043 仲直り
「ごめんな。君を悲しませてしまった……」
「……そうですね。正直ずっと泣いていたと思います。鈴華さんに燐くんを盗られてしまって私から離れてしまった時のことを考えたら苦しくて」
「……」
「あの人、燐くんと話してる時に私を見るんです。まるで……奪ってやったと言わんばかりに緩んだ表情で。本当にそんなつもりだったかは知りませんけど」
「でも姫乃がそう感じて、傷ついてのは事実だもんな」
姫乃もまた俺の背中に手をまわしてぎゅっと抱きしめていた。
「でもどうでも良くなってきました。燐くんがこうやってハグしてくれるならなんでもいい。なんか怒ってる気持ちとかどうでも良くなってきました」
「俺も……同じだよ」
ちょっとくらい文句を言おうかって思ってたけど姫乃の泣いた顔とこのハグの安らぎの前では些細だって思えてくる。
やっぱり姫乃は俺にとって何より大事な人になってるだって思う。
「燐くんは私の家族。絶対なんですから」
「ああ」
家族だからこそもう放してはいけない。せっかく手にいれたんだ。もう手放してなるものかよ。
「明日、鈴華に言うよ。もう世話役は辞めるって。多分……お互いにとってこのままじゃ良くないと思う」
「多分、もめると思います」
「だろうな。でももうすぐテストも始まるし、今の鈴華なら俺を巻き込んでくるに違いない。中途半端にしてから離れるより今離れた方がいいだろう」
「今クラスはあの人を中心に動く方向に進んでいます。……孤立するかもしれませんよ」
「元々家族の世話ですぐに家に帰ってたから孤立気味だったんだ。別にかまわないさ。それに姫乃がいてくれるんだろ」
「……はい、もちろんです」
ちょっとだけ顔を目線を下げてみると姫乃が照れたような表情を見せていた。
やっぱり可愛いよな。このまま抱きしめていたいって思うのはわがままだろうか。
「ねぇ燐くん」
「ん?」
「今日……一緒に寝ませんか」
「ほわっ!?」
いきなりの言葉に驚愕する。
「で、で、でもっ」
「むぅ。夜華さんとは一緒に寝たくせに私とは嫌なんですか」
「ああ、そういう……」
姫乃は俺を家族だと思っているのにまだ俺は100%思えてないってことか。
寝るって言葉に性的な意味を思ってしまうなんて姫乃に失礼だ。
しかし姫乃は今着ている服がとても性的なことに気づいてないんだろうか。普通の男だったらこの格好で寝ましょうって言われたら間違いなくあっちの方向へいくだろう。
でも姫乃はそんなことを思っていない。ならば俺も100%家族だって……思うしかない。
「いつもはおねーさんですけど今日だけ妹になってあげますから」
こんなすけべな体した妹がいたらたまらんのじゃないか。
でも夜華がドスケベな体だったとしても一切手を出すことはないと思うのでやっぱり俺の家族力が足りてないんだろう。
「燐くんのお胸……堅くてイイ。えへへ」
本当に家族100%なんだろうな。俺もお胸に触れていいのか? 駄目なんだろうな。
明かりを暗くし、俺の姫乃はハグし合ったまま眠りにつく。
「すぅ……」
先に姫乃の方が寝入ってしまう。姫乃の今日の朝は4時起きだったらしい。そりゃこの時間でも眠れるな。
俺もさっきまでドキドキしてたけどこの寝顔が見れば普通に眠れるような気がする。
「お休み……姫乃」
そして俺も最近の騒動で疲れがたまっていたせいか……あっという間に眠り込んでしまった。
朝。と言っても外は暗い。そりゃ21時前に寝たんだ。当然か。
目が覚めると姫乃をずっと抱きしめていることに感情が揺らぐが昨日のことを思い出し、落ち着く。
そしてうっかり姫乃の柔らかそうな胸元に目にいってしまい、目をそらし朝の生理現象を落ち着かせようと努力する。
「ふぅ……」
姫乃はまだ眠っているようだ。
このまま起きれば姫乃も目を覚ますだろう。
「……」
今日は覚悟を決める日だ。だからこそゲン担ぎをしたい感がある。
俺の目には小さな小さな姫乃の美麗な顔立ち。
やってもいいだろうか。クラスメイトの関係だったら確実にアウト。でも家族の関係ならOKだ。
夜華にもせがまれてしたことがある。その考えならOKのはず。
俺は手のひらで姫乃の前髪を上げる。その真っ白な額に顔を近づけた。
「俺、今日頑張るから。勇気をくれ」
そっと姫乃の額に口づけをした。
「ひゃいっ」
「……」
あれ? もしかして起きてる。
寝ていると思ってやったのに……もしかして起きてた?
少し恥ずかしくなって顔に熱が籠もる。
「すーーすーー」
棒読みで寝息を立てる姫乃。嘘の寝顔でも実に可愛い。
「寝てるのか姫乃」
「すーーすーー」
そういう時はこうするしかないよな。
「寝てるってことは思いっきりくすぐってもいいってことだよな」
「ひゃああっ! だめぇっ!」
「まだ何もしてねぇよ」
姫乃はびくんと体を震わせて飛びおきた。
「次にされることを想像したら……体が勝手に」
体に刻み込まれているのか。それより。
「おでこにアレはその……家族なら当たり前にするから」
「そ、そうなんですね」
姫乃が自分の額に触れ、かぁっと顔を赤くする。
さすがに厳しいか。でも言ってることは事実だ。
「びっくりしましたけど……嫌ではなかったです。これで燐くんの力になれるなら」
「ああ……」
「じゃ、じゃあ」
姫乃が布団に座る俺の足を乗り越えて、俺の頬に手を置いた。
そのまま勢いのまま逆側の頬にちゅっと口づけをしてくる。
「おわっ!」
そのまま姫乃は立ち上がってベッドから降りていく。
「お返しです!」
「あはは……」
ったくまたドキドキしてしまったよ。それにしても柔らかかった。
本当に勇気をもらったようだ。
「これで2倍頑張れそうだ」
「じゃあ、朝ご飯をしっかり食べないとですね。燐くん、昨日晩ご飯食べてましたか?」
そういえば食べていない。
帰ってすぐに姫乃の部屋に乗り込んで寝たからな……。
そう思うと腹も減ってきたし、シャワーを浴びたくなってきた。
「おなかぺこぺこです……」
「分かりました。いっぱい作りますからね」
これでもう元の姫乃に戻ったようだ。
この表情をもう曇らせてはいけない。今日、ちゃんと決着をつけないとな。
ただ。
「あのさ姫乃」
「なんですか?」
そのまま部屋を出ようとしたので呼び止める。姫乃は振り返り、首をこてんとしたまま立っていた。
多分まったく気づいていないんだろう。このままでもいいんだけど……さすがに目に毒だし、さっきから目線がどうしてもそちらにいってしまうのが申し訳なさすぎる。
「せめて着替えてから行った方がいいんじゃないかな」
「着替え? ……っ!」
そう。ブルーのショーツをずっと見せびらかせたままだったのだ。
姫乃はそれに気づき、ネグリジェで隠すように座り込んでしまった。
「昨日の夜からずっと……!」
「ソウデスネ」
「わ、私なんて格好を……」
結構その姿で歩き回ってるイメージあるけどな。
姫乃は顔を真っ赤にして沈んでしまった。ネグリジェを思いっきり下に下げたせいで上の下着がちょっと見えてることにおそらく気づいていない。
くそ、朝から刺激的なものを見せてくる。
「……」
「……」
「燐くん! 着替えるので外に出てください!」
「あ、そっか!」
さすがにお着替えのショーは見せてくれなかった。
そりゃそうだ。
気を取り直し、朝ご飯を食べて学校へと向かう。
戦いが今、始まる。
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