046 高級人形 ※鈴華視点
わたし、片桐鈴華は恵まれて生まれてきたはずだった。
一時期は国の心臓と呼ばれた片桐家の正統な血を引く者。後継者候補の筆頭。
誰もがわたしの存在を重宝し、わたしもそうやって生きていく……そう思っていた。
だけど能力がそれに追いついていかなかった。
せいぜい人並み。だけど片桐家でそれが許されるはずもない。後継者として能力が足りてないなら婿養子を迎え入れることも考えないといけない。
だけどわたしの能力はそれすらも敬遠されるほどだった。
「どうしてこんなこともできないの!」
わたしの子供時代は地獄だった。
あらゆる習い事をさせられ、それが一定の水準に達しなければ毎日のように母様から叱責された。
片桐家の血を引くということだけでここまでいろんなことをしなければならないのか。その重みが分からなかったから毎日のように泣きはらしていた。
周りの目から見ても母の教育は異常だったと思う。
その理由を知ったのは割と後のことだったけど、片桐姫乃。あの子が母を狂わせた。
母様の妊娠初期、お父様の外国出張中の火遊びがきっかけで片桐家の血を引くものがもう一人生まれることになった。
この件が事実になった時、母様は出産が危ぶまれてしまうほど体調不良に陥ったらしい。故に父は片桐家の当主なのに一切母様には逆らえなくなってしまった。
そして母は父を毛嫌いしていまい、結局私以外に子を産むことはなかった。もし弟が生まれていたらわたしはもっと自由に育てられたかもしれない。
わたしが半分しか血のつながらない妹と話したのは5歳の頃だった。
父も母も使用人も用事で出かけていた頃、暇を持て余したわたしは本邸の中を探検をしていた。そこでわたしは出会ったのだ。
とても可愛らしく異国の血を宿した女の子。まばゆい金色の髪にブルーの瞳の女の子。まるで童話の中に出てくるお姫様のようでわたしはつい声をかけてしまった。
こんな可愛い子が妹だなんて嬉しい。わたしはその子の手を引っ張って本邸中を遊び回ったのだ。
それがこれから始まる地獄の始まりだということも知らず。
わたしがあの子と遊んだことを知られてると母様から叩かれて、今までにないくらいの叱責を受けた。
あの子は不義の子で偽物で片桐家を脅かす存在だと。二度と会いに行くなと言われた。あの子もまた別邸で隔離されるようになったという。
たまに母様に黙ってお父様が会いに行ってたようだったけど告げ口する気もなく、わたしは黙ってることを選択した。
それからお互い別の小学校に通ってからもあの子の話は嫌というほど聞かせることになる。
何年も会ってないのに不思議だよね。そう、全部お母様が伝えてくるの。
「偽物は点数で100点取るのにあなたはいつも赤点ばかり!」
「偽物はスポーツで結果を出すのにあなたは走ることもままならないの!」
「偽物は芸術で賞を取るのにあなたは何にもできないのね!」
なぜここまで母様はわたしにきつくするのだろう。ずっと疑問に思っていたけどある時それが分かった。
「何で私の子はあんなに無能なの……」
あの子とわたしは父親が同じ。だからあの子とわたしの才能の差は母親の格の差だとお母様は考えているようだ。
名家片桐家に嫁いだお母様はわたしを立派に育てようとしてくれる。
でも……無理だよ。わたしにはその期待に応えることができなかった。
名門の天ノ川女学院へ進学。
片桐家の令嬢ということで人は嫌でも集まった。
わたしには何の才能もなかったと思ってたけど見た目の才能だけは秀でたらしい。
小さな頃からパーティに頻繁出席させられたゆえに大衆の中でのお喋り自体はそんなに苦手ではなかった。
容姿と喋りで取り繕った中身のないわたし。最初は良かった。皆、それに騙されてくれたから。
でも時間が経つにつれて綻びがどうしても出てくる。
そもそもこの学院で満足に通えるほどわたしの能力は高くなかった。
「鈴華さんって見た目と家柄に騙されるけど……中身は何にもないですよね」
「そうよね。テストであんなに赤点取ってる人初めて見た。あれでも片桐家の本家の令嬢だもんね」
「先輩が言ってたんだけど……あの人みんなから【高級人形】って呼ばれてるみたい」
「ひっどっ! でもその通りだもんね」
中身のない外見だけの高級人形。影でわたしがそうやって言われ続けていることを知っていた。
そして嫌でも聞こえてくるのあの子の噂。
「片桐家って婚外子がいるらしいよ。お父様から聞いた。それがすっごい優秀らしくて、全国模試でトップクラスなんだって。片桐の名字だからみんなそっちが本物だって勘違いしたくらい」
「ええー。でも本当はそっちが本物じゃないの。いくらなんでも【高級人形】は無能すぎるでしょ!」
「アッハッハ、確かにぃ!」
あの子達はわたしが一緒にいるときは片桐家にこびるように声をかけてくるけど、これが現実だ。
だからわたしにはいつも一人だった。
お父様はお優しいけど当主ゆえに仕事が多く会えない日々が多い。お母様は自分の体面が大事で皆が言うような母親らしい所を見せてくれたことはない。
友人と呼べる人たちは皆片桐家と交流できる打算前提で中身はわたしを侮ってる人ばかり。
誰かわたしそのものを見てよ……。
わたしが学業が上手くいっていないことを理由に転校を命じられることとなった。
それからお母様がわたしに見向きもしなくなった。ついに見放されたらしい。
噂では母の親族の子を養子にもらい片桐家の跡取りにする計画があると言われた。それを聞いてわたしは怒るよりもやっと解放されるという思いの方が強かった。
むしろもっと早くやってほしかったくらい。わたしには荷が重すぎた。
片桐家の威光が届く、学校へ転校。そこにはあの義理の妹がいる学校だ。
お父様から様子を見てきて欲しいと言われたが……わたしとしてはどうでも良かった。
あの子のせいでお母様が狂い、わたしの人生は苦痛の連続だった。もしあの子が幸せにしているのであったら……。
「全部奪ってやる」





