059 目に止まる
夜華のチェックのもとに俺達は演奏を行った
姫乃のピアノの伴奏から始まり、平原さんと和彦がトランペットの演奏を始める
「ふーん、いい音楽じゃない。お兄ちゃんが編曲してるんだから当然か。このレベルなら楽器は正直あっても無くても関係ないわね」
正面にふんぞり返って椅子に座る中学2年生。
なんであいつあんなに偉そうなんだ。
俺は今回パフォーマーとしてこのバンドに参加する。
こうやってやるのは久しぶりだな。昔は弟のプログラムや妹の振り付けの練習に付き添う形で練習をしてたっけ。
久しぶりにやって勘を取り戻さなきゃな。
さてパフォーマンスの内容もちゃんと考えてる。
音楽に合わせて体を動かし、メインボーカルを目立たせることが第一だ。
そしてこういうのは得意だ。
「お兄ちゃんが踊ってる……。やっぱり寂しいよぉぉ」
なんか妹が泣いてるが情緒不安定かな。
俺じゃなくてこれから歌う鈴華を見てほしいんだが。
「すぅぅぅーーー」
センターに立った鈴華がマイクを手に声を上げる
「〜〜〜〜♪」
この前カラオケ行った時より安定してる。
そういえば最近放課後ずっと練習してたっけ。鈴華にとってもこのバンドでの成果は重要なものなんだろう。
姫乃の評判を聞きつけた人達を鈴華の歌声で魅了する。名家片桐家によって人生を狂わされた彼女たちのリベンジの第一歩と言えるだろう。
ま、そんな大それた話になるかどうかはわからないけど。
「ふーん」
夜華は何だか椅子の肘受けにもたれかかって鈴華をずっと見ていた。
何だか機嫌が悪そうに見つめている。
そのまま1曲が終わった。
「どうだ? 結構上手くやれてると思うけど」
「学芸会だったら十分だと思うけど……」
「学芸会だよ。だったら問題ないよな」
「もう一回通しでやってくれない? 同じ曲でいいから」
何だろうか。正直俺の視点からでは鈴華は十分上手だし、文句ないはずなんだが。
一応プロの視点から修正できる所を見て欲しかっただけなんだ。
二回目が終わって……。
「もう一回」
三回目。
「もう一回」
四回目。
「もう一回」
「ぜーはー、ぜーはー! 殺す気かっ!」
「お兄ちゃんスタミナ落ちすぎ。昔はもうちょっとやれたじゃん」
最近は運動してなかったからなぁ。
してたのは姫乃に対するいたずらくらいだ。楽しさは圧倒的にこっちだったけど。
こっちは三曲踊ることしか想定してないんだ。吹奏楽部で慣れてる二人は当然余裕。姫乃もまだまだ問題ないようだ。
やはり体力的にしんどいのは俺と鈴華。
「燐、大丈夫?」
「鈴華はまじで体力あるんだな」
「ダンスしながらだから疲れるけどね。でも凄く楽しいの! ヨルカに見てもらいながらヨルカの曲とダンスを踊るのよ。たまらないわ!」
鈴華は本当に楽しそうに振る舞う.
「じゃあもう一回宜しくね。ほらっ、お兄ちゃんももう一回!
「や、やってやらぁ!」
それから俺の足腰が立たなくなるまで歌は続けられた。
「足がいてぇ……筋肉痛になるな」
痛めた足を癒しつつ、スタジオの外で休憩していた。
「マネージャーあのね」
夜華の声が聞こえる.声の感じ的にスマホでの通話か。足を引きずりながら俺は近づいた。
「例の件、全部キャンセルでいいわ。え? 違う違う。ママとは違う方向で芸能活動をするのは変わらないって。それでね。見つけたの原石を」
「夜華か?」
「お兄ちゃん。マネごめん、後で連絡するね。それじゃ」
夜華は慌てて通話を切ってしまった。今の俺は夜華の家族であってもアイドルのヨルカの身内ではない。近づくのは軽率だったな。
「最近ね。ママと喧嘩が絶えないの」
夜華はため息をつきながら声をかけてきた。
「ママはまだお兄ちゃんが戻ってくるって思い込んでる。ヨルカが言っても全然通じない。だからママに頼らず芸能活動しなきゃねって。ヨルカも大人になってる所見せてつけてやらないと」
「悪いな。おまえに苦労かけてしまってる」
「ママもヨルカも仕事でやってるわけでお兄ちゃんは無給でやってたでしょ。今、思えばやっぱりおかしかったよ。ママもシャイニングガールズのメンバーもヨルカたちがお兄ちゃん頼りだったことに気づいてないんだよ」
そういえば夜華単独での仕事は増えているがグループでの仕事は減っているように思う。母さんが制御できてないんだろうな。
昔と違って売れてあの子達も増長気味になっていた。夜華も同じ傾向だったが、あの一件で己を見つめ直したと聞いている。
「だからヨルカ頑張るから」
「……困ったら連絡してこい。俺は夜華と朝也の味方だからな」
「うん」
「それに母さんの目を覚ましてやらないといけないな」
「その時はママの栄光が終わりになるんだろうね。でも仕方ないよ.お兄ちゃんを犠牲にして得た栄光なんて」
まだまだ先にはなりそうだけど……決着のための道筋を今から作らないといけないかもな。
「あっ、明後日も練習あるんだよね。また顔出しに来るから」
「一回しか見ないんじゃなかったのか」
「そのつもりだったけど。ふふっ、いいモノ見つけちゃったから」





