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061 夢に向かって②

「大丈夫か? かなり震えているが」

「みんなすごいわね。わたしは無理、さっきから震えが止まらないの。燐は緊張しないの?」


「しないわけじゃないが。俺の場合は楽しみなんだよ。昔から俺が作ったものを妹や弟……兄貴もそうだけど120%に引き出すことが本当に嬉しくてな。

 俺だったら絶対無理なことを兄弟たちは皆、成し遂げてきた。今回もそう。きっと鈴華が想像以上のものを見せてくれるに違いない。だから俺はワクワクするんだ」


 鈴華の表情は曇ったままだった。


「わたしは無理よ。だって上手くいった試しがないもの……失敗ばかりのポンコツ令嬢。見た目だけの高級人形だわ」

「そんなことねぇよ。今日まで毎日ずっと頑張ってたじゃないか。大丈夫。俺も姫乃もそばにいる。困った時は頼ってくれ」

「燐……手を握って欲しいの」


 そんなことくらいならお安いご用だ。

 鈴華の震える両手をゆっくりと包み込む。

 やはり女の子の手は小さい。


「やっぱり燐の手は温かいわね。……すごく安心できる」


 アイドル衣装に身を包んだ鈴華に微笑まれるとやはり胸が熱くなってドキドキする。

 これくらいのことで元気になれるならいくらでもやってやるさ。


「燐、頭を撫でてもらっていいかしら。姫乃が言ってたわ。燐に頭を撫でてもらえるとすごく安らぐって」

「まぁそれぐらいなら」


 周囲の目があるから少し恥ずかしいが……。

 目を瞑り、ゆっくりと屈んだ鈴華の頭を撫でてあげる。

 しっとりした黒髪がたまらなく心地よい。姫乃と同じシャンプー使ってるんだっけ。二人とも髪質は完璧だ。


「うーん、やっぱ好きぃ」


 照れるからやめてくれ。でも直接的な行為は正直嬉しく思える。

 鈴華のような可愛らしさ外見の子なら尚更だろう。


「燐!」

「なんだよ。もういいか」

「最後にハグしてえ」


 鈴華は両手を広げてハグを求めようとした。

 さすがにそれは! と思い後ずさる。


「姫乃とはよくするくせに。わたしも家族って言ってくれたじゃない」

「それはそうだが……」


 この状況で抱きつくって意味ありすぎるだろ。

 誰もいない状況ならともかく……。


「燐、安心させて……」


 ちらりと姫乃の方を見る。姫乃も鈴華の様子に気づいたようだ。

 いつもなら鈴華をぴえんと泣かせるくらい皮肉るものだが振り返ってしまった。見なかったことにしたようだ。

 姫乃が見逃してくれるなら、今は鈴華に落ち着きを取り戻すことが先決。そこにあるのは家族だけの感情だ。


 俺は鈴華を落ち着かせるように抱きしめた。


「……ありがと燐」

「落ち着かせるんだぞ」


「燐音っちったら大胆!」

「これはクラスのみんなには見せられないね」


 他の連中にも見られていて恥ずかしい。

 もういいだろう。鈴華は身長が姫乃より高いので顔が近くなるんだよな。

 そんな可愛い顔を近づけるんじゃない。照れてしまう。


「最後にいい?」

「まだあるのか!」

「ほっぺでいいから……チューして」

「っ!?」


 さすがにそれはやりすぎではないか。


「姫乃からマウント取られるもん。燐くんは私にだけチューしてくれますって生意気な顔でさ」


 姫乃さんっ! できればそれは二人きりの内緒にして欲しかった。


「ほっぺならいいでしょ! さっきも言った通り……わたしだってチューしてほしいもん」

「……」

「チューしてくれたら震えが止まると思うから」


 いろいろ葛藤をしてしまうが俺達は家族という言葉で自分を説得する。

 ほっぺにチューくらいなんだ! 昔は双子達によくやったじゃないか。

 海外だったらありふれたことだし、照れる方が恥ずかしい。


「分かった。これが最後だからな」

「うん!」


 鈴華は顔を傾け、真っ白い頬を見せる。

 やっぱり恥ずかしさが勝ってしまい、俺は目を瞑りゆっくりと唇を鈴華に向けて動かした。


 ……だがそれがダメだった。

 唇に何か柔らかいものが触れ、それがほっぺでないと知ったのはすぐ後だった、

 柔らかい唇の感触に脳がばぐった気がした。


「っ!?」

「これで……姫乃より先にもらったものが出来たかな」


 意地悪く鈴華は笑う。

 慌てて姫乃の方を見ると姫乃はそっぽを向いたままだった。恐らく気づいてない……だろう。

 何てことをしてくれたんだ。


「おかげで震えが止まったわ、これならやれそう」

「……まったく!」

「燐、行こうっ! 今なら楽しく歌えそうよ!」


 前の演者の発表が終わり、いよいよ俺達の番となった。

 すでに俺達のバンドの演奏はすでに始まっていると言って良い。

 まずこのバンドの要である姫乃がドレス姿で舞台会場へ登場。

 そのあまりに可憐な容姿に観衆達は大いに湧く。


「本当にお姫様だ……」

「きれい」

「ふつくしい」


 おそらくこのままピアノを弾いているだけで十分に場は盛り上がるだろう。

 姫乃は舞台の奥に置かれたピアノに座って前奏を開始する。

 ここの時間は少し長めに取っていた。後半のメンバーが揃うと一番奥の姫乃の影が薄くなるからな。

 ま、目立たずお役目だけを終わらせればいい。本人はそれを望んでいる、


 前奏を長めに行い、そのまま楽器パートへと移る、

 吹奏楽部の平原さんと和彦の登場だ。音楽を盛り上げる大事な面々、このバンドではあまり目立たないが二人の存在がこの楽曲の完成に影響した。


 三人の演奏に連れられてパフォーマーである俺の登場だ。

 正直俺は表舞台に出る人物じゃないから最後まで出演を見合わせたが姫乃と鈴華に出ろと押し切られて、目立つパートまで作らせてしまった。


 舞台袖から出てきて、パフォーマンスを開始する。うわっ、めっちゃ客いるじゃん。

 演技はまだしも正直顔は隠したかったんだけどなぁ。


 鈴華が歌い出すまでの時間を精一杯のパフォーマンスで場を盛り上げた。

 そのすぐ後、歓声が大きくなる。アイドル衣装に身を包んだ鈴華が降りてきたんだ。


 黒姫の煌びやかな衣装に見せられて会場は大盛り上がり、姫乃のピアノと二人のトランペットの演奏、あとついでに俺のパフォーマンスの上、鈴華はマイクを掴んでシャイニングガールズのヒットソングを歌い始めた。


「歌うめぇ!」

「すっごっ! あの子って落ちこぼれって噂無かったっけ」

「これは推せるわ」


 アイドル、ヨルカを完コピしているためその完成度は非常に高い。

 連日、夜華が見ていたからな。鈴華は急成長していた。

 っと……間奏時は俺がパフォーマンスして場を繋がないとな。


 そのパーフォマンスの中にはフィギュアの振り付けを混ぜ込んでいる。

 遠くで今も練習している弟のためってのがある。ずっと調子を落としていると夜華が言っていたからな。

 会いに行ってやりたいのは山々だが。

 氷の上ではないため大したことはできないが朝也の見本となるため覚えたスピンやステップ、そして回転数を増やしたジャンプを披露した。

 そして観衆へ両手を広げてアピール。


「あのパフォーマーの人、かっこよくない? 誰、誰、どこのクラスの人」

「なんかアサに似てるよね! 私、あっちの人の方がいいかも」

「ダンスもキレッキレだし、上手だよねぇ、誰なんだろう」


 そのまま2曲が終了し、いよいよラスト1曲となった。

 あーしんど、やっぱ本番は違うなぁ。


「すっごく楽しい……。出て良かった」


 鈴華は表情は輝いていた。

 もう転校初日のような不気味に取り繕ったあの姿を見ることは無い。

 いつも姫乃にはまったく適わないって言ってたけど、今の姿はきっとそれ以上に輝いていると思うよ。


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