亜人に対する扱いに不愉快さを感じる。普通の犬は良くて、二足歩行する犬は敵と…人に害なす相手なら仕方ないが、一方的に迫害してるっぽいんだよなー


「とか考えてる私は人としておかしいのかもね」

「いえ…素晴らしいお考えだと思います」

「そうです!」


 不愉快だからと言って私が何かする訳ではないけど。そういう亜人救済とかは英雄の仕事だ。




「話変わるけど、王都のパスタって美味しいわね」


 頼んだのはアサリのパスタだが、ソースにもアサリの出汁を使ってるようだ。クリーミーなソースなのでパスタによく絡む


「料理の参考になります」

「美味しい物ばかりたべてたらひもじい生活に戻れないです…」

「ひもじい何て使ってるからイモ娘なんて言われるのよ」


 会った当初はガリガリだったし、日常的にひもじいひもじい言ってたのかもしれない

 里の長の僅かな差し入れじゃ当然足らず、いよいよ空腹の余り雑草に手をだすマオ…


「……もっと食べなさい」

「何で哀れんでる目でわたしを見るんです?おかわりは嬉しいですけど」


 安心して欲しい、私達と共にする以上はほぼ安全、快適でグルメな旅を約束しよう。全く資金稼ぎしてないから一年もたない気がするけど


「…流石に薬草でも採りに行きましょうか、貧困になるのは嫌」


 台無しになったゴスロリ服を買い直すのに結構な金額がとんでいったのだ。戦闘する度に服を買い直す事になったらとんでもない金額を毎戦支払わなければいけない…私が戦わなきゃいいんだけど


 カマラ捜索の合間に多少は稼いでおこうと、午前中は薬草採りに行く事にした



☆☆☆☆☆☆



 次の日に早速薬草採りに行ったあと、お姉さんの家に向かう。

 ちなみに近場にある安い薬草なので、宿屋一泊分にしかならなかった…0よりはマシだけど



 お姉さんの方も収穫はなかった様で


『流石に1日でドワーフの娘さんを知ってる人に会える展開なんて早々起きないよ』


 との事だった。困った時の奇跡頼みでもすればいいんだけど…お姉さんも手伝ってくれてるし止めておこう。切羽詰まったら使うけど


 肝心のカマラは切羽詰まってそうだけど、無断外泊して村の仲間を困らせたんだし反省してもらおう




 裏通りから表通りに出ると、白い鎧を着た20人ほどの集団が見えた。間違いなく騎士団だ


「騎士団が何処かに行くみたいね」

「武装してますので、魔物討伐にでも行くのでしょう」


 騎士団は滅多な事じゃ動かないハズだが…何かあったのやら


「騎士団が出るという事は厄介な魔物が出た可能性もありますね」

「国内で厄介な魔物ね…」


 見た感じ若い騎士が多そうだ。たぶん実戦訓練がてら討伐に行くんじゃないか?ならば危険な魔物が出た訳ではなさそうだ。


「新人の訓練かもね」

「そうかもしれません」


 騎士団なんか私達には関係ないので気にせず遅い昼食に向かった


★★★★★★★★★★



 王都に来て早くも6日が過ぎた。観光したり薬草採取したりカマラ探したりと、なかなかの忙しさだった。観光が5割を占めてるけど


 この6日の間に騎士団が何処かへ行ったのが3回。ちと多すぎないか?最初の一団がまだ戻って来てないので別の部隊が王都から出向くはめになっているみたいだが…


「怪しい何てもんじゃないわ」

「確かに異常ですね」

「な、何か問題でも…?」


 問題有るだろう…騎士団がホイホイ王都から出ていったら守備が薄くなるに決まっている。


 最初の一団は20人程度だったのに、その後の隊は約50人編成だった…騎士団が全部で何人居るか知らないが、こうしょっちゅう出て行かれちゃマズイとしか思えない


「何もなきゃいいけど…」


………


……





「ドワーフの娘さんを知ってる人居たよ」

「ほんと?」


 ついにカマラの情報を入手できるようだ。お姉さん任せにして良かった。


「早速教えてちょうだい」

「…それがね」


 困った顔をするお姉さん。すでに死んでますとか言わないだろうな…

 それならもっと言いづらい雰囲気出してるハズだし、生きてはいると思っていい





「たぶん、捕まって城の牢屋にいるんじゃないかって…」


 カマラは一体何をしたんだ…


☆☆☆☆☆☆


「牢屋に居るたってねぇ…」


 面会しようにも面倒な手続きが必要だろうし…もしかしたら面会すら出来ないかもしれない。


 目撃者情報によると、コボルト族と思われる亜人を騎士が連行中している際、突然カマラがハンマーでコボルト族に襲いかかるが、あっけなくガードされた上に襲撃された拍子に焦った騎士の隙をついて逃走したらしい


 カマラが襲撃したのはまず間違いなく殺人を犯したという亜人だと思う。

 捕まった理由も亜人を逃がしてしまった事が原因だろう


 殺人に使われたとしか聞いてなかったから、亜人の仕業とは驚いた



「聞けばその日はコボルトの処刑日だったみたいだし、カマラが王都に入り浸っていたのはコボルトが牢屋を出て町中にある処刑場へ移動する際に襲うため…って所かな?」

「お母さんの仰る通りでしょう…実力は不明ですが、コボルト族がカマラさんの一撃を防いだとは驚きです」


 確かに…実はカマラの実力が大した事なかった…という事も考えられる。

 だがあの重そうなハンマーを避けるでなく防いだのだからコボルトが予想以上に強かったんだろうな


「ダメ元で面会しに行ってみましょう」

「「はい」」



………



 という訳で城まで来たが、遠い…そしてデカイ。いくらかかってるんだか…

 城の周辺は堀になっており、入口までは橋を渡って行く事になる


「緊張します…」

「別に王族に会うわけじゃないんだから」

「こ、こんな大きい所に入るってだけで緊張しませんかっ!?」


 まだ入れるか分からないが…こんだけ緩い国なんだし、何かいけそうな気がしてきた






 結果から言えば城に入れた。挙動不審なマオを怪しまれたが、身分証という名のギルドカードのお陰で大丈夫だった


 城と言っても城内ではなく、牢屋があるのは敷地内の隅らしい。少し残念だが、城の中を見たって大して面白くなさそうだからいいか



 騎士の一人に案内されて地下にある牢屋に来たが、妙に明るいし綺麗な場所だ。

 死刑囚ならもっと汚ならしい場所に入れられそうだし、ここは軽犯罪者用なのかも


「こちらにカマラ殿がいらっしゃいます」

「ありがとう」


 おかしな真似はしない様に、と釘をさして騎士は入口に戻っていった。

 ついにカマラと再会し、ドワーフ達との約束事を果たせると思うと気が楽になる


 ドアを開け鉄格子越しに中を見る。ダルそうにベッドに寝そべってる小さい女性…確かにあの時に見たカマラがそこに居た


「お久しぶりね」

「…んぇ?…誰、だっけ?いや、何か見覚えあるような無いような…」

「ほんの僅かな時間しか会ってないし、覚えてなくても無理ないわ、こっちは名前すら言ってないしね」


 つまらなそうにしているが、顔色は悪くない。装備品でお世話になってるドワーフ族だし無下には出来ないのかもしれない



「貴女に伝言よ、さっさと村に帰ってきなさいって事だけど…すぐには無理そうね」

「あはは…面目ない…」


 拘留期間はまだ不明との事だが、そう長くない牢屋生活になると思う。


 今はそれよりも亜人を襲撃した話が聞きたい。コボルトが話に聞いてる様な雑魚とは思えない…


「貴女が亜人を襲撃した時の事を教えてくれる?」

「あー…それねぇ」


 何とも微妙な表情のカマラ。

 困惑した雰囲気を出しながら当時の様子を語ってくれた。




 殺人犯が牢屋に居ることは知っていたので、死刑執行日を待ち自分の武器を汚してくれた相手をぶん殴る事を決意したカマラ、予想していた通りその為に王都に通っていたようだ


 そしてカマラが帰って来なかったというあの日にコボルトが処刑される予定だった。


 カマラは殺すつもりはなかったが、骨を砕くくらいの力は込めた一撃だったと言っている…それは当たり所が悪ければ死んでるんじゃないか?

 しかしコボルトは手に枷をしたままハンマーを受けきったという…その時、騎士には聞こえない程度の小声で会話を交わしたみたいなので、覚えてる範囲で話してもらった



『よくも、アタシが打った武器で殺人なんて犯してくれたね』

『ドワーフ族、か?』

『そう、アタシの武器をゲスな使い方をしたお前を許さないっ』

『…どう聞いたか知らんが我々は人間共に襲われたから迎撃したまで、武器を奪って殺して何が悪い?お前達も我らを亜人などと蔑視する種族なのか?亜人は殺されて当然だから抵抗するなと言うのか?』

『は?…いや』

『結局…子供を人質にとられてこの様だがな』

『その…あれー?』


 混乱しているカマラに騎士が注意しようとコボルトから気を逸らした時に、コボルトが鎖を持ってる騎士の手を蹴りあげ逃走したらしい


 騎士とはいえ、たった一人で連行するとかどんだけ亜人を嘗めてるんだと思う。



「いやぁ、予想外の話をされたら思考が止まっちゃったわ」

「子供を人質に…ね」


 この前聞いた、姫に献上されたという亜人はこの時の子供かも。

 献上したと言う事は貴族の誰かが狙ったか、前に考えた通り姫自身が亜人の子供を連れて来るよう我が侭言ってギルドに依頼を出したとかそんな感じか



「カマラさん、先程仰ったコボルトとの会話はありのままを再現したのですか?」

「そうだけど?」


 ユキが訝しげな表情でカマラに確認している。何かおかしな所でもあったっけ?


「気になる事があるなら言いなさい、私にはおかしな点が分からないわ」

「はい。お母さんは亜人…コボルトについて詳しく学んでないので気付かないでしょうが、カマラさんと会話してる時点で不自然です」

「…続きを」

「亜人は人間と違って学校に通う事もなければ本を読むこともしません。もちろん親が子に勉学を教える事もないです。従って知能は魔物と大差ない、そう認識されていました」


 …つまり、亜人が会話出来るくらいまでの知能を得たと、そういう事か?


「何でまた急に…」

「急ではなく、数年…または十数年に渡って教育されてきたのではないでしょうか?」


 どこのどいつがコボルトに知恵を与えたんだ?まさか亜人全体の知能が上昇してたり…



「ちょっと案内してくれた騎士と話しましょうか、騎士団が何処に行ったか気になるわ」

「はい」

「わたしは話についていけないです…」


 マオの頭は亜人以下かもしれないなぁ…



☆☆☆☆☆☆



 カマラにお勤め頑張ってと言って別れたあと、入口で待機してる騎士に早速質問した。


「騎士団なら国の外れにある村に行ったよ、亜人に襲撃されたから騎士団に要請がきてね」

「冒険者に依頼じゃいけないの?」

「亜人も結構な集団だからね、腕の良い冒険者を各ギルドからそれなりの数集めてたら間に合わないかもしれないし」


 騎士なら馬があるから、遠い町でもギリギリ間に合うと…


「…そんな遠い村なら、要請がここに届くまでにやられてるんじゃない?」

「大丈夫だと思うよ、最初は余裕なのか数体で襲ってくるんだよ。で、騎士団が来たら慌てて仲間を呼ぶんだ。流石に最初の数体程度なら村の男衆と冒険者が居れば何とかなるよ」


 最近はずっとこんな調子なんだ、と語る騎士。

 亜人の行動に全く疑問を持っていない…今まで続いた人間優位な状態のせいで完全に嘗めきっている


 すでに今までの木の棒を振り回してるような亜人ではないのに…



「そうそう、また要請があってね…今度はワーウルフが出たらしいから200人編成の大所帯なんだ」

「…大丈夫なの?」

「ワーウルフとはいえ、200人も居れば大丈夫だよ」


 心配なのはそれではないのだが…亜人は間違いなく王都の戦力を削いでいる

 近い内に小競り合いじゃ済まない規模の戦いが起こるかも…というか起きる


 とりあえず宿屋に戻って考えをまとめる事にしよう



★★★★★★★★★★



「という事で面倒な事に巻き込まれる前に逃げるかを会議をします」

「まずその面倒なことを教えてほしいです」


 今まで何を聞いていたのだマオは…


「面倒事なんて亜人の襲撃しかないでしょうに」

「…ここにですか?こんなに人いっぱい居るのに無茶ですよ」

「だから騎士団をあちこちに派遣させて戦力を分断してるんじゃない」


 マオに説明してる途中だが…はい、とユキが手を挙げた。学校じゃないんだけど


「はいユキちゃん」

「ユキちゃっ!?……いえ、お母さんが亜人の立場ならどう行動しますか?」


 うむ、簡単だ


「何もしないわ」

「…質問を変えますね、お母さんなら今の亜人の立場からこの国に勝つためにはどう行動しますか?」


 それは正直難しい。僅かでも勝てる見込みがあるなら…


「まず数が違いすぎるから他の亜人と手を組むわね、なるべく多くの。あと出来れば強い亜人で」

「…その後はどうしますか?」

「騎士団を分散させ続けて、頃合いになったらまずは装備品が欲しいからドワーフの村から奪うわ、納期が近いって言ってたし今ならそれなりの数が揃ってるでしょ…」


 木の棒で戦いたくはない…人間は魔法だって使ってくるし


「短期決戦したいから、夜に装備を奪って深夜に王都に攻め込む」


 寝静まってる時に一気に攻めればまだ可能性はある。


「今のお母さんの考えが、亜人達の考えてる作戦かもしれません」

「私が亜人並の知能って事?心外だわ」

「いいえ、お母さんは亜人を侮らずに考えてますし、弱者の視点で見る事もできますから」


 いや…確かに弱いけどね…こう直球で言われると複雑な気持ちになる




「参考までに話しておきますが、ワーウルフは満月の夜により強力になります」


 何か嫌な事を言い出した。言いたい事は分かる、さっきワーウルフの群れの討伐に騎士団が出向いたと言っていた


「コボルトとワーウルフは手を組んでいる…いえ、それ以外の種族も荷担してる可能性が高い」

「何でです?」

「…他に亜人に知恵を与えた奴が居るハズよ」


 知性の欠片もない亜人を会話出来る程に成長させたんだから、厄介な相手と思う。

 亜人が本格的に攻めてき時に恐らく現れるとは思うが…


「ユキ、次の満月っていつ?」

「明後日です」


 すぐじゃないかっ!

 本当に私の考え通りになるなら、明後日の深夜に襲撃があるのだが…


 本当に来るか分からないし、相手の数も不明…この国の危機感の無さじゃどうしようもない。


 こんな国でも生まれ育った町はある、亜人騒動が一段落しないとおちおち旅が出来ない。

 どうやら国外に出るのはまだ先になりそうだ

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