⑫ブレイダスの戦い -一進一退-
「流石に、しつこい」
デルが無意識に舌を鳴らす。
彼は何とか間合いを作ろうと、左右に後方にと何度も動いてみるが、その度にアモンが接近しては攻撃を過剰に加えてくる。
「はっ、一旦飛び込んじまえば、こっちのもんよ」
デルの正面に飛び込んでくるアモン。デルは外から中へと袈裟斬りに剣を振るが、アモンの左手がデルの剣を持つ柄を押さえ込み、彼の下顎を右の掌底で打ち抜いた。
「ぐっ!」
「先程の礼ってやつだ」
デルは不利な態勢から左手を自分の腰に回すと、即座に短剣の柄に指をかける。
「甘ぇ!」
アモンが右手をそのまま下へと払い、腰から引き抜いたデルの短剣を持つ手に裏拳を当てた。
短剣が地面に落下する。
「………なんの、まだまださ」
デルは左の踵で落ちた短剣の柄の先端を踏みつけた。
短剣は不規則に回転しながら二人の間を浮かび、アモンは顔を逸らす事で直撃を避ける。
だがそれを好機と見切ったデルが地面を蹴って跳び上がり、体を捻りながらアモンの体に両足の蹴りを叩き込んだ。
「………器用な奴め」
吹き飛ばされたアモンは地面に着地し、蹴られた胸の毛を払う。
ようやく作り出された間合い。
二人はお互いにその距離を縮めようとはせず、そのまま動きを止める。
デルは大きく息を吸い込み、呼吸を整える。そして周囲を見渡し、撤退している騎士達の様子を今一度確認する。既に白凰騎士団の姿は殆どなく、撤退した騎士達を追撃するべきか、アモンの後方で控えている重装オーク達が指示を待って首を左右に動かしていた。
「………そろそろ頃合いだな」
そもそも戦う事が目的ではない。デルにとって、前線が後退した今、ここにいる意味が消失する。
だがすんなりとこの場から逃げる事ができるのか。むしろ包囲される前に、目の前の敵を倒す事ができるのではないか。デルは選択を迫られる中、剣を握る力を強めた。
その時、デルとアモンの間に白銀の斧が通り過ぎた。
斧には赤い鎖が巻かれており、斧が通り過ぎた後を追いかけるように炎の道が出来上がる。
斧と鎖と炎。デルは以前戦ったバステトの武器を思い出した。
「アモン、時間切れだよ」
鎖の先。斧とは逆の方向では、白と黒のメイド服を着たネコの亜人が立っていた。黄色い体毛に茶色の斑点、かつでデルと戦った魔王軍77柱が一人、バステト四姉妹のオセであった。




