044 対立
朝の教室はいつも通りで特に昨日と違うところはない。
でも何だか緊張してしまうのは覚悟を決めたからだろうか。
しかしこうやって見ると鈴華が転校してきてから1週間ほどで鈴華は大きなグループの中心人物となっている。
喋りが流暢であれだけの美貌だ。片桐家の本家の令嬢って所の印象が大きく出ている。
対して影が薄くなったのが姫乃。元々目立たないように立ち回っていたこともあり、小さな体がより一層小さく見える。
嫌がらせみたいなことはさすがにされていないようだ。そこは本人からも聞いてるし、俺も気をつけるようにしている。
……正直、姫乃を排除をするために取り巻きを使ってそういうことをするのではと思っていたが。
「無いなら無いでそれでいいんだが……」
「燐音おはよう」
友人の和彦が話しかけてきた。
「ふぅ……朝から大変だったよ」
「朝から? ああ、吹奏楽部の朝練か」
和彦は吹奏楽部に所属しており、朝から晩まで音楽漬けだ。
楽器を弾くのが好きなこいつがそれにしたって疲れている。
「前に話したよね。吹奏楽部で一緒に演奏してる子、平原さんって言うんだけど」
「あ~」
「彼女がちょっと荒れててね。どうやらお姫様の親友らしくてお姫様の今の状況に憤ってるみたい。ほんと気分屋だから演奏にすぐ現れるんだ」
「知ってる」
「え?」
平原さんとはこの前、姫乃の家で一緒に話したからなぁ。
あの日は本当にいろんな意味で楽しかった。平原さんと実は知り合いだってことを和彦には伝えていない。
「でもそんな乱暴な所が絵になるからいいんだよなぁ。早く部活になってセッションしたい」
親友は彼女に淡い想いを寄せている。
関係性がややこしくなりそうだし、どこかで姫乃と同居してることを伝えないとな。俺の知り合いにも一人くらいは知ってもらった方がいい。
和彦は口が堅いし頼りになる奴だ。
だからこそこの問題を解決しなければならない。
「り~ん!」
放課後、案の定鈴華がやってきた。
ここ数日の件もあり、完全に俺に心を許したのか男子で唯一緊張せずに話せるようだ。
もし姫乃と出会って無ければ俺はこの出会いに感謝し、この美少女と仲を深めたに違いない。
「今日はどこいく? わたし、見てみたい所があるの!」
「悪いが今日は予定があるんだ」
「そうなんだ……。毎日付き合わせちゃってるし、仕方ないわね」
ここで引き下がる可能性はもちろんあった。
昨日も20時近くも付き合わされたのでちょっと怒ったんだよな。さすが鈴華も悪いと思ったのかもしれない。
ここで鈴華と離れてしまったら何の解決にもならない。明日改めて声をかけられるだけだろう。なら……このワードを言うしかない。
「姫乃と買い物に行くから。悪いな」
「っ!」
鈴華の表情が一変した。
そう……姫乃というワードを出すことでどう変化するかを見る。
もちろん姫乃とは話を合わせている。というか、姫乃からそうしろと言われたくらいだ。
「へ、へぇ……そう。燐はわたしじゃなくてあの子を選ぶんだ」
「ああ。あくまで俺は鈴華の世話係でしかない。もういいだろ。昨日、一人で学校に来れるようになったって言ってたじゃないか」
「そんな軽い関係のつもりじゃない。そんなこと言わないでよ」
「それを言うなら俺だってそうだよ。俺にとって姫乃は大事な人だ。ここ数日鈴華にかかりっきりだったからな。さすがにもう……放っておけない」
「それってもしかして!」
「やっぱり葛西くんはお姫様のこと」
ええい、告白みたいな話になってしまった。
でもいい。俺と姫乃の関係はもう柔なものではなくなっている。姫乃ならきっと分かってくれる。
「そんなの認めない!」
強く放たれた鈴華の声。皆がそれに注目してしまった。
「他の子ならいい! でもあの子だけは駄目」
「なんで」
「何でって燐も分かるでしょ。あの子は偽物なの! 片桐家の名字を名乗ってるだけで本物じゃない」
「……」
「転校してきたばかりのわたしを燐は優しくしてくれた。危ない所も助けてくれた。燐をお世話係にお願いしたの……間違ってなかった。わたしの側にいて欲しい」
「鈴華……」
「その……燐が望むなら彼女でも何でもなるから! あの子じゃなくて、わたしを選んで!」
正直驚いていた。
好かれているというよりは懐かれているという方が正しいのだと思うけどここまで俺を評価していることに心底驚く。
こうやっていろんな縁が生まれて、人は交流を深めていくんだろう。
もし……姫乃と出会わなくて同じシチュエーションになったらきっと俺はこの手を掴んだことだろう。
だけど俺は出会ってしまったから。家族に世話係として生きることを強いられていた俺を救ってくれた彼女に報いたい。
「俺は先に出会った姫乃を大事にしたいんだ。ごめんな……鈴華」
「燐、……わたしは!」
「鈴華さん」
その言葉にクラスメイトの皆が注目する。その言葉は今まで沈黙を続けていた姫乃が発したものであった。
勝負の時。
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