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Lost19 ブレイダス防衛戦  作者: JHST
第三章 敗北と撤退
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⑬勝者はいずれか

「何だオセか。傷はもう大丈夫なのかよ」

 アモンが構えを解き、鎖を引きずりながら近付いてくるオセに言葉をかける。彼女はデルを横目に一瞥してからアモンの横で止まると、赤い鎖を大きく引っ張り、白銀の斧を吸い込むように手元に収めた。


「別にお前が気にする事じゃない………それに見てみろ。お前が一人の人間にかまけている間に、追撃の機会を失っているじゃないか」

 アモンはオセに言われて初めて周囲を見渡すと、騎士達の姿がなく、重装オーク達が追撃して良いのか分からず、その場で困った顔で待機していた。

「バルバトス、お前もだ。司令部から一度後退する指示が出た。人間に構っていないでさっさと戻るぞ」

「………シカタナイナ、リョウカイシタ」

 バルバトスが銀の車輪で地面を走りながら、オセ達に合流する。

 

 オセは二人が後退に理解した事で、小さく笑みを見せながらデルに声をかけてきた。

「久しぶりだな………会って早々で悪いが、我々はこれで失礼させてもらう」

「ま、そういう訳だ。決着はまた今度だな」

 アモンがまるで友人と別れるように、右手を軽く上げる。

 デルもこれ以上戦う理由はないと剣を納め、無言のまま構えを解いた。

「サラバダ」

 バルバトスの声を最後に、三人はオーク達を連れてその場を後にした。



 戦場に残されたデルは、汗ばんでいた茶色い前髪をたくし上げる。額から落ちる汗と乾いた口元の血液、さらに土の汚れが額で混ざり合ったが 、危機を乗り越え、生き残れた事に比べれば、左程気にするものではなかった。

「………何とか生き残れたな」

 これで王国騎士団の本隊はブレイダスの街まで後退する事になる。だがそれは街の住民にも、事情が露見する事を意味する。

 住民への説明や避難、今後の戦い等、考えるだけでも気が滅入りそうだった。


「何だ、蛮族共はどこに行った?」

 デルの背後からベルフォールの声が聞こえてくる。

 彼の声が小さい。デルは遠くから声をかけられたと思い、やや大きな声で返した。

「どこに行ったって………もう逃げてしまったよ」

 思考(うま)が合わない関係ではあるが、とにもかくにも互いに生き残った事には喜ぶべきだろう。 デルは、彼への言葉を考えながら振り返った。


 そしてすぐに言葉を失い、表情が固くなる。


 ベルフォールは数メートル程度近くで立っていた。しかし、白凰騎士団が誇る白い鎧は上から下へと無数の赤い線が流れ、兜は地面で砕けており、赤く染められた金髪は彼の顔を半分程隠している。

 足下に血だまりをつくり、剣を杖がわりにして立つ。ベルフォールは辛うじて生きていた。

「そうか………追い払う事ができたか。ふん、どうだ? 王国騎士団の力をもってすれば、蛮族など恐るに足らないのが分かっただろう」

 先程の会話は聞こえていなかったのだろう。攻撃が止んだ理由を、彼は自分達が追い払ったからだと本気で思い込んでいた。


「そうだな。撤退の必要等、なかったかもしれないな」

 デルは彼に近付きながら、話に合わせるように声をかけた。

「当然だ………お前はいつも―――」

 ベルフォールの膝から力が抜けていく。デルは崩れ落ちそうになる彼に手を伸ばし、瀕死の体を支えた。

「お前は立派な騎士だ。その誇り、見させてもらったぞ」

 融通が聞かず、偏見と理解し辛いこだわりをもった堅物な人間だったが、彼には彼なりの矜持があった。デルは意識を失ったベルフォールの横顔を見ながらそう受け止めた。


「………必ず生きて帰るぞ、ベルフォール」

 デルはベルフォールの腕を肩に通し、一歩ずつブレイダスの街へと進み始めた。

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