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036  暗雲

「燐くん、おはようございます」

「おはよう」


 あれからまた少し時が過ぎ、学校に行く時の姫乃は学園の御姫様の風格となっていた。

 金色の髪はしっかりとまとめており、ちゃんとアイロンのかけられた制服を着ていると清楚可憐な姿となっていた。

 この前の休日、あんなドMな醜態を曝け出していたとは思えん。

 あのことがあってから日曜日は姫乃とちょっとしたスキンシップを計るようになった。

 姫乃がすっきりするまで体を弄ぶ。えっちなことはしてないぞ。くすぐってるだけだからな! 

 

 ただ姫乃さんの欲が思ったより強く、最後のあたりは俺がもういいだろうと懇願したぐらいだ。でも姫乃がなかなか足りなそうな顔をして大変だった。指痛いんだよマジで。

 毎週毎週、俺の理性が限界を迎えそうで本当に大変だ。


「昨日も限界まで笑ったおかげで心が軽やかになりましたね。これで1週間元気に戦えます」

「1週間しかもたないのかよ」

「燐くんはいつも物足りない顔しますよね」


 姫乃にじとーとした目で睨まれる。

 当たり前だが俺は100%すっきりしたわけではない。その魅力的な体が暴れまわるたびに抱えた性欲が暴発しそうになるんだ。姫乃がすっきりした後で、いつも一人で発散しているわけだが……それで満たされるはずもなく。


「私の必死な笑い声が好きなんじゃないですか」

「それも好きだけどそれだけじゃないんだなぁ」

「どういうことですか?」


 声も好きなんだけど何よりあの姫乃の体に指を走らせるのがたまらぬ快感だ。多分この前の休日だけで姫乃の体の90%に触れたと思う。だけど残り10%には触れられてない。

 本当はそこに触れたいんだけどそれをやる勇気は未だに出ない。


「ねぇねぇ燐くん、どういうことなんです」


 しつこく聞いてくるが掘り下げられたくなかったのでふいに姫乃の脇腹をくにくにっと揉む。


「うひひひっ!? もう燐くん!」

「姫乃の声がすごく良いってことだよ」

「ふいのこちょこちょは止めてください! 表情が緩むのを我慢できないんです」

「学校では絶対にしないよ」


 姫にそんなことしたら全員からぶっ殺される。それに姫乃の乱れた姿は俺だけが見れたらいい。


「またストレスが溜まったらその時はお願いするのでそこまで止めてください」

「俺はいつでもOKだから」

「……」

「な、何かなその疑う目は」

「……燐くんに意外に下心があることに気づいてますからね」

「え?」

「視線とか触る所が随分と偏ってるなぁって思ってました」

「ぶっ!」


 我慢できず胸の横とか太ももとかいやらしく触ってたのやっぱバレてた!?

 エロい目で見てくる人間は追い出されるとか。


「でもちゃんと一線は守ってくれた燐くんを信用してます」

「ほっ」

「今、凄く満たされている気がします。燐くんが来てくれてからですね。だからこれからも側にいてくださいね」


 いろいろあったけど姫乃と築きあげた信頼関係は決して台無しにしてはならない。

 俺と姫乃はお互いがお互いを求め合っているんだ。足りないものを埋め合っている。

 俺はまだ実の家族との関係性を改められてはいない。だから姫乃と離れる気なんてさらさらなかった。

 彼女を守りたいと思ったんだ.


 けど……その覚悟がすぐに必要になってくるなんて思いもしなかった。


 ◇◇◇


「聞いた? 今日転校生来るらしいよ。先生が言ってた」


 登校したらすでにクラスの中で騒ぎになっていた。

 珍しい時期に転校生がやってくるな。親の都合で急遽とかだろうか。


「どんな子? 男、女?」

「女の子。しかも」


 その次の言葉は意識してしまうことに十分すぎるものだった。


「黒髪ロングのめちゃくちゃ可愛い子。姫に匹敵するくらいかも」


 朝のホームルームで担任教師が現れる。

 教室の外でその転校生が待っているのが見えた。教室の中からではその様子が伺えない。


「もうみんな知ってるかもしれないけど転校生を紹介する。入ってきてくれ」

「はい」


 教室の中に入ってきた女の子の姿にどよっと騒ぎとなった。

 先ほどの言葉通り黒髪ロングで非常に見た目の麗しい女の子だったのだ。大和撫子そのものと言って良いのか。清楚な雰囲気な女の子だった。

 皆がその子に見惚れ、空気が止まってしまったかのようだ。

 ごほんと先生が咳をする。噂通り姫乃に匹敵する美しさだ思う。


「なんであの人がここに……」


 姫乃のつぶやきがなぜか俺の耳に入ってきた。そんなに遠くない席にいたからだろうか。

 その理由は先生が黒板に書いたその女の子の名前を見て分かったのだ。


 その名前は片桐鈴華(かたぎりすずか)


「わたしは片桐鈴華と言います。急遽の転校でこの学園に来ることになりました。仲良くして頂けると嬉しいわ」


 そして片桐鈴華は姫乃の方に目線を向けた。


()()()()と共々健やかな学園生活を皆さんと過ごさせてね」


 姫乃は言っていた同い年の腹違いの姉がいると。

 間違いない。あの子は姫乃の義理の姉だ。そうなるとあの片桐鈴華は片桐家本家の娘に違いない。

 姫乃に対して波乱の日が始まったことは言うまでもない。



1章最後のエピソードです。

今までは燐音のトラブルが中心でしたが、今度は姫乃のトラブルとなります。

ここは力入れておりますので章の終わりまでお願いします。


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