⑪ブレイダスの戦い -騎士と狼-
「………くそっ!」
ベルフォールは屈辱に耐えながらも、近くにいた騎士を呼びつけ、声を低くしながら後退の命令を下す。指示を受けた騎士は、敬礼を済ませると急ぎ周囲の騎士達に伝え、前線の敵に攻撃を加えつつ冷静に後退を始めた。
そしてベルフォールは、無言でその場で振り返り、銀色の魔物に剣を向ける。
「………ベルフォール?」
デルは目を大きくさせた。
「勘違いしないでいただきたいが、これは共闘ではない」
王国騎士団は決して負ける事はない。ベルフォールは自分に言い聞かせるようにもう一度言葉にする。「あの謎の筒には散々世話になっている。銀色の蛮族は私にやらせてもらおう」
彼は自分の周囲に風を纏わせると、単身バルバトスに向かっていった。
「分かった………」
相手には聞こえていないが、デルは小さな声で呟く。
そして白い鎧の背中を見届けると、目の前まで迫っていたアモンの下顎を、無言のまま容赦なく蹴り上げた。
「ぐっ!?」
大きな口から血を撒き散らし、思わず声を上げるアモン。
「さぁ、昨日の続きだ。今度は油断するんじゃないぞ」
デルの剣が太陽の光を浴びて反射する。
僅かに目を細めるアモン。
その瞬間、デルは相手の懐へと飛び込んでいた。
「こ、こいつ………速ぇ!」
アモンが反射的に右足を蹴り上げるが、空気を裂くだけに終わる。
その頃には、デルが地面を左右に一度ずつ蹴り、アモンの背後へと回り込んでいた。アモンもその動きに気付き、即座に振り向くが、そこで動きが止まった。
「ぐ、があぁぁぁ!」
アモンが口を大きく開けて声を上げ、背中に両手を回して苦しみ出した。
「反応の良さが命取りだったな」
「き、貴様ぁ!」
片方の頬を釣り上げて笑みを零すデルに対し、アモンは目を血走らせながら背中から一本の短剣を引き抜くと、それを地面に投げ捨てた。
「蛮族の人間風情が………ぶっ殺してやる」
「やれるものならやってみるといい」
互いに体を沈めるように低くしていく。
先に踏み出したのはアモンだった。彼は地面を砕く力で大地を踏ん張り、デルに飛びかかる。対するデルは、そのまま相手の動きと意図を読みながら両手で剣を掴み、そのまま真っすぐに振り下ろす。
衝突し合う赤黒い爪と白銀の剣。火花を散らし、二人の武器は反発するように逆の方向へと弾かれた。
そこから先は速さと手数の勝負へと移る。
アモンは両手の爪、さらには鎖で編まれた両足を攻撃に、時には防御の為の蹴りへと流れるように繋いでいく。デルも剣を片手に持ち替えての多方からの連撃、時折全身に設置した短剣を抜き、攻撃や牽制として出し惜しむ事なく放つ。
わずか数分の間に、二人は合わせて数十合を打ち合い続けるが、アモンは決してデルから離れようとせず、必要以上に間合いを詰め続けていた。




